オリ主と衛宮士郎との友情ルート   作:コガイ

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True end epilogue 正義の味方と

 朝の日差しが窓から差し込み、俺のまぶたをくすぐらせる。

 眠気を残しながらも目を開けて、鳥のさえずり以外は聞こえない家の中で起床する。時間は……いつもより三十分早いか。

 かつて、毎日挨拶を交わしていた彼女はおらず、家に住むのは俺のみだ。

 

「……朝飯作るか。」

 

 まずは空腹を満たすために朝食を作ってしまうか。

 そう思い、ベッドから出て二階の自室から一階へと降り、キッチンへ向かう。

 

「確か、昨日買ったのが……」

 

 食パンをトーストに入れながら、冷蔵庫にあるソーセージと卵を取り出し、卵はスクランブルエッグに、ソーセージは普通に焼くためにフライパンに火をかける。

 

「ええと、今日は何があったっけなー。」

 

 朝食を作りながらも今日の予定を思い出し、そして完成したらそれを食べながら、新聞とテレビのニュースを見る。

 後は学校の用意をして出かける。

 それがここ最近の俺の日常であった。

 

「うぅー、今日は一段と寒いなー。」

 

 学生服に着替え外に出れば、冷たい風が俺を襲う。

 夏が終わり、空気が澄んで冷たくなる秋。葉が色づき、紅葉の季節真っ最中の現在。

 

 ——しかし、真っ先に思い出すのはいつもあの聖杯戦争のことばかりだ。

 

 あの戦争が終わった後、事後処理は教会から派遣された人と、叔父からの使いがほとんど全て行った。何故、叔父は戦争後に動き出して戦争中は動かなかったというと、あまり派手に動けば自ずとあの封印指定能力がバレてしまうからだ。

 学校で起きた昏睡事件による死亡者はおらず、皆揃って生きている。とりわけ藤村大河という教師は誰よりも早く復活していた。

 もちろん休校はあり、戦争終結の一週間ぐらいまでが期間だった。その後からは段々と以前のような日々が取り戻されていた。

 しかし、俺にとっては少しだけ差異があった。その一つが、

 

「あらおはよう、ソウタ。」

 

 何故かイリヤスフィールが冬木市(ここ)に居座っている点だ。

 

「おはよう、イリヤ。……ってことは衛宮はもう学校へ行ったのか。」

「ええ、一足遅かったわね。」

 

 彼女は戦争後に衛宮の家に住むと言い出し、藤村先生が大暴れ。なんだかんだで藤村組に移り住んでいた。その後は朝夕を虎と一緒に衛宮の家に突撃している。主に飯のために。そして、今は虎と一緒にいないという事はもう虎は学校へと行き、すでに彼女は朝食を済ませた帰りのようだ。

 城に置いていかれたメイドはどう思っている事やら。

 因みに言っていなかったが、俺の通学路の近くに衛宮の家があるので今日のように早起きをしてしまった時は一緒に登校している。

 

「ま、しゃあないか。今から走って追いつくのもアレだし。どうせ遠坂がいるから邪魔しないでおこう。」

「私としては邪魔してほしいけどね。」

「うっせえ。」

 

 俺は人の恋路を邪魔したくはねえんだよ。

 

「……。」

「お、おい。どうしたんだ?」

 

 突然まじまじと顔を眺めてくる彼女。それに対し、俺は困惑するしかない。

 

「別に。」

「別にって……まあいいか。

 お前は帰るんだろ?俺はこのまま、あいつの家に行って朝稽古をやる。」

「彼女と?うーん……仕方ないなあ。私も一緒に行ってあげるわ。」

「仕方ないって、頼んだ覚えはないし、お前そもそもあいつと喧嘩するだろ。」

「良いじゃない。私がしたいって言うんだから、ソウタは気にしなくても。」

「あのなあ……あんまり邪魔するなよ。」

 

 観念したように、イリヤの説得を諦める。

 これ以上時間をかけても無駄だと判断したからだ。それに、朝稽古する時間もなくなるし。

 

「それじゃ行くか。」

「ええ。」

 

 イリヤを横に歩き始めること数分、衛宮がどうだったとか、虎と雷画さんがどうだったとか。色々なことを彼女と喋っていると、衛宮邸に着く。

 

「ええと、あいつのいる場所は決まって……」

 

 門を抜けた俺たちは玄関には向かわず、横を通り抜けて道場へと向かう。彼女の居場所は大体あそこしかないからだ。

 

「おはよう、セイバー。」

「おはようございます、創太と……また来ましたか、イリヤスフィール。」

「ええ、また来たわよ。」

 

 道場のドアを開け、セイバーが真ん中で正座をしている事を確認して挨拶をする。と同時に、彼女も挨拶を返し、近寄りながらイリヤを視認した瞬間、予想通り険悪になる。

 

「貴女、藤村組に帰ったのでは?」

「ソウタがいたから、一緒に来たのよ。」

「俺は一応、断ったんだけどな。」

 

 イリヤがいると知った瞬間不機嫌になるセイバーだったが、仕方なしと言った感じで、話を進める。

 

「それで、創太は何の用です?」

「稽古に付き合ってもらおうと思ってな。最近やってなかっただろ?」

 

 藤村先生でも十分ではあるが、真の全力を出せるという意味でもセイバーほどの相手というのは他にいない為、稽古は度々彼女に頼んでいる。

 

「はい、ならば早速やりましょう。あまり時間はないのでしょう?」

「ああ。と言っても、そもそも全力を出せる時間があまりないけどな。」

「なら私は横で見ているわ。」

 

 イリヤは道場の端にちょこんと座り、俺とセイバーは竹刀を構えて、道場の真ん中で向かい合う。

 そこから十分後、完敗した。

 

「はあっ……はあっ……。

 やっぱ、セイバーは強いな。」

「いえ、貴方も良い読みでした。剣という縛りがなければ、互角となっていたでしょう。」

「たられば、なんていらない。負けは負けだ。」

 

 確かに俺は剣を扱うことに慣れていないが、それでも言い訳はしたくない。けど、こうやって戦っていると潔い気持ちにはなる。なんというか、スッキリした感じだ。

 

「なんであの時は互角以上の戦いができたんだろうな?」

「状況が状況でしたので。」

 

 あの時、それは最終決戦間際におけるセイバーを救った戦い。俺は呪いにより弱体化していたはずが、むしろ有利な状況に立っていた。呪いによる殺す力を変換させたのが理由だとは思うのだが、それ自体をどうやったからよく覚えていない。

 そういえばだが、聖杯戦争が終わっているのにセイバーがいる理由を流していたな。実は衛宮と再契約した時、どうやら俺の呪文も影響したようで、戦争後もこうやって現世に残っていられるようになったとか。

 

「……。」

 

 床に寝転がったままになっていると、セイバーは先のイリヤのようにまじまじと俺の顔を見てくる。

 

「何だ?イリヤもそうだったが、俺の顔を見てきて。なんかついてるか?」

 

 出かける前に鏡を見たがとくに変わった様子は無かったと思うが……。

 

「いえ、その……あそこからよく立ち直ったと思いまして。」

 

 ——なるほど、そういう事か。

 

「まあな、あん時は迷惑かけたな。」

 

 あん時、それは戦争終結直後の事だ。()()がいなくなった事で俺は絶望の淵へと落ちていた。それはもう、誰が見ても分かるぐらいに。

 遠坂からは何回背中に蹴りを入れられたか。

 

「そうよ。あの時は何を言っても無駄って感じで、自殺するんじゃないかっていう雰囲気だったもの。」

「イリヤスフィール。それを本人の前で口にするのは失礼ではないだろうか。」

「まあまあ、セイバー。確かにあん時は何も聞きたくないし、考えたくもないって思った。けど、自殺しようなんて思わなかった。

 彼女から貰った命だから、簡単に死んではならない、そんなことは許してはならないってな。」

 

 彼女がいなくなった悲しみは十年前の両親が亡くなってしまった時と同等だった。心の中にまた穴が空き、そしてそれはもう一生埋まらない傷となる筈だった。

 けど、立ち止まる訳にもいかなかった。ただ俺は俺自身に何故か怒りを覚えていた。またあの時と同じように、進む事を恐れて過去に縛られるだけになるのかと。

 それにあの時よりは少しだけ、苦しくはなかった。あの時と同じ恐怖はある。けど、希望はある。本当に彼女と会えなくなったわけでもないし、俺には目標がある。

 だからか、学校が再開する前になんとか立ち直り、そして周りから心配されながらも今日まで至る。

 

「でもね、私思うの。だからこそ、貴方は誰よりも人らしいって。」

「は?俺は人の子だ。それ以外の何者でもねえよ。」

「それはそれで……今伝える事じゃないわね。

 ほら、そろそろ時間じゃないの?さっさとガッコウとやらに行って来なさい。」

「お、おい。ちょ、ちょっとま……!」

 

 意味深な事を言いながらも、強引に俺を押して学校へ行かせるイリヤ。何か引っかかるが、遅れたくもないので言う通りにするか。

 けどな、

 

「押すのはやめてくれ!」

 

 バランス崩しそうになるんだよ!

 

「はいはい、それじゃあいってらっしゃい。」

 

 なんか誤魔化された気がする。

 

「……行ってくるよ。」

「行ってらっしゃい、創太。」

 

 外国人二人に見送られるという、普通の日本人なら滅多にない事をされながら、俺は再び通学路を歩く。そうでなくともここの家主ではないのだから、変ではある。

 一体イリヤは何を言いたかったんだろうな。

 と考えながら二十分ほど歩くと、穂村原学園に到着する。そこである虎、もといある教師と会う。

 

「藤村先生、おはようございます。」

「おはよう、古崖くん!」

 

 朝っぱらから元気なだなあ。この藤村大河という人は。

 

「朝から弓道部の指導ですか?」

「そうなのよー。最近一年生の成績が良くて、それに桜ちゃんも……」

 

 と、一話しかけたら十返ってくるというなんともめんど……失礼、教師らしくない人だ。言い直しても失礼だった。

 

「……貴方も、もうすっかり立ち直ったしね。」

「先生もその事を言うんですか。」

「そんなの当然よ。あんなに落ち込んでたのに。」

 

 それはもう勘弁してくれ。

 

「慎二くんもね、あの頃から何かこうトゲトゲしい感じがなくなったというか、性格は変わってないんだけど、根本が変わったというか。」

「意外ですよね。あいつが変わるなんてあまり思いませんでしたよ。」

 

 間桐慎二という奴はどうあっても、嫌味な奴でしかないと思っていたけど、最近柔らかくなったのが驚きだ。

 

「そうよねえ。あ、そうだ。古崖くん、ちょっとお願いがあるんだけど……。」

「はい、何ですか?」

「衛宮くんに早く進路先を決めてって言ってるんだけど、あの子中々決めなくてね。貴方からも何か言ってくれないかな?」

 

 あいつなあ、まだ進路の紙を出してないのか。夢がアレだからっていうのもあるんだろうが。しゃあない、少し紹介してやっか。

 

「あら、もうこんな時間。それじゃあね、古崖くん。私は準備があるから先に行くわね。遅刻したら許さないわよ。」

 

 嵐のような人だ。

 そんな感想を残しながらも、俺もそろそろ上がるかと思い、校舎へ入る。まだ余裕はあるけど、無くなってからじゃ遅いし、教室へと向かおう。

 玄関で上履きに履き替え、階段を登り教室へ入る。少し時間が経ち、ホームルームの時間となり、そのまま授業を受ける。

 四時限の授業を受けた後は昼食の時間となり、俺は三年から別のクラスになった衛宮に会うため、隣の教室へ行くが、映画に影響されやすい後藤くんがいるだけだった。

 どうせ、生徒会室にでも行っているのだろう。しょうがない。放課後にでもまだ出向くとするか。

 そう思いながら、俺は屋上へ登り待ち合わせの人と会う。その待ち合わせの人とは

 

「よう、遠坂。」

「こんにちは、古崖くん。」

 

 魔術師仲間である遠坂だった。

 決して恋人同士という関係ではなく、ここ最近ではたまに屋上で魔術の相談をしあっている。向こうから連絡があったり、こちらから連絡したりと。今回は俺からの相談で来てもらった。

 

「今日はなんだ?」

「購買の焼きそばパン。」

「へえ、それいっつも完売しててなかなか買えないんだよなあ。」

「たまたま売れ残っててね。運良く買えたのよ。貴方は?」

「弁当。」

「いつも通りね。しかも、冷凍。そこから魔術で温めてるのもワンセットなんでしょ。」

 

 さっすが、大当たり。というか、遠坂の言う通りこれがいつも通りの昼食なのだ。

 

「お前の焼きそばパンもあっためてやろうか?」

「ええ、よろしく。」

 

 ラップに包まれた焼きそばパンを手渡され、弁当と一緒に魔術で温める。

 

「そういう多彩な魔術が使えるところ、本当に羨ましいわね。私が火の魔術でやっても、燃やしちゃうし。」

「火じゃなくて、熱でやってるんだよ。ほら、理科とかでやってんだろ?」

「ああ、試した事なかったわね。今度試してみようかしら。」

 

 遠坂は魔術のセンスはあるが、一般教養を魔術に応用するとかっていうことはしないようだ。

 

「それで俺の体なんだけどさ。」

 

 他愛のない話の後、俺は本題に入ろうとする。

 

「彼女から譲り受けた体ね。」

 

 俺の体、それは戦争終結直後に死にかけて、今は亡き聖女(彼女)が依り代とし、延命処置として俺に譲渡した人形だ。

 ただ、彼女の場合は英霊であったため歳は取らなかったが、俺の魂はそうでないため、成長という機能に引っ張られ、普通に歳を取ってしまう。

 

「なんか、変な夢を見たり、誰とも知らない顔を思い出したり、覚えのない知識があったりするんだ。」

「それ、彼女の物なんじゃないの?」

 

 彼女?……ああ、そうか。

 

「十年間も依り代にしてたんだから、その名残だと思うわ。

 帰ったらアレを持ってみたり、魔術で何かしらいじれば、また出てくるんじゃない?」

 

 遠坂の言うアレとは、この体以外に彼女が残した物、いわゆる聖遺物で彼女の最大の象徴、旗だ。

 最後の最後、彼女は旗を残しこの世を去っていった。恐らくは父さんと母さんが彼女を喚ぶ為に用いた現世の物だからだろう。

 

「そう……かもな。いじるのは無しにしても、一度見てみるよ。」

「ええ、そうしなさい。また何か分かったら報告する事。」

「りょーかい。」

 

 にしても、彼女であった名残か。嬉しいような、けどもどうにも言葉では表せない気持ちもあるような。

 

「……。」

「貴様は次にゲフンゲフン。どうせ、あの頃から立ち直ったなとかって言うのか?」

「あら、良く分かったわね。今朝にも誰か同じこと言われたかしら?」

「二回な、なんで今日に限って。」

「さあ?少なくとも口裏を合わせてはないわよ。」

 

 そりゃそうだろう。こんな事でドッキリをするなんて、考えられないな。

 

「何にせよ、アンタが立ち直ってくれてよかったわ。本当は一日で立ち直らせるつもりだったけど。」

「どうもお世話になりましたよ、まったく。

 ほら、温め終わったぞ。」

 

 骨折するぐらい蹴りを入れられたのは今でも根に持ってんだからな。

 

「ありがと。」

 

 焼きそばパンを受け取った遠坂はラップを外し、一口食べる。

 俺もそれに続き、弁当を食べる。

 

「けど、そのおかげで貴方の事が少し分かったわ。」

「何だそれ。何を分かったつもりだ?」

「創太の事というよりは、創太と士郎の事。

 貴方達、似ていると思ったんだけど、全くの正反対なのよ。生い立ちが同じように見えるけど、感じたものは全く違う。

 士郎は他人優先で、貴方は自分優先。その結果として生まれた目的が似ているってだけなのよね。」

「当たり前だ。あいつは被害者本人で、俺は被害者の関係者って言うだけで違う。」

 

 そんなのは今更だ。

 

「確かにそうよね。だからか、貴方の方が人間らしいわよ。」

「それ、今朝イリヤにも言われた。そりゃ人の子なんだから当たり前だとか言ったら、誤魔化されてさ。」

「貴方が言ってるのはよく分からないけど、私の人間らしいっていうのは多分イリヤが言ったのと同じ意味よ。」

「聞かせてもらっても?」

「ええ。貴方、あの時顔がぐちゃぐちゃになるぐらいに泣いてたでしょ?けど、私や士郎だったらああいう事にはならないなって。

 事実、私はお父様が亡くなったとき、落ち込んだりはしたけど、アンタみたいに泣きじゃくったりはしなかったし、士郎も昔の話を聞いてたら、そんな事にはならなかったみたいだし。」

 

 凄く不服な事を言われてる気がするんですけど。

 

「けど、だからこそ人間らしいのよ。そうやって感情を出し切る所が。」

「——人間らしい、か。あんまり自覚ないけど。」

 

 遠坂の結論の後、昼休みが終わる予鈴が鳴る。いつの間にか弁当の中身は空で、遠坂ももう食べ終わっている。

 

「もう時間?仕方ない、行きましょうか。」

「ああ、遅れたら大変だな。」

 

 二人とも立ち上がって、屋上を後にする。

 あとは午後の授業を受け、放課後になったと同時に衛宮がいる隣のクラスへと突撃する。見失ったとあれば、探す手間が増えるので、すぐさま捕まえなければならない。

 

「よう衛宮。」

 

 だが、目的の人物はすぐに見つかった。

 

「創太、今日初めてだったか?」

「ああ。朝に会うつもりだったんだが、一歩遅れてな。」

「そりゃあ、悪いことしたな。」

「別に。そんでちょっと伝言があってな。藤村先生から、進路先を早く決めろってさ。」

 

 この話を聞いた瞬間に、またかと耳にタコができるかのように、衛宮はうんざりする。

 

「お前なあ、ちゃんと進路は決めとけよ。あんな大層な夢をお持ちだから、何処へ行くかも悩むのは当然だけどさ。」

「そうなんだよなぁ。」

 

 正義の味方なんていう子供のようで、それでいて衛宮にとっては本気である夢は、そう簡単に将来設計図を書かせてはくれない。

 

「……。」

 

 しかしながら、衛宮はそっちのけで俺の顔を眺める。

 

「待った、お前が思ってることは今日三回も言われた。」

「そうなのか?」

「ああ、そうだよ。何で今日に限って口を揃えて……」

 

 理由が分からないという俺であったが、衛宮は思い出したかのようにある日付を口にする。

 

「……十月十二日。」

「は?確かに今日はその日だけど、何か関係あるか?」

「お前の誕生日でもある。」

 

 え?……ああ、完全に頭から抜け落ちてた。

 

「そう言えばそうだったな。すっかり忘れて……いや、だから?」

「これは単なる推測なんだけどさ。誕生日だからその分成長した風に見えたんじゃないか?」

「たったそれだけ?」

「ああ、たったそれだけだ。」

 

 なんか失礼かもしれないが、スッゲエ馬鹿馬鹿しい理由だ。

 

「……スッキリしない推測だな。」

「それぐらいしか理由が思いつかないんだから、仕方ないだろ。」

「はあー……。まあ、理由なんてどうでもいいんだけどよ。

 それよりもだ。進路先の事なんだけどさ。」

 

 他愛もない話をして、教室に誰もいなくなった頃合いを見計らい、俺は本題の方を進めようとする。

 

「まだ、その続きがあるのか?」

「まあな。そんで少し提案なんだけど、俺の進路先に叔父が経営している貿易商の会社がある。

 魔術師が経営しているっていうわけだから、もちろん訳ありなんだけどさ。」

「それを俺に紹介してくれるのか?けど、その貿易の知識なんてほとんどないし、そもそも正義の味方なんていうのに何が関係あるんだ?」

「話はここからなんだよ。

 いいか?訳ありというのは色々あってな、紛争地域に飛び込んだり、麻薬組織を壊滅させたりと、お前の言う正義の味方らしい事をやっている。」

「本当か、それ!」

 

 正義の味方という単語を聞いた瞬間、子供が新しいものに興味津々といったような目で俺の話に飛びつく。

 

「ああ、本当だ。」

「……それはありがたい話だけど、創太も行くのか?さっきそこが進路先って言ってたけど、お前は正義の味方を目指しているわけじゃないだろ。」

 

 いやあ、それを言われると少し痛いなあ。でも、それ以外に理由はちゃんとある。

 

「衛宮、確かに俺は正義の味方になりたいわけじゃ()()()()。けどな、ある奴からお前を任されんだよ。」

 

 目を閉じて瞼の裏にあいつを思い浮かべる。ふざけた事ばっか言いやがって、皮肉な奴で、それでも俺の親友で、お人好しで、正義の味方を目指していたあいつを。

 

「そいつ誰なんだ?」

「誰でもいいじゃないか。そんな訳だから、俺はお前がバカな事しないように見張る。それにな、

 

 

 やっぱり、正義の味方ってカッコいいよな。」

 

 

 イタズラが成功した子供のように、満面の笑みを浮かべてみせる。

 ただ格好良いから、ただ自分もなりたいから。夢なんてそんな単純な事で決まる。だから、俺も正義の味方なんていうものになってみたくなった。

 

「だから、俺は俺自身が誰かを救いたいから救う。俺自身がそう思ったからな。」

 

 まだまだ未熟なこの身だが、いつか誰もが笑っていられる世界を作れるように。

 もし彼女と巡り会えた時、胸張って俺は活きているんだって言えるように。

 

「……分かった。それなら文句ない。」

 

 俺たちは進み始める。果てしなく続く、理想を求めるこの道を。




後書き



どうも、作者です。
描き始めて投稿してから一年半以上、ついに完結しました。
最後まで読んでくださった皆様どうもありがとうございます。数少ないながらも、お気に入りやUA数が増えていくことが本当に楽しみで、感想も書いていただいたりと、本当に感謝の言葉しかないです。
途中で止めようかと何度も思いましたが、なんとか続けていくことができました。
ですが、正直言って反省点は多すぎです。ほんと書き直したいレベルで。この小説作りを通じて、改めて作る側の大変さや偉大さを痛感させられましたよ、ええ。
そんな感想文みたいなのは置いといて、今後の活動についてですが、執筆活動はまだまだ続けます。アイデア自体はまだまだ尽きていませんので。
本作はこれにて完結をして、別の作品としてHell endやNormal endの続きや、オリ主のホロウアタラクシアや、昔書いてから全く進めていないオリ主のfgoなど、とにかくオリ主こと創太くんが活躍する話はまだまだ書きます。もしかしたら、反省点を活かして本作のリメイクとして、登場人物はほとんどそのまんま。ストーリーを大幅に変えた作品を投稿するかもしれません。
裏を返せばfate関連以外は書きませんし、そもそも一つの作品を書けば、それ以外の作品は全く書きません。
なので、そういう方針だということ理解していただけたらと思います。本作で投稿するとしたら設定資料集程度だと思ってください。
次回作もまた読んで頂ければ、幸いです。
最後にもう一度、本作を読んでいただきありがとうございます。

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