TALES OF CRYING ―女神の涙と黒い翼― 作:ILY
クロウの手が、脚が、全身が、筋力によるコントロールの代わりに実体化したディープスで縛られた。
人体が耐えられない様な加速に備え、幾重にも重なった障壁が多層的に彼女の身体を保護する。
同時に翼が羽ばたき、彼女の全身を起点とした深術の放射が爆発的な速度を生んだ。
彼女の姿がかき消え、数十の黒槍が空を切る。
クロウは真っ直ぐに降り注ぐ槍に向かって突っ込んだ。
幻影では無い、全てが実体を持った凶器の雨。
躊躇なくその中に飛び込んだ事でクロウの服のフードが吹き飛び、遥か眼下の海へ吸い込まれていく。
身につけたものが射抜かれる程間近に槍が迫ろうと、普通なら腕が飛ばされる様な危機を感じる距離で槍とすれ違っても、彼女は致命傷に繋がらない限り全て無視した。
千の槍が降り注ぐ空中を、クロウは『ジード』目がけて雷の様に駆け抜ける。
それに対抗して『ジード』も刀を抜いた。
「スピード、か」
『ジード』の姿も消える。
クロウと同等か、それ以上の飛行速度で間合いを詰めた彼は刀を上段から叩きつけた。
彼女はそれを身を捻ってかわし、その回転の勢いのままナイフの様に左手から伸びた鉤爪で『ジード』の胸を抉る。
彼の胸から血液の代わりに黒い粒子の様なものが散った。
「な、に……?」
微かな驚きと共に彼は振り下ろした刀を返して、横凪ぎにクロウの胴体を狙う。
が、その瞬間にはもう彼女の姿は消えていた。
「がっ、!?」
今度は完全に無防備な背中を切り裂かれる『ジード』。
飛び散った闇属性のディープスを
一方的に連続で攻撃を受けた彼は黒い鷹の様な翼を広げ、姿を捉えられないクロウから逃れる為に持てる限界の速度で飛び出した。
そのすぐ後を追って彼女も姿を現し、追いすがる。
二人の差は縮まらない、術の出力が違う以上明らかに速度は『ジード』の方が上だった。
一度、竜巻の包囲を抜け二人は海上へと移動する。
海面擦れ擦れを飛びながら、彼は反転して攻勢に出た。
方向転換と同時のブラッディランスの連射が、間近からクロウを襲う。
だが、術が放たれた瞬間にはもう彼女の姿はその射線上から外れていた。
反射的にガードした『ジード』の態勢は、直後勢いよく懐へ飛び込んだクロウの一撃で大きく崩される。
「馬鹿な、速度はこちらの方が上の筈……」
「――そうだよ、そっちの方が速い」
彼の呟きに反応して、意識をラーヴァンに乗っ取られた筈のクロウが口を開く。
一度黒に染められた彼女の瞳の色が少し戻っていた。
「だけど、あんた人間の意識を維持するのに精一杯なんじゃない?だからジェイン・リュウゲンの身体を乗っ取って眠ってた……だから必死で生前の形を保とうとする。宝珠と同化したが故に、あんたは一瞬でも意識を手放したら戻って来られない。けど――」
大きく飛び上がったクロウが、流れ星の様な軌道を描く。
『ジード』は回避できない事を悟って、その衝撃に備えた。
「私には身体がある、両親から貰ったこの身体が!だから意識を完全に委ねても戻って来られる。例えパワーも、スピードもあんたに及ばなくても、反応速度だけは私達の方が上を行く!」
落下の勢いを加えたクロウの攻撃と『ジード』の斬り上げが拮抗し、激突の衝撃で海面が割れる。
押しのけられた海水が高波となって戻ってくるのを避け、二人は一度距離を取った。
距離が空いた事で「ブラッディランス」の連射で二人は互いの軌道を牽制する。
行き交う無数の黒槍が海上で水柱を上げ、氷霧が舞った。
クロウは再びラーヴァンに完全に意識を委ね、距離を詰める。
宙を駆けながら戦いの場を海から空へ、そして再び竜巻を抜けて焔螺旋の間近へ移しながら幾度とない衝突が繰り返されるが、押しているのは明らかにクロウだった。
彼女の動きを追い切れない『ジード』は、本能的な反射では決して逃れられない様彼女の周囲を完全に包囲する形で術を放つ。
「ブラッディハウリング」
目の前で開いた黒い門にラーヴァンの意識は反射的に逃れようとするが、全ての方向を塞がれ動きが止まる。
彼女の身体は闇雲に全体に槍を放つ事で逃れようとするも、術の威力の差は大きく破る事が出来なかった。
クロウを引き裂こうと魔狼の群れが殺到する。
と、彼女の右目の色だけが黒から紫に戻った。
「――ディストーションランス!」
分散していた攻撃を一点に集中し、最大出力の槍でクロウは包囲網を破って『ジード』に肉薄する。
そのまま彼女は至近距離から術を放った。
それが宝珠の力を借りたものでは無い事に、『ジード』は気付く。
「アクアエッジ!」
闇属性で攻撃すれば即座に再生される事を学習していたクロウは、彼女自身が得意とする水属性の深術を使用した。
クロウの掌と『ジード』の間で水が弾け、闇のディープスが拡散する。
闇属性の深術を使用した時と異なりその傷は即座に直されはしなかったものの、威力が足りず少し再生を遅らせる程度の成果しか無かった。
宝珠の力を借りた術と違い他の属性の術は普通に詠唱時間を要する為、クロウは再び距離を取る。
明らかに
(……自分の意思と、宝珠の意思とで術を二重詠唱しているのか)
クロウは感情を残した右目に微かに力を込める、黒く染まった左目の方は攻撃性以外の感情が抜け落ちていた。
その必死な表情を見て『ジード』は尋ねる。
「自分が今何をしているのか自覚しているのか?お前は自分の人間の部分を
「構わない。例え私の目が見えなくなっても、手が何も感じなくなっても、心が全部消えて獣に成り果てても……それでもあいつは私を変わらず『クロウ』と呼んでくれる」
彼女は再び翼を広げ、真っ直ぐに飛び出す。
「私が人間として生きた証なんてそれだけで十分よ!」
黒い雷の様にクロウは宙を駆けた。
今までラーヴァンが表に出ていたお陰で感じずに済んでいた『
遥か下方の海一面から響く波音は、どれだけの高さに浮遊しているかをクロウに思い知らせた。
急加速と同時に潮風に満ちた冷たい風で彼女は凍えそうになり、耳元は風の轟音で音を拾えなくなる。
先程まで平然と躱していた刀が顔の横を撫でていくだけで、クロウの全身は鳥肌が立った。
振り下ろされた刀を避けて、彼女はそのまま『ジード』の背後を取る。
反転して攻撃しようと急停止すると、クロウの全身は痛みで軋んだ。
「アクアエッジ!」
先程と同じ術が『ジード』の背で炸裂しダメージを負わせる。
しかし傷から拡散した黒いディープスの粒子はすぐさま逆行し、再生を始めた。
「効かないと、分からないのか」
振り向きざまに『ジード』が放った「ブラッディランス」を、クロウは宙返りで避け「武器」を構えた。
「っ……フラップダーツ!」
高速で飛びながら自身の身体の動きと逆方向に腕を振るのは困難で、彼女は思い切り力を込めてスローイングダガーを投げる。
それでも飛び出したその刃は目標に届くのがやっとだった。
『ジード』はそれを切り払おうとする。
―
「バックストライク・ショット!」
周囲を漂っていた黒いディープスを吸い込んでダガーが反転し、『ジード』の刀を避けた。
本来敵を後方から不意打ちする筈のその技は、対象に届く前に使用された事で行き場を失いそのまま海面へと落ちていく。
(空撃ち――?)
不審に思った『ジード』は異変に気付く。
クロウが「アクアエッジ」によって付けた傷が残っていた。
「……他の事に闇のディープス消費しちゃえば、再生も出来ないでしょ」
彼女は再びダガーを構え、次の深術の詠唱を開始した。
『ジード』は何も言わなかったが、改めてクロウを警戒する様にその表情を引き締める。
互いの出方を
直後、黒い槍が再び帯の様に空を埋め尽くしクロウへ襲い掛かった。
ただ降らせるだけでは彼女を捉えられないと理解したらしく、今度の『ジード』の攻撃は多方向からクロウを追い詰める。
クロウは迷わず『ジード』目掛けて飛び出した。
上下左右、果ては真後ろ……彼女の視界が届かない方向から槍が次々に飛来する。
ほんの一瞬の思量すら許されない鋭利な刃の檻の中を、クロウは限られた僅かな隙間を縫って躱し続けた。
視界外からの攻撃を察知するのに彼女が許される時間は、最小限の動きで槍を避けている瞬間だけ。
一つ一つの槍をきちんと見ている余裕などとても無い。
それでも彼女は前に進み続けた。
距離を離してしまえば、有効打が無い彼女にはそれこそ勝機は無く、一時の回避の為に足を止めれば更に多くの槍に狙い撃ちされる。
だから彼女は例えそれで更に槍がギリギリの所を掠めていく事になっても前へ、前へと飛んだ。
クロウの腕を槍が掠め、血が流れる。
「吹き上がれ、
ダガーを振りかぶりながら、クロウは『ジード』の目前に迫る。
再び彼女が水属性の深術を使おうとしているのに気付いて、『ジード』は回避に移った。
「スプレッド!」
大きな水流が勢いよく下から吹き上がる。
それは『ジード』を追って軌道を曲げるが、先に動き出していた彼を追い切れず避けられた。
轟々と音を立てていた水柱は二人の頭上で勢いを失って、雨の様に水滴を降らせながら消えていく。
先程直撃し『ジード』に傷を負わせたアクアエッジよりも強力な深術であっても、当たらなければクロウもダガーで傷を負わせる事は出来ない。
再び距離を取る時間を彼女に与えず、一気に畳みかけようと『ジード』は構える。
が、スプレッドの生みだした水の膜が完全に消え視界が晴れた時、クロウは退いていなかった。
その身体に虹色のコレクトバーストの光を纏って。
「捕まえた――!」
水の煙幕が囮だった事に気付いた瞬間には、『ジード』の身体は海面から吹き上がる黒い闇のディープスの渦に押し上げられていた。
黒い左目に殺気を宿したクロウが宝珠の力で放ったその深術は、彼の飛行の最高速にも匹敵する速度で逃れる事を許さない。
紫の右目に全てをこの攻撃に賭ける覚悟を映しながら、クロウは「自分」の術を詠唱する。
「この身が在るは
遥か上空から一筋の光が垂直に落下する。
みるみる大きさを増し速度を増すそれは、白く波を立てる水柱だった。
『ジード』の身体を捕えて吹き上がる黒い奔流と落ちてきた白い瀑布が空と海を結び、一本の黒白の柱を描いた。
闇のディープスの冷気が落下する水柱を氷の刃へと変え、加速する渦がその鋭利な断面へと『ジード』の身体を叩きつける。
「闇属性が効かなくても、衝突のエネルギーなら話は別でしょう!?
衝突の瞬間、『ジード』を捕えていた闇のディープスの渦は硬化して石臼の様になり衝撃が空気を揺らした。
止めどなく落ちてくる水が氷の刃として叩き付けられ、その破片が飛び散る。
余波だけで十分に殺傷能力を持ったそれを避けて、クロウは後退した。
「っ、はあ……はあっ」
クロウの周囲の虹色の光がゆっくりと消える。
宝珠の力の行使と、意識を保ったままの二重詠唱、それに加えてのコレクトバーストの同時使用の負荷は大きかった。
その為、彼女は最も自分に効果が薄いコレクトバーストを真っ先に止める。
宝珠で際限なく闇のディープスを扱える彼女の場合、体力と引き換えに「自分」の扱えるディープスの量を倍増させるコレクトバーストは相性が悪かった。
とどめを刺せたのか確認しようとした彼女は、突然がくりと引き寄せられる様な感覚を覚える。
(まずい、これは……!)
氷の柱を粉々に砕いて、障壁でその身を守った『ジード』が姿を現した。
彼は術を詠唱していた、それが集める桁違いのディープスの流れがまるで重力の様にクロウの身体を縛り付け動けなくする。
ここまでの戦闘で彼が使用した術は、例え空を埋め尽くす程の槍の雨でも全て詠唱など無かった。
クロウの脳裏にリアトリスの『
誰も、何が起きたのか把握する事すら出来なかったその術が。
(まずい、まずいまずい!)
全速力でクロウは『ジード』から離れようとする。
しかし、あれだけの速度を出せていた力を総動員しているにも拘らず彼女の身体はゆっくりと後退するだけだった。
クロウは引き寄せられるのを辛うじて相殺するのが精一杯で、加速の為に身体から照射した深術のディープスも全て『ジード』の正面の魔法陣へと吸い込まれていく。
まるで、蜘蛛の巣に捕らわれた羽虫。
クロウの目の前で膨れ上がり続ける漆黒の塊が形を成し始める。
彼女を縛り付けていた重力の様な力が消え、最後の
「避けない方が良い……安心しろこの眠りは速やかだ――『ディグルフェイズ』」
風が止まって静まり返った空気に、死刑宣告の様な言葉が響く。
抑え付けられていた分、一気に飛び出したクロウの視界が何も見通せない闇で覆い尽くされる。
防御も回避も間に合わない。
ただ、飲み込まれると確信した彼女は思わず丸まって衝撃に備える。
しかし、その深術はただ目の前を通過したに過ぎなかった。
間近を通過した高周波の音が急速に離れていくのを聞きながら、眼下の光景を目にしたクロウは呆然とする。
水平線の彼方まで海が割れていた。
何かが通過した衝撃で深い亀裂が入った海は、たった一瞬の間に凍り付きその瞬間の波の形をはっきり残している。
クロウがそれを辛うじて受けずに済んだのは、ギリギリまで逃れようともがいた為。
もし僅かにでも敵の詠唱を妨害しようと攻撃を仕掛けたり、防ごうとしていたら即死していた事を彼女は悟る。
「……こん、な……」
真正面から力の差を見せ付けられたクロウの身体は、抑えようの無い恐怖で震える。
頭上に落ちた影に気付いた彼女は慌てて、はっと顔をあげた。
首へ目掛けて振り下ろされた『ジード』の刀を真正面から受け止める形になったクロウは、その膂力の差に大きく後退させられる。
動きの鈍ったクロウはそこから立て続けの連続攻撃を受け、防戦一方になった。
一方的に敵の攻撃に振り回されながら、彼女はブラッディランスで反撃を試みる。
五本の槍が次々に彼女の手から飛び出した。
しかし、『ジード』はそれを避けようともせず、ただ受ける。
闇属性の深術で付けられた傷を即座に再生できる彼には、それを避ける必要すらなかった。
悔しそうに顔を歪めたクロウは、ふと小さな異変に気付く。
キイィィン、という音が遠くから凄まじい勢いで迫ってくる。
(まさ、か)
音の方向を振り返った彼女は小さな黒点が、一瞬にして視界の中で拡大するのを目にする。
避ける、という選択肢を取るにはその時間はあまりに短すぎた。
海を切り裂いて飛行する巨大な神槍は大気に尾を引き、氷の轍を残して一直線にクロウに迫る。
遅れている事を承知の上で彼女は全速力で回避行動を取った。
(間に合え……っ!)
槍本体だけでなく、身体をバラバラにされかねない衝撃波からも逃れる為彼女は必死に飛ぶ。
あまりに過剰なその威力の前には、掠る事さえ致命傷だった。
直前までクロウが居た空間を、槍と、衝撃波が通り過ぎる。
そこから放出された冷気のほんの端が、逃げようとする彼女の黒い翼を捉えた。
「っ……ぁぁぁああああああ!」
クロウの身体が一瞬にして凍りつく。
全身を刺されたまま固定された様なその痛みに彼女は叫んだ。
最高速で飛んでいたその身体は、突如飛ぶ力を失った事で錐揉み状態で落ちていく。
全身を冷水に突き落とされた様な感覚に、彼女は正常に呼吸が出来無くなっていた。
内臓まで冷気が達していなかった事が幸いではあっても、それを喜ぶ余裕など微塵もない。
「っ!?」
必死で体勢を立て直そうとする彼女は、自分を狙って飛んで来た「ブラッディランス」に気付いて落ちる速度を加速させる。
飛べない状態で出来る精一杯の抵抗も、完全に攻撃を避けるには至らず彼女の脚は傷付いた。
まともな抵抗も出来ない事に彼女は涙する。
ふと目が合ったクロウは『ジード』がただ自分を上空から見下ろしている事に気付いた。
既に何もせずとも勝敗がつく事を彼は知っている。
(くそっ……くそっ、くそっ!)
彼女の心の中に無力感が広がっていく。
(全部を賭けたのに、私とラーヴァンの力を合わせたのに、それでも届かない……)
これが宝珠の力の差なのかとクロウは悔しくなる。
諦めずに彼女はもがき続けたが、それでも海面はみるみる迫った。
叩きつけられれば待っている明確な死に、クロウの心は真っ白になる。
――だから聞こえたその声は、きっと幻聴に違い無いと彼女は思った。
「今だ、エッジ!」
「――
クロウの目の前で、『ジード』の片翼が蒼い斬撃に跡形もなく吹き飛ばされる。
彼女は大きく目を見開いた。
「姉さん!もっと右です!」
「ちょっと、キャッチする寸前で大声出さないでよ!」
それに続いて、柔らかい何かがクロウの身体を優しく抱きとめた。
「クロウ!?私の声聞こえる?しっかりして!」
「大丈夫か?まだ生きてるよな!」
ラークの声。
エッジの声。
アキの声。
リョウカの声。
リアトリスの声。
クリフの声。
そして、すっかり変わり果ててしまった自分を包む宵の地衣の感触と、治癒術で消えていく痛みに、気功で温められる身体の暖かさ。
それら全てが信じられなくて、クロウは仲間達が乗って来た船の上で呆然とする。
「もう一度だ、エッジ」
「ああ!」
エッジが深海の剣で放った二発目の真空蒼破塵を、残った右の翼だけで『ジード』は回避し、黒い槍をエッジ目掛けて落とした。
「ブラッディランス!」
「
宝珠の力で放たれた黒槍と、蒼い光を纏った斬撃が衝突した。
エッジの放った技が貫通し、『ジード』はそれを苦々しい表情で再び躱す。
エッジが深海の剣で敵の注意を引き付けている隙に、一行を乗せた船は島の岸に着き仲間達は次々に上陸する。
一度戦意を失いかけたクロウに、アキが声を掛けた。
「ごめんなさい、ラークさんに言われて急いだのにギリギリになってしまって」
「何、で……!」
クロウは「何故来たのか」、「来たら死ぬと分からなかったのか」そんな言葉を言いかけて詰まる。
否定の気持ちよりも、仲間が来てくれた事の嬉しさの方が彼女の中で何倍も勝っていた。
だから、クロウは言いかけた言葉を誤魔化してラークに怒鳴る。
「あんた!私一人に任せるって言ったわよね?」
「ああ、ごめん嘘だよ。一騎討ちになれば必ず隙が出来ると思ったから、そこを不意打ちした方が良いかなと」
悪びれもせずに言った彼の言葉にクロウは絶句した。
「
「禁忌の剣か、まずそれから潰させて貰う」
エッジが再び宙に向けて蒼い斬撃を飛ばすが、もう縦横無尽に飛びまわる『ジード』を捉える事はとても出来なかった。
クロウは一度折れかけた決意を新たにして、もう一度大きく翼を広げる。
「それじゃダメだよ、いくらその剣でもあの高さには届かない」
「クロウ……?」
傷を治療する時間を稼ごうとしていたエッジは、体力を消耗している筈にも拘わらず直ぐ様立ち上がったクロウに少し戸惑う。
彼女はその手を、エッジに向かって差し出した。
「だから、私がその剣を届かせる――片方では駄目でも私のスピードとエッジの攻撃力を合わせればきっと出来る」
エッジは頷き、その手を取った。
「私の手を絶対離さないで」
「分かった」
二人が動く中、リアトリスが言った。
「エッジ、クロウ、みんな、私が詠唱する間何とか耐えて!そうしたら後の攻撃は私が全部何とかする!」
仲間達全員が見守る中で、大きな羽ばたきと共に手を繋いだ二人は真っ直ぐ空へと飛び上がる。
蒼く輝く希望を乗せて、黒い翼は『ジード』を目掛けて宙を翔けた。
「行くよ、エッジ!」
「ああ!」