新学期の朝、みこっちゃんは通学路を学校に向かって俯き加減で物凄い勢いで走る、顔を真っ赤にして。
いつも通り俺が上条さん関連でからかった結果だ。
しかし半ば以上俺のせいとは言え前を見ずに走るのはいかがなモンだろうか。
いやまあ、一応前に人が居るとちゃんと進路を変えてはいるか。体から出る電磁波とかで無意識に人がいるのを認識してるのかな。
「おっすー御坂、お前も今から登校か」
と今しがた追い抜いた男子学生、噂の上条さん(前を見てなかったからみこっちゃんは誰だか気づいてなかったっぽい)に声を掛けられたみこっちゃんはビクッと体を大きく震わせて立ち止まり、身を守るように鞄を抱きかかえ上条さんの方に振り返り睨みつける。
「……オイ、なんだその不審者を見たような顔は」
と顔をヒクつかせつつ一歩近づく上条さん。
「…………」
無言で後ずさるみこっちゃん。
「…………」
近づく上条さん、後ずさるみこっちゃん。
「……ヲイ」
「なによ……」
「何で後ろに下がるんだよ」
「身の危険を感じるからよ」
「あの、もしかして昨日の事まだ怒っておられるんでせうか……? あ、それとも偽海原の言ってたプレイの事か?」
「それは忘れろ!! そうじゃなくてアンタ自身が危険だって言ってるのよこの変態!!」
ぶっ! と吹きだした上条さんは慌てて辺りを見回したが、彼にしては幸いにして周囲には誰も居ない。
まあ女子中学生、しかも常盤台の子に変態なんて言われてる所見られたら即通報モノだからな。
「おまっ、誰も居ないから良いようなものを往来でなんつー事を!! ……は、はん、仮にそうだとしても年下の中坊に欲情するようなロリコンじゃありませんのことよ」
と鼻で笑った上条さんをみこっちゃんは睨みつける。
お前は女として見るに値しない、って言われたようなもんだからな。
「……………………くせに」
「あん?」
「私の匂い、嗅いだくせに……」
みことは こごえることばを はきだした!
かみじょうは ぴしりと おとをたててこおりついた!
「あ、が……な、んでその事を……」
「……やっぱり本当だったのね」
嵌められた!? とショックを受けて上条さんはあたふたと慌てだす。
「あの、ええとですね? そ、その件についてはで「ロリコン」へぼぁっ!?」
「変態、スケベ、女誑し、ロリコン、匂いフェチ」
みこっちゃんが罵倒の言葉を一言ずつ発する度にダメージでも受けたように呻き声を上げる上条さん。
実際精神的ダメージは甚大だろうな。まあ諦めて
「い、言わせておけば……。ってか、元はと言えばてめぇがファミレスで俺に密着してきたからじゃねーか!!」
「な、なな何で私がアンタにくっつかなきゃなんないのよ!? どうせアンタの方からスケベな事しようとしたんでしょうが!!」
「まだ言うか!? 大体お前が――」
「いーや、アンタが――」
ギャーギャーワーワー、しばし二人は割とレベルの低い舌戦を繰り広げていた。
もちろん俺の存在は忘れられてます。
最終話.○○系ヒロイン
「――で、こんな真昼間から何くんずほぐれつやってんのよアンタは……!」
「む、また短髪なの? とうま、これはどういう事なの?」
「いえ、あの……不幸だ」
今現在俺達がいるのは地下街(たくさんのデパ地下を繋げたようなところ、超広い)にいる。
少し前にシェリー=クロムウェル(だったっけ? 美人でも大人っぽい女にあんまり興味はない)って金髪ゴスロリの魔術師が学園都市のゲートに攻撃を仕掛け侵入。
侵入者と白井が交戦したときに白井が返り討ちに遭い掛けていたので、知り合いが居なくても着いて行きそうな感じだったが。
んで首尾良く上条さんを発見したのは良いんだがインちゃんに押し倒された状態で発見され、現在上条さんを挟んで女の戦いが勃発してる。
「あ、あの。止めた方が良いんじゃ……」
それを見て止めたかったんだろうが勇気が出なかったんだろう、オロオロしていた巨乳眼鏡サイドテールと中々要素を詰め込んだ気の弱そうな少女、
こうやって頼られるのは悪い気はしない。
つーか白井は黒いオーラ出しながら笑顔で修羅場を見てるし。なんで俺の周りには怖い人間ばっかなんだよ。
……あれ?
【そこの眼鏡さんや、俺の事視えるの?】
「え? あ、はい。視えてますけど?」
と首を傾げる風斬。
うん、声も聞こえてるし完全に俺の事視えてるな、焦点合ってるもん。
……しかし、変だな。なんだかみょーに風斬の事が気になる。
俺はもうちょっとロリっぽいのが好みなはずなんだが、風斬に吸い寄せられるって言うか目が離せない。
「だああぁぁ! 今はそんな話してる場合じゃ――あれ、風斬どうしたんだ?」
「え? あの、この人が……」
今まで痴話喧嘩をしてた3人が揃って目を丸くしてこっちを見る。
まあそりゃ驚くわな。
「あ、あんたもしかして……」
「ひょうかその人が視えてるの?」
「え、えっと?」
「一体何の話ですの?」
急に訳も分からず視線を集めて風斬は落ち着かないのかそわそわし出す。
同じく事情を知らない白井の方は半眼で訝しげにこちらの方を見てる。
(ねえ、やっぱりこの人)
(うん、俺の事視えてるっぽい)
この子AIM拡散力場の集合体だったしな。俺の本体? の能力も入ってそうだし視えてもおかしくないか。
つーか俺もみこっちゃん居なかったら風斬と同じような境遇だったんだろうな。
そこに居るのに誰からも認識されないって。
超能力の塊に意識が芽生えたのと、意識体に超能力が芽生えたって成り立ちの違いがあるけど本質的には似てそうだし、なんかシンパシー感じるな。
やったねめいちゃん、話し相手が増えるよ!
っといかんいかん、これはヤバイフラグだった。
(うーん、アンタの事が黒子にばれたら面倒な事になりそうなのよね……)
(なんだよなー)
別にやましい事は何も無いんだが、みこっちゃんの言う通り憑り付いてる事がばれたらうらやまけしからんと白井に呪い殺されかねん。
「そうだ、せっかく視えるんだし風斬と友達になれるんじゃねーか?」
「むむ、ひょうかの一番の友達は私なんだよ。二番目なら認めてあげなくも無いかも」
「あ、あはは……」
「だから一体何の話ですの……」
風斬と、友達になる。
それを想像しただけで、無いはずの心臓が飛び跳ねた気がした。
□□□
「意識体を飛ばす能力者、ですの?」
「そ、怪我してて病院から動けなくて暇だから能力使って飛び回ってるんだってさ」
と言う即興の設定を作った。
バカ正直にみこっちゃんに憑りついてるなんて言ったら痛くない腹を色々探られて面倒な事になりそうだし。
「ふーん、私はてっきり短髪に憑り付いてるんだと思ってたんだよ」
そういう鋭い意見はやめて下さいマジで。
「その状態でお話できるのが今まではお姉様だけでした、と。――事情は分かりましたが、ま・さ・か、その能力でお姉様に不埒な事をなさってはいませんわよね?」
「あ、それなら大丈夫よ。起きてる時はコイツがどの辺にいるか大体分かるし、仮になんかしたらお仕置きする方法も最近編み出したしね」
(えっ、そうなの?)
(当たり前でしょ、私がアンタのせいでどんだけ迷惑こうむってると思ってんのよ)
……ちょっと、みこっちゃんをからかうのは控えようかなーなんて。
さすが超能力者っすね、ははは……。
「まあ姿が見えない以上わたくしがどうこう出来る問題ではないのですが。まったく、そこの殿方と言いお姉様はどうしてこう変な男に纏わりつかれるんでしょうか……」
「なんで上条さんは何もしてないのにこんなボロクソに言われてるんでしょうか……」
「それは日頃の行いのせいかも」
「それに関しては同意するわ。あ、風斬さんソイツから離れた方が良いわよ」
「おまっ、まだあの事根に持って――って違う! ちょと待て風斬、何で無言で俺から距離取ってへぶっ!?」
おお、見事なドロップキック。パンツ丸見えになってるけどな。
でもせっかくロリなんだからそんな大人っぽい下着はつけないでもっとらしいのをつけた方が良いと思うんだよね、うん。
例えば赤いリボンのついた白のry
「こ、こ、この類人猿がああぁぁっ!! わたくしの許可無くお姉様に手を出してんじゃねーですのおおおぉぉぉ!!!!」
「なんでアンタの許可が必要なのよ!! ってか手なんか出されて無いわよ!! ちょっと匂いを嗅がれただ――あ……」
「な、ん……お、お姉様の生匂いを嗅いだ!? 既にそんな高等プレイをする仲になっていましたの!?」
「ば、ちがっ!! ってかアンタもプレイとか言うなっ!!」
「とぉうぅまぁぁああ」
「ま、待てインデックス、上条さんは昨日お前からこの件で噛み付き攻撃を「短髪が気づいたらあの程度じゃ済ませないって言ったはずなんだよ!!」そんな理不じふぎゃああああああ!!?」
自爆して真っ赤になるみこっちゃん、ショックを受けて白目で錯乱する白井、インちゃんに理不尽なお仕置きを受ける上条さん。
うん、カオスだ。
「え、ええと……いつもこんな感じなんですか?」
【いつもって訳じゃ無いけど、お、おおお?】
「どうかしました?」
【な、なんでこんな、ち近い、んだ?】
風斬がいつの間にか俺のすぐ傍に寄り添うように立っていた。
それだけで舌が上手く回らない。無いはずの心臓が早鐘を打って落ち着かない。
「え……あ! え、ええっとあの! こ、これは何て言うかその、ええと無意識で!! で、でも何だかあなたの傍に居るとその……み、満たされるというか、その……」
彼女は俺の傍にいると満たされるという、初対面にもかかわらず。
俺は、彼女から眼が離せないでいた。
きっと肉体があれば俺の顔色はいつもと違っただろうし、不必要に汗もかいていただろう。今すぐこの場から逃げ出したいとも思っている。
ちくしょう、なんだってんだよ……。
――いや、俺はこの感情がなんだか分かってる。
今までの人生で散々感じた事のある感情だ
「あの、迷惑ですよ、ね?」
そう言いつつも彼女は俺から離れようとしない。
気の弱そうな彼女には考えられない事だ。
それに対して俺は何も言わない、言えない。
彼女から目が離せない。喉がからからに渇いた錯覚さえ感じる。
彼女も俺から視線を外さない、どころかその視線が熱を帯びているようにさえ見える。
気がつくと騒がしかった周囲がいつの間にか静かになっている。
俺達の異変に気づいたのか、だったら助けて欲しい。
でないと俺は、俺は――
「――――」
風斬が一言呟き、もう意識があるのか無いのか分からないぐらいの眼をして俺の顔に手を伸ばす。
いけない、と思う。ここから今すぐ逃げろと俺の中のナニカが叫ぶ。
けれど体が動かない、視線が外せない、声も出せない。
ぐるぐるぐるぐる思考だけが空回りする。
1秒か、10秒か、はたまたもっと時間が経ったのかわからない。
風斬の手が、俺の頬に触れる。
その手の感触を感じる間もなく、触れられた俺の頬にえも言えぬ感覚が襲う。
これはそう、あれだ――
【す、吸っちゃらめええぇぇ……】
「ほぅ……」
恍惚な表情で俺から何か吸い上げてる風斬さん。
うん、あれだ。これ献血行って血を抜かれてる時の感覚に近いわ……ふぅ。
風斬さん、俺に手を伸ばす前に「いただきます」って言ってたし、間違いなく俺が食料系オリ主、風斬さん捕食系ヒロイン。間違っても恋は芽生えないな、うん。
風斬に見つめられた時から怖くて動けなかったし、完全に捕食される側だから仕方ない……ふぅ。まあどうでもいいか。
あ、何か吸い取られて逆に少し冷静に成れてたけどもう意識が――アッ。
「ひょうか、何だかお肌がツヤツヤになってるんだよ」
俺が今日最後に聞いたのは風斬さんの美容に役立ったというありがたい情報だった。
□□□
結論から言うと風斬は実体を保ったままで居られた。
俺から吸い上げたナニかが風斬の実体化に役立っていたようだ(吸い上げられた俺は丸一日意識を失っていた)。
ただまあ、それがずっともつ訳じゃないので――
「こ、こんにちわ。あの、すいません今日も……お願いします」
「こんにちわなんだよ短髪とめいすけ」
こうやって定期的に俺からエネルギーを吸い取りに来るようになりまして……。
「お、来たわね。さ、ちゃっちゃと吸い取っちゃって。いやーコイツ吸い取られた日は大人しいから私も助かるわ」
あっはっはと笑うみこっちゃん。
(オイコラ、吸われるのは俺なんだぞ)
(別にいいじゃない、珍しくアンタが人の役に立てるんだし。それにほら――)
今日は何して遊ぼっか、と満面の笑みを浮かべるインちゃんとそれを優しく見つめる風斬。
この光景見たらそりゃ嫌なんて言えないしなぁ。
「はいはい、じゃれてないで」
「あ。す、すいません! ……ええとそれじゃ」
【ほいほい】
お互い人差し指を付き合わせる。
こうやって接触面積を少なくしないと風斬は我慢が効かなくなるらしい。
最初の時みたいなのは俺もごめんだ……ふぅ。
あーだるい、何か賢者タイムの凄い版みたいな……まあどうでもいいや。
「あの、大丈夫ですか?」
【んー? あー、大丈夫】
「ありがとなんだよめいすけ! ひょうかひょうか、早く遊びにいこ! あ、短髪も暇なら着いて来るの許してあげなくも無いかも」
「はぁ……アンタはどうせ私にご飯たかりたいだけでしょうが」
「そうとも言う」
「ちょっとは取り繕うとかしないんかいアンタは!?」
「あ、もしもしとうま? うん、終わったからこれから遊びに行くんだよ」
「聞けよ!!」
「あ、あはは……」
「あ、とうまも来る? うんうん、分かったんだよ」
「……アイツも来るの?」
「うん、だから短髪は帰って良いかも」
「よーし喧嘩売ってんのねアンタ」
「あの方と遊びに行くと聞きまして、とミサカは唐突に現れてみます」
「あ、くーるーびゅーてぃーなんだよ」
「アンタいつの間に来たの!?」
ぎゃーぎゃーわーわーやかましいな……まあどうでもいいか。
あー……、今日も学園都市は平和だなぁ……ふぅ。
べたな展開で申し訳ねぇ……。
ああそれと、主人公と風斬さんはくっついたりしないんで安心?してください。
さて、前回投稿から間が空いてしまいました、すみません。書くことは決まってるのに書けない病を発病してしまったもので。
そしてこれからちょっと暇がなくなります。書けない病も全く治癒してないのでここらで打ち切りとさせていただきます。今回は本当です。
それでは短い間でしたがご愛読ありがとうございました。
逃避エネルギーを発生させてここに戻ってこない事を祈っていてください。
ではでは。