いいのか?ここからは蛇足が続くだけ。伏線もほとんど回収した。それでも読むというのであれば、最高のハッピーエンドまで書き続けるだけだ。
と偉そうな事を言ってみます。
伏線を張らないとはまだ言っていない。
アーチャーとの一対一、それはランサーの時と似たような状況になっていた。俺が立て続けに攻め、アーチャーは反撃をしながらも守りに入ってしまっている。
俺自身の総合力はアーチャーのソレに及ばない。しかし、ランサーの時と同じように一点に能力を特化すれば、敵わない相手ではない。腕も強化して、剣で斬られても防げるようにしている。
けれども、ランサーと違う点が一つある。それは相手が遠距離攻撃を持っている事だ。だから距離を離されてしまえば、詰める事が難しくなる。
例えば、今みたいに。
「赤原を行け、緋の猟犬!」
「くっ!」
アーチャーの黒弓から
嫌な予感がする。あれが放たれた時、俺は余裕を持ってかわした筈だ。なのに紙一重だった。という事は。
答えを出す前に後ろを振り返る。目前に赤い矢が見える。猟犬は、まだ俺を追っていたんだ。
「あがっ……!」
咄嗟に右腕で頭をかばう。よって矢は頭を貫通せずに右腕に突き刺さる。その痛みはまるで犬が噛み付いたようだった。腕を硬化させているというのになんつう威力だ。
何故距離を離されてしまったのかというと、アーチャーの顔を執拗に狙っていたからだ。俺が宣言にこだわりすぎたが故に、あいつは俺の単純な攻撃をいなし、体制が崩れたところで長剣による攻撃を入れ、俺がなんとか避けながらも後退し、そしてさっきの様になったという訳だ。
「っ……が!」
腕に突き刺さった矢を抜き、放り投げる。
大丈夫だ。まだ腕は動く。指先までの感覚はある。
「わざわざ宣言通りにしようとするか。意地の為に不利になる必要はないとは思うが。」
「うるさい。」
腹立つが、アーチャーの言っている事は正論だ。しかし、こっちはそうしなきゃ気がすまないのだ。どうせどちらも自己満足の為に戦っている。だったら意地の一つや二つ、通したって良いだろう。
「うおおおっ!」
ただ真っ直ぐ、アーチャーへと全力で駆ける。魔術も駆使し、より速く走る。
「ふっ!」
アーチャーはそれに迎撃をしようと、前にも見た白黒の双剣を投擲する。足止めか目くらましのつもりだろうが、そんなのは効かない。硬化した腕で難なく弾く。
そのまま敵との距離を詰めようとした時、アーチャーは先ほど投げた一対の中華剣を握っており、それを左右に投げた。
そして、まだあいつの手元には干将・莫耶が残っている。俺が弾いた一対とあいつが投げた一対、それらは俺を囲うように展開され、敵を討とうと襲いかかる。
「鶴翼三連!」
そして正面からはアーチャーが向かってくる。これはまさに鶴翼の陣。六つの同時攻撃に逃げ場は無し。迎え撃とうにも、同時に対処する事はほぼ不可能だ。だがしかし、
「その技は二度目だ!
魔力の属性を風に変化させ、それで魔術を使う。全ての双剣は瞬く間に風圧に叩き落とされ、地面に落ちる。
「くっ、はあっ!」
けれども、アーチャーの持っていた双剣だけは耐えて、攻撃をまだ続けていた。上段から振り下ろされた双剣は、俺の頭をかち割ろうとする。
対して俺は両腕を硬化しクロスさせ、攻撃から守ろうとするが
「掛かったな!」
それはフェイク。こいつの攻撃は俺の腕には当たらずに、下へと移動する。つまり、狙いは頭ではなく胴体だった。
「もう一度、
二つの刺突が俺の肌に触れる瞬間、その間から押し込められていた空気が一気に流れ出す。その風圧は双剣をも逸らす勢いだった。結果、俺の胴体に新たな傷はできなかった。
そして、アーチャーに大きな隙ができる。
「もらった!」
チャンスだ。そう思い、顔めがけて拳を入れようとする。しかし、さすがは英霊と言ったところか。新たに投影された干将により、俺の攻撃は防がれる。隙ができたとしても、ただの人間の一撃は入れさせてくれない、か。
ならばもっとだ。もっと速く!
「うおおっ!」
拳を加速させていく。アーチャーがどれだけ的確な反撃を、防御をしていても、それを超えてみせる。無限の剣をいくら出そうとも、この腕が削られる事はない。
アーチャーの剣を弾き、そして攻撃に移り、躱される。そんな攻防がいくら行われた後だろうか。俺はこのジリ貧を打開しようとする。
相手は、莫耶を使い俺へと攻撃しようとする。それを俺は右腕で防御しようとし、
「ぐっ……」
「何っ!」
硬化を解除した。よって、アーチャーの剣は俺の腕に沈む。こいつの驚きはそれが原因だ。
もちろん骨までは届かないようにしてある。後は
「
腕に固定する!
周りにある空気も魔術で温度を下げ、固体化させた。これにより、アーチャーの剣は俺の腕に突き刺さったままになる。そして、腕を思いっきり引けば!
「うおっ⁉︎」
アーチャーの体制が崩れた!このまま、殴っ……
「がはっ!」
突然、大きく後退させられる。理由は分かっている。あいつがカウンターの蹴りを入れてきたからだ。
十数メートル飛ばされた宙を舞い、地面に落ちたと同時に体制を立て直す。
また一発入れ損ねた。困難だとは思っていたものの、不可能ではないのかと思い始めてきた。いや、それが普通なのだ。普通の魔術師が英霊を一度ならず二度までも倒そうなんてのは、調子の良い話だ。
しかし、まだ可能性はある。そう確信が持てたのは、さっき殴ろうとした指の爪先に理由があった。
「……かすったか。」
「けど、まだだ。」
あの時、ほんの僅かだが、爪があいつのほおを触れた。つまりは後一歩なのだ。
「おい、アーチャー。出し惜しみしてたら、無駄に消費するだけだぞ。」
確信を持った俺は、奥の手を出せと煽る。
「それに噛み付いてくるのは犬だけだ。」
ランサーのことか。ここにいない奴の悪口かよ。
「どうせ衛宮に出すんだろ。だったら、今ここで出した方が発動が楽になるぜ。俺はその邪魔はしないからな。」
これは
そして、俺が脅威足り得る存在だという事は証明したはずだ。後はアーチャーの出方次第。
何故俺はランサーの時と同じように、宝具を出すよう煽ったか。確かに対抗策があるのも一つの理由だ。しかし、これも意地なんだ。あいつの心を創り変えられるという証明をするための。
「……考えてみれば、お前の言う通りだ。私の宝具は衛宮士郎に当然バレている。ならば、言葉に甘えさせてもらおう。」
また敵が思惑通りになる。やはり自身の宝具というものには絶対の自信を持っている。それを出すには、多少無理でも火種をつければいいのだ。その逆の方法は知らないが。
アーチャーは胸に手を当て始め、詠唱を口にする。
それと同時に、俺は体に鞭を打つ。
無理だろうと知らない。
記憶しろと、観察しろと、体感しろと。
「———
あいつの仕草を詠唱を、真似るように。なぞるように。
胸に手を当て、独自の詠唱を唱え始める。
「———
その言葉はここにいる全員を驚愕させた。言葉だけではない。仕草も魔力の動かし方すらも要因だ。
今まで無かったはずのアーチャーの殺意が一層強く、俺の体を突き刺す。当然だ。唯一の取り柄である模倣を模倣される。それは挑発されたも同然だ。
「……フッ。」
……?あいつ、一瞬笑わなかったか?
「
いや、今は真似る事に集中しなくては。あいつの使う魔術は模倣の寄せ集めだとしても、一流の物。更にそれは、あいつにしか持ち得ない魔術。
生半可な気持ちでは会得できない。
「
真似るだけではダメだ。あの魔術はアーチャー固有の物。それを俺が使うには一工夫しなければならない。
鏡のように映し出すのではなく、あいつと対比するように。
「
「
アーチャーの詠唱が進むにつれて、周りが変貌していく。
「
「
対して、俺の起こす変化はない。
まだ何かが足りない。
「
「
世界はあいつの色に変化する。
「
「
互いの詠唱は、自分自身を語っているにすぎない。
「
「
そして、
「
世界は火に焼かれ、完全に塗り替えられる。
「……ここがお前の心象世界か。」
アーチャーの心象世界。赤い荒野が広がり、焼けたような夕暮れの空と、それを埋め尽くすかのような多数の歯車。そして、
「ああ。オレの心そのもの。そして、同時に固有結界でもある。」
見れば判る。この世界がどんなものであるか。魔術を読み取るこの目ならば。
剣を見れば自身に偽物が貯蔵され、そして自由に取り出せる。それがアーチャー特有の固有結界。
それにしても、あいつの心象世界か。
「寂れてるな。」
そんな感想しか抱けない。殺戮を実行する機械は、殺戮するだけということか。
「けど、創り変えてやるさ。」
固有結界がどういうものかは分かった。そして、俺にそんな物は作れない。現実世界を心象で変えるなんてのは、それを専門に十年使い続けないと無理だ。
「
だが、詠唱は終わっていない。
「まだ続けるつもりか。だがもう遅い!」
剣が俺を囲み、一気に射出される。しかし、それは当たる直前で、泡となり消える。
「っ……!貴様!」
アーチャーが感づいたようだが、もう遅い。
「
心象世界にある剣では無理だと判断し、アーチャーは素手で殴りかかろうとする。
「
しかし、この世界はすでに創り変えられつつある。その証拠に、俺の後ろから、大きな波が来ている。
「
アーチャーの拳が俺に届く、その瞬間、
「
それは、波に飲み込まれる。
「っ……!」
飲み込まれた時間はそう長くはなく、アーチャーの足が地にしっかりとついたのはすぐだった。しかし、あいつは俺を見失ったようだ。
仕方がない。ここは、荒れた剣の大地から、太陽の光が届かぬ海の底へと早変わりした。目の前すらも真っ暗で、どこを振り向いても何も見えない。
「これが、お前の心象世界だというのか?」
「残念ながらそうみたいだな。深く、暗く、誰も来られないような場所。光は無く、恐怖の海が広がるだけだった。」
光は存在しない。そういったはずなのに、互いの姿が見え始める。何か、輝く物体が海底に沈んでいたからだ。
「けど、今は違う。何かは分からない。だけど、しっかりとそこには
海の底で、光は強くなる。
しかし、俺の魔力は限界ギリギリだ。この固有結界は、相手の固有結界を基盤として作られている。相手の世界を俺の世界で塗りつぶす。つまりは創り変えているのだ。
だから、相手の結果の効果を打ち消しつつ、より少ない魔力で維持できる、対固有結界用固有結界だ。しかし、そもそも俺の技量が足りないからか、魔力は常に全力で消費している。
くそ、もう立っているのも精一杯だ。
次……次で決める!
「うおおおっ!」
声を荒げながら、走る。真っ直ぐ、ただ真っ直ぐに。これまでのような速さは一切ない。
けれども、アーチャーには攻撃手段である剣はもうない。投影したところで、この海に掻き消されるだけだ。
右腕を振り上げて全力で殴る。アーチャーの顔を目掛けて。
強化に回す魔力はない。だから、俺の拳は、一般人より少し速いぐらいだ。そんな物、当然のごとくアーチャーに軽々掴まれる。
しかし、フェイクにはなる。
「本命はこっちだ!」
拳が止められた瞬間、左脚の蹴りを即座に実行する。
俺の右手を止めているのは、アーチャーの左手。ならば、左脚を止めるのは、
「何度フェイントを入れたところで!」
アーチャーの右腕だ。
ここまでは予想通り、
だから、次の一手も考えてある。この戦いの最後の一手。
「っあああ!」
俺が力を込めたのは、未だアーチャーに掴まれている右腕だった。
「
だが、その言葉によって、俺の右腕はアーチャーの手を振りほどく。こいつの右腕は俺の脚を受け止めていて、左手は振りほどかれたばかり。つまり、防御する手はない。
そしてそのまま、あいつのふざけた顔を……!
「これが、最初で最後だ!」
ブン殴る!
「っ……!」
俺の右腕は振り抜かれ、アーチャーは頰を殴られる。
そこから動きはない。
互いにもう戦う気は無かった。いや、戦う理由が無くなったと言った方が正しいか。
どちらにしろ俺の宣言通りにはなった。ただそれだけのことなのに、もう決着はついたような状況だ。
周りは、いつの間にかあの寂れた剣の荒野に戻っている。俺が作った海はすでに、どこにもない。
強化をしていない俺の拳が、なぜ英霊の握力を振りほどいたのか。それは強化し直したからだ。結界を解いてそれに回していた魔力をそのまま腕の強化に使い、結果、アーチャーに一発を浴びせることができた。
「これで気は変わったか?」
「いいや、全くだな。」
やはり、アーチャーの考えは変わらなかったか。最初から分かっていたことだ。
「結局無駄かよ。」
残念な事でもない。この後に衛宮が戦うんだ。あいつが何とかしてくれるだろう。やはりここは、自分自身と戦うしか無いのだから。
もう戦える力はない。意識が少しずつ遠のいていく。
「だが、案外無駄ではないかもしれんぞ。」
「は?」
まずい。頭がおかしくなって、幻聴でも聞こえたのか?
「考えは、変わってないさ。
……むしろ固まった。」
俺にしか聞こえない声で、訳の分からない事を呟く。
そして、歯車の隙間から溢れる光は強くなる。
「ああ、そういうことか。」
その言葉で俺は理解した。であれば、それこそ俺はただのでしゃばりで、やってきた事は全て無駄じゃないか。
まあでも、意識が薄れて行く中、アーチャーが最後に残した言葉を聞けただけでも良しとしよう。
約束は守るからな……。