遊真がいないだろ? はて、何のことでしょうか。
ま、まぁ。練習などで色々と試しているといった感じです。
A級隊員木虎藍は何の前触れもなく攻めて来た敵の一体、ラービットと対峙していた。
後ろには一般市民の避難を先導していたC級隊員が数名いる。
彼らは基本的に戦闘を許可されていないので、後ろにいられても邪魔なだけなのだが初めて見る敵を目視して足が竦んだのだろう。
一向に逃げる様子が見受けられない。
「(……早く倒さないといけないわね)」
初見のラービットが相手にも関わらず木虎は改造を施した短銃の銃口を向け、ワイヤーを射出させる。
スパイダーと呼ばれるトリガーは直接的な攻撃力はないが、指定した地面に着弾させて足場として活用させることも可能だ。
ラービットを囲む様にスパイダーを設置し、ラービットの周囲を飛び跳ねながら
一方的な展開に誰しもが木虎の勝利を疑って止まなかったであろう。だがしかし、木虎の攻撃に耐えていたラービットの後ろから更に二体のラービットが出現した事で形勢は逆転される。
「(こんなところに新型が二体も? ……なんで? なんでこんなところに)」
新型の出現報告は少なかった。木虎が知っている限りでは各方角に一体ずつしかいなかったはず。
それにも関わらず、この場に二体も出現した。普通に考えればこれは異常な事だ。
そもそもボーダーは敵の正体は愚か目的すら分かってはいなかった。
よく見るモールモッドやバムスター、バンダーは警戒区域から脱出する動きを見せるのにラービットだけは正隊員を狙っている節がある。
初めは捕獲用のバムスターなどの護衛役を担っていると思われていたが、それにしては護衛対象を無視しすぎている。
以上を持って、木虎が得た結論は一つだけ。
「(――まさかっ!?)」
「木虎さんっ!!」
新たに現れたラービットが設置したスパイダーを破壊したと同時に、中学校の友人達を護る為に戦いへ赴いていた雨取千佳が登場する。
千佳の呼びかけに木虎は思わず後方を振り向いたのがいけなかった。
目の前にいたラービットが木虎を捕まえるのだ。
「っ!?」
木虎を救出しようとアイビスを展開し、銃口を向ける。
けど射線上に木虎がいる為に中々引き金を絞る事が出来ずにいた。
彼女は人に銃弾を放つことが出来ない。
例えトリオン体で生身に傷が付かないと分かっていても体が言う事を利いてはくれないのだ。
「雨取さんっ! こいつらの目的は、目的はっ!!」
木虎のトリオン体に異変が起こる。
ラービットが胸部のパーツを露出させると木虎のトリオン体は人型の形状を保つことが出来ず、徐々に変形していく。
報告に合ったトリオン体を強制的に変化させる技法だ。
このままでは木虎がやられてしまう。
しかし、千佳は引き金を絞れない。
どうにか木虎を避けてラービットだけでも命中させようとスコープを覗くのだが、自身の狙撃が砲撃と呼ばれている事を知っている千佳は撃つに撃てなかった。
そんな時――。
――
風切り音が鳴ったと思った瞬間、木虎を捕まえていたラービットへ飛来する何かが現れた。
それは高速で回転していた為に目視で判別する事は出来なかったが、木虎を捉えていたラービットの両腕を切断し、彼女を解放させた。
間一髪トリオン体の形状を保ち続ける事が出来た木虎は直ぐにその場を離脱し、千佳の隣に立つ。
「木虎さん、大丈夫ですか」
「えぇ。大丈夫よ。それより今のは?」
「分かりません。いきなり飛んで来たかと思ったら――」
千佳は何かが飛び去った先へ視線を向けるとそれは大きく旋回して戻ってこようとしていた。
まるで意志を持っているかの様にその飛来物は更にラービットへ向けて突撃し、木虎が戦っていたラービットの両足を切裂いていく。
「……なに、あれ?」
「えっと、分かりません。敵ではないと思いますが」
謎の物体が目の前の強敵をあっさりと無力化していく光景に二人は唖然と見るしかなかった。
そんな二人に対して新たなラービットが襲い掛かろうとした時、進路を阻む様に割り込んできた一つの影が降り立つ。
『間に合ったようだな』
「そうだね。……レプリカ、分身して後ろの彼女達と情報交換を持ちかけて。僕は目の前の敵を蹴散らす」
『心得た』
地面に突き刺さったデュエリング・シールドを掴みとり、自身の元へ戻ってきたバックラーも装着し直して構える。
そんな修にラービット二体は容赦なく襲い掛かって行った。
「誰? あれ?」
戦闘に割り込んできた第三者に見覚えはなかった。
木虎は隣で唖然としながらアイビスを抱えている千佳に一応問うてみるが、彼女も首を振って「分かりません」と答える。
そんな二人に豆物程の小さな物体が近寄って来る。本体から分離した小型レプリカだ。
『初めまして、私の名はレプリカ。オサムの協力者だ』
「……トリオン兵?」
『その通りだ。この世界に侵入してきたアフトクラトル軍を追い掛けたらここへ来た。あなた方らに危害を加えるつもりはない』
「それを信じろと?」
『信頼を得る為に、いま侵入してきた敵の情報を提供しよう』
「……なんですって?」
予想外の言葉が飛び込んで来た事に木虎の表情が強張る。
先も言ったがボーダーは敵の正体を知るどころか、目的すら分かりかねていた。
自身の推論が正しければC級隊員の略奪が狙いだろうと思ってはいるが、敵国アフトクラトル軍とやらの詳細な情報は全く持って皆無である。
それを教えてくれると言うならば……。木虎はしばし考え込み、結論を付ける。
「いいわ。本部と繋げるから、あなたは私の質問に答えなさい。それでいいかしら?」
『理解が早くて感謝する』
***
木虎とレプリカがアフトクラトルについて情報を共有している間、雨取千佳は一人でラービットと対峙している少年――修に視線を向ける。
両腕に個性溢れた盾を装備している以外に武器らしい武器は見当たらない。
あれでどうやって戦えるのか、と不安に思いつつ見守っていると二体のラービットが同時に修へ向かって走り寄って、拳を振り下ろそうとしていた。
――
デュエリング・シールドを突き出して
内蔵された杭状の何かが地面を貫き固定させ、銀色の光がデュエリング・シールドを包んでいく。
ラービット二体の拳が盾に触れた瞬間に閃光が迸り、攻撃をしたはずのラービット二体の方が後方へ突き飛ばされたのであった。
――
その隙を突いて修は再びバックラーをラービットに向けて放る。
距離が延びるに連れて飛行速度も加速していき、先ほど木虎と千佳を助けたのと同じように風切り音を纏ってラービット一体の胴体を真っ二つに引き裂いていく。
「す、すごい」
木虎が倒しきれなかった敵を一瞬にして無力化した破壊力に慄く。千佳がアイビスでぶっ放せれば同じ結末にすることも不可能ではないが、あそこまであっさりと命中させて倒す事は今の自分では無理であろう。
バックラーが遠方へ流れていくのを好機と思ったのか、もう一体のラービットは再び修に向かって突撃する。
「
デュエリング・シールドを水平に――まるで殴り込む体勢になり――構え、修の指示に従ってデュエリング・シールドの端部から暴風が噴出す。
さながらジェットエンジンの様に風を輩出したデュエリング・シールドは修諸共ラービットに向かって突撃する。
一人と一体の拳が触れるまで間合いを詰めた両者は同時に拳を振り被って、渾身の一撃を叩き込む。
――
デュエリング・シールドがラービットの拳に触れた瞬間、
一連の行動をただ黙って見ていた千佳は目先の光景に言葉を失うしかなかった。
お気づきかもしれませんが、このBTもとある設定の使い回しです。
ほんと、使い回しばかりだな(苦笑