とある男の憑依体験   作:minesama

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たまには真面目になるのだよ。


5.やめて! 僕に乱暴する気でしょう? エロ同人みたいに!

 佐天涙子が倒れたと知らせが入った。俺の思惑通りにな。

 これを切っ掛けに幻想御手事件は今日中に収束に向かうはずだ。

 そしてちゃんと全員目覚めてハッピーエンド、なのだが――

 

「黒子っ、佐天さんが倒れたって……! やっぱり幻想御手がらみなの……?」

 

「ええ、どうやらその線のようですの」

 

 みこっちゃんと白井の強張った顔を見ると罪悪感で胃がキリキリする。

 うう、幽霊だから胃薬も飲めねぇよ……。

 自分で言うのもなんだが、能天気なくせにこういう所を気にしちゃう辺りマジで小市民だと思うわ……。

 

(みこっちゃん早く助けてくれ……)

 

(……分かってる、佐天さんは必ず助ける……!)

 

 うう、合ってるけど、合ってるけどおおぉぉ……。

 何か佐天を心配してるみたいに取られて更に罪悪感で胃がキリキリ、オエッ……。

 アッ、出ちゃう、口からAIM拡散力場出ちゃううううぅぅぅ……!! ウプッ。

 

 

 

第五話 やめて! 僕に乱暴する気でしょう? エロ同人みたいに!

 

 

 

「幻想御手の患者達の脳波に共通するパターンが見つかったんだよ?」

 

 みこっちゃん達はこの病院の医者であるカエル顔のおっさんに呼び止められて、モニターに映された患者の脳波パターンを見ている。

 

 このカエル顔のおっさんは通称冥土帰し(ヘブンキャンセラー)って呼ばれる凄腕の医者だ。

 何が凄いって外科技術が神レベルなのは勿論、薬学や医療工学にも通じててそれらを駆使し、「患者を生きて連れてくれば(肉体の欠損や精神的なものも含めて)必ず治す」って有言実行しちゃう通り名に名前負けしない凄まじい人なのだ。

 しかも患者第一で、必要なものは何でも揃えるって言う聖人(さんじゅうはっさいに非ず)っぷり。なんだこの完璧超人。

 

 んでこのカエル顔のおじ様が言うには、幻想御手を使用した人間は脳波が無理矢理に正されて植物状態になってるって事らしい。そういやそんな設定だったな。

 その正された脳波に共通する部分が木山春生の脳波と一致した、と。

 

(ほれみろ、やっぱ脱ぎ女が犯人だったじゃ……オエッ)

 

(アンタ何でえづいてんのよ? でも、本当に木山先生がそんな……? 一体なんで?)

 

(そりゃこのカエル顔のおじ様が説明してくれるだろ)

 

「これは僕の予想なんだが、脳波によってネットワークを構築してるんじゃないかな?」

 

「脳波のネットワーク?」

 

「うん、そこで最強の発電能力者(エレクトロマスター)である君に質問したいんだが――」

 

 話をまとめると、幻想御手は能力のレベルをあげると言うよりも使用者達の脳をネットワークで複数並列演算器とする事を主眼にしたものだ。

 レベルが上がったように見えるのはネットワークで繋がった同系統能力者同士で無意識に協力しているようなもので、本来の意味で言えばこっちが副作用なのだ。

 まあどっちにしろ使用者は他人の脳波を強要され続けるから昏睡状態になるのは変わらないのだが。

 とまあ俺の脳みそだとこの解釈が限界だ。大外れはしてないと思うけど。

 つーか原作の知識あってコレとか俺の頭残念すぎて草生えるレベルだわ。

 

(うん? 今更だけど何でアンタだけネットワークに取り込まれてないのかしら? アンタの能力の特性?)

 

(さあ、俺に聞かれても?)

 

 まあ幾つか予想は付くけど、結局はこの事件が解決してみないと分かんないしなぁ。

 

「お姉様!! ――木山春生の所行った初春に、連絡が付きませんの……」

 

「っ!?」

 

 さて、出番だぜみこっちゃん(ヒーロー)

 

 

 

 

 

 

 

 通報を受けた警備員が(警備員(アンチスキル)ってルビ振らないとなんか格好良くないなぁ)黒幕の居城に踏み込むも、既に木山と初春の姿は居ないとの事。

 んで痺れを切らしたみこっちゃんがついに出陣を決意。

 もちろん職務意識が高くお姉様LOVE(こっちのが比重大きそう)が自分が出ると言うが、連日の無理な捜査でたまった疲労を見抜かれた上に「こんな時くらい 『お姉様』に頼んなさい」と超絶イケメン顔で殺し文句を吐かれて撃沈。

 ……こういう事するから白井がとち狂うんじゃないのかねぇ。

 

(この無自覚誑しめ)

 

(また意味のわかんない事を……)

 

 そんな何時も通りのノリでみこっちゃんの緊張をほぐしつつ(←ここ重要)タクシーを拾って現場に急行したのだが――、

 

「警備員が……全滅?」

 

 到着したら既に警備員の隊員や車両やらがあちこち倒れて死屍累々、道路もボッコボコになってるし良くコレで死者が出なかったってレベルだわ。……誰も死んでないよな?

 しっかしこれでも大能力者(レベル4)までの能力しか取り込んで無いってんだから幻想御手恐るべしだな。

 

お、木山の車っぽいのに乗ってるのは……?

 

(みこっちゃん、あの車。道路脇にある青いスポーツカー)

 

(っ! あれはっ!)

 

「初春さんっ、しっかりして!!」

 

「――安心していい、戦闘の余波を受けて気絶しているだけだ。命に別状は無い」

 

「っ」

 

 出たな残念美人(ラスボス)

 

「御坂美琴、学園都市に七人しか居ない超能力者(レベル5)か。私のネットワークには超能力者は含まれていないが――」

 

 おお、そういや能力使用時は木山は目が文字通り真っ赤になるんだったな。

 残念美人に中二属性まで備えるとかやるじゃねーか……だがな!

 

「君に一万の脳を統べる私を止められるかな?」

 

(その程度で俺達に敵うと思うなよ! いけみこっちゃん、10億ボルトだ!!)

 

(頼むからちょっとは空気読んで……)

 

 

 

 

 

 戦いは一進一退、と言うよりも終始木山のペースで進んだ。

 みこっちゃんは最強の発電能力者として様々な応用力で対抗するも、幻想御手を通じて凄まじい種類の能力を同時に使う木山の「多才能力(マルチスキル)」による手数に終始押されっぱなしだった。

 もちろん全力でやれば木山の防御を突破して一瞬で片が付くんだろうけど、そんな事したら殺しちゃうしな。んだもんだから

 

「つーかまーえたー♪」

 

「なっ……バカな! 直撃したはず……っ!」

 

 お約束だけどやられた振りして至近距離から電撃を直接流し込んでジ・エンド。

 さて、これからが本番(・・)だな。

 

「っ!?」

 

(なに、これ。アンタ私に何か……? いや、これは――木山春美の記憶?)

 

 木山とみこっちゃんの間に電気的な回路が繋がったみたいだな。

 多分今みこっちゃんは木山の凄惨な過去を見てるはずだ。

 確か、手塩に掛けた教え子達を自分が主導した安全なはずの実験で、上司の木原幻正ってクソ爺が細工をして昏睡状態に陥らせたんだったな。

 ほんと胸糞悪い爺だ、とある世界で死んで欲しいキャラ投票したらベスト3は堅いだろうな。

 

 それで教え子を恢復させるために樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)って今後20年以上先まで世界最高だと言われる超々スパコンの使用申請をしても悉く却下。

 だから幻想御手の使用者で作られたネットワークを並列演算器の代わりにして恢復方法を探ろうとしたのが今回の発端なわけだ。

 

「がふっ、げほっ、がはっ!! ――観られた、のか……!?」

 

「なんで、あんな事を……」

 

 木山の教え子をモルモットにしたあの実験は学園都市に星の数ほどある悲劇の一つに過ぎない。

 それがどういう事かと言えば、この街の中枢である統括理事会がグルだって事だ。警察組織なんか動くわけがない。

 胸糞悪すぎて草一本すら生えないわ。

 

「だからって、それじゃアンタも「君に何が分かるっ!!」っ!?」

 

「あんな悲劇は二度と繰り返させない、そのためなら私は何だってする!! 

 

 

 

 

 

 この街の全て(・ ・ ・ ・ ・ ・)を敵に回しても止まる訳には行かないんだああぁぁっ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 っ! くそ、熱いじゃねぇか木山先生(・・)。この流れを知ってる俺ですら気圧されたぜ。

 けどな――

 

「ぎっ!? あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!?」

 

 時間切れだ。

 

 

 

 

 

 

 木山先生が悲鳴を上げて倒れると、頭部から白っぽい半透明の胎児みたいなのが何かに搾り出されるように飛び出した。

 頭の上には所々途切れてるけど輪っかが浮かんでるし、これで翼があれば天使に見えなくも無かったな。きもいけど。

 

「なに、アレ……」

 

(アンタ、あれ何だか分かる……?)

 

(まあ、状況的にみて真のラスボスだろうな。さあもう一踏ん張りだ)

 

(ったく、気楽に言ってくれちゃって!)

 

「キィィィィヤアアアァァアアァァァアアァアアア!!」

 

「っぐ!?」

 

 ぐえっ、何だコレ。霊体なのに体の芯まで響くような……。って

 

(みこっちゃん、下がれ!!)

 

「っ!!」

 

 あぶねぇ、無差別爆撃してきやがったぞ。木山みたいに自重して無い分性質が悪いな。

 お、みこっちゃんの反撃で体が二割ぐらい吹っ飛んだな。でも幻想御手を解除しないと無限再生するからなアレ。

 

「な、なんなのよアレ!!」

 

(再生してるな)

 

(みりゃ分かるわよ!!)

 

 はて、どうするべきか。正直俺が助言出来る事って無いんだよな。

 幻想御手が解除されるまでどうにも――ん?

 

(kg苦s、w羨khg前htrswr、wktfr取m込rt)

 

(な、なに? アンタ何言って……?)

 

(ち、違う。俺じゃない、これは――)

 

 ――苦しい、ずるいお前だけ、こっち取り込む――

 

 へ? あれ、何で俺アイツの喋ってる事が分かるんだ? え、え?

 

「キィィィィヤアアアァァアアァァァアアァアアア!!」

 

 ひいいぃぃ!? 俺の方に触手伸ばしてきたああぁぁ!?

 

(みこっちゃんヘルプ、ヘループ!!? 俺アイツに狙われてるううううぅぅぅぅ!!?)

 

(ええっ!?)

 

 いやあああぁぁぁ!!? 触手プレイはやめてえええぇぇぇ!!!! エロ同人みたいなのはいやあああぁぁぁ!!!!

 

(神様美琴様警備員様あああああぁぁぁぁぁ!!)

 

(ちょ、落ち着け! 静かに――)

 

「そこの一般人、離れなさい!!」

 

「え?」

 

 おお、警備員様の生き残りだ! た、助けてくれーー!!

 ……よし、警備員の銃撃に気を取られて向こうに意識が行ってるな。

 

(ふいー、何とか貞操の危機は去ったか……)

 

「あ」

 

(ん、どした?)

 

(あっちで初春さんと木山先生が……)

 

(ふむ、行かないのか? また人質に取られるかもしれないぞ)

 

(この状況でそれは無いでしょ。それに、あの様子なら大丈夫そうだし……)

 

(……だな)

 

 遠めに見ても初春の説得で木山先生の顔から憑き物が落ちたのが分かるな。やるじゃん初春。

 さて、後は初春がワクチンソフトを警備員の隊車に届けるまで時間を稼げばいいんだが――、

 

「警備員がっ!」

 

 早くも生き残りが全滅しそうになってるって事は、みこっちゃんがアレの相手をしなきゃいけないわけで。

 そうすると俺も必然的に矢面に立たされるわけでして……。

 

(しかもアレでかくなってますね。みこっちゃん頼む、アイツを俺に指一本触れさせないようにしてくれ!!)

 

 あ、みこっちゃんの肩がガクッって落ちた。

 

(アンタねぇ……、力抜けるから情け無い事言わないでよ……)

 

(うるさい、貞操の危機なんだ!! 俺の尻の穴が狙われてるんだよ!!)

 

(尻の穴とか言うな!!)

 

 うおっ、みこっちゃん磁力使って全速で!?

 ま、待って、まだ心の準備がああアァァァ!!?

 

 

 

 

 その後、みこっちゃんは幻想猛獣(AIMバースト)(木山先生の頭から出てきた奴の事ね)を何とか引き付けてたんだけど、一瞬の隙に俺は奴の触手に捕まってええええぇぇぇぇ!!?

 予想はしてたけどなんでコイツ俺の事掴めるのおおおぉぉぉ!!!??

 

(ひぃ!? いやあああぁぁぁ、みこっちゃん助けってえええぇぇっ!!!!)

 

(情けない声出すな!!)

 

 みこっちゃんが放った電撃で触手がはじけ――おおおお、再生しなくなったぞ!

 初春が無事幻想御手のアンインストールをしてくれたみたいだな、ありがとう初春!!

 でも俺の貞操はあげないからな。

 

「チャンスッ!!」

 

 再生力の無くなった幻想猛獣に止めの電撃が――ありゃ、誘電力場みたいなので防がれてんな。

 でも、それぐらいじゃみこっちゃんの全力は受け止められないぜ?

 

「ちっ! なら――これでどうよっ!!」

 

 今度こそみこっちゃんの全力の電撃が、うおっまぶしっ!!

 うーん、眩しくて見づらいけど電撃は届いて無さそうだな。けど熱は防ぎきれてなくて丸焦げになってら。

 不味そうだけど意外とああいうゲテモノって美味いらしいな、俺は食わんけど。

 でもそんな普通なら切り分けられて皿に盛られる状態になってるのにまだ生きてるなアイツ。

 

「このっ、いい加減やられなさいよ!」

 

「あれはAIM拡散力場の塊だ、体表にダメージを与えても本質には影響しない!!」

 

「っ、アンタは!」

 

 お、木山先生復活してるな。ささ、みこっちゃんに攻略法をご教授願います。

 

「さっき私と戦った時は全力ではなかったんだな。やれやれ、敵に気を使われるとはね」

 

「……もう敵対する気はないんでしょ? ならあんなやり方じゃなきゃ私も協力する。でも教え子が恢復してもアンタが居なくなったら、その子達どんな顔すると思うの?」

 

「――っ!? フッ、まったく君は……。力場の塊を自立させてる核があるはずだ、それを狙え!!」

 

「それはどこに!?」

 

「わからん!!」

 

 うおい! ここまで来てそれかよ!! 

 うーん、俺は核の場所何となく分かる(多分、俺とアイツの取り込んでるこの世界の俺とが繋がってるからだと思う)けど、みこっちゃんもそろそろ限界臭いからダラダラ核の場所探ってる暇は無さそうなんだよな。まあ俺を守りながらだったから余計に消耗したんだろうけど……。

 

 ――はぁ、しゃあないか。俺のせいだもんな。

 

(みこっちゃん、みこっちゃん。多分だけど俺、アイツの核の場所分かるわ)

 

(っ、どこ!?)

 

(かなり小さいから口だと説明しづらいんだよな。みこっちゃん俺がどこに居るかは分かるよな?)

 

 尋問とか説教する時なぜか俺に焦点合ってたからな、感覚で俺の居る位置が分かってるはずだ。

 

(わかるけど――アンタまさか!?)

 

(ぎりぎりアイツの核の所まで俺の意識体飛ばせると思う。ま、アイツの中に入ったら多分すぐ取り込まれちゃうけどな)

 

(でも、それじゃアンタが!!)

 

(大丈夫、みこっちゃんがちゃんとアイツを倒してくれればすぐ解放されるさ。ま、体のほうに帰っちゃうと思うけど。――それじゃあなみこっちゃん、今まで結構楽しかったぜ)

 

(…………起きたら、ぶっ飛ばしてやるわ。覚悟しときなさい)

 

(ははっ、お手柔らかになー)

 

 そう言って俺は幻想猛獣の体内に突っ込んだ。

 チラッと見たみこっちゃんの顔は少し泣きそうだったな。フッ、俺も罪な男だぜ。

 

 無痛で体を溶かされるような感覚と共に予想通り薄れていく俺の意識が最後に感じたのは、全身を貫く圧倒的な力だった。さすがだな、みこっちゃん。

 

 

 

 こうして幻想御手事件における一人と一霊の奇妙な生活は終わった。




作者的に幻想御手編で好きなシーンベスト3は

・幻想御手使っちゃって自暴自棄な佐天に初春が「そんな悲しいこと言わないで」って顔グシャグシャにして泣くシーン

・木山先生が「この街のすべてを敵に回しても――」って啖呵を切るシーン。

・ラストで美琴が超電磁砲でとどめさす時「こんなとこで苦しんでないで――」って優しい顔で言うシーン

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