十分に注意してお読みください。
明日、実験が再開される。その事実がみこっちゃんを凍りつかせるのには十分な力を持っていた。
無理も無い。必死な思いで研究施設を潰してまわり、ようやく実験を中止に追い込めた矢先にこれだ。
「あ、もしかしてまだ中止になった話を聞いてないとか――」
「いえ、ミサカのメンテナンス担当者から今朝入手したばかりの情報です、とミサカは答えます」
はっとしてみこっちゃんは携帯を慌てて取り出すと電話を掛け始めた。相手は――カエル顔のおじ様か。
9982号の妹ちゃんの事を確認するんだろう。けど、返ってきたのは予想通り妹ちゃんは病院を発ったと言う言葉。
つまりもう実験は再開の準備に入っているという事を改めて証明された訳だ。
「なお、既に9982号から10032号が研修を行っています、とミサカは補足説明します」
通話を終えて呆然としているみこっちゃんに追撃。
うーむ、この子に悪気は無いんだろうけどみこっちゃんの精神力をザックザック抉り取ってるよ。
おや、何か草むらのほうからガサガサと音が。
「ニー」
おや、子猫様じゃないですか。
む、出てきて早々顔をゴシゴシとはなんてあざとい生物なんだ。可愛いから許すけど。
「お姉様、コネコが」
「…………」
「お姉様?」
あらら、こりゃ完全に固まっちゃってんな。しょうがねーなぁ。
(みこっちゃん、みこっちゃんやーい。……みこっちゃああああああああぁぁぁぁん!!!!)
「ぴゃっ!?」
やれやれようやく我に返ったか。
思念波って遮るものがないから叫ぶと頭に響くんだよね。
(ーーっつぅ! あ、頭に響くでしょうがっ!!)
(妹ちゃん、何か言ってるぞ)
(え?)
「お姉様、どうかなさいましたか?」
「え、あ……。な、何?」
「コネコです」
「……ああ」
「ミサカが発見したんですよとミサカは自分の功績をドヤ顔でアピールします」
「……そう」
「……この淡白な反応、お姉様と9982号は一緒にコネコとじゃれたはずですが、とミサカは9982号の数々の特別扱いを思い出し嫉妬します。アイスクリーム、ハンバーガー……」
「えっ!? ご、ごめん、そんなつもりじゃ!! ……わ、わー可愛いなー」
うわぁ、学園都市製の洗剤もびっくりな驚きの白々しさだな。これは酷い。
「やれやれ気を使うならもうちょっと上手くやれよ、とミサカはお姉様の棒読み加減に嘆息します」
「うるさいわね!」
とまあ何だかんだと言いつつ猫と戯れる二人、微笑ましいのう。
結局姉妹にしか見えないって訳よ。
「ねぇ、アンタ達は本当に……自分が実験で死んじゃっても良いって思ってるの?」
「それがミサカ達の存在意義ですので」
「でも、でもっ! 死んじゃったらもう、こうやって一緒には過ごせないのよ?」
「……お姉様は、ミサカ達に何か思うところがあるのでしょうか?」
「当たり前でしょ! アンタは、アンタ達は私の――!!」
「お姉様?」
不思議そうに見つめる妹ちゃんに、結局何でも無いと告げるみこっちゃん。
妹だって言いたいんだろうけど、まだ葛藤してるみたいだなぁ。この意地っ張りめ。
「……聞き忘れてたけど、アンタ何番」
「9983号です」
「そ。それじゃ私用事思い出したから行くわね」
「はい、さようならお姉様」
「うん」
またね、と言い残しその場を後にする。その言葉には多分実験を今度こそ完全に潰すって決意が込められてるんだと思う。
大丈夫、何とかなる筈だよ。
第四話 残酷な結末
何故、関連施設が全て消滅したにもかかわらず計画は中止にならないのか?
理由は単純、計画を別の施設に引継ぎしたからだ。みこっちゃんのハッキングで分かったその数実に――
「ひゃく、はちじゅうさん? 何、この数……」
みこっちゃんは20件強の施設を潰すのに4日掛かっていたので、単純計算でも引継ぎ施設を全て潰すのに一ヶ月以上掛かる。また、実際にには遠隔操作で破壊した施設もあるので必要な時間は更に膨れ上がる。
まあどちらにせよ、猶予は明日の実験再開時刻――これもみこっちゃんのハッキングによって20時30分と判明した――までなので圧倒的に時間が足りない事に変わりは無い。
今度こそ実験を潰す、と決意したみこっちゃんの心を揺さぶるには十分すぎる事実だ。
「こんなの、企業に出来るレベルじゃ――はは、そう言う事か……」
学園都市は常に複数の人工衛星や監視カメラで街中を監視している。
だから屋外で非人道的な実験が繰り返されてるのに気づかない筈が無いのだ。
(学園都市そのものが、敵なのね)
(そう言う事、なんだろうな)
(アンタは、この事知ってたの? アンタも私も敵なの?)
(いやいやいや、おはようからおやすみまでみこっちゃんを愛でてる俺が敵な訳無いでしょうが。Yes ミコト No タッチ)
(……まあ、実験を続けさせたいならあの時あの子を追いかけろなんてわざわざ言わない、か)
さすがみこっちゃん華麗なスルーですね。まあこれ以上追求されない為のアホな発言なので計算通りな訳だが。
嘘だけど。
(……何か思い出したら、お願い)
(りょーかい)
とは言うものの、何か口出しできるものでもないし。妹ちゃん助ける為に口出しした時は危ない所だったしな。
うむ、俺はもう口出ししないほうがいいだろう。つーか基本いつも勢いで何にも考えてないから何口出せばいいのか分からん。
大人しくしてるのが吉だな。
□□□
日が開けて翌日、実験再開される日。学校からの帰り道。
実験を中止に追い込むための時間が足りない、その為にみこっちゃんが取ろうとした手段は
結局の所、
まあ攻めるといっても衛星軌道上にある物を破壊するのでは無く、そこにハッキングを仕掛け機能を掌握し絶対能力進化計画について偽の予言を吐き出させるのが目的だ。
そして稼いだ時間で今度こそ関連施設を全て潰す。
ちなみに昨日の夜からはさすがの俺もふざけていない。
樹形図の設計者を落とすって事は実験の関連施設を襲撃するのとは訳が違う、これをやれば学園都市も黙っては無い。
さすがのみこっちゃんも大分思い悩んでたからな。俺に対してまで巻き込んでごめん、何て言い出したらいくら先の事を知ってるからってふざけてられんわ。
「おっすー、そっちも補習か?」
「ああ、アンタか」
先の事、それは今みこっちゃんに声を掛けてきた上条さんが何とかしてくれるって事だ。
自分で言ってて情けないとは思うけど、まあこればっかりはね。
「今日は妹は一緒じゃないのか? ジュースを運んでもらったから礼だけしときたいんだけど」
そう、上条さんは妹ちゃんと会った事を切っ掛けに事件に関わるんだよな。
この後妹ちゃんが殺された現場を…………あ、れ? 妹ちゃんは、20時半まで実験は……あれ? あれ?
「なんだ、アンタまたあの子と会ったの」
あれ? あれ? 妹ちゃんは誰も死なないんだよな、今日の20時半まで。
あれ? じゃあ上条さんはどうやって核心に? あれ? あれ? おかしいな、俺は妹ちゃんを助けただけで。あれ?
「ああ、まあな。そういやさ――」
まずい、まずいまずいまずいまずいまずい。
なんで、なんでだ。
妹ちゃんを助けたのが不味かったってのか?
「へーあの子がねぇ。っと、私この後用事があるのよ。そろそろ行くわ」
「ん、そっか。またな」
ダメだこのまま行っちゃ!
(みこっちゃん!!!!)
「ぐっ!? っつぅーーー!!」
(だ、だから急に大声だすなっての!!)
そんな事気にしてる場合じゃない。
今ここでみこっちゃんに助けを求めさせなきゃ大変な事になる。
(上条さんに助けを求めるんだ!!)
(……はぁ? 何言ってんのアンタ?)
(上条さんに頼んで一方通行を倒してもらうんだよ!)
(……何を言い出すかと思えば。昨日の夜から大人しいと思えばそんな事考えてたの?)
(何でもいいから上条さんに早く!)
(あのね、これは私の問題なの。そりゃあ、あの馬鹿が私よりまあ……強いのは認めるけど。だからって一方通行相手に戦ってくれって? そんな図々しい事言えるわけ無いでしょ)
(そんな事言ってる場合じゃ――)
(アンタ、私にアイツに死ねって言わせたいの?)
(お、俺はそんなつもりは……)
(一方通行と戦えって言うのは、そういう事よ)
(で、でも!)
(いい、もうこの話はしない)
(みこっちゃん!!)
その後、何度俺が言ってもみこっちゃんは上条さんに助けを求めることには頑として首を縦に振らなかった。
そして樹形図の設計者へのハッキングは、対象が数日前に衛星軌道上で撃墜されていて実行すら出来ず。
樹形図の設計者が存在しない、それにも関わらず実験は中止されないと言う事実だけが残った。
□□□
結局、今日の成果と言えば通り道に在った関連施設を一つ潰しただけだ。その程度で実験は止まらない。
そして、実験を止めてくれる
いやまだだ、まだ時間はある。
(なあみこっちゃん、今からでも上条さんに……)
(……ちょっと電話掛けるから静かにしてて)
そう言ってみこっちゃんはゲコ太の携帯を取り出し、アドレス帳を呼び出す。
相手は――布束砥信、ギョロ目さんか。
『何か用かしら?』
「ちょっと借りを返してもらおうと思ってね」
『why あなたそういうタイプに見えなかったけど』
「いいでしょ別に。返事はハイ? それともイエス?」
『well 選択の余地が無いなら聞かないで欲しいわね。それで?』
「アンタ、この間言ってたわよね。あの子達の事、作り物だと思えなくなったって。人間らしいって思ったって」
『話が見えないわ』
「アンタには、あの子達の事を頼みたいの」
『……私に出来る事なんて高が知れてるわ』
「出来る範囲で構わないわ」
『well あなたはどうするの?」
「さあねぇ、どうしよっか……とりあえず実験でもに直接ちょっかいかけてやろうかしら、はは」
『実験に直接……あなた死ぬつもりなの?』
やっぱりそうなのか、みこっちゃん……!
『―――ッ!』
ん、電話口からギョロ目さん以外の声が聞こえる?
うーん、聞いた事あるような無いような……。
『ちょっとうるさ『――――どう―――だ!』落ち着きなさいっ『おごっ!?』』
……何か、硬いもので人を殴る音が聞こえたな。
「えっと、どうしたの……?」
『静かなるようにしただけよ』
「そ、そう」
『all right あなたがどうしようと私には止める術は無いわ、好きにしなさい。妹達の事は――私もまだ足掻いてみるわ』
「恩に着るわ」
『私が借りを返すだけなんでしょう?』
「ふふ、そうだったわね。それじゃ、そろそろ」
『ええ、せいぜい私にあの子達を全部押し付けないようにね』
「はいはい」
□□□
ギョロ目さんとみこっちゃんの通話が終わってからしばらくの間、みこっちゃんと俺の間に会話は無かった。一方的に俺が上条さんに助けを求めるべきだと続けただけだ。
みこっちゃんは今、多分今夜再開される実験場へ向かっている。
ギョロ目さんとの通話で妹ちゃん達を頼んだ事、実験にちょっかいを掛けるって言ってた事。
みこっちゃんは、やっぱり死ぬつもりなんだろうか……。
(みこっちゃん、本当に死ぬ気なのか……?)
(はぁ、そんな訳無いでしょうが……)
(そうなのか? 本当に?)
(……そりゃ、考えた事はあるわよ。私が生贄になって樹形図の設計者の演算がおかしいって科学者に思わせようとかさ。でもアンタのせいでそれも出来ないわ)
(俺のせい?)
(ええ、私が死んだら肉体の無いアンタがどうなるかなんてわかんないでしょ? 最悪アンタと心中なんて事になったら溜まんないわ。ほんっと、アンタは迷惑しか掛けないんだから)
やれやれねと言ってみこっちゃんは首をすくめる。
一応、死のうとは思ってないならそれはそれで良い。
自分より他人の命を心配する辺り本当にお人好しが過ぎると思うけど。
(じゃあ何で、実験場に向かってるんだ? どの道止められないってのに)
(分かんないわよそんなの……。どうしたら良いのかなんて、分かんないわよ……)
項垂れるみこっちゃんになんて声を掛けるべきか分からない。
いつもいつも、行き当たりばったりで生きてきたから、上手い言葉なんて……。
……なら、今回も行き当たりばったりやるしかない、か。
(……妹ちゃん、さらっちまおうか。そうすりゃとりあえずは死なないだろ)
(……馬鹿な事言うんじゃないわよ。あの子達、一体何人居ると思ってんのよ)
(でも、時間稼ぎにはなるだろ? その間に計画を中止に追い込む方法が見つかるかもしれないし。それにさ――)
いつぞやの様に肉体出そうと意識を集中する。
程なくぼんやりとしたまさに幽霊って感じの像が浮かび上がる。
(ほら、こうやって俺の能力も成長してるわけだし、いつか一方通行に対抗出来るレベルになるかもしれないし?)
(それって何時になるのよ……)
まったく、と言って溜息をつかれてしまった。
でも心なしか、さっきよりもみこっちゃんの顔から険が取れてる見える。
(まあ諦めるには早いって事ね。私ももう少し足掻いてみる、か)
少しだけみこっちゃんは元気を出してくれたみたいだ。
そんでこうやって少しでも時間を稼げば何かの切っ掛けで上条さんが「何やってんだよお前」って、え?
か、上条さんキターーーーーー!!!!?
え、本物!? やばいテンションあがる!!
さっきまでシリアスだったのが嘘みたいに!!
とにかくやった、メインヒーロー来た! これで勝つる!!
「……な、何よいきなり。何してようが私の「布束って人に全部聞いた」っ!?」
おお、ギョロ目さんが話してくれたのか。
もしかして電話中にギョロ目さんの側にいた人って上条さん?
とになくグッジョブ! 俺のテンションMAXで顔もニタァってにやけるもんだぜ!
「お前には色々言いたい事がある。けどその前に――」
うっ、何かもの凄い視線を上条さんに向けられた……。
この世界の人間はみんな眼力強くて参るなぁ……。しかも敵意が物凄い篭ってるし。
いやまあ、俺のせいで最悪の結末になりかけたから仕方ないけど。あれ、でもそれは上条さんには分かんないよね、なんで睨まれてるの俺?
しかしまあ助かったよ。俺が余計な事したばっかりにどうなる事かと……。
やっぱゲンサクガーとか言う考えは捨てたほうが良いな、今回の事で改めてこれが現実だって思い知ったよ、うん。
「――はぁ、インデックスからオカルトの話は散々聞かされてたけどまさか幽霊まで本当に居るなんてな。しかも、初めて見たのが悪霊ときたもんだ」
…………………………はい?
「……え? あ、いや、え? 悪霊? いや、コイツは――」
「おかしいと思ったんだよ、御坂みたいな奴が足掻こうともせず死を選ぼうとするなんて。大方お前が、御坂をそう仕向けたんだろ」
え? ……いやいやいや、別にみこっちゃん死のうとはしてませんから。
ってそうじゃなくて!! 俺は悪霊じゃ――
「いや私は別に死ぬつも「いいぜ、てめぇが御坂を道連れに出来ると思ってるなら――」いやだから」
ちょ、まっ、待って!
「そのふざけた幻想をぶち殺す!!!!」
俺がこの夜最後に見聞きしたのは視界に迫る上条さんの右手と何かが潰れるような湿った音だった。
ほんと酷い目にあった、もう二度と原作介入なんてするもんか……。
あ、実験は誰も死なずに無事中止に追い込めたそうです。
主人公はヒーローさんに敵認定されてそげぶされました。なんて酷い、残酷だ!
ぶっちゃけるとオチ以外はキングクリムゾンしたかったです。僕的にはオチ以外は全部蛇足。