IS~女の子になった幼馴染   作:ハルナガレ

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臨海学校(終章)

 満月の夜、月の光を浴びながら岩場に座っている葵の姿に、俺は目を逸らす事が出来なかった。葵は水着に着替えていて、その水着に俺は見覚えがあった。そう、それは千冬姉に選ばされた水着で、一昨日箒が着ていたあの水着。何故葵がそれを?いや箒のは元々葵があげた物だから葵が持っていてもおかしくはないが。

 箒並みに胸が大きい葵だが、身長は箒以上に高い為胸の大きさと身長とのバランスが良い。どちらかというと千冬姉と似たスタイルだよなあ葵って。モデルのように細く、しかし鍛えられている体。形がしっかりしてる胸に流れるような黒くて長い髪。その体に白のビキニを着た葵は―――

 

「一夏、一夏。何ぼーっとしてんの?」

 

「あ、いや、ああ」

 無言で葵の姿を見て佇んでいたら、葵が話しかけてきて俺の意識は戻ってきた。しかし相変わらず俺の視線は葵に注がれていった。

 

「あ~あ、せっかくこっそり泳ぎに来たのにまさかここに一夏が来るなんてなあ」

 溜息をつきながら葵はぼやき、そしてまた海を眺め始めた。俺は岩場に近づき、葵の横に腰を下ろした。そして葵と並んで海を眺めるが、正直風景なんて全く頭に入らない。

 

 俺の意識は完全に、横にいる葵に向けられた。心臓が早鐘のようになっている。何故だ、さっきも二人でいたのに、どうしてこんなに俺は動揺しているんだ?

 俺も葵もしばらく無言で海を眺めていく。…いかん、何故か今は話しかけづらい。しかしずっと黙っているのも変だしなあとか思っていたら、

 

「…いや一夏、何無言で横に座ってんの?つーかまず私に言う事があるでしょ?」

 少しジト目をしながら、葵は俺に言ってきた。え、葵に言う事?え~っと、今の状況でそれに該当するのは…やっぱあれか?鈴達が海で俺に会った時真っ先に聞いて来たのはあれだし。しかしあれを葵にも言わないといかんのか?でも多分葵の言っているのはこれだろうし。

 俺は横にいる葵に顔を向けた。月の光に照らされている葵を眺めながら、

 

「葵、その水着だが…あ~、その、………ああ!似合ってて綺麗だよ!」

 後半はやけくそ気味に叫んだ。ああ、なんでこんなに俺恥ずかしがってんだよ!箒ん時もなんか気恥ずかしかったけど、葵はあんとき以上だよ!ってあれ葵、何目を見開いて俺を見てるんだ?

 

「…これは予想外で何でまた急にキレてるのかは不明だけど……ありがとう一夏。箒や千冬さんと同じ評価を貰えたのは嬉しいかな。いや~しかしまさかいきなり水着の評価をしだすなんてね。ちょっと、いやかなり驚いた」

 と、言って笑顔を向ける葵。その顔を見て俺は顔を逸らした。い、いかんどうしたんだ俺は!?

あれか、やはりこの満月の夜の下水着でお互い海を眺めるというシチュエーションのせいなのか!?こういうなんか幻想的なシチュエーションのせいなのか!?

 って、あれ?予想外?水着について聞いていたんじゃなかったのか?俺は間違った選択をしたのか?

 

「いや葵、鈴達が海で真っ先に俺に聞いて来たのがそれだからてっきりそうだと思ったんだが、違うのか?」

 

「…あ~なるほどね。いや一夏、別に間違ってはないけどね。私は単に無言で横に座られても困るんで、とりあえず『お前温泉に入りに行くと言ったじゃねーか!』や『なんで水着着替えてるのに泳いでないんだよ』的なつっこみをして欲しいというだけだったんだけど」

 そっちか~~!え、何俺勝手に自爆してしまったのかよ!うわ、恥ずかしい。

 

「…葵、じゃあ何でお前泳がず海を眺めてるんだよ?」

 ならばこうなったら要望通り、海を見ながら葵がさっき言っていた事を聞いてみた。

 

「う~ん、泳ごうとは思ったんだけど…、一夏とりあえずあれ見て」

 そう言って指をさす葵。葵が指差す方向を見たら、

 

「…もしかして、あれ鮫か?」

 

「そう鮫。なんでいるんだろ?いやもしかしたらイルカの可能性もあるけど」

 暗くてよく見えないが、あの特徴的なシルエットは多分鮫だな。いや葵の言う通り何でいるんだよ。この近辺は鮫避けネットとか張って無いのか?

 

「あの鮫を天叢雲剣使って輪切りにでもしようか迷ってたときに一夏が来たのよねえ。どうする一夏、なんかあれ見て泳ぐ気無くなったけど泳ぎたいなら退治してもいいいけど」

 そう言う葵の右手にはすでに天叢雲剣が握られていた。

 

「…いやいい。俺もなんか泳ぐ気は無くなったし。つかそんなもん使って鮫殺したらその血でさらに別の鮫を呼ぶ事になるかもしれんぞ。そもそもそんな事で勝手にIS使ったら千冬姉に怒られるぞお前」

 

「それもそうね」

 そう言って葵は天叢雲剣を収納した。…葵、お前も代表候補生なんだからそんな理由でほいほいIS使おうとするなよ。

 

「次に葵、どうして俺に温泉に入りに行くとか嘘ついて海に泳ぎに来たんだよ?後その水着だけど…」

 

 

「理由は二つあるわね。まず一つ、私が泳ぎに行くと言ったら一夏、絶対一夏も泳ぎに行くというでしょ?」

 

「ああ、そうだな」

 

「となると、二人っきりで水着で海を泳ぐ事になるわね」

 

「そうだな。それで何か問題があるのか?」

 俺がそう言うと葵は何故か溜息をついた。

 

「もし鈴達が起きて、そんな光景を見られた場合を考えてみて。さあ、どうなると思う?」

 

「一緒に泳ごうとするんじゃないのか?」

 

「…ラウラならありえるかもしれないわね」

 また大きく溜息をつく葵。いや何が言いたいんだお前は?

 

「まあ今の状況も似たようなものだけどね。…とりあえずコア・ネットワークであの五人の動向は異常無いからいいけど、何か動きがあった時はすぐ私は一夏から離れる事にするから」

 よくわからんが葵は真剣な顔して言うもんだからとりあえず頷いておく。

 

「で、葵。二つ目はなんだ?」

 俺がそう言うと葵は自分の水着を指差した。

 

「これが二つ目の理由。この水着だけど、一夏も気付いているとは思うけどあの日千冬さんから勧められたのよ。『一夏はこの水着を見て箒と葵に似合いそうだと言っていたぞ。どうだ、臨海学校はこれを着ていかないか』ってね」

 

「何で千冬姉、葵にそんな事言ったんだ?」

 

「さあね。ま、私はそれ聞いてなら箒にこれ着せようと思い、さらにどうせなら私もこれ着て箒とお揃いにしようと思ってあの時二着買ったわけよ。しかし後でよく考えたらやっぱやめたけどね」

 

「どうして?」

 

「教えない。ま、この水着はもう一夏の前では着ないから。結局今回の臨海学校用の水着は別なの買って用意してたのに、千冬さんが勝手にこれを鞄に入れてたのよねえ。…初日自由時間は風邪でダウンしてたのにどうしてこれ入れてたのかは私も謎だけど」

 

「は?いや葵、何で俺の前では着ないになるんだよ?」

 俺がそう言うと、葵は人差し指を唇に当て、

 

「それは秘密です。ま、大した理由じゃないから」

 と言ってにっと笑った。

 わからん、葵は何を言ってるんだ?しかも俺の前ではもう着ないとか…つまり俺以外の奴の前では着るってことか?俺以外の奴の前では着る…、あれ?なんか凄くムカつく。何故だ?

 もう俺の前では着ないと言われ、俺は葵を凝視していく。何故かわからないが、この姿を忘れたくはないからだろうか。…胸に視線が行くのも仕方ないよな。

 そんな事をやっていたら、葵は何故か呆れた顔をし、急に腕で胸を隠し始めた。

 

「…一夏、いや私も昔はあれだったから気持ちはわからないわけでもないけどさ、いくらなんでもさっきから遠慮なく胸とか見過ぎ。スケベ」

 

「あ、いや違う!そういう風に見てたんじゃない!それに胸を見てたわけじゃない!」

 いや否定できないが。てか葵、そうやって腕で胸を隠す行為って余計胸を強調して見えるんだぜ。

 

「一夏、良い事を教えてあげる。男が女の胸を見る視線を女はわかるという事を。さっきから胸ガン見してたのわかってるから」

 げ、マジ!い、いかんこのままではまた以前みたいにエロ河童扱いされてしまう!

 

「だから違う葵!俺が見てたのは、そ、そう!お前の怪我の後を見てたんだよ!お前が死にかけるほどの大怪我を間近で見たんだぞ俺は!治ったとか言われてもこの目で確かめないと気が済まないんだよ!」

 

「…一夏、下手な言い訳は見苦しいから。私の怪我の大部分は背中のはずだし。確かに前も怪我したけど胸とかはそこまでねえ」

 ニヤニヤしながら俺に言ってくる葵。しまった!確かに葵の怪我の大部分は背中だった。しかしもう後には引けん!

 

「うっせー!前もお前怪我してただろ!前の確認は終了!後ろ向け!」

 

「はいはい、そういう事にしてあげる」

 苦笑しながら葵は体の向きを変え、俺に背中を見せた。ご丁寧に髪も掻きあげて背中を見やすくしてくれている。その背中を見るが、――前同様傷の後何てどこにもなかった。本当に葵の傷は、あんな出来事なんて初めから無かったかのように消えている。

 脳裏に蘇るあの光景。大量の血が海を赤くし、一生傷が残るような大怪我を負い生気の欠片も無い葵の顔。あのとき感じた絶望、悲しみ。

 そして病室で包帯で巻かれて眠っている葵を見た時の己の無力感に後悔。

 俺はあの時、そんな葵の姿を見て――――

 

 

      あ、俺大事な事忘れていた。

 

 

 ああ、そうだ。俺、確かあの病室で、葵の姿を見て誓ったじゃないか。

 さっきまで葵に対して抱いていた動揺や緊張が波が引いたように消えていく。そうだよ、そんな事よりも、葵に対し忘れてはいけない事があったじゃないか。

 

 そう俺はあの時の病室で

 

 あの時の決意、あの時思った葵に言いたい事、まだ葵に言ってないじゃないか。

 

 葵の怪我が治ったからといっても、あの時誓った事まで無しになるわけじゃない。怪我が治った事に浮かれて、俺は―――大事な事を忘れていた。

 

「なあ、葵」

 

「何?」

 

「お前あの時、どうして俺達を庇った?」

 

「…一夏、何度も言うけど」

 呆れた顔をしながら振りかえる葵に、

 

「いいから!答えてくれ」

 俺は再度答えを求めた。俺の真剣な態度に葵は一瞬驚き、そしてすぐに笑みを浮かべた。

 

「じゃあ一夏に聞くけど、あの時逆の立場だったら一夏は私と箒を助けない訳?」

 

「…質問を質問で返すなよ」

 

「で、どうなの一夏?」

 あ~、くそ。まあこういう展開になるのはある程度予想してたけどな。

 

「ああ、そうだな。助けるよ、おそらく後先考えずに」

 俺の返答に葵は満足気に頷いた。

 

「さすがね、それが私の答え。目の前であんな事があったら、一夏と箒を守る事しか考えられなくなったし」

 伊達にお前とは長年幼馴染やってないから、それは考えるまでも無くわかる。いや長年一緒に居たから考えが似たんだろうか?しかし、

 

「確かに葵は俺と箒を助けてくれた。それは本当に感謝してる。あの時お前が目を覚ましたら真っ先に俺はお前にその事で感謝しなくてはいけないと思ってた。だけどな」

 俺は真っ直ぐ葵の目を見ながら続ける。

 

「葵、お前は俺と箒を助けた事に満足したかもしれないが、それでお前が死んだら俺も箒も命が助かっても全く嬉しくはないんだよ」

 罰が悪そうな様子になる葵。なるほどな、予想通り自覚はやっぱあったわけだ。

 

「葵、お前は確かに己の体を犠牲にしてでも俺と箒を助けた。しかしお前が代わりに死ぬほどの怪我を負ってしまったら全く意味が無い。後に残るのはお前を犠牲にして助かったという俺達の悲しみだ」

 俺は堅い声を出しながら葵に言った。

 

「…あ~その一夏、ま~言っている事の意味がわからないわけでもないけどさあ。でも一夏、それは」

 

「誤解するな葵。俺は別にお前を非難してるわけじゃないぜ。それにお前は言われなくてもそんな事はわかってるからな」 

 何せ葵はあの時、自分から「心配かけてごめん」と俺に言ったんだ。今俺が言った事なんて最初からわかっているはずだ。

 

「へ?まあそうだけど。ただ一つ反論したいのはそんな事わかるけど、体は勝手に動いてしまうという事ね。で、一夏。わかってるならなんでまた改めてこんな話をしだしたわけ?」

 ああ、それはな 

 

「俺、強くなるよ。本当の意味で強くなる。俺が守りたいものを全て。そして、その守りたいものが心配しない程強くな」

 海を眺めながら、俺は己が抱いた決意を葵に言った。

 

「俺、初めてセシリアと戦った時言ったんだ。家族を守る、世界一になった千冬姉の名前を守るってな。その後ラウラにも俺はこう言ったんだ、自分の全てを使って誰かを守りたい、ただ誰かの為に戦いたいって。俺がISを乗る理由はつまりこういう事なんだよなあ。でもな、それは――――強くて初めて可能な事なんだと今回思い知らされたよ。俺達を守る為に庇ったお前の姿を見てな」

 誰かを守る為に戦う、良い言葉だろうがそれはそれを実行するだけの力が無ければただの綺麗事だ。

 

「だから俺は強くなる。強くなり、そして今回の葵みたいにただ守るだけでなく、自分の身も含めて俺が守りたい者を守れる程強くな。そして葵」

 俺は拳を前に突き出して、

 

「今度は俺がお前を必ず守ってやる!絶対にな!」

 力強く宣言した。そう、これが病室で俺と箒を守った葵の姿を見て、葵が目を覚ました時葵に言おうと思ってた事。誓い、決意。

 そして俺は横にいる葵に顔を向けたら、…何故か葵は右手を顔に当て左手は髪を掻きながら俯いていた。

 

「…あ~もう、なんでこの男はよりにもよってこういう台詞を私に言うのだろうか。どうせなら箒達の為に言いなさいよ。何こんなところで無駄弾撃ってんのよ」

 

「何のことだ?いや葵、箒達にも目が覚めたら言うつもりだが。俺はみんなを守れる程強くなるってな。でも葵、これは真っ先にお前に言いたかった」

 

「…うん、いやもういいや」

 そう言って顔を上げる葵。そして右手をどけると、

 

「でも一夏、ただ強くなるって言われてもそんな漠然としたのじゃよくわからないわね。具体的にどれだけ強くなるって言うの?」

 真剣な眼差しをして、俺に言ってきた。

 

「私を守るとか言うけど、一夏と私じゃはっきり言うけど100回戦っても私の圧勝で終わるわよ。自分より弱いものに守るとか言われても、ピンとこないし。千冬さんの名を守るとか言ってたけど、千冬さんも一夏よりはるかに強いし何かあっても逆に一夏の方が守られる存在になりそうだけど」

 俺を真っ直ぐ見ながら、葵は俺に問いただしていく。葵の言っている事は正しい。悔しいが今の俺じゃ葵の言う通りだ。俺の力は、千冬姉や葵に比べるとはるかに弱い。

 

「口で強くなるなんていうのは簡単。誰でも言える。で、一夏どうなわけ?どれだけ強くなるって?」

 どれだけ強くなるかって?ああ、決まってるだろ。お前も、千冬姉を守れる位強くなり、それを証明する程の強さといえば、

 

「モンド・グロッソ」

 

「え?」

 

「モンド・グロッソ優勝。これなら、お前も納得するだろ」

 千冬姉を守る存在なら、最低でもこれくらいはしないとな。

 

「モンド・グロッソ優勝って…、一夏それは本気?」

 

「ああ、本気だ」

 あっけにとられてる葵に、俺は頷く。強さに目標をつけるなら、これ以上のものは無いだろう。

 

「守りたいものがあるから、それを証明するために世界一になります、か。いくらなんでも」

 は~、と大きな溜息をつく葵。そして再度俺を見て、

 

「じゃあ一夏は、――――私の夢であるモンド・グロッソ優勝の前に立ち塞がるってわけ?私の夢の障害となると」

 葵は、

 

 初めて会った時から含めても見せた事のないような真剣な顔をして、俺に聞いた。

 

 葵の夢を知らないわけでは無い。あの日二年振りに会ったあの日、葵は俺達にモンド・グロッソで優勝するのが今の目標で夢と言っていた。俺はそれを聞いて応援したいとも思った。でももうそれは出来ないな。

 

「ああ、俺の夢と目標の為に、俺はお前を倒し、俺が優勝する。男が決めた目標だ、ならもうそれに突き進むだけだ」

 こっちも腹をくくったんだ。葵に向かって俺はそう断言した。葵はそれを聞いて、また顔を俯かせた。体が少し震えている。うわ、これは葵本気で怒ってるかな?いきなり強くなるとか言ってその為にモンド・グロッソ優勝してお前の前に立ち塞がるって言っちまったもんな。ふざけるな!って思ってもしょうがないし。でも、これは俺の偽りない本音、譲れない決意だ。でもこれが原因で葵と仲が悪くなったりしたら…やべえ、いきなり後悔しそうだ。

 

「あ、なあ葵」

 俺が恐る恐る葵に話しかけると、葵は顔を上げた。そして、

 

 

 

「ようやく勝負の続きが出来るな、一夏」

 

 

 

 と、満面の笑顔を浮かべながら、葵は嬉しそうに俺に言った。そう本当に、これ以上無いって位、嬉しそうな顔をして。

 

「覚えてるか一夏、俺と一夏が初めて会ったあの日の事。そして俺とお前が友達になったきっかけ」

 よほど嬉しいのか、葵の口調はさっきまでの女口調では無くなった。最近ではIS学園の自室でしか言わない、昔の口調で俺に言っていく。

 ああ、俺も覚えてるよ、忘れるわけが無い。

 

「初めて会った時、俺は千冬姉の真似事の剣道でお前に喧嘩を挑んだよな」

 

「俺はあっさり返り討ちにしたけどな」

 

「ああ、あっさり負けた。悔しかったなあん時は。そして、俺は」

 

「負けっぱなしじゃ悔しいからまた勝負しようと言ったな」

 

「ああ、それが俺と葵との出会いだったよなあ。今思い返してみてもどこの少年漫画みたいな展開かよと言いたくなるなこれ」

 

「でも一夏はすぐに剣道で俺に挑んでこなくなり、素手だと瞬殺されまくったから勝負は喧嘩で無く別なものに変わった」

 

「いやしょうがないだろそれは。俺だけ武器を持つのは不公平だろやっぱ」

 

「でも、お互いIS装備なら話は別だろ?」

 

「…ああ、そうだな」

 

「あの時から最初の勝負は俺のずっと勝ち越しだぜ一夏」

 

「これからは違う。俺が勝つ」

 そう言うと、葵はにやっと笑い、

 

「良いぜ一夏。強くなれよ、俺を倒せるほどにな」

 そう言って俺に向かって右拳を突き出してきた。

 

「モンド・グロッソ。俺は負ける気も譲る気も無いぜ」

 

「当然だろ。俺も無い。そして、今までの負け分全てまとめてこれからお前に返してやるよ」

 俺も右拳を上げて、葵の拳と合わせた。

 

 

 

 その後は葵が旅館に戻ろうかと言ったが、俺はまだここにいると言って葵だけ旅館に帰らせた。まだ一人で考えたい事もあったしな。海を眺めながら今後の事について考えていく。

 

 しかし、俺の脳裏にはずっとあの時葵が見せた嬉しそうな笑顔が離れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 顔がにやけるのが止められない。止める事が出来ない。

 一夏の奴、ようやく再び俺に本気で勝負挑んでくれるのか。

 やっぱり箒が転校したのが痛かったな。あれが原因で一夏強くなるって気概が無くなった。俺には剣道では負けたくないとか言ってたくせに、IS学園で再会して剣道で勝負してあっさり勝った時は少し失望したしな。いや、あの日から一夏は剣道してないから結果はわかってたけど。

 でも、これからは違う、一夏は強くなるって言った。本気でそう言ったんだ。ならおそらく、いやきっと一夏は強くなる。剣道、空手と並行してやってたけどどっちも全力で俺は練習した。でも剣道で俺は一夏には勝てなかった。一夏は知らないかもしれないが、かなり悔しかったんだぜ。

 その一夏が、本気で強くなると言ってるんだ。これはうかうかしてられない。

 

 …しかし一夏、あの守る発言は正直、いや本当に少しくらっときた。

 

 一夏に惚れた箒達の気持ち、少しわかるなあ。いや、わかるだけだけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

「計 画 通 り」

 

「…ちーちゃん、なにドヤ顔しながら言ってるの?というかそれ絶対嘘だよね。さっきいっくんがあーちゃんの背中を見てた時『いけ!そこだ!男ならガッと行け!ガッと!』なんて言ってたし」

 

「気のせいだな」

 

「…うん、もうそれでいいかな」

 場所は旅館のとある一室。そこで千冬と束は、束の超小型偵察機によって葵と一夏の行動を逐一観察していた。残りの仕事は全て真耶に押し付けている。

 

「しかしちーちゃんの言う通り、二人きりにしたら絶対あの二人ならなにか起こるとか言ってたけど、まさか本当に起こるとは束さんもびっくりだよ。ちーちゃんの言う通り超小型偵察機仕掛けてて正解だったね」

 

「ああ、束協力感謝する」

 

「まあほかならぬちーちゃんの頼みだから協力するけどね。しっかしちーちゃん、いっくんの恋人はあーちゃんにしたいんだね」

 

「当然だろ」

 

「う~ん、いっくんもあーちゃんも好きだけど、箒ちゃんの事考えたらあんまり応援できないかな。でもちーちゃん、何でいっくんの恋人にあーちゃんを押すのかな?」

 

「可愛くて強くて家事炊事も一夏並みに出来るんだぞ。そして何より、私に対しても苦手意識全く無く素で接してくれるのは葵だけだ。将来一夏と葵が結婚して私も一緒に住むような事態になったとしても、安心して暮らせるしな」

 

「…まあ箒ちゃん、ちーちゃん苦手っぽいからねえ。でもちーちゃん、今回の展開はちょっと安心したよ。なんだかんだでいっくんにあーちゃんは男と男の関係みたいだし。結局二人とも恋愛感情まではいかなかったから。お姉ちゃんとしてはやっぱり箒ちゃんの恋の応援をしたいしね」

 

「ふ、甘いぞ束」

 

「え?」

 

「一見そう見えるが、これは一夏と葵が結ばれる為には絶対通過しなければならないことだからな」

 

「そうなのちーちゃん?」

 

「ああ、お前も実はわかっているのだろ?」

 

「…まーね。でもあんまり二人の仲は認めたくは無いよ。ちーちゃんはあーちゃんを押すけど、箒ちゃんの姉としてはやっぱり箒ちゃんの応援するから」

 

「まあこの事に関しては強要しないさ。私も姉だからお前の気持もわかるしな。とりあえずこれからは忙しくなる、一夏を鍛え上げねばならん」

 

「嬉しそうだねちーちゃん」

 

「ああ、ふふ一夏の奴私も守る、か。弟からこう言われて嬉しくない姉はいないだろ」

 

「…私も箒ちゃんにそんな台詞言われたいなあ」

 


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