オリ主と衛宮士郎との友情ルート   作:コガイ

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True end 後編 戦争終結

 体中を伝う痛覚、しかしそれはすでに影へと侵食されていた。頭やら腕やら足やらが痛みしか感じていなかったはずなのに、今は感覚すらも認識できない。

 だというのに、脳に響く声は未だ大きくなり続ける。シネ、シネと。

 

 暗闇の中をただ進み続ける。

 

 ——体が異形に変わる。

 

 体力が底を突こうと。

 

 ——心が人ではなくなる。

 

 影に支配されてはならない。

 

 ——思考がただ殺意しかなくなる。

 

 俺は……変わっては……俺は……一体誰だ?

 

「っ……!」

 

 ただ真っ直ぐ、洞窟の最深部まで走り続けていた俺は、ついに目的の場所まで到着した。後ろからは衛宮とセイバーもついてきている。

 同時に、聖杯の泥によって侵されかけていた意識が目の前の光景によって戻される。

 それは聖杯の姿、ではない。もうアレが何であろうと、もうどうだっていい。けれども、彼女があんな姿になってしまったのは衝撃的だった。

 あいつが()()()()()()()()姿()なんて……。

 

「だああっ!」

「うおおっ!」

 

 衛宮と俺、二人の声が合わさり、同じ場所へと駆ける。

 ある人物、遠坂を助けるために。そしてもう一人、それぞれが救うために。

 衛宮は干将・莫耶を使い間桐桜を、俺は素手だけで()()を、遠坂にトドメを刺そうとしているのを止める。

 

「「っ……!」」

 

 動揺する彼女ら二人。

 今まで慕っていた先輩と、絶対にここにいないはずの人。驚くのも無理はない。

 

「……全く、二人とも遅いじゃない。」

 

 遠坂はそれを尻目に、呆れたと言った感じで立ち上がる。

 間に割って入らなきゃ今頃どうなってたかっていうのに。

 

「二人……?って事は……」

 

 衛宮は、遠坂が俺も来ることを分かっていたことに気がつく。

 

「ええ、私には事前にこれで連絡を取ってたの。」

 

 彼女が手に持つそれは、以前に渡した魔術石だった。

 

「これを媒介に創太と念話で話して、更にはある一工夫を教えてもらったの。」

 

 ある一工夫、それは宝石剣ゼルレッチを使った無限の魔力をそのまま石に補給するものだ。それにより、最後に使った転移の魔術を無限に使える。

 

「まあ説明は後だ。……衛宮、そっちは頼んだ。」

「ああ、わかった。」

 

 俺たち二人は互いに攻撃を止めた相手、衛宮は間桐桜を、俺は()()に振り向く。

 

「そう……た……。」

「すまん、遠坂には俺の事を黙っておいてくれって頼んだんだ。直接会わないと信じてもらえないって思ってさ。」

 

 一歩、近づく。

 身なりや風貌、性格まで変わり果てた彼女。けれども、俺には分かる。その根源は全く変わっていない。

 

「……て……」

 

 目を逸らしながら小声で何か言っているようだが、俺には関係ない。その言葉がどんなものであろうと伝えなきゃならない事がある。

 

「何があったのか、お前がどう変わってしまったのか。俺という存在がお前にとってどういうものか。それは分からない。」

 

 また、一歩進む。

 彼女は誰かのために血に塗れた道を自ら進もうとしている。自身の心情も理由にあるだろう。けれども、その心情すらも他人が関わっている。

 

「……めて……さい……」

 

 拒むように、拒まなければならないように、俺が近づく事を否定する。

 

「けど、俺はお前を特別だと思っている。ここまで育ててくれた母親代わりなんかじゃない。」

 

 彼女との距離を詰め、いよいよ目の前に立つ。

 不安、恐怖、そして悲哀。それを胸に押し殺し、ただ憤怒と憎悪に身を任せた彼女を許せるか、なんてのは問題外だ。

 

「一人の……女性として……。

 だから、もしお前が許してくれるなら……」

 

 手を前に出し、握手を求め、そして、

 

「やめてくだ……!」

 

 無理をしながら、それでも心の底からの笑顔を作ってみせ、

 

「またいつも通りの生活に戻ろう。

 

 

 ジアナ。」

 

 

 彼女の名を呼ぶ。

 目の前にいる黒の聖女は頰に熱い何かを流しながら、震えるような声で、それでも迷いなく、俺の差し伸べた手を握……らず、俺の背中に手を回し、抱きしめ、

 

「はい……!」

 

 ジアナ・ドラナリクに姿を変えた。

 

 これで俺は彼女を救えたのだろうか。いや、これからなのだろう。あんな()()()()()()()を見るのは散々だ。

 だから、同じ結末を迎えてはならない。絶望の道へと歩かぬよう、この手で切り開く。

 

「そっちも終わったんだな。」

 

 そう考えていれば、間桐桜を抱えた衛宮が声をかける。腕の中の彼女はもう黒化した姿ではなく、いつもの衛宮の後輩に戻っていた。

 

「いや終わったというか、ここから始めなければならないというか……」

「何を言っているんですか、ソウタ。終わりでも、始まりでもありません。元あった事を続けていくだけです。

 少しだけ変えて。」

「ああ……ああ、そうだな。続くんだな。」

 

 続くという言葉を噛み締めながら、俺は彼女の言った事を繰り返す。

 

「だったら、あれは終わりにしないとな。」

 

 そう言った瞬間に全員の視線が大聖杯に集まる。

 ついには誰も守る者がいなくなったそれは、この世とは思えない音で吼える。

 終わりたくはない。

 まだ、破壊されたくはない。

 皮肉な事に、願いを叶える聖杯は誰かに縋り付くように懇願する。

 

「……っ!あそこ、誰かいる!」

 

 しかし、それが叶ってしまったのか遠坂が指差す場所、洞窟まで伸びる聖杯の根元に二つの影が見える。

 見覚えのある影。

 

「よもやここまで聖杯は酷使させるつもりか。」

「フン、あの魔術師を叩き潰せるのなら、(オレ)はなんでも構わん。」

 

 言峰綺礼とギルガメッシュ、かつて目の前を立ち塞がった敵がまたもや、倒さなければならない相手となる。

 これが、最後の戦闘となる。

 

「……ジアナ、ここで待っててくれ。」

「遠坂、桜を頼む。」

 

 現状でまともに戦える二人、俺と衛宮が前に出る。

 

「待ってください!貴方達が戦うよりも私が……っ!」

 

 戦闘に加わろうとしたセイバーだったが、先の傷が治っていないのか、膝をついてしまう。

 

「セイバー、今は彼らに任せる他ありません。魔力なき今、私達ができる事はありません。」

 

 ジアナも戦いたい気持ちもあるのだろうが、ここは堪えてセイバーを説得する。そのセイバーも理解したのかそれ以上は何も言ってこない。

 

「私も任せるわ。これ以上はちょっとね。」

「ああ、しばらくそこで待っとけ。」

 

 飄々とした感じで遠坂は軽く言うが、体がぼろぼろでこれ以上無茶はできないものだ。心配させまいと思っているのだろうか。いや、ただの強がりか。

 

「衛宮、言峰を頼む。俺はギルガメッシュをなんとかしてみる。」

「あまり無茶するなよ。お前だってその体なんだ。」

「分かってる。」

 

 大まかに作戦を決めた後、二人は詠唱を始める。最も使い慣れたそれぞれが身に覚えさせた魔術を。

 

「……投影(トレース)開始(オン)

「——性質(フォース)変化(チェンジ)

 

 衛宮は夫婦剣を手に握り、俺は自身を蝕む影を動かす。

 たしかにこれは『シネ』俺にとっては害悪かもしれな『シネ』い。

 感覚を『コロセ』鈍らせ、何もかもを抹殺『コロセ』対象とさせる『コロセ』のかもしれない。

 俺を喰らい、生き地獄『死』を味あわせ、殺戮『死死』者と化す呪い『死死死』かもしれない。

『死死死死死死』

 けど、俺は全てを変えられる。この変革する魔術によって、死を別の活路として創り変える……!

 

「行くぞ!!衛宮!」

「ああ、任せたぞ!」

「覚悟はとうに決まっておるようだな!

 安心しろ、此度は慢心などせん!最初から全身全霊を以って、貴様らを潰してやろう!」

 

 衛宮と言峰が同時に走り出し、戦いの幕が切って落とされる。

 

「はあっ!」

「ふっ……!」

 

 洞窟の真ん中、そこで二人は剣と拳をぶつけ合う。

 一撃、二撃、三撃と。戦術は言峰の方が上なのか、衛宮は押され気味だ。

 そして、

 

王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)!」

 

 英雄王の背後から無数の門が開かれていく。慢心を捨てたのは本当らしく、瞬く間に洞窟を埋め尽くすほどの黄金が出来上がった。

 ここから無限の宝具が出てくればどうなるかなど、もう語る必要もない。

 

「ゆけ……!」

 

 だから、門から宝具が出てくる前にそれを全て奪う。

 影を伸ばし、無数にある門の一つに突っ込む。何百もの宝具、手応えだけでざっとそれぐらいの数が分かる。ならば、底はどれほどあるのか。

 俺はそれを影へと取り込む。魔力という名の餌を食うように。

 

「ほう、妙案だが貴様自身はどうするかな?」

 

 その言葉の後に指を鳴らし、今度は俺の周りに門を展開してくる……!

 開ける場所はあいつの背後だけじゃないのか!このままでは動けない的になるだけ……!

 けど、

 

瞬間切除(コントロール)遠隔操作(オートロック)!」

 

 影を切り離し、その場から即座に脱出する。影は門の中へ消えていき、俺の体とは分離され、

 だが、次の瞬間、

 

「っ……!」

 

 ギルガメッシュの背後にある門から影が翔ぶ。しかし、狙いは俺ではなく、門の所有者であるはずのギルガメッシュ。

 だが、それは別の門から出てきた巨大な盾にも見える斧により、切り落とされる。

 

(オレ)の宝庫を迂闊に出させんようにするつもりか……!」

 

 敵の予測、それは俺の作戦通りだった。

 俺は影をただ切り離したわけではなく、遠隔操作により門の中から攻撃を仕掛けた。それを警戒して全ての門を閉じれば、御自慢の財宝は使えなくなる。

 あとは、戦士としての力を持たないあいつに近距離戦に持ち込むだけだ。

 

瞬加速(フラッシュ)!」

 

 体にまだ残っている影を脚に集中させバネのように収縮、そして解放させることにより、体を最速まで飛ばし、敵との距離を詰める。

 

「そこまでして取り返したいか?ならば、くれてやろう。」

 

 俺の頭上、そこに殺気を感じた。顔を上げれば黄金の門から、俺が切り離した影が鎖に拘束され、隕石の如く襲おうとしていた……!

 

「っ……!」

 

 間一髪で後ろに飛び退いてそれを避ける。しかし、まだ油断はできない。何故なら、

 

「不用意に跳んだな!」

 

 背後からも門が開かれ、そこから俺の心臓を串刺しにしようと『ゲイボルク』が跳んだ軌道上に設置されている!

 しかし、俺は何もしなかった。何をしても無駄で、何もできないと悟ったように。全てを諦めて、その先に待つ結果を受け止めるかのように。

 

「グッ……ガハッ……!」

 

 そして、その結果が実現された。人間の構造上、なくてはならない臓器の一つ、心臓が朱槍によって潰された。

 血が、どこまでも黒く、深い血が俺の口から吐き出される。もう、俺の体は人ですらないということか……。

 

「……ほう、どうやら文字通り、真の()()()という事か。

 貴様、なかなか興味深い体になりおったな。」

「チッ……バレてたか。」

 

 だが、ギルガメッシュの言う通り、俺は既に死んでいる身。心臓を潰されようとも、活動は続く。影は俺を動かそうとする。苦しみを与え続けながら。

 

「しかし頭はどうなるか、試してみんとな?」

「そこまで気づいていたか。けどな、」

 

 体を突き刺す魔槍を一層深く、体にねじ込む。いや、その根元、門へと近づいていく。

 

「っ……貴様!」

「喋りが過ぎるんだよ!」

 

 それを見たギルガメッシュは門を閉じようとするが、もう遅い。

 その淵に手と足を掛け強制的に固定させ、体を入れる。

 次に眼前に広がる光景、それは目が痛くなるほどの黄金だった。周りはそれに埋め尽くされ、下を見れば限りない宝具が浮かんでいた。

 しかし、それに見惚れている時間はない。速く次の行動へと移さねば……

 

「……!」

 

 突然、目の前に出口が開かれる。衛宮と言峰の戦っている姿が上から見えるのでどうやら洞窟の天井のようだが、問題はそこじゃない。

 多数の宝具によってできた地面を埋め尽くすかのような剣山が、俺を狙っている……!

 

「チッ……こじ開ける!」

 

 だが、その手前でドアを開けるかのように両腕を動かす。

 いや、実際にそうした。別の出口を強制的に開け、無理矢理違う場所へと繋げる。

 そこはギルガメッシュの真後ろ。完全な死角で、しかも移動時間は実質ゼロ。ここから、一撃を食らわせられれば……!

 だが、全てを観ることのできるその英雄王の瞳は俺を見ていた。

 

「その程度で(オレ)の裏をかいたとでも?」

 

 ああ、分かっていたさ。こんな程度でお前を倒すことはできない。むしろ、どんな最弱英雄だって無理だ。

 だから、全方位から俺を蜂の巣にしようとする宝具が飛んで来ようとも驚きはしない。その対策だって考えてある……!

 

「……始動(リリース)!」

 

 呪文とともにある物を動かす。それは今まで鎖に捕らえられていた影。そのままでは動くこともままならない状態から、液体に姿を変えて鎖の合間から脱出し、瞬時にその鎖を使って衛宮と戦っている言峰の体を縛らせ、

 

「ぬっ……!」

 

 ギルガメッシュへと投げる!

 

「くっ!」

 

 だが、それが当たることはなかった。しかし、俺の周りにある門は閉ざされ、危機は回避された。

 それと同時に俺は聖杯とギルガメッシュを遠ざけるように、一瞬にして下がる。

 

「赤原を行け、緋の猟犬!」

 

 さらには、衛宮が投影した宝具が、黒塗りの弓から放たれた緋の矢が言峰へと翔んでいく。

 獲物に当たるまで走り続けるそれは、俺も体を持って実感している。

 縛られている言峰は自身で動く事は不可能だ。だから、

 

「っ……!」

 

 抵抗できずに、助けられることもなく、頭を撃ち抜かれた。

 

「薄情だな。」

「戯け、あれとは利害が一致していただけの事。助ける義理などないわ。

 それよりもだ、慢心を捨てると言ったな。あれは虚偽ではないぞ?

 こちらは一人、そっちは二人、ならばこれを出さねば我の勝機はないと判断できよう。」

 

 俺たちを認めたかのように、悟ったかのようにギルガメッシュは今までからは想像もつかないような言葉を口にする。

 そして、ここにいる誰もが戦慄する。門から出そうとするそれは乖離剣エアだと。

 

「させるか!」

 

 衛宮が黒塗りの弓で何本という矢でそれを止めようとするが、全て敵が展開する盾の宝具により防がれる。

 そしてついに、あの剣とも石柱とも言い難いギルガメッシュの宝具が引き抜かれる。

 

「これで、貴様らの最後だ!」

 

 片腕を大きく引き、世界を切り裂く嵐が形成されようとしていく。躱す事は可能だが、後ろにいる奴らが危ない。なら、迎え撃つしかない。

 

「創太、あれを作る。手を貸して……」

「駄目だ。」

 

 あれとは、ツギハギだらけの投影された乖離剣だ。あの時のように力を吸収しようと考えているのだろうが、

 

「あんな物で、目の前にある災厄を受け止めようたって無理だ。前よりも遥かに力が強大すぎる。」

 

 あれを超える力なんて一体何があるってんだ。

 受け止める?いや、駄目だ。防戦一方になれば、相手を倒せないし、押し切られる。あいつには聖杯による無限の供給があるのだから。

 どうすれば……?

 

「セイバー!」

 

 あいつに勝つために思考を巡らせている間、衛宮は別の行動を取る。

 

「は、はい!」

「その剣を俺に預からせてくれ!」

 

 それは何を考えているのか分からない、突拍子もない行動だった。

 

 疑問は三つある。その一つがそもそも聖剣を扱えるか、だ。

 使い手を選ぶというのもそうであるし、その力を扱えるかどうかも怪しい。

 更には、セイバーが衛宮の言う通りにしてくれるのだろうか。

 過去の誓いがあるとは言え、それはセイバー自身を剣と比喩したものだ。本当に聖剣を預けるかどうかは別だ。

 

「……分かりました。今一度、改めて貴方に剣を預けましょう。」

 

 しかし、二つ目の疑問は解消される。

 聖剣の柄を衛宮に向けたセイバーは、再びあの夜のように誓った。

 

「ありがとう、セイバー。」

 

 礼を述べながらその聖剣を手に取ろうとするが、問題はここからだ。

 それは選定の剣ではないとは言え、聖剣だ。持ち主に相応しくないと判断されれば拒否されるのみ。

 

「っ……!」

 

 その証拠に触れようとした瞬間、弾かれる。

 

「——頼む、聖剣よ。」

 

 けれども、衛宮は諦めない。

 

「たった、たった一振りだけで良い。その身を俺に扱わせてくれ。

 自分の為じゃない。あいつを倒す為じゃない。

 世界を救う為に、ここにいる人を守る為に。」

 

 信念を伝えた後、再び衛宮は聖剣を触れようとする。

 彼の正義を認めたのか、それは拒もうとはせず、身を任せるように衛宮の手に収まる。

 こいつはやってのけやがった。俺やジアナが何度かやっていた持ち主の魔力を真似て騙すなどという方法ではない。聖剣と向き合い、そして認めさせた。

 それは体の中にアレが埋め込まれているからなのだろうか。

 あるいは、衛宮自身の力なのだろうか。

 

「創太!」

 

 いや、それよりもギルガメッシュだ。もうすぐ宝具が解放されようとしている!

 

「どうするつもりだ?あまり時間はないぞ!」

「この剣に俺の心象世界を投影する。」

「はあ!?」

 

 そりゃ一体どう言う事だ!?

 

「聖剣を基盤に心象世界を剣として展開させる。そのサポートを頼む!」

 

 言っている意味が理解できそうでできない。しかし、もう時間はない。ならば、

 

「できる限りの事をしてやる。お前はそれに集中しろ!」

「ああ!」

 

 やるだけやってみるしかない。友人を信頼するしかない。

 衛宮は仁王立ちとなり、剣を両手で持って顔の前で構える。それから、天に突き刺すように聖剣をゆっくりと持ち上げる。

 まるで、セイバーの影を写すかのように。

 

投影(トレース)開始(オン)。」

 

 そして、その聖剣に魔力が集まる。今までの魔力とは全く違う。光ではなく剣に特化した魔力。

 ここで初めて理解した。衛宮のやろうとしている事が。ならば、俺はこうするしかない。

 

方陣(フィールド)展開(オープン)魔力(マギア)全開放(フルスロットル)!」

 

 魔法陣を作り出し、衛宮の体を作り上げる。

 こいつの中にある陣と共鳴させ、共に剣を現界させる!

 

「どう足掻こうとも、これには勝てん!

 光栄に思え!全てを出し尽くした(オレ)と戦った事を!

 (オレ)も貴様らを一流の戦士として、認めてやろうではないか!」

 

 まっず……!完全に溜め切りやがった!

 膨大な魔力が世界どころか、万物を斬り裂こうと暴れてやがる!

 

天地乖離す(エヌマ)……!」

 

 こっちはまだ準備できてないのに、真名解放してなんてされたら間に合わない!

 

「ソウタ!」

「ジアナ……!?」

 

 だが、俺たちを守ろうとしてか彼女が前に出る。

 

「主の御業をここに!

 我が旗よ、我が同胞を守りたまえ……!」

 

 それは以前にも見た彼女の宝具。旗を掲げることにより、全ての攻撃を旗に集中させることができる。

 だけど……!

 

「クッ……!」

 

 もう彼女にはそれを使う魔力が残されていない。

 戦いの中で魔力を消費してしまっているのに、無茶しやがって!

 

魔力(マギア)譲受(グラント)!」

「え……?」

 

 ならば、俺が補充する!

 体にまとわりつく影を純粋な魔力に変換し、彼女に渡す!

 

「行け!ジアナ!」

 

 俺の鼓舞を受け取った彼女は自身に満ちた笑みで頷き、再び前を向く。

 

開闢の剣(エリシュ)!」

 

 ギルガメッシュの宝具が開放されると同時に

 

我が神はここにありて(リュミノジテ・エネルネッレ)!」

 

 俺たちの前に旗を中心とした盾が展開され、災厄を受け止める!

 

「っ……!」

 

 だがそれでも、英霊としての力が足りないのか徐々に押され続けている……!このままでは、衛宮の投影が終わる前にやられる!

 しかし、ここで俺の中に新たなる策が生まれる。

 

「セイバー、前に出ろ!」

 

 そして、即座にそれを実行しようと騎士王を呼ぶ。

 

「何を……!」

「いいから!

 衛宮、集中を切らすなよ!」

「わかってる!」

 

 有無を言わさずに俺は衛宮の中にあるアレを確認した後、ゆっくりと取り出す。剣を傷つけないための鞘、衛宮切嗣が衛宮士郎を救った際に埋め込んだ鞘、理想郷の名を冠したアレを。

 

「まさか、それは……!」

「受け取れ!」

 

 完全に姿を現したそれは、元々は彼女の所有物。であれば、自ずと何をするべきかを分かってくれるはずだ。

 

「頼むぞ!」

「はい!」

 

 セイバーはそれを受け取った後ジアナに駆けつけ、そして真名解放を行う!

 

全て遠き理想郷(アヴァロン)!」

 

 黄金の輝きを持つ鞘が盾となり、セイバーではなくジアナの旗を災厄から守る。どんな攻撃であろうと、八次元からの干渉であろうとも鞘が対象としたものに傷一つつけることはない。

 しかし、一人限定ではあるのだが、それが全て攻撃を集約させる旗に展開すれば、みなを守る無敵の盾となりうる!

 

「創太、完成した!いつでも行ける!」

 

 それが十数秒の均衡を保ちながらも衝撃で周りの岩肌を削り、外まで貫通しそうになった時、衛宮の世界を収束させた剣が完成される。

 人が、魔が、神が作り出した剣を一つに纏めたそれは様々な力を持ち合わせながらも、一端に極められたものであった。

 けれど、ここでセイバーとジアナにあの盾を解除させてしまえば、彼女ら二人が災厄の餌食となる。一瞬でも抑えられれば、脱出する猶予はできる。

 けど、俺は衛宮の剣の維持とジアナの魔力補給で動くことは無理だ。他の三人もどうこうできない。なら、

 

「二人とも、タイミング合わせてよね!」

 

 それ以外の遠坂がやるしかない!

 

解放(Es last frei)!」

 

 宝石剣ゼルレッチを振り下ろし、並行世界から遠坂の持てる最大許容量を使い、魔力の斬撃を繰り出す。大きく、そして鋭いそれはギルガメッシュの宝具を一瞬、押し戻す。

 と同時に、衛宮の前に立っていた人は全て射線を開けるように後ろへ退く。

 

「やれ!衛宮!!」

「うおおおおおお!!」

 

 衛宮の前に敵しかいなくなった時、その聖剣は肥大化し、眩いばかりの光を爆発させようと、全てを斬らんとする意志を見せる。

 そして、真名解放をしようと衛宮が口を開こうとした時、天井の岩が崩れ、何かの光が差し込む。

 

 その光は神秘的で、まるで聖剣をさらに大きく、強く、美しくしているかのよう。

 

 本当は真名解放の所為なのだろうが、誰もがそう思わざるを得なかった。

 だからか、それはこう呼ばれる。

 

 

 

 

月夜に照らされし極致の剣(エクスカリバー)!!!!」

 

 

 

 

 ギルガメッシュの宝具よりは小さく、しかし魔力の密度を極限まで高められた聖剣は振り下ろされ、災厄を押し潰すというよりは斬るように放たれる。

 

「何!?」

 

 触れる物を真っ二つにしながら、ギルガメッシュへとそれは進む。

 剣という性質を最大限にまで顕著した光は、魔であろうと、竜であろうと、神であろうと、はたまた剣であろうと斬る。剣という物は元来そういうものである。

 だから、聖剣は災厄を斬る。どんな物であろうとも。

 

「はあああああああ!!!!」

 

 衛宮が魔力を全て聖剣に注ぎ込んだ時、光は一瞬にして聖杯の横を抉り、そして洞窟の壁までも斬る。

 ギルガメッシュが居た場所にはもう光が通り過ぎた後であった。

 誰しもが勝負はついたと思うなか、俺はぽつりと呟く。

 

「……やっぱりな。」

「アレで(オレ)は殺せんわ!」

 

 目の前には宙を舞うギルガメッシュがいた。いつのタイミングかは知らないが、射線上から離れていた。

 けれど、俺はこんな事ではやられないと読んでいた、いや感じていた。英雄王と呼ばれる敵は、これだけでは仕留められないと。

 だから、俺はギルガメッシュの避けた場所の真正面まで走り出していた。

 

「けどこれで!」

「貴様の頭は確かに(オレ)の千里眼に匹敵するようだな!

 だがな、これを打ち破るは不可能であろう!」

 

 俺が右腕を引き、一撃を出そうとしているのに対し、ギルガメッシュは俺と隔離するかのように宝具の壁を作り出す。剣や槍などの武器だけではなく、盾や鎧といった防具までもある。

 

「貴様が無に帰す者であろうとも、これら全ては破れん!」

 

 ああ、そうだろうな。

 こんな物、いくら力を積もうとも一生かかっても無理だ。

 

一撃必殺(コンセントレイト)!」

 

 それでも、俺は右手に魔力を、持てる力を全て注ぎ込む。

 この盾全てを対象するのは確かに不可能だ。

 

「っ……ごほっゲホッ……!」

 

 ああくそ。ここでまた泥が暴れやがる……!

 視界がふらつき、頭もガンガンしてやがる。体が言う事を聞かなくなり、蝕まれていく。

 

 ——殺せ、殺せ殺せ殺殺殺殺殺殺!!!!

 

 

 

 ……そんなに殺したいか?なら、あいつを殺せ。

 

 

 

「があああっ!」

 

 泥の支配を振り切り、俺は全てを込めて構える。

 泥すらも、殺意の意思すらも拳に乗せて。

 

 普段とやる事は変わらない。

 

 一点に、ただ一点に、真の意味での全力を変換させる。

 

 それでようやく英霊に勝てる物が生まれる。

 

 

 他で負けてもいい。

 

 

 その代わり敵より優れた部分を使い、全てを出し切り

 

 

 

 勝利を掴みとる……!

 

 

 

 

「だああああああああ!!!!!」

 

 

 

 

 右腕を振り切り、拳大の魔力弾が飛ぶ。

 

 俺の全てを注ぎ込んだ魔力弾。

 

 小さく、とても小さく。

 

 しかし、心臓を貫けば死に至らしめるほどの大きさ。

 

 それがもうすでに、

 

 

 

 ギルガメッシュの胸に穴を開けていた。

 

 

 

 宝具の壁を貫通し、標的へ瞬時に翔び、敵を貫き、俺に勝利をもたらした。

 

 ギルガメッシュは抵抗なく地面に落ち、宝具の壁も光となり消えていく。

 

「……終わったか。」

 

 戦闘の終了と共に前へと進む。この戦争の根源である聖杯をぶっ壊すために。

 

「待て。」

 

 俺が仰向けになったギルガメッシュを横切ろうとした時、彼は声をかける。

 

「まだ猶予はあろう。お前に労いの言葉をくれてやろう。」

 

 どこまでも見下したような言い方だ。しかし、俺は何故か歩を止めていた。

 

「……お前、本当は慢心してたんじゃねえのか?」

「戯け。本気で戦っていたわ。お前の行動も全て読めていた。

 だが、アレを超えてくるとは予想外であった。お前達が受け継いできた魔術、それが勝因よ。」

 

 傲慢の塊だと思っていた英雄王、そいつが誰かを認めるとはそれだけで驚きだ。

 

「俺一人の力じゃない。」

「だが、満身創痍の体で我の体に届いた。万全の状態であれば、言うまでもあるまい。

 光栄に思え。お前は我が認めた魔術師……いや違うな。根源を目指さぬ者にこれは相応しくない。……ならばこう呼ぼう。

 『魔導者』よ!我から授けた名を光栄に受け取るが良い!」

 

 最後まで傲慢を貫き通したギルガメッシュは遂には魔力となり、霧散していく。

 

「……あれをコワす。」

 

 何を聞いていたんだ、俺は?

 何を立ち止まっていたんだ、俺は?

 確か誰かに話しかけられたような……段々と……全てが……混ざって……

 

「コロス。」

 

 ……聖杯よ。憎い聖杯よ。今ここで貴様を殺す。

 

「—————!!」

 

 そう耳がつんざくような声で叫ぶな。どうせ、お前は死ぬ。お前自身の力によってな。

 俺にはもう力はのこされていない。だから、聖杯に左手をかざし、魔力を吸収する。

 

「これで、本当に最後だ……!!」

 

 そして、即座に右手で魔力を爆発させ、聖杯を破壊する!

 

 

「うおおおおおっ!!」

 

 

 轟音、そして光が全てを包む。伝説を再現するかのような、けれども後世に残ることはない、光が。何秒も何十秒も。はたまた何分か何時間か何日か、永遠か。もう全てがあやふやだ。

 けども、これだけは確実だ。

 

 

 聖杯は破壊された。

 

 

 戦争が終結され、誰かが殺される事はない。もう、悲しい思いをする事はなくなる。

 

「あがっ……!グホッ……!ゲホッゲホッ!!」

 

 ああ、けれども……体がもたない……あまりにも……ボロボロすぎる……もう死んでいる……から……当たり……前……

 

 いしきが……おれは……そうか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なぜ……なぜなんだ?

 おれは死ぬと……おもっていた。だが、いしきはまだある。いや、意識が引き戻されていく。俺の体にはっきりとした感覚が戻る。

 その感覚を頼りに、未だ生きている理由を探そうとすると、

 

 俺の唇に柔らかい何かがあった。

 

 正体を知るために、閉じていた瞼を開き、目視すれば、

 

 

 そこにはジアナが、愛する人がいた。

 

 

 状況が掴めない、というか混乱寸前だ。ええと、さっきまで俺は何をしていたんだ?いや、何でこうなった?

 色々な考えを脳に巡らしていると、今度は体が前に持っていかれる。

 そこにはジアナの体があるはずなのに、それを擦り抜けるかのように。

 

 ——いや、擦り抜けているんだ。俺の魂が彼女の体へと移動し、そして憑依していく。

 気づけば俺は、俺の体の前にいた。聖杯の呪いによって崩れていく俺の体が。あと少し遅ければこの体と一緒に俺も死んでいたかもしれない。

 けれども、俺を救ってくれたであろう彼女がどこにもいない。この体に残っているわけでもない。

 ……ならばと思い、後ろを振り返れば

 

「……ぁ。」

 

 聖女の身が消えかかっていた。

 

「すみません。貴方を救うにはこれしかありませんでした。」

 

 申し訳なさそうに言わないでくれ。これは俺が招いた失敗だ。

 だから、死ぬのは俺でいいはずなのに。

 

「貴方と貴方の両親には感謝しています。第二の人生を送らせてもらって。」

 

 感謝するのはこっちだ。だから、だから……!

 

「そんなに悲しい顔をしないでください。こっちまで、悲しくなるじゃないですか。」

 

 そんなに優しい笑顔をしないでくれ。余計に涙が出てくる……!

 

「大丈夫です。私がいなくても貴方は強く()()()()()()()。」

 

 大丈夫なんかじゃない……お前がいなけりゃ、俺は……俺は……!

 

「……ですが、私と会いたいのであればこれを、この旗を掲げれば、私はそれに応えましょう。」

 

 そんな、そんなの……

 

「……しょうがないですね。では、無信仰である貴方に一言だけ。

 

 

 

 

 私の祈りが貴方の道を照らさん事を!」

 

 

 

 

 やめてくれ。

 やめてくれ。

 やめろ。

 やめろ。

 やめろ。

 行くな。

 行くな。

 行くな。

 行くな

 行くな

 行くな

 いくな

 いくな!

 いくな!

 いくな!

 いくな!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジアナーーーー!!!!!!!」

 

 

 




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