「お、俺ですか!」
「なんだ織斑、不服なのか?」
「いえ、そういうわけではないですけど…」
スサノオに乗っている今の葵に、まるで勝てる気がしないなんて言えないな…。いややべえ、マジで勝てる気がしない。今まで葵が乗ってた打鉄なら機動性ではこっちが上だったけど、葵が乗っているスサノオの動きは俺の白式を完全に上回っているし。いや…おそらく機体の性能上はそんなに差はないんだろうけど…俺には“まだ”あの動きはできない。
「織斑先生、じゃあまずは僕と箒が戦いますね。箒、その紅椿どれほどのものか見せて貰うよ!」
おお、シャルはやる気満々だな。しかもあの目はあの性能を見せられても、負けると思ってない感じだな。
「うむシャルロット、今日こそは勝たせて貰う」
箒も自信満々な顔でシャルに宣戦布告。お互い軽く睨みあうと二人は空に飛び
「待て二人とも。お前達は後だ。先に織斑と青崎に戦って貰う」
…飛び立とうとしたが、千冬姉に待ったをかけられた。
「何故ですか織斑先生?」
やる気満々な所で待ったをかけられたので、箒は若干責めるような顔して千冬姉に後回しにされた理由を聞いた。
「篠ノ之、お前はまだ紅椿を少し操縦しただけで他にどのような性能があるのか知らないだろうが。青崎は開発時から一緒に関わっているため、スサノオがどのような機体か十分理解している。織斑と青崎が戦っている間、お前は束から色々と紅椿について聞いておけ」
「任せて箒ちゃん!お姉ちゃんが紅椿の全てを教えてあげるよ!」
「…お願いします」
「そういうわけだ。織斑と青崎、先に戦え」
そう言って、俺と葵を見る千冬姉。
「まあ私は先でも後でもどちらでもいいですけど」
葵は天叢雲剣を肩に担ぎ笑いながら俺の方を向いた。
「じゃあ一夏、私のスサノオデビュー戦初勝利の為に華々しく散ってね」
笑顔で言う葵。初めて模擬選した時にも見せた俺に負けるはずがないという顔をしている。
……うん、あれだ。意地でも勝ってやる!
「青崎、今回はスサノオの性能と同時に天叢雲剣の性能もチェックしたい。だからなるだけ剣で戦え。空手で倒すのは最後にしろ」
「わかってますよ織斑先生。天叢雲剣の性能を限界まで引き出して見せます」
…武器を使う事がハンデ扱いかよ。それと千冬姉、何俺が負ける前提で話してるんだよ!
「ねえ一夏と葵、どっちが勝つか賭けない?あたしは葵に賭けるけど」「でわわたくしも」
「私もだ」「嫁が勝つとは思えないから葵だな」「…みんな葵に賭けたら賭けにならないよ」「じゃあシャルロット、あんた一夏に賭ければ?」「…僕も葵で」
お前ら~~~~!なんだよなんだよみんなして!誰も俺が勝つなんて微塵も思わないのかよ!あ~くそ! 最初勝てる気がしないと思ったが、もうこうなったら意地でも葵に勝ってやる!
「じゃあ一夏、始めようか」
そういって先に上空へ飛んでいく葵。俺も葵に続き上空へ飛んで行った。ある程度上空まで行ったら互い適度な距離を開けて対峙。そしてそれを見届けた千冬姉が
「では始めろ!」
叫び、それが戦いの合図となった。
開始早々、俺は真っ直ぐ葵に向かって突撃するが、葵は俺が突撃するのを見ると天叢雲剣を構え、俺に向かって一閃。すると弧を描く縦薙ぎの青いレーザーが俺に向かってきた。
「あぶねっ!」
体を捻じり何とかそれを避けた俺だが、体勢が大きく崩れてしまった。そこに葵はまた天叢雲剣を振るい、今度は横薙ぎのレーザーを出し俺に攻撃。しかし、
「甘いぜ!」
今度は余裕を持って俺はかわした。その後幾度か葵は天叢雲剣を振るい俺にレーザーを浴びせるが、俺は全てかわしていった。
最初の攻撃の時は天叢雲剣の性能を忘れてたから慌てたが、落ち着いて対処すればなんてことは無い。なんせ剣を振らないとレーザーが出ないのだから。しかも直線にしか来ないから楽にかわす事が出来る。砲身が無い鈴の衝撃砲の方がよっぽどかわしにくいってもんだ。
「ふ~ん、やっぱりこの攻撃方法は遠距離専門でやるには向いてないかな」
葵はそう言って、天叢雲剣を振るうのを止めた。
「じゃあ、次はこれかな」
その瞬間、天叢雲剣の刀身が青く発光しだした。天叢雲剣のもう一つの性能、レーザーエネルギーの刀身コーティング。そうすることで攻撃力を高め、相手を切り裂く。
青く光る天叢雲剣を葵は構え、俺に突撃してきた。俺も雪片を握りしめ、葵を向かって突撃。俺と葵との距離が後数メートルといった所で、葵は俺に向かって剣を突き出した。その瞬間、刀身をコーティングしていたエネルギーが俺に向かって発射された。
「嘘!」
かわしきれず着弾、衝撃が俺を襲った。この衝撃とエネルギーの減り具合から見てセシリアのビットの一撃よりは弱い。ってその剣別に振るわなくてもレーザー出るのかよ!
「誰も剣を振るわなければレーザーが出ないなんて言ってないわよ!」
ヤバい!さっきの一撃に気を取られている間に、すでに葵は俺との距離を詰めていた。天叢雲剣も再び青く光っている。慌てて俺も雪片を構えるも、
「遅い!」
葵の攻撃に間に合わず、葵は俺の胴に一閃。後方に吹き飛ぶ俺に葵は『瞬時加速』を使い一瞬にしてまた距離を詰め、ガラ空きの俺の頭に強烈な一撃を与え俺は勢いよく海に突き落とされてしまった。
かなりの深さまで沈んだが、水中で体勢を立て直し上昇。そして海面から出ると、空で待っていた葵は俺に向かってまた天叢雲剣を振るって俺に追い撃ち。慌てて俺はかわした。くそ、容赦ねえなこいつ!
再び上空まで飛び、葵と対峙する。現状確認のためエネルギーを確認してみたが…さっきの攻撃だけですでに4分の1シールドエネルギーを減らされている。ただ剣で打たれるだけじゃここまでは減らないはずなのに。
「ふんふん、どうやらこれは効いたみたいね」
満足げに天叢雲剣を眺める葵。その刀身は先程同様青く光っている。そしてその切っ先を俺に突き出し、葵は俺に向かって叫んだ。
「一夏!まだまだ準備体操の段階だからね、本番はこれからだから!」
…俺はすでに本番のつもりなんだがな。葵からすればまだなのか…。
葵はまた剣を構え、俺に向かって突撃してきた。俺は向かえ撃とうした瞬間
「それまでだ!織斑!青崎!すぐにこちらに戻ってこい!」
千冬姉の叫び声がオープンチャンネルから響き、模擬戦は中断された。
俺と葵が千冬姉の所まで戻ると、そこにはさっきまで居なかった山田先生がおり、千冬姉と難しい顔して何やら話をしていた。
「鈴、なにかあったの?」
「あたしも知らないわよ。あんたたちが戦ってたら急に山田先生が血相変えてここに向かってきて織斑先生に小型端末見せて何か話したと思ったら、織斑先生あんたたちの模擬戦を急に中止にしたんだから」
どうやら鈴達も何かあったのか知らないようだ。とりあえず俺も葵も鈴達と一緒に千冬姉と山田先生を見ていたら、千冬姉は俺達の方を向き、叫んだ。
「全員注目!予定していたIS装備のデータ取りは中断!これよりIS学園は特殊任務行動に移る!そして、お前達にもその任務についてもらう!」
旅館の一番奥の宴会用大広間に、教師陣と俺達専用機組が集められた。俺達の一番前に千冬姉は立っており、空中ディスプレイを使い俺達に現状を説明している。
千冬姉の説明によると、アメリカとイスラエルが共同で開発していた第三世代型軍用IS銀の福音が暴走し監視区域より離脱。
その後衛星からの追跡の結果、その福音がここから2キロ先の空域を通過する事を確認。時間にして五十分後。そして千冬姉から、この件は俺達だけで対処しなければいけないと伝えられた。
ここまで聞いて俺は他のメンバーの様子を見てみたが、教師陣は無論の事俺と箒以外の代表候補生組は厳しい顔で千冬姉の説明を聞いている。特にラウラと葵は真剣な表情を浮かべている。
その後千冬姉から目標ISの詳細データが送られ、様々な議論がされるも目標ISは超音速飛行を続けているため攻撃する機会は一度しかないらしい。つまり、
「その一度の機会を俺の零落白夜の一撃で倒すってわけか…」
「話が早くて助かる。無論これは訓練では無い。嫌なら無理強いはせんが…どうする?」
そんなもの決まっている。
「いや、俺がやらなかったら多くの人が危険な目にあうかもしれないんだろ!ならやります!」
「そうか。ならば具体的な作戦に移る事にしよう。織斑の機体のエネルギーは全て攻撃に使うため、織斑をそこまで運ぶ役が必要になる。そこ」
「織斑先生!それでしたらその役目、ちょうど本国から強襲用高機動パッケージと超高感度ハイパーセンサーが送られてきたこのわたくしに任せて貰えませんか!」
「オルコット、それはもうインストールされているのか?」
「いえ、まだですが…」
「今からですと、時間内に間に合うかわかりませんが…」
それでも山田先生はセシリアのパッケージのインストール作業を指示しようとした瞬間、
「ちょっと待った~~~~~!」
と束さんの声が響いた。ってなんで天井から首出してるんですか束さん!
「束か…まあちょうどいい。お前に頼みたいことがある」
「ん!ちーちゃんが私に頼み事!うんうん、勿論OKだよ。ちーちゃんの頼みなら無条件でOKだよ!でもその前に、この作戦、私に良い案があるよ!」
その後束さんからこの作戦には断然紅椿を使用することを勧められた。第四世代の紅椿はパッケージ換装を必要としない万能型で、全身展開装甲とやらでできているため束さんが少し調整すれば数分で高機動型ISになるとの事。
「ふ、ふ、ふ。箒ちゃんの紅椿を使えばこんな作戦余裕だね!」
胸を張って言う束さん。う~ん、でも、
「あの~束さん。しかし箒はまだ紅椿に乗ってまだ一回も戦ってないんですよ。それなのに初めての実戦ってのは…。一夏が万が一失敗した場合ちょっと」
葵が不安そうな顔をして束さんに言った。そう、今日初めて紅椿に乗った箒はまだ一回も戦闘を行っていない。模擬戦もこの件で流れてるし、初めての実戦なのに、一回もまだ戦ってないのはなあ。
「安心しろ葵。私は立派に果たしてみせる!」
自信満々な顔をして葵に言う箒。いやお前のその自信はどっから出てるんだよ…。
「う~ん、でも」
まだ何か言おうとしている葵に、
「大丈夫大丈夫。だって箒ちゃんといっくんはあ~ちゃんが守ってくれるから」
あっけらかんと束さんは葵の方を向いて言った。
「は?…あの束さん、今なんて言いましたか?」
「いやだからあーちゃん、箒ちゃんにいっくんが心配ならあーちゃんが一緒に行って守ってあげれば何の問題もないでしょ」
困惑する葵にさも当たり前のように言う束さん。その言葉に千冬姉も頷き、
「青崎、幸いな事に強襲用高機動パッケージは今日お前に試験運用してもらうため用意してある。これをつけてお前も作戦に参加してもらう。そしてお前が目標ISと交戦し、織斑のために足止めをする」
「ちーちゃん、私に頼みってあーちゃんの機体に強襲用高機動パッケージを取りつけて欲しいって事でしょ?私でなきゃ作戦まで間に合わないから。ま、あーちゃんだからやってあげるけどね。これが他の連中ならちーちゃんの頼みでも嫌だけど」
…つい先程千冬姉の頼みなら無条件でOKとか言いませんでしたか束さん。いやまあこういう事は例外って事なんだろうけど。
「そうだ。この作戦失敗は許されん。しかし作戦の要の二人が少々心許ない。織斑が確実に目標を撃破するためにも目標を足止めする役が必要だ。篠ノ之は青崎が言ったようにまだ試運転しかやって無い上、単独飛行ならともかく織斑を運ぶ事でかなりのエネルギーを消耗してしまう。戦闘する余裕はないだろう」
千冬姉の言葉を聞き「それくらい私一人でも出来る…」と俺の横でボソっと言う箒。だ~か~ら~、その自信は本当にどこから出てきてるんだよ。もしかして箒、専用機貰えて少し浮かれている?
さらに千冬姉が何か言おうとしたら、急にセシリアが立ちあがった。
「ちょっと!少しお待ちになってください織斑先生!葵さんも作戦に参加されるのならわたくしもお願いします!」
今回の作戦に自信満々に参加しようとしたのに束さんの登場ですっかり忘れさられていたセシリアが、千冬姉に抗議した。が、
「却下だオルコット。さっきも言ったがお前のブルーティアーズにはまだこの作戦に必要なパッケージはインストールされてないだろう。いまからやっても作戦に間に合うかわからん。ちなみに束に頼ろうなど思うなよ」
「さっきも言ったけど、箒ちゃん達以外の機体はお断りだからね」
千冬姉は有無を言わさず一蹴し、束さんは笑顔でセシリアに向かって言った。笑顔で拒絶されセシリアは怯むも、
「し、しかしそれでもやってみないとわからないではないですか!それに足止めする人は何人いても」
「以前も言ったがオルコット、お前の機体は多対一ではむしろ邪魔だ」
「あ、あれから訓練は重ねました!」
「悪いがお前のその成果を私は知らん。オルコット、今回お前は待機だ。それ以上何か言うなら命令する」
「~~~~~」
千冬姉から散々言われたセシリアは目に涙を浮かべるも、それ以上は何も言わずその場に座り込んだ。鈴、シャル、ラウラが複雑な表情を浮かべながら千冬姉とセシリアも見つめている。
しかし千冬姉、さっきからセシリアに厳しい事言ってるけど…なんか違和感を感じる。言ってる事は正しいんだろうけど…なんからしくないな。
「さらに相手は暴走状態のISだ。そんな相手に足止め出来る技量を持つのはこの場では青崎しかいない。青崎、そういうわけだ。さっきも言ったがお前は福音と接触したら交戦。織斑が零落白夜を当てられる状況まで持って行け。お前は日本の代表候補生だろう。ならこの任務必ず遂行してこい」
あれ? 俺の時と違い葵には命令なんだ。しかも千冬姉のあの目、口調は拒否権は一切認めないと言っている。そんな千冬姉に葵は力強い笑みを浮かべ、
「任せてください織斑先生。日本の代表候補生として、必ず一夏と箒を守り任務を遂行させてみせます!」
力強く返事をした。その時の葵の目を見て、俺は少し驚いた。なんて表現したらよくわからないのだが…ただすごく大人びて見えた。
葵の顔を見て覚悟を悟った千冬姉は、今度は箒に向かった。
「篠ノ之、先程から束がお前を作戦に組み込むことを推薦してるがお前自身はどうなのだ。はっきり言うが危険が多い任務だ。嫌なら断ってもいい」
箒には俺と同様参加の意思を問う千冬姉。…まあさっきからの反応から考るとなあ。箒は葵を見て、次に俺を見ると、
「任せてください織斑先生!その任務承ります!」
箒は力強く返事をした。
「よし!ならばすぐに行動を起こすぞ!束!」
「うんまかせてちーちゃん! 箒ちゃんとあーちゃん、すぐに紅椿とスサノオの調整に行くよ。ちーちゃん、すぐそばの砂浜で調整行うからスサノオにつけるパッケージ持ってきてね」
そう言って束さんは葵と箒を連れてこの場から立ち去った。この場を出る際、箒はやる気をみなぎらせながら出ていったが、葵は複雑な顔をしながら千冬姉とセシリアをちらっと見たが、特に何も言わなかった。教師陣もそれぞれの任務の為部屋を後にしていき、千冬姉も山田先生に何か指示を出しながら部屋を出ていった。こうしてこの場に残ったのは俺、セシリア、鈴、ラウラ、シャルだけとなった。
「…納得いきませんわ」
セシリアは座り床を見ながら震える声で呟いた。
「セシリア、しょうがないよ。セシリアのパッケージは作戦までにインストール出来るかは織斑先生の言う通りわからないんだし」
シャルがセシリアを励まそうとするも、
「ですけど!やってみないとわかりませんのに!それに」
「諦めろセシリア。今回初めから教官はこの作戦は一夏と葵にさせるつもりだったからな」
不満を言おうとするセシリアに、ラウラが苦汁を滲ませた顔で言った。
「え?ラウラ、それどういう事よ」
「いや正確には教官の意思ではない。おそらく日本政府の意思だろう。他国の力を借りず、出来うる限り日本の戦力で今回の任務を遂行するよう命じられたのだろう」
え、どういうことだよそれ。
「おそらく日本政府としては、今回の件でIS世界における日本の優位性を高めたいのだろう。今回の事件は機密扱いになるが、それでも各国の上層部は知ることとなる。その任務を日本の機体だけで解決出来れば、各国に対する日本のISの性能の宣伝にもなる。そして教官はこの命令に絶対逆らえない。…それは」
そこで口をつぐむラウラ。しかし鈴、セシリア、シャルもラウラが何を言おうしたのか理解しているようだ。…俺もラウラが何を言おうとしたのかは理解している。
ISの世界大会で、二連覇を確実視されていた千冬姉は誘拐された俺を助けるため第二回モンドグロッソ大会決勝戦を棄権した。そして、そのせいで千冬姉は日本中から非難される事となった。第一回大会の優勝者が何も言わず棄権した為、当時の日本の面子は丸潰れとなった。
……その負い目があるから、千冬姉は今回政府の命令に従うしかないのか。
「ラウラさん、言いたい事はわかります。わたくしだってラウラさんに言われなくても、薄々はわかってはいました。ただわたくしは」
「一夏と箒と葵が心配だから、でしょセシリア」
笑みを浮かべ言うシャル。シャルの言葉を聞き、セシリアの顔は赤くなった。
「一夏と箒はISに乗ってまだ三カ月で、箒に至っては今日初めて専用機を与えられてまだ試運転程度しか操縦していない。葵は代表候補生でISの腕は申し分ないけど、それでも専用機を今日初めて乗っている。不安に思うのはわかるよ」
「そしてセシリア、あんたこうも思ってるんでしょ。平民を守るのも貴族としての自分の務めだとかなんとか。軍人として訓練された葵はともかく、一夏と箒には危ない任務は私がやりますみたいな。ま、この作戦一夏がいなければ成立しないから一夏はしょうがないんだけど」
シャルと鈴の台詞を聞き、さらに顔を赤くするセシリア。「う~~」と言いながら指で床をなぞっている。
「セシリア、気持ちはわかるがここは一夏と箒と葵を信じようではないか。セシリア、それにこう言ってはなんだが一夏も葵も箒もお前が思ってる程弱くないぞ。特に葵は」
そこは俺の名前も言ってほしかったが、ラウラの言う通りだ。
「大丈夫だセシリア。俺も葵も箒も無事に任務を達成して戻るから心配するな」
俺はセシリアにそう言うと、セシリアも納得したのか笑みを浮かべた
「そうですわね、なら一夏さん。今回の作戦ですが」
「あ、そうそう一夏あんた高速戦闘がどんなものか知らないわよね。簡単だけど教えてあげるわ」
「ちょっと鈴さん!それはわたくしが」
「一夏、高速戦闘だと周りの風景が」
「ブースト残量にも気を付けろ。いつもの調子で」
「シャルロットさんにラウラさんまで!その役目はわたくしですのに~!」
とまあ、葵と箒の調整が終わるまで、俺はセシリア達から高速戦闘の説明を受ける事にした
時刻は午前11時、作戦時刻となった。紅椿もスサノオも調整とパッケージインストールが完了し、今三人で千冬姉の出撃命令を待っている。
「もうすぐね。一夏、箒、緊張している?」
「大丈夫だ葵、私は問題無い」
「俺もだ。そういう葵は?」
「私は大丈夫」
にっと笑いながら葵は言った。まあ葵にはああ言ったが、実際俺は少し緊張している。やっぱ今までと違いこれは実戦なんだ。今までと違い楽観視することはできない。
「一夏、一夏。聞こえるか?」
少し物思いに耽っていたら、葵がプライベートチャネルで俺に話しかけてきた。ん?なんでわざわざこれで?直接言えばいいのに。
「ああそういや一夏はこれ苦手だったか。ならいいや、返事はいい。俺の話を聞くだけでいい。箒の事だ。なんというか、箒の奴少し浮かれている。専用機を持たされ、多分重要な作戦を任されて嬉しいのだろうけど…あまりいい傾向じゃない。何かあった時は一夏、サポートを頼む。俺は福音相手にそんな余裕はないだろうから」
葵の言葉は、会議の時から俺が思っていた事だった。確かに今の箒は少し浮かれている。
なら…何かあった時は俺がちゃんとサポートしないとな。
「ああ、まかせろ!」
決意をし、プライベートチャネルを使い、俺は葵に力強く返事をした。そうしたら、
「何!一夏プライベートチャネル使えたのか!」
…プライベートチャネルから葵の凄く驚いた声が響いた。…おい、どれだけ俺をまだ素人扱いしてるんだよ。
「とにかく、頼んだぜ一夏。お前達が怪我したら、代表候補生である俺の責任になっちまうんだからな。国民を守る俺がお前達を怪我させたら、煩い奴等がいるし。それ抜きでも、…一夏と箒に怪我はして欲しくない。危なくなったら、すぐに逃げてくれ」
「あほ、心配なのは俺も同じだ。…お前も、無茶はするなよ」
「ああ、わかってる」
…ったく、実質戦うのは葵、お前なんだから俺達の心配する暇はないだろうに。しかし葵、プライベートチャネルとはいえ、最近じゃ自室以外では二人きりでも女口調だったのに口調が男だったってことは…葵も実は緊張しているのか?
そしてその後少し時間が経った後、
「では、はじめ!」
千冬姉の号令とともに、作戦は開始された。
千冬の開始の合図と共に、一夏を背に乗せ展開装甲された紅椿と、強襲用高機動パッケージ飛燕をインストールされたスサノオは飛び立った。一気に目標到達高度まで上昇した紅椿とスサノオは、千冬から送られてくる情報を照合し、目標の現在位置を確認。目標ISに向かい再び飛翔して行った。
(…なんてスピードだ。常時瞬時移動並だろこれ)
紅椿の背に乗りながら、一夏は紅椿の性能に驚いていた。横に目をやると増設されたスラスターを噴射しながらスサノオが紅椿と並びながら飛んでいる。しかしスサノオは単騎で飛んでいるのに、紅椿は白式という荷物を運んでいるのにも関わらず同等かもしくはそれ以上の速度で飛んでいる。その事実に一夏はただ束の技術力に感心した。
(さすが紅椿、束さんが作った機体。スサノオよりも遥かに性能が高い)
紅椿の横で並んでいる葵も、一夏同様にその規格外な性能に感心していた。自身の乗っているスサノオも最高の機体だとは認識しているが、さすがにISの産みの親である束が作ったISはそれ以上であった。確かにこれなら束が作戦に加える事を勧めるのも納得できると葵は思った。しかし、
(…いや大丈夫だろう)
一抹の気がかりが葵の頭によぎるが、葵は気にしない事にして飛行に集中することにした。そしてその直後、
「見えたぞ、一夏、葵!あれが目標だ」
とハイパーセンサーで目標を確認した箒の叫びが響いた。
目標のIS銀の福音は、頭部から足先まで全て装甲で覆われていて、その名の通り全身が銀色となっており、頭部から一対の巨大な翼が生えている。この翼が福音の推進力を司るスラスターでもあり、砲撃を行う場所でもある。福音はデータ通り超音速飛行で移動しており、真っ直ぐ一夏達に向かって飛んできている。
(さ~て、どう対処しようかな。とりあえず俺が突撃して)
福音を倒すべく葵が思案していたら、いきなり福音は平行に飛んでいたのを方向転換し上昇し始めた。
「な、何だ一体!」
「気付かれたのか!?」
箒と一夏は急な福音の行動に驚き、そしてその直後、
「敵機確認。警戒レベルCと判断、迎撃モードに移行します」
オープンチャンネルから響く福音からの機械的な音声を聞き、一夏達は顔を強張らせる。一夏達よりも高い高度に移動した福音は頭部に生えている翼を広げ、それを見た葵は叫んだ。
「来る!一夏、箒、気を付けて!」
その直後、福音は広げた翼から無数の光弾を発射させ、一夏達に攻撃を開始した。全方位にわたる福音からの光弾は雨のように降りそそぎ、一夏達に襲いかかった。それを一夏、箒、葵は散開してそれぞれ攻撃をかわしていく。葵はなんとか全弾回避できたが、一夏と箒はかわしきれず2,3発着弾。光弾は触れた直後に爆発した。しかしまだ2機とも深刻なダメージにはなっておらず、それを確認した葵は安堵した。
「いや~物凄い数の光弾だったわね。なかなかやっかいな機体ね福音は」
「のんきな事言ってないでどうするのだ葵。あの光弾の雨ではうかつには近寄る事も出来ないぞ」
「どうするもなにも、作戦に変更は無し。私がこれから福音と戦って動き止めて、一夏が零落白夜で止めを刺す」
「しかし葵、一人で大丈夫なのか?俺も」
「駄目。一夏も戦って肝心な時に零落白夜が使えなくなったら目も当てられない。それと箒も一夏と一緒に待機。エネルギーもう少ないんだから無理せず防御に集中しときなさい」
「だが」
箒はそれでも一緒に戦おうとするが、
「いいから二人とも、幼馴染の私を信じなさい」
一夏と箒を見ながら葵は笑顔を浮かべ、二人を残し福音に向かって行った。
「敵機A、接近。警戒レベルBと判断。目標を迎撃します」
福音はこちらに向かってくるスサノオを確認すると、再び翼を広げる。翼に備え付けられている36の砲門を全てスサノオに照準を合わし、発射。しかし
「はあーーーー!」
雄叫びを上げながら葵は向かってくる光弾を紙一重でかわしていく。そしてかわしながらも天叢雲剣を振るい、弧を描くレーザーを福音に浴びせていく。しかし福音は難なくかわしまた翼から光弾を発射。葵もそれをさけ、合間にまた剣を振るいレーザーを浴びせる。
両者互いに交互にかわしながらも遠距離で攻撃する展開がしばらく続く事となった。攻撃回数では圧倒的に葵は福音に負けているが、しかし光弾をかわしながら葵は勝利を確信した。
(いける!確かにあの翼から降り注ぐ光弾の数はやっかいだが、それでもセシリア達みたいに正確な射撃精度を持っていない。それにスサノオの機体にも慣れたし)
一夏との戦闘だけではまだスサノオの機体を完全に把握できていなかったが、福音と交戦している間に葵はスサノオの機体を完全に乗りこなすようになっていった。そして現在エネルギー節約の為、福音の攻撃を牽制するために天叢雲剣で攻撃するのを止め、完全に回避に集中するようにしている。しかし、じわりじわりと葵は福音との距離を光弾をかわしながらつめていっている。
(後少しで瞬時加速で間合いを一気につめれる)
福音を見つめ、葵はその後どう一夏まで繋げようか思案しながら回避を続けていく。
しかし、一夏と箒の二人が今の自分を見てどう思っているかまでは考えてはいなかった。
「葵の奴任せなさいとか言っていたが…防戦一方じゃないか!」
「しかも先程から天叢雲剣を振るってもいない。完全に押されている。このままでは不味い!」
福音の攻撃パターンを理解し、少しでもエネルギーを温存するため回避に専念した葵を、二人は押されていると勘違いしてしまった。これが待機を命じられている代表候補生達なら、よく観察すれば葵が少しずつ福音に近づいていっている事に気付いただろう。しかし初めての実戦で葵を心配している二人にはそこまで気付く事が出来なかった。
今二人には、福音の攻撃から逃げ回っている葵としか写っていなかった。しかし
(あいつが言ったんだ、私を信じなさいって。なら)
焦燥に駆られながらも、一夏は葵の戦いを見つめていった。
(あと少し)
福音の攻撃をかわしながら、葵は瞬時移動を行うタイミングを図っていた。もはや瞬時移動すれば懐まで行ける間合いまで葵は福音との距離を詰めており、そろそろ勝負を決めないといけないと葵は思っている。
(予想より回避に時間掛け過ぎたし、そろそろ決めないと)
そう思っていた時、福音の砲門が全て撃ち尽くし、再度照準を合わせようとした瞬間、
「ここだ!」
瞬時加速を行い、一気に葵は福音との距離を詰めていった。福音は葵の瞬時加速に対応できずにいる。そのまま福音の正面に現れた葵は両手で握っている天叢雲剣の刀身にエネルギーをコーティング。
(まずは機動力を奪う!)
光輝く天叢雲剣を手に、狙いは福音の頭部から生えている右側の翼。これを落とせば福音の機動力は大幅に減退できる為、まずは片側を両断せんと剣を振りおろそうとした。しかし、
「え?」
振りおろそうとした葵に、横から赤いレーザー群が福音とスサノオを攻撃していった。予想外の攻撃に回避出来ず直撃。衝撃で吹き飛ぶ葵がレーザーが来た方角を見ると、――――そこには愕然とした表情を浮かべた箒と一夏がいた。
(このままでは危ない!)
葵が瞬時加速を行う前、箒は苦戦している(と箒は思っている)葵に加勢しようと、福音に向かって突撃していった。
「箒!待て!勝手に動くな!」
後ろから一夏が箒に向かって制止の声を掛けるも、箒は無視した。
「ああ、くそ!」
すぐさま一夏も箒の後を追った。しかし展開装甲で出力が上がっている紅椿には到底追いつくことが出来ない。さらに出力を上げて追いかける一夏だが、その前に箒は行動を起こした。箒は腕部展開装甲を開き、さらに両手に持つ空割と雨月を牽制の為振るい攻撃。雨月からは無数のレーザーの弾丸が、空割からでるレーザーの斬撃が発射される。さらにそれを補うように展開された腕部からもエネルギー刃が自動で発射され、福音に迫る。しかし、
「な!」
紅椿の攻撃が福音に届く瞬間、福音の前に瞬時加速を行った葵が現れた。そして、箒の攻撃は福音と――――スサノオに着弾した。箒は自分の攻撃を受け吹き飛んでいく葵を愕然とした顔で凝視する。
「葵!」
一夏の叫びがオープンチャンネルを通し箒にも聞えるが、箒は葵を攻撃してしまったという事実に混乱し、激しく動揺していた。茫然と佇んでいる箒に、葵よりも早く体勢を整えた福音は、自分を攻撃した機体を脅威と判断した。
「敵機B、確認。警戒レベルBと判断。目標を迎撃します」
オープンチャンネルから流れてくる福音の声を聞き、嫌な予感をする一夏。そしてその予感通り、葵を攻撃してしまった事に動揺している箒に、福音は恐るべき速度で箒に接近しその速度のまま強力な蹴りを箒に叩きこんだ。
「がはっ!」
未だ動揺していた箒はそれを回避できず、後方へ吹き飛ばされていく。そして吹き飛んでいく箒に福音は全ての砲門を合わせ、一斉射撃を行った。
(何かあった時は一夏、サポートを頼む)
出撃前に葵から言われた事を思い出した一夏は、瞬時加速と零落白夜、その二つを最大出力で行い箒にまで到達。箒を担ぎ、また瞬時加速を行い高速離脱。そのすぐ後に福音の光弾は降り注いでいった。離脱する二人にさらに攻撃しようとした福音だが、
「お前の相手は私でしょうが!」
遅れて体勢を立て直した葵が一夏達に気を取られている福音の背後に現れ、福音は背中から最大稼働で刀身にエネルギーが込められた天叢雲剣の一撃を受け、爆音と衝撃と共に後方へ吹き飛んで行った。それを見届けた葵は、オープンチャンネルで一夏と箒に向かって叫んだ。
「一夏、箒!残りシールドエネルギーは後どれほど残っている!」
葵の尋常で無い叫びを聞き、慌てて確認をする一夏と箒だがそこに出されている数値を見て絶句。箒は一夏を運んだのと福音に対して行った攻撃と福音の強烈な蹴りのせいで、一夏は先程箒を助ける為に使った零落白夜と瞬時加速のせいでもう二人ともエネルギー切れ寸前とまでになっていた。二人の顔を見ただけで現状を把握した葵は、
「作戦は失敗!私が時間稼ぐから一夏と箒はすぐにでもこの場から離脱!」
二人に撤退命令を出した。
「で、でも葵!一人じゃ」
「頼むから行って!でないと」
渋る一夏に葵が何か叫ぼうとしたが、それよりも早く葵の一撃から復活した福音がこちらに向かって近づいて来た。
「ちっ!もう来た!」
葵は天叢雲剣を構え、福音に向かって行った。しかし葵の頭の中は焦燥で埋め尽くされていた。
(ヤバいヤバいヤバい!これはヤバいマジで!さっきの二人の表情からもうエネルギーは無いのは明白。そしてこっちもさっきの箒の一撃。瞬時加速が終えた頃とはいえあの加速時に攻撃受けてしまったせいでアーマーブレイク寸前までいってしまった。こっちもかなり残りエネルギーが少ない!)
もはや福音と戦闘できる状態では無くなってるが、それでも一夏と箒が逃げるまでは福音を引き留めようと葵は決意した。しかし福音はそんな彼女の決意をあざ笑うかのように、高速飛行のまま葵に近づいて来たのを急旋回し、一夏と箒に向かって飛んで行った。
「な!まさか先に二人を!」
葵の叫びを肯定するかのように、福音は高速移動しながら一夏達に光弾を浴びせていった。慌てて回避する二人だがかわし切れず互いに数発着弾する。その瞬間二人のエネルギーは空となった。
その二人を見据え福音は上空にて停止。そして翼を広げ、一夏達に照準を合わせた。葵を倒すよりも先に、この二機を撃墜させようと福音は判断したのだ。
一夏と箒も福音がこちらを狙っている事に気付いたが、エネルギーが残っていない白式と紅椿は動いてくれない。鈍重な動きしかしなくなった二機に対し、福音は翼を展開、一斉射撃を行おうとした。
「くそーーーー!」
上空にいる福音を見据えながら、一夏は死を覚悟した。ならばせめて箒だけでも助けようと己を盾にしようと箒を抱きしめる。しかしその二人の目の前に、
「一夏!箒!」
瞬時加速を行って、寸での所で葵は福音と一夏達がいる間に到達した。そして福音が光弾を撃ち出すと同時に、葵は天叢雲剣の残りエネルギー全てを刀身に込めて福音に向かって投擲。その後は一夏達を守るように抱きしめた。その直後、福音の攻撃と葵が投擲した天叢雲剣は同時に互いに着弾。大爆発が起きた。
「~~~~~~!」
もはやここに来るために全てのエネルギーを使ってしまったスサノオに、容赦なく光弾は振り注いでいった。シールドエネルギーで相殺できなくなった衝撃が、容赦なく葵に命中。装甲は砕け、髪は焼かれ皮膚も肉も炎に包まれ抉られても、葵は一夏と箒を放さず庇い続けた。
「「葵!葵!」」
一夏と箒が叫び続けるが、葵は激痛に苛まれながらも二人が無事なのを確認すると、
「言ったでしょ。二人は守るって」
にっと笑いながら言った。そして爆発と共に三機は海に墜落した。
葵が投げた天叢雲剣は正確に福音の顔に当たり、その後刀身に込められていたエネルギーがそのまま解放され爆発した。しかしそれだけでは福音に対してさしたるダメージにはならなかったが、光弾を止める事には成功していた。反撃を受け攻撃を止めた福音だが、目標が三機とも海に落ちた事を確認すると、展開した翼をたたんだ。
「敵機A、B及びCの撃墜を確認。警戒を解除」
そして福音は再びどこかへと飛んで行った。
一夏達が福音に撃墜されてすぐに、千冬は救助船を大至急向かわせた。しかしその前に、
「わたくしが先にいきます!」
強襲用機動パッケージを取り付けたセシリアが飛び立った。セシリアはあの後も何かあった時の事を思い、強襲用機動パッケージ『ストライク・ガンナー』を千冬に黙ってインストール作業を行っていた。必要は無いと思いたかったが、万が一を思い整備に精通しているクラスメイトに頼んでやってもらったのだ。
(まさか本音さんが整備に詳しいとは予想外でしたが…、やってよかったですわ!一夏さん!葵さん!箒さん!今行きますわ!)
セシリアは最大加速で一夏達が墜落した場所に飛んでいき、そして海面に浮いている一夏達を発見。すぐさま急行し、近くに降り立った。そしてそこでセシリアが見たのは、
「葵!葵!頼むから目を開けてくれ!葵!」
泣き叫ぶ一夏と箒だった。そして二人が抱えている葵を見て、セシリアは絶句した。
何故なら二人が抱えてる葵の周りの海面が血で真っ赤になっており、髪も半分以上焼け焦げていて真っ白になった表情は、どう見ても死んでいるようにしか見えなかったからだ。
錯乱状態の二人と葵を強引にセシリアは回収し、救助船まで大至急運び医師に葵を預けた。医師は葵の容体を見て顔を強張らせるが、急いで治療を開始した。このときまだ錯乱し取り乱していた一夏と箒を、別の医師達が薬を嗅がせ眠らせた。
「辛いでしょうが…今はもう眠っていて下さい」
こうして一夏、葵、箒の初めての実戦は最悪な結果のまま終わった。