とある男の憑依体験   作:minesama

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2.みこっちゃんと上条さん

 みこっちゃんと一緒に居て改めて思った事は常盤台中学まじぱねぇっすって事だ。

 いや、先端且つ多岐に渡る教育とか純粋培養のお嬢様達とかは情報としては知っていたんだが現実で見るとほんとすごい(小並感)

 恥ずかしい事に完全におのぼりさん状態で質問しまくりな俺にみこっちゃんが呆れていたがそこは勘弁して欲しい。

 心理掌握(メンタルアウト)食蜂操祈(しょくほうみさき)の派閥がぞろぞろ歩いていた時なんか「生大名行列きたわー!」となんとも時代錯誤な光景にテンションあがってしまった。

 もちろんみこっちゃんは大名行列見て眉をしかめてたから、さすがの俺も騒ぐのは心の中だけにしてたけどね。その程度の空気は読める。

 

 とまあそんなステレオタイプなお嬢様学校でみこっちゃんは若干浮いた存在である。

 素行がお嬢様らしくないからはぶられてるのでは無く、超能力者(レベル5)にして常盤台のエースだからちょっとお近づきになりにくいと勝手に思われているのだ。

 例外はルームメイトの白井黒子(しらいくろこ)ぐらいだろう、俺から見ても実に良い後輩だ。変態なのが玉に瑕だが。

 

(まあそんな友達の少ないみこっちゃんの話し相手になってるんだから、俺の事敬っても良いんだぜ?)

 

(……はん)

 

(鼻で笑われた!? ぐぬれ、やはりあの男以外は眼中に無いと言うのか……!)

 

(んなっ! あ、あの馬鹿は関係ないでしょ!?)

 

(んー? 俺はあの男としか言ってないんだけど、誰の事想像したのかにゃー?)

 

(っ、こんのー……)

 

(みこっちゃん可愛いのう、ぬふふふふふ)

 

(だからみこっちゃんって……あーもう良いわよ、勝手に言ってろ!)

 

(な、んだと……? ついに、ついにみこっちゃんがデレた! やったぜきゃっほー、今日は赤飯だよ母さん!!)

 

(うがああああぁぁぁぁ!!!!)

 

 あらあら、そんな頭抱えて天を仰いじゃって。

 みこっちゃんからかうと可愛ゆすなぁ……。

 

 

 

第二話 みこっちゃんと上条さん

 

 

 

 最近友達の友達から友達にクラスチェンジした(と思う)初春飾利(ういはるかざり)と茶をしばきつつ愚痴ったり。

 その初春が白井に風紀委員(ジャッジメント)の仕事で拉致られた際に忘れてった腕章のせいで風紀委員だと勘違いされたり。

 んでしこたま仕事を強制され濡れ濡れのグチョグチョ(水に濡れただけ)なりつつも、幼女の落し物を確保したり。

 その幼女にお礼を言われて照れてるのを俺が更にからかったり。

 

(うむ、今日も充実した一日であったな)

 

(アンタ見てただけでしょうが……)

 

(いやいや、みこっちゃんの照れ顔見れただけでもわたしゃ満足ですよ)

 

(……忘れろ)

 

 悔しそうに顔を赤くするみこっちゃん。ほんと表情がころころ変わる子だ。

 忘れても良いけどみこっちゃん、同じ場面になったらどうせまた同じ反応すると思うんだけどな。

 

(それにしても子供達の相手してたら大分遅くなったな。門限過ぎてるんじゃね?)

 

(あー、ほんとだ。どうせだからコンビニで立ち読みでもしてくわ)

 

(平常運転だなぁ)

 

 うん? そう言えば今日はまだ何かイベントがあったような。

 

「ぎゃーー! 今度はカードが飲み込まれて出てこないーー!!」

 

 おお、この声は!

 

「不幸だぁーッ!!」

 

 上条さんの生「不幸だー!」キマシタワー!

 

「……久しぶりね」

 

「ゲッ、ビリビリ中学生」

 

 ああそっか、今日は決闘の日か。

 

 

 

 

 

 

 

 んで何だかんだで河川敷で決闘する事に。

 

 しっかし幾ら自分を特別扱いしない相手が嬉しいからって決闘はねーだろ決闘はとは思うけど、これもみこっちゃんの数少ない楽しみ(自覚は無いだろうが)だからなぁ。

 なんとも激しい親愛の表現だこと。……親愛の表現だよな? なんか不安になってきた。

 まあ上条さんには悪いと思うがこれもみこっちゃんの為だ、年上の男として大人しく付き合ってやってくれ。

 つーか俺が説得できるわけないしな、辞めさせたかったら寮監呼んできてくれ。あの人なら一発だ。

 

「いつでもいいぜ、かかってきな」

 

 言ってるセリフはカッコイイけど早く帰りてぇって雰囲気がありありと出てるな。

 みこっちゃんはそれを余裕の態度って脳内変換してるっぽいが。

 ……うーむ、やっぱ一応止める努力はしてあげるか。

 

(なあみこっちゃん、やっぱ止めた帰ろうぜ? もう真っ暗だしさ)

 

「言われなくてもこっちはずっとこの時を――」

 

 聞いちゃいねぇ。

 こうなったらせめて原作通りにちゃんと最後まで進んでくれれば良いんだが……。

 大丈夫だとは思うけどちょっと不安になってきた。まあ今更止めようは無いけど。

 

(せめてお互い大怪我とかはしないようにな。そんな事になったらおじさん泣いちゃうから)

 

 多分聞いてないだろうけどな。

 

「――待ってたんだから!」

 

 気合一発、みこっちゃんの前髪から電撃がぶっ放される。まあ案の定と言うか上条さんはあっさり右手で防いでた。

 ……うん、無理。俺には電撃の通った軌跡しか見えなかった。あんなん右手だけで防ぐとかどんなだよ。

 

 んで電撃が効かないのは織り込み済みだったのか、次にみこっちゃんが取った手段は高速振動する砂鉄の剣。

 あれ漫画見てた時思ったけど、生身の人間に向ける武器じゃねーよな……。万が一右手以外に当たったらスプラッタですよ?

 多分上条さんの幻想殺しが右手だけなのを知らないんだろうなぁ。

 

「触れるとちょーっと血が出るかもね!」

 

 と言って切りかかるみこっちゃん。

 いえ、どうみてもちょっとじゃ済みませんから。

 なんかこの子の将来がすごく心配になってきた。

 

 まあ何だかんだ言って上条さん全部避けてるんだよね。

 みこっちゃんは剣術の心得とか無さそうだけど、それでも完全に見切ってるってどうなのよ。

 しかもその後完全に虚を付いた剣を伸ばした攻撃を完全に右手で防いでるし。何なの、阿含なの? 神速のインパルスなの? 明らかに人間の反応速度越えてますよね?

 生で見て思ったけど、もうどっちが人外なのか良くわからんレベルだわ。

 

「しょ、勝負あったみたいだな」

 

「さあ、それはどうかしら?」

 

 散らされた砂鉄を目くらましに使って上条さんの手を掴んで直に電撃を送り込もうとするみこっちゃん。

 だけどそっちは右手だ。

 

(残念、それじゃダメなんだよなー)

 

「えっ?」

 

 っとやばっ! 声に出ちまった!

 

 ……でもみこっちゃんは上条さんの手に電撃が流れない事に焦ってそれどころじゃ無いようだ。

 危ない危ない、原作通りちゃんと上条さんの右手掴んでくれて安心したらつい声に出ちまった。

 俺のせいで微妙に未来が変わってここで左手を掴んだりしたら殺人事件発生になってたからな。

 みこっちゃんが殺人犯になるのも嫌だけどそれ以上に上条さんが居ないと色々解決しない事件が山盛りだからな。

 だったら決闘を止めろって? 上条さん目にしてからみこっちゃん俺の事ガン無視、つーか上条さんに意識行き過ぎて俺の声が聞こえてないんだよ。どうにもならんわ。

 

 そして直の電撃も効かなくて打つ手なしで呆然とするみこっちゃん。

 んで反撃する振りして上条さんが左手上げただけであからさまに怯えてるし。

 普段気の強い子が涙目になってるのは破壊力高すぎだろ。

 

「…………はーー」

 

 ほら、上条さんだってそう思ったから殴る気失せてため息ついてるぜ?

 まあ今まであれだけ酷い攻撃してきた奴が手を振り上げただけで涙目になってりゃそりゃ呆れるか。

 

「ギャー!! マ……マイリマシター」

 

 でもその幼児も騙せ無さそうなやられた振りはダメだと思うわ。まあ、どの道俺の声は届かないだろうし――

 

「ふ・けざんなぁぁぁ!!」

 

 もう手遅れだ。

 そしてこの後第一話の冒頭に至るわけだ。……ダイイチワってなんだ?

 

 

 

 

 

 

 ぶち切れたみこっちゃんと逃げる上条さんの追いかけっこが始まってはや数時間。

 もう日付はとっくに変わってるのに飽きもせずよくやるわ。ほっとけば朝までやるんだろうけど、俺の方はいい加減飽きた。

 

(なあみこっちゃん、もういい加減帰ろうぜ? 明日に差し障りがでるぞ)

 

(…………)

 

(なあみこっちゃんてば)

 

(うる……さい! アイツに、一発かます……まで待って、なさい、よ!)

 

(さっきもそう言って、もうどれぐらい時間たったと思ってるんだよ……)

 

(後少し……よ!!)

 

 心の声ですら息も絶え絶えの癖に良く頑張るわ。

 

(これが愛の力か)

 

(違うわい!!)

 

 おお、フラフラなのにこの突っ込みだけは力強いな。さすが近代ツンデレの鑑。

 

 しかしいい加減に帰ったほうが良いだろ。――ふむ、今ならみこっちゃんの意識も疲れてるしアレ(・ ・)が出来そうだな。

 

(っ、アン……なにを……)

 

(悪いなみこっちゃん、少し眠っててくれ)

 

 そう言って俺はみこっちゃんの体に入り込み(・・・・・・)、徐々に体の支配権を奪っていく。所謂憑依って奴だ。

 今みたいに疲れきってる時なら強引に憑依出きる。

 普段もみこっちゃんの同意を得られれば多分出切ると思うけど、普通に考えて体を乗っ取られるなんて嫌だろうから多分同意は得られないだろうな。

 まあやましい気持ちは幽霊になったおかげで湧かないから安心しろ。悪戯心はあるけどな、けけけ。

 

「いたっ!」

 

 走りながらの憑依したもんだから、憑依してる最中に転んじまった。

 ――うむ、特に怪我はしてないようだな。体乗っ取って勝手に怪我したとか笑えんから。

 まあ元々わざと転ぶつもりだったから手間が省けたとも言う。

 

「っ、おい、大丈夫か?」

 

 計算通りお人好しの上条さんがこっちに近づいてくる。あ、でもちょっと警戒してるな。

 

「足、くじいちゃった……」

 

「……はああぁぁ、何やってんだよもう。ったくしょうがねぇな」

 

 若干元気の無いツンツン頭をわしゃわしゃとした後、「ほら」と言ってこっちに背中を向けてしゃがむ。

 

「え? で、でも私さっきまでアンタを……」

 

「何らしく無いこと言ってんだよ。それに上条さんは怪我した女の子を放って置くほど冷たい人間じゃありませんよ?」

 

 うむ、おっとこ前やのう上条さん。さっきまで散々あなたに迷惑掛けてた子に対してこの優しさ、俺が女だったらジュンってなってまうわ。

 ……あ、今みこっちゃんの体だったか……大丈夫、だよな?

 

「ほれ、早くしろって」

 

 おっと待たせるのも悪いな、さっさとおぶってもらおう。

 だが俺には男と密着する趣味は無いので、体勢を整えたらチェーンジ。

 

(ほれ、起きろみこっちゃん)

 

「……ふぇ? ………………な、なん、なななな何してっっっ!!!!」

 

 目が覚めて状況を把握したとたんジタバタ暴れだすみこっちゃん。

 予想通りだな。

 

「うおっ、こら暴れんな! 足怪我してんだろテメエ!」

 

「え、あ、足?」

 

 とりあえず話は聞いてくれるようで、みこっちゃんは暴れるのを止めてくれた。

 

(ああ、転んだ時に足挫いた見たいでな。動かないほうが良いぞ)

 

(は、はぁ!?)

 

(まあ大人しくしてれば痛く無さそうだし、黙っておぶわれてろ)

 

 熟れた林檎みたいに顔真っ赤にして口をパクパクしてるな。

 可愛い奴め。

 

「あー、上条さんにおぶわれるのは嫌だろうけど怪我人なんだからおと「い、嫌とは言ってないでしょ!!!!」……さいですか」

 

 おお、ちょっとだけデレた。なんかさっきより顔赤くなってるけど、そんなに顔に血が集中しても大丈夫なんだろうか。血管破裂するんじゃねーの??

 その後何度か思い出したように口を開こうとするも、結局何にも喋らないで顔真っ赤にして俯くみこっちゃん。

 うーむ、ちょっと助け舟を出すか。

 

(みこっちゃんやい)

 

(……あによ)

 

(怪我したみこっちゃんを背負ってくれてるんだから礼ぐらいは言ったらどうだい?)

 

(な、なんで私がそんな事……)

 

(しないならこれから毎回トイレについてくぞ)

 

(は、はああぁぁぁ!? 意味わかんないんだけど!?)

 

(いやだったらさっさとお礼を言いなさい)

 

(~~っ! 分かったわよ!!)

 

 やっとその気になってくれたか。中々素直になれない世話の焼ける奴だ。

 まあそこがみこっちゃんの可愛いところなんだけどな。

 

「……ねぇ」

 

「どした?」

 

「ごめん……あと、ありがと」

 

「はは、ビリビリ中学生からそんな言葉が出てくるなんてな」

 

「~~っ!! 茶化すんじゃないわよ! あと私の名前は御坂美琴! いい加減覚えなさいよ」

 

「んー、名前で呼べば御坂さんは勝負するのやめていただけるんでしょうか?」

 

「……ぁ」

 

「どーなんだよそこんとこ」

 

「……それとこれとは別よ」

 

「さいですか、とほほ」

 

 その後も二人はたわいも無い会話をし続けて常盤台寮に向かってく。うーん、青春すなぁ。

 勿論俺は空気を読んでみこっちゃんには一切話しかけてない。

 つーか見てるほうがニヤニヤ出来て面白い。みこっちゃん可愛いいよみこっちゃん。

 

 

 

 あ、後で怪我が嘘だってのと憑依した事がばれて、みこっちゃんにしこたま怒られた。

 チッ、反省してまーす。

 


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