また、事件の首謀者である木山春生も逮捕され、幻想御手の被害者達も続々と目を覚ましたという連絡が入っている。
全ては収束に向かっている、けれど――
「既に目覚めていると――ええ、はい。それと御坂美琴と――そうですか、はい、それでは――」
白井は携帯のスイッチを切る。
愛しのお姉様に『佐藤鳴介』の安否を調べるように頼まれた。
男の名前が出た瞬間問い質したい衝動に駆られたんだろうが、焦燥に駆られた顔を見て何か言えるわけも無く。
「お姉様、佐藤鳴介さんと言う方は無事目覚めていたそうですの。でもお姉様の事は……」
「……そう、ありがと黒子」
『佐藤鳴介』は目を覚ましていた。
当然だ、彼は幻想御手の影響で昏睡状態に陥ってただけなのだから、それが解除されれば後は目を覚ますだけだ。
けれど、やはりと言うか彼に『みこっちゃん』の記憶は無かった。
「お姉様、その……」
「ごめん黒子、ちょっと一人にさせてくれない?」
「わかり、ましたの……」
何も言わず、その場を離れる白井。実に出来た後輩だと思う。
(ほんと、私にはもったいない位だわ。それに引き換え――
な・ん・でアンタはそんな能天気なのよ!!)
(えっ、今更だろそれ……)
(だってアンタ幻想御手が解除されたのに体に戻れて無いでしょ!! ってか何で「佐藤鳴介」は目覚ましてるのよ!!? 嘘か? 嘘吐いたんかアンタは!!!!?)
(ちょ、落ち着けみこっちゃん、どうどう!)
(これが落ち着いていられるかあああぁぁぁ!!)
おお、みこっちゃんが頭抱えて「うがああぁぁぁ!!」って叫びながら変なダンスを踊りだしたぞ。疲れてんのかな、少しそっとしておいてやろう。
まあみこっちゃんの言いたい事も分かるけど、幻想猛獣に取り込まれかけて気絶して(幽霊でも気絶するんだな、世紀の発見じゃね?)目を覚ました後も相変わらず幽霊で「ああやっぱりな」程度にしか思わなかったし。
幻想猛獣通してこの世界の俺と俺(ややこしいな)が同一な存在なのは確信したけど、それなのに幻想御手に取り込まれて無い時点でなんかおかしいとは思ってたからな。
「はあああぁぁぁ……」
お、みこっちゃん落ち着いたみたいだな。
(みこっちゃん、俺どうすりゃいいんだろ)
(……私が聞きたいわよ)
(ですよねー)
(ああ、これからずっとこんなのと一緒に暮らしていかないとだなんて……)
(嬉しいだろ?)
(お先真っ暗よっ!!)
ふうむ、しかしそうは言われても俺は戻る体なんか無いわけだしなぁ。どうしたもんか。
アレイえもんに相談……はありえねぇな。つーかこの世界で何とかしてくれそうな人達はみんな頭のボルトを自分から抜いてるような奴ばっかりだし。
うーんここで俺の秘めたる能力が開眼して急に体が出てきたりしないかなぁ。うーからだからだ……お、なんか出てきそうな。
「お姉様、そろそろお時間の方が――あら、そちらに誰かいら、しゃ……」
「あ、黒子。ごめんね、って私はずっと一人だ……」
お、出た出た。ちょっとぼんやりしてるけど。
ちょうど良い、二人に俺のアルカイックスマイルをお披露目しよう。ニタアァ。
「で」
「で」
で?
「でたあああぁぁぁ!!!!」「ですのおおおぉぉぉ!!!!」
うおおお!! なんだみこっちゃん急に走り出して!!
(そんな走るなよー)
「いいいいぃぃぃぃやああぁぁぁ!! 来るなああああぁぁぁぁあ!!」
そんなに……俺と一緒に居るの嫌だったのか……。
へへ、俺のガラスのハートがブレイクっちまったぜ……ぐすん。
なお、俺の捻り出したモノが幽霊っぽく見えるのに気づいたのはみこっちゃん達が力尽きてからだった。
――幻想御手編・完――
@蛇足
幻想御手事件解決から数日後――
「ねえ鳴ちゃん、今日の能力測定どうだった? なんかさ、幻想御手使った人って軒並みレベルが上が――あ、勿論あんなのもう二度と使っちゃダ「……ってた……」え? 鳴ちゃん今なんて?」
「…………能力のレベル、下がってた……」
「……………………」
「……………………」
「………………えっ」
誰かの能力が誰かに吸い取られてたとか。
とりあえずこれで幻想御手編は終了。