TALES OF CRYING ―女神の涙と黒い翼―   作:ILY

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第七十六話 水の宝珠の洞窟

 なぜか樹上から飛んできた突然の自己紹介に漆黒の翼と面識の無い仲間達は唖然とする。

「馬鹿と何とかは高い所が、ってやつかしら」

 と、リョウカが辛辣に口にした。

「濁すべき所言っちゃってる気がしますけど、私も今回はちょっとだけ同意見です……」

 リアトリスもそれに同調するが、既に似たようなやり取りを何度も体験したエッジとクロウはただただ頭を抱えていた。

 そんなエッジ達の空気にはまるで気付いていない様子で栄光のグローリーと名乗った青年は満面の笑みを浮かべる。

「待っていたぞ、お前達!樹の上で待つのは中々骨が折れたが」

「そうそう、食事も届けて貰って、寝るのもハンモックでね」

「普通に降りて待ちなさいよ……」

 クロウが呆れた様に突っ込む。

「だが!そんなのは些細な事!大恩あるお前達に報いる為と思えばこの程度何でもない!」

(大恩……?)

 エッジはその言葉が引っ掛かる。

 彼等とは戦闘になったことはあっても、恩義を感じられる様な事は何もない筈だった。

「とうっ!」

 樹から飛び降りたグローリーはクロウの肩をがしり、と掴む。

「え?」

「何より、我らに憧れる後輩を無下には出来まい、そうだろう!『黒翼(こくよく)』のクロウ!」

 クロウの表情が引きつり、身体が石の様に停止する。

「どこから、その名前……」

「何、報酬を貰った時にシビルという男からな!いやあ、我々に憧れてそんな名前を名乗る後輩が居るとはな!ははははは」

 グローリーがガクガクと固まったままの彼女の肩を揺らす。

 サッドとバッドも樹の上で感涙にむせぶ。

「ねえ、エッジ……こいつちょっと殺すけど良いよね?」

 顔を伏せたままのクロウの周囲で殺気が膨れ上がる。

「ははは、照れるな照れるな黒翼のクロウ!」

「連呼するな!そんなダサい名前自分から名乗った事一回もないわよ!!」

「クロウ、ストップ、ストップ―!」

 彼女がブラッディランスを乱射しかけたので、仲間達はそれを阻止する為に尽力する羽目になった。

 

 ―――――――――――

 

《貿易拠点 マーミン》

 

「グローリー達この街の賞金稼ぎのリーダーだったのか」

「その通り!」

 落ち着いた所でエッジ達は改めて漆黒の翼達に事情を聞いた。

 彼等は街外れの洞窟から飾り気のない元倉庫の様な建物に拠点を移しており、仲間達はそこに案内された。

 やむを得ず仲間達に意識を失わされたクロウは頭に大きなたんこぶを作って倒れている。

「うおおおおおー!兄貴―!」

 グローリーに続いてバッドや、かつて正気を失ってエッジ達と戦った賞金稼ぎ達が歓声を上げる。

「そう、我々三人だけでは止められなかった狂気に落ちた我が同胞たちを止める為、我々漆黒の翼は必死に資金を集めていた。しかし、資金集めは難航しこの街に迷惑をかけるのも時間の問題だった……そんな時!仲間達を止めてくれたのがそうお前達だ!」

 再び歓声が上がる。

 クリフやエッジ達に怪我を負わされた事を恨んでいるものは居ない様だった。

「全員勢いだけで単純というか。いやひょっとしてこれはこれでカリスマなのか?」

「そうですね、漆黒の翼の皆さんの明るさは精神的支柱なのかもしれません」

 クリフが冗談半分に口にした言葉をアキは真剣に考察する。

「そんな恩人の為だ!さあ何でも望みを口にするが良い!聞けばお前達あの洞窟に用があると言うではないか、我々が離れてから魔物の住処となったあの場所に入りたいというならば我が『回転裂駆雑魚専封滅最新ばーじょん喝采劇場』を披露するのも、やぶさかではない!」

「何だその長い名前」

 クリフの呆れた顔が視界に入って居ないのか、グローリーは踏み台にしている樽を力強く踏みながら得意げに笑った。

「心配には及ばんD・RCゲージ一本で出すことが出来、TPも消費しない大変コストパフォーマンスがいい技だ」

 アキやリアトリスは彼が何を言っているのか分からずに困惑する。

「ゲージ……?」

「分からないけど、この人がずっと喋ってると良くない気がする」

 やや脱線しかけた話をエッジが戻す。

「洞窟に入りたいのは勿論だけど、もう一つ頼みたい事があるんだ」

「おう!何でも言ってみるが良い!」

 じゃあ、とエッジは仲間達と視線を交わして答える。

「爆薬が欲しい。洞窟を封鎖出来るだけの量が」

 

 

《ストレア洞窟》

 

「すげえな、本当に全部雑魚倒したのかよ」

「ただ、ものすごく疲弊してらっしゃる様ですけど……大丈夫ですか?」

「ふ……この程度、私達の『回転裂駆雑魚専封滅ばーじょん喝采劇場』の力と仲間達の声援をもってすれば……」

 クリフとアキが感心したり心配するのに対して、ボロボロの姿で洞窟内から出てきた漆黒の翼の三人は胸を張る。

 意識を取り戻したクロウはその技名に呆れた様子で目を細めた。

「その変な名前何とかならないの」

「何か問題か?」

「言い辛いでしょどう考えても」

「ふむ……なら改名して震天裂空――」

「待ってそれダメなやつ」

 クロウの指摘に三人は首を捻り、それから気付いた様にその表情が明るくなる。

「ああ、名前の長さか!」

「あんたが使える事がよ」

 再び漆黒の翼を睨みつけているクロウを制止しながら、リョウカが賞金稼ぎ達に幾何学模様の走る宝石の板の様な物を手渡す。

「はいはい、その辺にしときなさい。ほら、生体感知術式よこれを動力源との間に挟めば人間が通ろうとした時自動で起爆する。この石板と動力は十分に距離を空けてから設置しなさいよ、繋いだ瞬間人間を感知して爆発したら笑えないわ。人間だけに反応する様に調整して貰うの大変だったんだから」

 エッジ達は賞金稼ぎ達の力を借りて水の宝珠フラッディルージュが眠る洞窟内に大量の爆薬を設置していた。

 『ジード』やスプラウツが仮にこの最後の宝珠を見つけて辿り着いても利用する事が出来ない様に。

 内部の様子を見てきたラークとリアトリスも合流してくる。

「ひとまず出来るのはここまでだね、中の宝珠の様子を見てきたけど開放状態にはなっていなかった。先回り出来たみたいだしここまでは順調かな」

「爆破なんて物騒だとは思うけど、カンデラス火山での事を踏まえると向こうもシンの一族しか開放できない宝珠の力を開放出来るみたいだから仕方ないよね……」

 自然の洞窟を破壊する事に抵抗を示すリアトリスを励ます様に、漆黒の翼の紅一点のサッドが言った。

「大丈夫さ、少なくともマーミンの町の人間達にとってここは災いの元凶だ。喜ぶやつこそあれ悲しむ奴なんて居ないよ」

「そうなら良いんだけど」

 全員が揃い、クロウ達と共に入り口で待機していたルオンが尋ねる。

「次はどうするの?」

「一つ、僕とリアにはやっておかないといけない事があるんだ。僕達はこのままカースメリア大陸の北端に向かう」

 ラークの言葉にリアトリスも頷く。

「やっておかないといけない事?」

「『ジード』を倒して奴が持つ闇の宝珠の欠片を取り戻しても一度砕けた宝珠は元には戻らない。核にする為にインペルメアブル鉱石が要る」

 エッジはその単語が妙に引っ掛かった。

(鉱石……?その名前どこかで)

 彼は記憶を辿るがすぐには出てこない。

 エッジが考える間にも仲間達の話は進む。

「そういう事なら、私達も一緒に行きます」

「そうね、宝珠が元に戻らなければ私達の世界が滅茶苦茶になるんでしょう。なら私達の国にも無関係じゃない」

 アキとリョウカが同行を申し出たのを皮切りに、他の仲間達も次々名乗りを上げる。

「私も行くわよ、あんたの事だから着いた後で『実はモンスター出る』とか言い出しかねないし。それでラークが死ぬのは勝手だけどアキやリアまで巻き込まれたら目覚めが悪い」

「なら僕もクロウについて行く」

 クリフはラークの手伝いをする事に抵抗がある様子だったが、一つに纏まる仲間達を見て笑うと諦めた様に言った。

「俺も行く、ここで留守番してる訳にはいかねぇしな」

 結局他の仲間達も全員行く事にしたのを見て、エッジが最後にまとめる。

「じゃあみんなで行こう。悪いけどこっちは任せて良いか?」

「おう、大船に乗ったつもりでこの漆黒の翼に任せておけ!『黒翼』のクロウと仲間達よ!」

「だから――その名前で呼ぶなっつってんでしょうが!!」

 

 ―――――――――――

 

 以前マーミンを出た時と同じ様に町の人達と賞金稼ぎ達の厚意でエッジ達は馬車でカースメリア大陸の北端、イクリスタ坑道を目指す事になった。

 クロウのラーヴァンで飛ぶ事も出来なくはなかったが一度町から離れなければならない事、目的地の付近に着陸できそうな所が少なかった事等もあり、断るのも不自然だった為一行は素直に馬車に乗り込んだ。

 穏やかな旅でクロウの体力も温存できる――と思われたのも束の間。

 マーミンを出て間もない所で、御者の悲鳴と共に馬車が乱暴に停止する。

「何だ!?敵襲か?」

 クリフが壁に額をぶつけながら外の様子を窺う。

「『敵』っていうかこれは――」

 いち早く扉を開いて外へ飛び出したクロウが辺りを見回して状況を把握する。

 馬車は毛の長い、狼の様なモンスターの群れに包囲されていた。

「野生のモンスターの群れだよね……何か懐かしい光景じゃない?エッジ」

 続けて降りてきた彼に対して、クロウは不敵な笑みを浮かべながら初めて一緒に戦った時の事を口にする。

「数が全然違うだろ?あの時の三倍は居るし、多分他のモンスターと同じ様に以前よりずっと凶暴化してる」

「戦力差考えたら似た様なものじゃない、あの時はラーヴァン一時的に離してたしこっちも二人だけだったんだから。少なくとも今の私達は――」

 リアトリスの光の壁が馬車を囲み、アキが炎を纏った傘で敵の群れへと急降下する。

 間髪入れずにクリフが高速移動で一体を蹴り飛ばしながら先行したアキの横に並び、彼女の背後をフォローする。

「もう、二人だけじゃない」

 ラークがエッジとクロウを制しながらダブルブレードを展開しながら前に出る。

「二人はリアと一緒に馬車の守りに徹して下がってて、下手に力を使ってばれたら御者まで余計な事に巻き込みかねないからね。ここは僕達に任せて」

 エッジが頷く。

「分かった、ごめん。悪いけど任せた」

 クロウも真っ先に突っ込んだアキの背中へと声をかける。

「気を付けて!アキ、数が多い」

「大丈夫です、この位。負けません」

 頷く彼女と、クリフと、そして馬車へと。

 一斉に狼の群れは襲いかかった。


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