薄暗い、と言うのが最初の印象だった。
だだっ広い空間にそこかしこに走るケーブルやらチューブ。
照明の代わりに置いてんのかと思うぐらいの数のモニターと計器類。
その空間の中央にドンッと置かれ、謎の液体で満たされたビーカーの中で逆さに浮かぶ一人の『人間』。
手術着みたいなのを着た長い銀髪の男……いや、女か? 俺の語彙ではその程度の説明しか出来ない訳の分からない人間が俺を見ている。
けど、俺はコイツを
……ア、アレイスター=クロウリぃ!?
な、なんで!? なんでこの世界の黒幕筆頭のお方が目の前に!?
「ふむ、どうやら気づいたようだな? それに自己紹介の必要は無さそうだ」
げぇっ!? この方わたくしが視えていらっさるの!?
「何、そう驚くことではない。一方通行ですら君を認識できていただろう?」
こ、声も聞こえていらっさるのですね。
つーか一方通行を「ですら」って……。やべぇ、知ってたけどもう笑うしかねぇや、ははは……。
って、そうだみこっちゃんは、みこっちゃんどこだ!?
「安心したまえ、超電磁砲なら手を出していない。アレにはまだやってもらう事があるからな」
そ、そうか、そりゃよかった。俺のせいでみこっちゃんまで死亡フラグが立ってたら死んでも死に切れん。いや、もう死んでるみたいなもんか? 二重の意味で。
「ふふ、君は愉快だな」
あ、お気に召していただけたようですね。じゃあ折角なんで僕を帰してもらえません?
「悪いがそれは出来ない、君には聞きたい事があるからな佐藤鳴介。――いや、単刀直入に聞こう。君は
だ、誰とおっしゃられてもわたくしは佐藤鳴介なのでして……。
「ふむ、簡単に喋る気は無いか。まあ良い、時間はたっぷりあるのだからな。さあ――」
じ っ く り 話 を し よ う じ ゃ な い か
(と言う夢を見たんだ)
(アンタ寝ないから夢なんか見ないでしょうが。てか統括理事長が水の中で逆さに浮かんでるとかどんな発想よ……)
相変わらず意味分かんない思考回路ねって呆れられてしまった。
いやまあ確かに夢じゃなくて俺の妄想だけど統括理事長が逆さまになってるのは本当だぞ。でもあの人なんで逆さまなんだろ、誰か普通の向きが良いですよって言ってあげないのかな?
それはともかく、結構派手に動いたのにアレイえもんからは何の音沙汰も無いな。アレイえもん的には許容範囲内の出来事なのかな?
まああの人も暇じゃないだろうし致命的な出来事が無ければ放って置いてくれるのかな? だと良いな。
(さて、俺のおかげでみこっちゃんの緊張もほぐれたようですし)
(はいはい、アンタのおかげでほぐれましたよ。さてと)
いつもは被ってないツバ付きの帽子を被り直すみこっちゃん。
今日はいつもの制服姿じゃなくて、黒地にハートのポイントが入った首もとの広めな半袖シャツにボトムは太ももを大胆に出したパンツ姿。うむ、後ろで髪を結んでうなじも見えてる。
鎖骨と太ももとうなじがエロい格好だなって言ったら顔真っ赤にして怒った後本気で服装の変更検討してた。結局動きやすい格好&時間が無いって事で妥協してたけど。
ふむ、やはりみこっちゃんを攻めるならエロネタ方面だな、純情過ぎて面白い。まああんまりやり過ぎてスレちゃわ無い様にしないとな。
「行くか」
呆れ顔を引き締めたみこっちゃんは今まで立っていたビルの屋上の淵から飛び降りる。実験を中止に追い込むために関連施設に直接乗り込むのだ。
残るは、あと2件。
第三話 アイテムは犠牲になったのだ……
絶対能力進化実験を中止に追い込む、その為にみこっちゃんが取った手段は単純明快、実験関連施設を物理的にぶっ潰す事だった。
具体的には能力でハッキングを仕掛け関連施設を洗い出し、回線越しに機材を根こそぎ破壊する。最強の発電能力者の面目躍如といったとこか。
そして相手側に気づかれて回線を遮断されたら今度は直接乗り込む。
ぶっちゃけテロ行為なわけなんだが俺的にはいいぞもっとやれって感じだ。
まあさすがにみこっちゃんと言えど負担が半端無いらしく、徐々に顔色を悪くしてやつれていってる。ほとんど飲み食いしてないからそれも当たり前なんだけどな。
やっぱり既に1万近い妹ちゃん達が殺されてるのが相当堪えてるみたいだな。
妹ちゃん達と言えば9982号以外のの妹ちゃん達に関しては、あの後とりあえず各々施設に帰ってもらう事になった。
もちろん一方通行が約束を守らず実験を続ける事を警戒してみこっちゃんと予定の実験場所に様子を見に行ったが、今の所実験は行われていないようだ。
まあ実験場所の情報がダミーの可能性もあるわけだが、それを言ったら仕方ないので実験は行われていないと信じるしかない。
9982号の妹ちゃんは体の調整の必要とかもある関係で、俺の勧めでカエル顔のおじ様に預かってもらう事になった。
おじ様は「うちは家出少女の預かり所じゃないんだけどね?」と苦笑しつつも預かってくれた。無理言ってすいません。
そこで妹ちゃんとみこっちゃんはと言うと、
「ミサカは実験動物なのですからこんな事をする必要はありませんのに、とミサカは強引なお姉様に少々辟易します」
「悪いけど実験は潰すから。アンタの言い分は聞いてやれない」
「やれやれまるで駄々っ子のようです、とミサカはお子様趣味のお姉様のお子様な行動に溜息をつきます」
「喧嘩売ってんのかコラ」
「そもそも何故お姉様はミサカが死ぬ事が許せないのでしょうか、とミサカはこの問題の根本的な疑問を訊ねます」
「それは、その……。べ、別にアンタに言う必要は無いわよそんな事!!」
仲良く姉妹喧嘩をしていた。
やれやれ、みこっちゃんも素直になって妹だから死んで欲しくないって言えばいいのにな。もうちょっと時間が必要なのかな。
□□□
俺達は今最後の2件の内の1件に侵入――
確かこのタイミングでアイテム戦、つーか第四位のビームおば……こほん、
最初は施設内には居なかったはずだから簡単な陽動をしときゃ最初あっちに向かうだろうし、気づかれても時間稼ぎが出来た間にこっちは撤退出来てるって寸法だ。
と言うことをみこっちゃんに少しぼかして伝えた。
(まあ、確かにそろそろ何らかのアクションがあってもおかしくは無いけど……アンタ何か知ってるの?)
(いや、単に念には念を入れてって奴だよ)
みこっちゃんに疑わしげな目で見られてしまった。
まあ『何故か』絶対能力進化実験について知ってたからな、疑われても仕方ないけど。
それでも突っ込んだ事を聞こうとしないみこっちゃんマジ男前。さらに好感度アップ、モテモテですね。
やったねみこっちゃん、バレンタインのチョコが増えるよ!
んで陽動が上手くいったおかげか何事も無く施設の機材を破壊完了、まあそれでもみこっちゃんに少なくない負担がかかってたけどな。
まだ余力のある(とはとても言えないフラフラな状態だが)みこっちゃんは今夜中に最後の一件に侵入すると言っている。
……あれ、これ結局アイテム戦回避出来ないじゃん。やべぇ、余計な事したか俺……。
(な、なあみこっちゃん、今日の所はこの辺りで……)
(……明日しか猶予は無いのよ。何としても今日中に片をつけるわ)
やっべー! 当たり前だけどやる気満々だよこの人!!
まずいまずい、どうし――ん、あれは……
「ちっ、アンタ達がここの
「あなたが噂の
「仲間? 何の事だか分からないわね」
「惚けても超無駄ですよ。このギョロ目さん、あなたが施設を破壊中になにやら超細工をしてましたようですし」
「……ギョロ目?」
おお、そうかギョロ目さんか。あの人妹達の感情プログラムに感情を入力しようとして侵入たんだっけ。
「やはりお仲間のようですね。助けたかったら――」
「悪いけど、その人が知り合いだろうかそうじゃなかろうが止まる訳には行かないのよ!」
と言ってみこっちゃんは最愛ちゃんに――ってそれ所か下っ端含めてギョロ目さんごと電撃をー!?
……あーあ、まとめてやったから最愛ちゃんに回避され無かったけどギョロ目さんもピクピクしてるぞ……。
(なあみこっちゃん、あの捕まってた白衣の人って布束砥信じゃねーの?)
(やっぱそうか。口振りからしてアイツらとは敵みたいだけど……)
ふむ、ちょうど良い。ギョロ目さんにはみこっちゃんのお荷物になってもらおう。
ギョロ目さんも助かるし、みこっちゃんもアイテムと戦わなくて済む。Win-Winの関係ですな。
(んー、みこっちゃんの仲間だって思われるぐらいだし、妹ちゃん達の実験が止まるような細工してたんじゃね?)
(でも、アイツがなんで……)
(さあ、良心の呵責でも感じたんじゃね? まあ俺達に利益のある行動したっぽいし助けてやったほうがいいんじゃね?)
(……仕方ないか)
はぁ、と溜息をつくみこっちゃん。疲労した身で無くても人一人運ぶのは重労働だろうけど頑張ってくれ。俺は頑張って応援する!
でもまあ何とかなりそうだな。
っと、早く帰らないと麦のん達がこっちに来ちまうな。
(みこっちゃん、増援が来る前に早く)
(簡単に言うな! こちとら余計な荷物があるってのに……)
文句言いたくなるのは分かるが我慢してくれ。つかみこっちゃんも見捨てる気は無いんだろうし。
そんな(主にみこっちゃんが)苦労しつつもなんとか麦のん達が来る前に無事施設からギョロ目さん(幸い途中で目を覚ました)と脱出する事が出来た。
あばよ、麦のぉ~ん!(CV:怪盗のお孫さん)
なお後日、ボコボコになった金髪の外人娘の隣でシャケ弁をやけ食いする女性がファミレスに居たと佐天経由で知る事になった。
フレンダは犠牲になったのだ……俺達が楽をする……その犠牲にな。
□□□
翌8月20日、一方通行との約束の
「やった、の……?」
みこっちゃんそれはやれてないフラグだ……。まあ実際やれてない訳なんだが。
(やったな、みこっちゃん)
(うん……うん! まだやらなきゃいけない事はあるけど、これでもう、あの子達は……!)
……涙を浮かべて喜ぶみこっちゃんの顔見ると胃がキリキリする。
原作知識なんかあるからこんなストレスが掛かるんだよな……。
でもまあ、そのおかげで少しは良い未来に向かってるはずだ、そう思いたい。
「あれーッ!? おっかしーなぁ」
っと、この声は上条さんじゃないですか。
ああ、例の自販機にお札を飲み込まれたところですね分かります。
「ちょろっとー、ボケッと突っ立ってんじゃないわよ。買わないならどくどく」
え? え? と呻く上条さんをよそにみこっちゃんはとても良い笑顔で上条さんを押しのける。
うむ、久しぶりの良い笑顔だ。さすが上条さん、俺が幾ら冗談言っても笑わないみこっちゃんを簡単に笑顔にさせるとは……。ぐふふ、愛されてますのう。
単に俺の冗談が詰まんないだけと言う説もあるが。
「えーと……誰だコイツ?」
あ、みこっちゃんからピキッて音が。
「わ・た・し・に・はああああぁぁぁぁ……御坂美琴って名前があるっつってんでしょうがァァッ!!」
おお、微塵も疲れを感じさせない艶のある電撃だな、上条さんバッチリ防いでるけど。
そういやインちゃんと無事会ったみたいだし上条さん記憶喪失なんだよな。それでもちゃんと電撃防げる上条さんマジ上条さん。
本人は反射的に防げた事に不思議がってるけど、体が覚えてるって奴なのかね。
「ったく、買わないなら突っ立ってるんじゃないわよ」
「あーその自販機な、金を呑むっぽいぞ」
知ってるわよ、と言ったみこっちゃんはトンットンッと軽く飛んで準備を整える。これは例のアレですね?
さあみなさん御一緒に、せーの
「ちぇいさー!!」
常盤台内伝の回し蹴りが自販機に吸い込まれズドンッといい音を響かせた。くうぅ、今日も短パンがまぶしいぜ!
□□□
所変わって自販機から結構離れたベンチで息も絶え絶えな上条さん。
みこっちゃんが呑まれた金額分を取り返してやるって自販機に電撃を浴びせるもんだから全力で走って逃げたせいだけどな。
戦利品の缶ジュース達を上条さんに渡しながらベンチに座るみこっちゃん。
しかし何で学園都市のジュースはこう時代を先取りしてるんだろうか。ホットのウィンナーソーセージコーヒーって一見普通っぽいけどコーヒーにソーセージーを浮かべた柄が書かれてるし……。
ジョーク的なモノじゃなくてガチだから学園都市製は怖い。
「ったく、アンタってば逃げ腰過ぎんのよ。この間だって人と会うとか言って、ん? この間? ……あぁーーっ!」
急に大声をあげて立ち上がるみこっちゃん。何だ、限定ゲコ太グッズでも買い逃したのか?
「アンタッ、この間私が課題手伝ってあげる約束したのに全っ然音沙汰ないじゃない!! どうなってんのよっ!!」
「えっ? か、課題?」
「私に頭下げてお願いしますって言ってたじゃない!」
おお、そういやそんな約束してたな。 ※幻想御手編第4話参照
つーかみこっちゃんも忙しくて忘れてたし、上条さんに至っては記憶喪失だからなぁ。
あ、上条さん「中学生に宿題手伝ってもらう俺って一体……」って凹んでら。
「まあ、私ももうしばらくは忙しいから……はい、携帯出して」
「携帯?」
「連絡先教えろって事よ、もう。暇になったら連絡するからさ、ほらっ!」
「わ、分かったから急かすなって!」
みことは かみじょうのれんらくさきを てにいれた!
□□□
「それではお姉様、くれぐれも過ちを犯しませんよう」
そう言うだけ言って、憤慨しているみこっちゃんを尻目に
うーむ、何故だか分からんが白井に謝りたくなるな。出番でも
「リアルで『お姉様』なんて呼び方する人本当に「お姉様」へ? また?」
振り返れば奴が居る、じゃなくて妹ちゃんが居た。
「え? お? 同じ……顔?」
上条さんはびっくりしてみこっちゃんと妹ちゃんを交互に見てるな。
「遺伝子レベルで同質ですから、とミサカは答えます」
「ああ双子なのね」
「アンタは……まあ何番かは後で聞くわ。何でここに居るの?」
「研修中なので」
「研修って? ……っ!!!!」
みこっちゃんの目が大きく開き強張った顔になる。
気づいちゃったか、みこっちゃん……。
「ちょっとこっちへ来なさい」
これから話すのは、実験に関する話だろう。実験は終わったはずじゃないのかって。
もちろんそんな事は上条さんの前では話せない。
だから強引に妹ちゃんの手を引っ張ってみこっちゃんは上条さんから離れようとする。
「私、ちょっとこの子と話があるから。それじゃ」
「あ、ああ。分かった……」
「ミサカにもスケジュールが「いいから、来なさい」」
みこっちゃんの表情からただならぬ物を読み取ったのか、上条さんは特に問いかける様な事はしてこなかった。
そして上条さんが視界に入らない位置まで来てから会話を再開させる。
「研修って、実験は……計画は中止されたんじゃないの!?」
「計画と言うのが『絶対能力進化』計画の事なら明日再開予定です、とミサカは答えます」
「そん……っ!」
実験は、終わらない。
補足説明
9982号が目の前で死んでないので美琴は正史より若干精神的な余裕があります。
その関係で一方通行と戦った翌朝に布束さんと話してませんが、美琴が研究所を襲撃してる噂を聞きつけて自身も研究所に潜入したという流れです。
結局、同じ流れってわけよ。
一人称だとこの辺りの流れが説明できない……。