今回も例によって飯を食う回です。
食堂
長きにわたる戦いが一段落しサーヴァント全員に休暇を与えたその日、食堂の中央に大きな円卓(ダ・ヴィンチちゃん作)が置かれ、中央にはかつての爆発事件の際に発生した廃材をエジソンの手でホットプレートへと改造した物が置かれている。
「♪〜」
そして、ホットプレートの前で涎を垂らすブリテン親子の前で俺は銅鑼焼きもどき(ホットケーキで餡子を挟んだお菓子)を作っていた。こし餡とつぶ餡の2種類が入ったボウルが側に置き、挟む為のホットケーキをプレートで焼く。完成したホットケーキに餡子を乗せさらにホットケーキで挟む。
「ほい、出来上がり」
「父上が先に食えよ」
「では、遠慮無く───」
アルトリアは、つぶ餡を挟んだ銅鑼焼きもどきを美味しそうに食べる。甘さ控え目、しつこい甘さは舌がおかしくなるので気を付けなければならない。ホットケーキの甘味の味付けは蜂蜜で行っている。
「美味しいです」
「モードレッドの分だぞ。ほい」
「こし餡だ!サンキュ!」
ブリテン親子にはいつも絡んでいるからな。その分の労いはしなければならない。どんどん焼いてやろう。
「美味い!やるじゃねーかマスター!」
「ありがとう。さぁ…たんと食え!」
美味しい料理が食べられるというモチベーションの高さが人類定礎修復に貢献したと俺は解釈している。
「先輩!とても良い匂いが───!」
「王よ、円卓の皆が探してお──!」
来たな。盾親子。マシュとランスロットの組み合わせだ。特に前者は甘味目当てに来ただろ!
「銅鑼焼き…ですか?」
「正確にはもどきだ。カステラ生地で作る時間が勿体無くてな。ホットケーキで再現した。食うか?」
「食べます!」
「私は…円卓の皆を(チラッ)待たせております(チラッ)ので……」
“うめぇ〜!焼き方がちょうど良いんだよ!外をちょっとパリッてさせてさ!”
“それで中は柔らかい…アーチャーにも引けを取らない腕です”
“美味しいです!先輩!”
「(ガウェイン…トリスタン…ベディヴィエール…アグラヴェイン…許せ……!)私にも1つ!」
こうしてミイラ取りはミイラとなるのです…。
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「ふむ…ここから良い匂いがするな!」
ネロは上機嫌だった。久しぶりに借りたDVDが面白かった事・カラオケルームでエリザベート・バートリーと点数を競い合い勝利した事…とにかく、今の彼女は最高に良い調子であった。
そんな彼女は、良い匂いに釣られるように食堂に近づいていた。
“なるほど、これが噂に聞く極東のパンケーキ…!”
“関西風と広島焼きですね。本の中にもありました!”
“これなら野菜が沢山食えるな!”
“懐かしい味です…!”
「何を食べておるのだ?余にも食べさせるがよい!」
「おっ、ネロか。空いてるのでどうぞ」
マシュが隣の空席に座るよう促し、彼女もそれに従う。そして、彼女はホットプレートで焼かれた料理を見つけた。
「まさか、これはお好み焼きとやらか?」
「正解だ。2種類あるお好み焼きを一緒に作ったんだ。その為のデカいホットプレートだし」
アメリカらしく大きな物を、と設計図を携えて依頼した時のエジソンの笑顔は忘れられない。『アメリカらしい逸品を用意しよう』と言い、作られたホットプレートは見事な物だ。満遍なく火が通る!
「ほい、出来上がり!これはネロの分な〜」
「うむ、このようなジャンクフードも悪くないな!」
彼女向けにナイフとフォークを用意する。箸が使えないと嘆いていたのを覚えていたからだ。
「美味い!ソースと中身の旨味がたまらん!これは病み付きになる!」
美味しそうに食べるネロに負けずに俺は次々とお好み焼きを製作した。
「そら、モードレッド!アルトリア!マシュ!ランスロット!遠慮せず食え!」
そうして食わせている間に次の料理に手を付けた。自家製お好み焼きソースをホットプレートで焦がしたんだ。まだ湧いてくる…!!!
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「懐かしい匂いを嗅ぎ、何をやっているかと来てみれば…!」
「ここで会ったが100年目…いや、100年も経ってないがンなこたァどうでもいい!よくぞ来た!師匠!」
続いてやって来たのは、第5次聖杯戦争を戦いカルデアでも厨房を担当するサーヴァント「アーチャー」───エミヤだった。
「鉄板焼きと言えば関西、関西と言えば冬木!そして冬木の料理人と言えばエミヤ!お前も作るか?」
「マスター、食材は?」
「“たんまりと”」
「上出来だ。では私も参加するとしよう」
「さて、北海道出身北海道育ちの俺も負けられんな!」
「マスターの出身北海道かよ!?」
突然のカミングアウトに驚くモードレッド。まぁ、言う必要が無かったから黙っていたが、俺は北海道帯広市生まれの札幌育ちだ。食に五月蝿いのはあの北の大地で育ったからに他ならない。
「別にたらふく食わせてしまっても構わんのだろう?」
「その通り!」
俺は早速、次の食材を取り出した。
「二枚貝…?」
「出た───、北海道テンプレの焼きホタテ!」
アルトリアがその貝を見て何が出てくるか分かったようだ。
「勉強してるなアルトリア。じゃあ、見ててくれ」
養殖施設で育った物だが、いい貝柱が出来ているホタテだ。ナイフでサクサク切り開き、貝柱と殻を切り離す。そして殻の上に改めて貝柱を置いてホットプレートにセット。調味料はテンプレートに醤油とバター。
「美味そう…!」
「私も負けていられないな!」
エミヤが取り組むのは焼きそばだ。濃い目のソースを使い、満遍なく麺と絡める。出汁をサッと掛けたりするあたり彼なりのアレンジも利いてる。
“良い匂いだ…!”
“あっちからにおうよ!”
“食べに行きましょう!”
俺達の料理の匂いに釣られて次々とやって来る。円卓で納まり切らない事を察した俺は椅子を用意したり敷物を敷いた。宗教上の理由で食べられないハサン’sが来る事も予想していたので、彼ら用に別の食器や調理器具、小型のホットプレートを使いハラル認証された鉄板料理を振る舞う。そちらで作った焼きホタテは好評だった。
「マスター、食材を補給しに参ります」
「そういう事なら俺も行くぜ旦那!焼きそば美味かったぞ!赤いの!」
「ハサン、ロビン!すまない!助かる!」
気を利かせてくれたのか、呪腕のハサンとロビンフッドが食材を回収しに行ってくれた。本当に助かる!
「フォウ!」
「美味しいですか?」
理論上全サーヴァントが収容出来る食堂だが、そろそろ満員になりそうだ。
「次はお待ちかねのジンギスカンだ!」
「私は焼き餃子にしよう」
「オレも手伝うぜ!マスター!」
「助かる!モードレッド!」
「アーチャー、私も手伝いましょう」
「アルトリア、共に焼くぞ!」
調理係も増え、作業効率も上がる。
今回は野菜を一工夫して作ったジンギスカンのタレで下ごしらえしたラム肉を焼く。モヤシを敷き詰め、その上に肉を載せて蒸し焼きにするのが最近のテンプレらしいが俺は直接焼く派だ。野菜と肉を別々に焼き、野菜にはタレを掛ける。いや〜良い匂いだわぁ。
「ハサン達も食える餃子も用意したぞ!遠慮せず食え!」
「食材を持ってきたぜ!お、ジンギスカンか!」
「我らの気を遣っていただきありがとうございます!」
新たに下拵え係としてブーディカと玉藻も増援として参加してくれた。ホント助かる!
「いつかの人類悪との戦い以来か…」
これほどに多くのサーヴァント達が敵味方関係無く共に飯を食べる…これが真の意味での平和なのかもしれない。
「(いかんいかん、少し疲れてきたのかな…?)」
つい考え事をしてしまったが、今はそんな事関係無い。食べよう!作ろう!それが今まで戦ってきた戦士達への最高の労いだと思うから!!!
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夜……
満腹になり去る者、片付けを手伝ってくれる者、次の食材を食糧庫に保管してくれる者、再び養殖や牧畜・畑作を始める者などそれぞれに元の日常に戻り始めていた。祭りの終わりはいつも寂しいものだ。
「よし、出来た」
食堂で今日最後の料理を作った俺は、それを手に医務室へ向かった。
───医務室
「お疲れ、ナイチンゲール」
「貴方こそ、お疲れ様です」
医務室で現代医学の勉強をしていたナイチンゲールに声を掛けると俺は“誰かの机”に最後の料理を置いた。
「そう言えば、こいつだけ来てなかった気がするんだ。最後の料理はそいつの為に…」
「…………」
「多分、ここに居た奴はもう2度とここに座らないのかもしれない………薄々そう感じてる。だから、こいつは俺なりのケジメだ」
「そうね……いつかここに座っていた者の為に…」
俺とナイチンゲールはその机に黙祷を捧げた。
部屋の淡い電球に晒された“こし餡銅鑼焼きもどき”が優しく輝いた気がした………
この小説をロマンチックな彼に捧げる………なんて雰囲気だけど、この直後銅鑼焼きもどきはぐだ男とナイチンゲールが美味しく戴きました。