今回はついにあの人正体が明かされます。と言ってもほとんどバラしていたようなものですけど。あと、その正体を隠していた理由を書く時に、なぜか泣きそうになりました。そのあとに、これ人に見せて何言ってんだこいつ、と言われそう。と不安にもなりました。
あと今回は、アーチャーとオリ主の会話があります。かなり短いですが、この二人は色々とあるのでさせた方がいいかなと。
サブタイは半分詐欺です。
士郎と創太の戦いが終わり、士郎とジアナは創太を置いて、古崖の家に帰ろうとしていた。その途中、住宅街の一角で、ジアナは士郎に声をかける。
「あの……士郎君。」
「何ですか?」
「申し訳ありませんでした。」
「え、え⁉︎」
突然の謝罪に驚いてしまう衛宮。当然の反応だろう。急に謝られてしまえば誰でも驚く。
「な、何の話ですか?」
「創太のわがままの事です。彼に変わって謝罪をしようと思いまして。そして、私自身としてはそれを止めなかった事もあります。」
「いえ、構わないですよ。ジアナさん。」
謝罪は必要ないと士郎が言い、ジアナはありがとうございますと返す。だが彼女には、まだ罪悪感が残っていた。
そして、次にジアナは自身の疑問を尋ねる。
「……何故、ソウタとの勝負を受けたのですか?」
その質問は、創太が行った無意味な戦いから来るものだった。
士郎は、別にあの勝負を受けなくても良かった。創太の話は穴だらけで、論破する事も容易いはずだった。そして、それはどちらも承知の事実だ。
「逃げることは、したくなかったですから。」
「え……?」
それは、ジアナにとって意味を理解できないものだった。
「創太が言っていることは、無茶苦茶だったかもしれません。けれど、だからと言ってそれから逃げれば、あいつは立ち直れないかもしれません。
あいつは、今、何かから逃げている。なのに、逃げる姿を見せてしまえば、それが正しい事だと言っているようなものです。」
確かに、とジアナは思った。そして同時に、その言葉は、自分へと向けられているような気もしてしまった。逃げてるのは、創太だけではなく、ジアナもだった。
「それに……」
士郎は、もう一つ理由を付け加える。
「それに?」
「俺自身も戦えるんだって証明したかったんです。あいつも言っていましたよね。自分より強い事を証明しろって。
俺は、あいつに助けられてばかりいました。だから、俺も助けられるだけじゃなくて、戦える事を証明したかった。」
これが、衛宮士郎が戦いを受けた、その訳だった。ただし、創太からしてみれば、士郎に助けられてばかりだと考えているので、お互い様だったりする。
そして、ジアナは、士郎の考えを理解する。だからこそ今度は、自身の内にある物を明かす番だ。
「お話いただき、ありがとうございます、士郎くん。
そして、再び謝罪します。申し訳ありません。」
「い、いやだから、ジアナさんが謝ることじゃ……」
「いいえ、私が謝罪したのは、別の事です。
私の正体……
ジアナの本当の名。それは、士郎にとって分かりきった事だった。十中八九それしかないと、もう判明していた。
宝具の名からは、想定できないものの、あの夜に見せた中世の騎士と僧侶の姿を混ぜ合わせたような服装、そして何よりも、宝具を行使した時に見たあの旗から、答えにもう辿り着いていた。
だが、敢えて彼は本人の口から正体を聞く事にした。彼女は正体を明かす事に関して苦しそうであったが、それ以上に誰かに話しておきたいという気持ちが強い様に思えたからだ。
「私の真名、それはジャンヌ・ダルクです。」
ジャンヌ・ダルク。聖人やオルレアンの乙女と呼ばれるフランスの英雄。その名は、日本でも知名度が高い英雄である。士郎ももちろん、彼女の名も活躍も知っている。
しかし今は、その詳細を伏せておこう。
「偽名であるジアナ・ドラナリクは、真名のもじりになっているんです。」
なるほど、と士郎は思う。確かに響きはそれっぽく、似たような気もする。
「第四次の時は、ただ単純な理由で、私の力を明かさないために偽名を名乗っていました。しかし、大災害が起き、その光景を見た彼はとてつもない恐怖を感じていました。
……あの死の荒野を、目の当たりにして。」
士郎は、彼女の声がいつのまにかくぐもっている事に気がつく。
「私は国のためと思い、戦い、殺し、そして最後には処刑されました。もちろんそれに後悔などしていません。私は、私の信じる道を選んだのですから。」
その目は真っ直ぐで、しかし、何かが溢れ出ようとしていた。
「ですが、そんな事をした……こんな私の……本当の姿を彼に見せてしまえば……!」
涙声が強くなる。
「こんな……血だらけの手を見せてしまえば……」
そして、ついに
「死を怖がっているソウタに、私のような殺人鬼がいて良いのかと……」
頰に涙がこぼれる。
「……ジアナさん、あいつはそんな事で嫌ったりしませんよ。だって自分で言ったじゃないですか。国の為、つまりは誰かの為にやった事だって。だったら、あいつも気にしませんよ。」
士郎は、慰めの言葉をかける。
この言葉は、予想であり、自分を創太に置き換えて考えた事からくる物だった。
「……すみません。取り乱して、心配をおかけしていました。親身になって聴いていただき、ありがとうございます。」
彼女は、自身に溜まっていた物を吐き出した事で、心に纏わりついている重い感情が、少し落ちていく感覚があった。だが、ほんの僅かであり、全てではない。
やはり、本人に直接言わなければ、その返答がどうであれ、それが全て解放されないと、彼女自身も理解していた。
ジャンヌ・ダルクは、瞳に溜めていた涙に気づき、指でそれを拭き取る。
「さあ、行きましょう。彼が戦わなくても良いように、早くこの戦争を終わらせましょう。」
彼女は、あえて元気そうに振る舞う。暗くなってしまった空気を少しでも明るくするために。しかし、その奥底では、恐怖が潜んでいる。
=====
日が傾き、夕方になる頃、俺はコンビニ弁当を手にぶら下げながら、帰路を歩く。
衛宮と戦い終わった後、三十分前まで、ただ何を考えるわけでもなく、縁側で座っていた。生きる気力を無くしたかのように。ただし、空腹は感じるようだった。
昼は、そんな事はなかったのに、急に腹が減ったと思ってしまった。無気力のくせに、欲望だけは働きやがる。そんな自分に嫌気が指す。
晩飯に、衛宮の家にある食材を使おうかと思ったが、やめておいた。いつの間にか居間に、冷蔵庫の中身使え、という書き置きがあってもやめておいた。
人様の、ましてや、俺のわがままな戦いに付き合ってくれた衛宮の物を使えるわけがない。俺が一人になるために、家をわざわざ貸してくれている状態でもあるのに。
あいつは、本当に訳のわからないところがある。
「……ん?」
そして、衛宮の家が見える距離まで来た時に、その前で立っている奴が見えた。いや、感じたと言った方がいいだろうか。
「衛宮ならいねぇよ、アーチャー。」
「ほう、敵城視察を命令されたので来たものの、目的の奴はいないか。」
霊体化をしていたアーチャーは、姿を現わす。
命令というのは、きっと遠坂に与えられたんだろう。まあ、俺にはもう関係ない。この戦争に参加していないのだから。
「ならば、貴様は何故ここにいる?」
「別にいいだろ。そもそも、俺は部外者だ。そんな奴の事なんか知っても、何の得にもならない。」
「その様子だと、戦う事をやめたようだな。」
「っ……!」
何故わかった?そんな素振りを見せた覚えはないぞ。
「どうやら、図星か。」
まさか、カマかけやがったのか。
……いや、バレた所でどうだというのだ。さきほど俺自身も言ったはずだ。部外者の事を知っても何の意味もないと。
「だから?お前には、どうでもいいことだろ。」
「ああ、そうだな。……だが、少しだけ言わせてもらおう。」
アーチャーが俺に?何だろうか。諦めるなとかそんなんを言い出すのか?なんだかんだ皮肉を言いながらも、こいつは英霊だ。
けれど、何を言おうとも、俺の心に響く事はない。こいつは、あくまでも、他人なのだから。他人……?
「もう二度と戦うな。」
その言葉に、俺は呆気に取られた。
「お前は、衛宮士郎よりも利口そうだから、警告を無視する事もないだろう。」
「……何故?」
疑問に思うよりも、ほぼ反射で問う。
「何故……か。俺は、お前のような奴を見た事があるからだ。半端な覚悟で夢を追い、そして絶望した奴をな。
だが、お前はまだ間に合う。全て半端でも、せめて身に合う事をすれば、後悔はしないだろう。」
……意外だ。裏に何があるにしても、説教じみたことをする奴には思えなかった。
「話はそれだけだ。私は戻る。偵察の筈が、敵に見つかってしまったのだからな。」
そう言って、アーチャーは霊体化し、姿を消した。マスターである遠坂の下へと帰っていったのだろう。
しかし……なんであんな事を。遠坂がさせたにしても、考えにくいし、やはりあいつ自身が?
「……考えても無駄か。」
俺は、もう戦わないんだ。せめて、敵に捕らわれないようにするしかない。あいつらの迷惑にならないように。
=====
アーチャーと創太が、別れた直後の事。
「ちょっとアーチャー、どこ行ってたのよ。」
「ここら一体の地形把握をな。」
住宅街の一角で、遠坂とアーチャーがいた。
「それは、初日にやったんじゃないの。しかも、この近く……」
衛宮士郎の家がある。そう言いかけて、止めた。アーチャーの事を考えると、それはあまり持ち出さないほうが良いからだ。
「まったく。士郎と創太が仲間割れした事は、さっき使い魔で分かった事でしょ。」
この二人は、すでに仲間割れの事を知っていた。セイバーがキャスターの手に渡った事も、創太と士郎が別々の行動をしていた事も。
なのに、アーチャーは創太に対して、その事を知らないフリをしていた。そして、敵である衛宮士郎がいないと分かっていて、あの家を監視していた。一体何故なのか。
「……良いわ。とにかく家に戻るわよ。」
遠坂は、呆れたように言う。マスターが背を向けて帰ろうとした時、アーチャーは
「お前は、間違うなよ。創太。」
誰にも聞こえないような小声で、そう呟いた。