1.トリップしたと思ったら……
「ちゃんと私の相手をしろーーーーっ!」
7月の夜、学園都市のどこかの河川敷。
「不幸だーっ!!」
が口癖である
普通に考えれば倍率1.0倍の鉄板レース、レベル0がレベル5に勝てるわけが無いのだが、大方の予想に反してレベル0の完封勝ちに終わった。
まあ俺だったらそんな右手持ってても初撃すら防げる自信ないけどな。上条さんマジ上条さんだわ。
「ま・て・や・こらあああぁぁぁ!!」
で、決着が着いたにも関わらずみこっちゃんは激昂して上条さんを追い掛け回してるわけだが、気持ちは分からんでもない。
一発も攻撃食らってないのに食らった振りして「マ、マイリマシター」なんてやられたらそりゃ腹も立つわ。
でもそれって君がビビッて涙目になったせいですからね?
(あー、御坂さんや? ちょっと深呼吸して冷静にだな? ……って聞いちゃいねぇ)
ダメだこりゃ。コイツ完全に頭に血が上ってやんの。
そういう訳ですまんな青年、俺の声は聞こえてないだろうが諦めてみこっちゃんが冷静になるか力尽きるまで頑張って逃げてくれ。
多分朝まで掛かると思うけどな!
「勘弁してえええぇぇぇ!!」
まったく、俺の
第一話 トリップしたと思ったら……
俺が
(な、なんだぁ?)
目を覚ました俺が見たのは一部分が凹んだ自販機とその前でキョロキョロと辺りを窺う茶色がかった髪の少女の後姿。
中学~高校生ぐらいか? それにしてもどこかで見たような……。
「だ、だれ?」
おお、この声にこの顔、この制服。昨日見てたアニメの主人公
(御坂美琴だ)
……なんだ夢か。確かにあのアニメは大好きだ、ラノベも漫画も全部見てるぐらいだからな。
昨日も超電磁砲Sの第7話見てから寝たからな、こんな夢見たって仕方ないさ。
しかしこれが明晰夢ってやつか、体がなんかふわふわして感覚がない不思議な感じだな。
「この、隠れてないで出て来なさい!」
うむ、みこっちゃんは絶賛お怒り中のようだ。言動から察するに誰か隠れて監視でもしてるのか?
とりあえず話しかけてみよう、と思ったがなんか上手くいかないな。夢だからか?
よし、ならば思念波(笑)だ。うおおお、目覚めよ俺の秘めたる力よ! 寝てるけどな。
(まあそうカッカしなさんなって)
お、なんか出来た気がする。
「っ! ……アンタがそれを言うか!!」
うお、なんかますますお怒りになられていらっしゃるな。
……あれ、もしかして俺のせいか?
(なあ、もしかして俺の事怒ってるの?)
「はぁ? ……馬鹿にしてんのか!! アンタ以外に誰が居るっての!!」
やべぇ、やっぱ俺のせいだった。うーむ、思念波?が漏れて俺の心の声が聞こえちゃってたんだろうか。
つーか俺は君の後ろに居るんですけどね、何で気付かないかな?
そう思って肩を叩いて気付かせようとして――――――ようやく気付いた。自分の体が透明だって事に。
OH……、どうもこの夢では俺は幽霊だったようだ。明晰夢の癖にままならんな。
まあ会話は出来るみたいだしこのままみこっちゃんと絡んでみよう。
(私、
俺の声に反応してバッと勢い良く振り返――うおっ眼力ぱねぇな、さすが主人公だ。
幽霊だから俺の事見えて無いはずなのに股間の辺りがヒュンってしたわ。
(すまんすまん怒らせるつもりは無かったんだ。あ、君には見えてないだろうけど今目の前に居るからね? どうも能力が暴走しちまって意識体だけがここに飛ばされちまってさ、途方に暮れてたんだよ)
と言う設定にしておこう。どうせ夢なんだしとある世界っぽくな。
能力名は「
「……そんな能力聞いたこと無いわね。アンタが遠くから私を監視して
まあそりゃそうだわな、原作でもそんな能力出て来た事無いし。
どうでもいいがマジでままならねぇ夢だな、反応がリアル過ぎるだろ。まあちゃんと会話のキャッチボールは出来そうだから良いんだけどさ。
「ふん、まあいいわ。どっちにしろアンタに構ってるほど暇じゃ無いの。じゃあね」
そう言ってみこっちゃんはスタスタと歩いていく。
え、いやこれでおしまい? 会話のキャッチボールは?
なんて事考えてたら体が引っ張られるのを感じた。みこっちゃんが歩いて行く方に。
(お、おおおおお?)
「っ、今度は何?」
そう言ってわざわざ足を止めて振り返ってくれる。面倒見良いな。
(いや、なんか君の方に引っ張られるんだけど……)
そう言ったらみこっちゃんは口の端をひくつかせて何か言おうとしたようだけど、呆れたのか大きくため息をついて結局歩き出した。
俺は「背後霊みたいだな」とのん気な事を考えつつ、ある一定距離を保って延々と引っ張られて行く事になった。
……その後幾ら時間が経っても覚めない夢に、これが夢じゃないと否が応でも気付かされる事になった。
結局いつまで経っても(一時これが現実だと思い知って呆然とした時はあったが)干渉する俺に業を煮やしたみこっちゃんがPDAを介し、ハッキングで
俺の事なんて載ってないだろと高をくくっていたのだが
「佐藤鳴介、
学園都市まじぱねぇな、俺の考えたカッコイイ能力名みたいなのが普通にあるとは……やっぱこれ夢なんじゃないのかね。
――いや、現実逃避しても仕方ねーな。俺はとある世界に幽霊になって来ちまったって現実を受け止めないと。
まあ背後霊として憑り付いたのがみこっちゃんで良かったわ。欲を言えば自由に動ける浮遊霊みたいのが良かったけど、
あいつ今頃
「……まあ、アンタがこの能力者だってのを信じるとして、それで?」
(それでって言われてもなぁ。君の傍に居るのを許してくれ、としか言えないし)
下手な口説き文句の様な言葉だが物理的に離れられないのだから仕方ない。
「はぁ……お風呂とか覗くんじゃないわよ?」
当然覗きますとも! と言う選択肢は俺の頭には無い。
中身は30近くて
多分睡眠欲も無いんだろうな、やっぱり幽霊で体が無いせいなんだろうか。
(勿論だ、でも良いのか?)
「だって、仕方ないじゃない」
良い奴だな、ムスッとした顔も凛々しいですぜお嬢さん。
まあ嫌がられたって離れられるわけじゃないんだが、明確に許しの言葉を口にしてくれた方が安心するのだ。
(それじゃ改めて。佐藤鳴介、よろしくな)
「御坂美琴よ、よろしく」
うむ、儀式みたいなもんだがこういうのは大事だな。
(そうそう、今更だけど俺と話すときイチイチ声に出してたら変な奴だって思われるぞ)
「そんな事言われたって、どうすりゃ良いのよ。イチイチ紙に文字でも書けっての?」
おそらく、思念波による会話は俺からだけじゃなくみこっちゃんかたも出来る筈だ。
理由は分からないが何となく
(たぶんみこっちゃんも念じるだけで俺と話せると思うぜ。頭の中で俺の方に意識を向けてみ、なんとなく分かると思うから)
「誰がみこっちゃんじゃい! ……ったく」
(んーと、こんな感じ?)
(お、聞こえてる聞こえる)
(……なんか妙な感じ)
(ま、一人言話す奴だって思われるより良いだろ)
こうして一人と一霊の奇妙な生活が始まった。
行き当たりばったりと言われる覚悟で続ける所存です(震え声)