道場での特訓から時間は進み、すでに日が沈んだ後になる。晩飯を済ませた俺達は、今夜どう動くかを議論していた。遠坂は朝に出て行ったので、いるのは俺とジアナ、衛宮、セイバー、イリヤスフィールの五人だ。
内容としては、最初にイリヤスフィールが、あくまでも戦う気はないようで、戦力としては考えないように、と言っていた。
それ自体に誰も文句を言わなかった。しかし、何処に行くかが問題だった。
「やはり、キャスターのマスターを探すべきではないでしょうか。彼女が、柳洞寺に拠点を置いている事は明確です。」
「俺もジアナの言う通りだと思う。ランサーのマスターは分かってるんだ。となると後は、そこの情報を集めるのが得策だ。」
ランサーのマスターが言峰という事は、すでに衛宮達には伝えてある。となると、不明のマスターはキャスターのソレだけだ。
「そうするべきなんだろうけど、目星はついてるのか?」
「こんなの誰でもつくだろ。あいつは柳洞寺に巣食ってる。しかも、マスターからはあまり離れられないから、あそこに必ず居るはずなんだ。」
あれ程の魔力を持つキャスターならば、マスターを洗脳するなんて事、造作も無い。
けれども、依り代という存在は必要だ。それゆえに、マスターを目の行き届く範囲に置いておくという事はしてあるはず。となれば、捜索範囲は自然と狭まる。
「だから、今夜はあの寺を探るべきだ。」
「私もその意見には賛成です。シロウ、貴方はどうします?」
セイバーが、衛宮に意見を聞くと、全員の視線が集まる。その本人はうーん、と唸りながら悩んだ後に結論を出す。
「分かった、それでいこう。」
「よし、じゃあ次はどう入るかだが……」
と、次の議題に移ろうとした時、照明が消えた。
「……!来ます、サーヴァントです!」
セイバーの声と共に、全員が臨戦態勢に入る。その次の瞬間には、外側の障子と窓ガラスが破られ、大勢の骸骨が侵入してくる。
いや、骸骨にしてはおかしい。頭の部分が口だけだからだ。そんなのは些細な違いかもしれないが、その違和感がどうしても頭に残ってしまった。
「シロウ君は下がってください!この程度ならセイバーだけでも対応できます!」
ジアナの指示に、衛宮はコクリと頷き、その通りに部屋の奥へと移動する。
セイバーは、骸骨を難なく薙ぎ払っていく。これならば、俺達の援護は必要ないな。
だが変だ。こんな事をしてきた犯人はすでに分かっている。先ほどまで議題に挙がっていたキャスターだ。これほどの骸骨を動かすには、魔術の技術が相当ないと無理だ。
しかし何故、セイバーが簡単に倒せる雑魚を使って襲撃を掛けてきたのか。あいつは間違ってもバカな事はしない奴だとは思うのだが。
「ここで、応戦していてもキリがありません。元を叩かなければ、消耗するだけ。ですから、私は外へ出ます。倒し損ねた敵は、ジアナに任せます。」
「ええ、分かりました。」
その会話の後に、セイバーはマスターの意見を聞かないまま、外へと飛び出していく。残ったジアナは、俺達に指示を出す。
「ソウタ、凍結魔術で足止めを。敵を確実に倒しながら進みます。シロウ君も、投影魔術で援護してください。ただし、昨日のような剣は使わないように。」
俺達二人は、それぞれ了解の意を込めて返事をして、指示通りのことをこなす。
ジアナが俺に凍結魔術で、と言ったのは床が畳で、土を使う事が出来ないからだ。
さらに、氷魔術とあえて言わなかった理由は、厳密には違うからだ。あくまでも、氷を作るのではなく、温度を低下させて、気体を固体にする魔術が、俺が今から使う魔術だ。
次に、衛宮に対して言った剣というのは、『カリバーン』の事だろう。あれを作るにはかなりの魔力を使う筈だ。本人は、そんな事もないと言っていたが、それにしてもあの剣は、衛宮には身の丈の合わないもの。それ故、多用するのは危険だ。
「……嫌な予感がする。」
ふと、衛宮が俺にしか聞こえないような小声で何かを言い出した。
「おい、衛宮?」
「セイバーが危ない!」
「士郎くん⁉︎待ってください!」
ジアナの制止を無視して、セイバーの後を追う衛宮。
一体、何の勘が働いたんだ?令呪を通してセイバーの危機を察知した訳でもないのに、あんな鬼の形相で飛び出すなんて、意味がわからない。
「ソウタ、今すぐ彼を追いかけますよ!」
「俺はいいが、イリヤスフィールはどうするんだ?」
「その心配はありません。何故かは分かりませんが、セイバーが出て行った時から、敵は中に入ってきていません。」
そう言えば、敵の骸骨はもう姿を現さなくなった。衛宮はこの事から勘付いたのか?
「分かった。なら、早く行こう。」
俺が了解すると、ジアナは後を着いてくるようにと言い、外へと出る。俺も指示通りに動き、そして、状況を把握すると、大量にいる骸骨の奥で、すでにセイバーがキャスターにトドメの一撃を放とうとしていた。
いや、トドメの一撃というのは語弊がある言い方だ。なぜなら、キャスターの体には傷の一つも無く、セイバーのその攻撃は一度目だからだ。
しかし、それでもセイバーの一閃はキャスターが反応できないものだ。
けれども、何故だ?何故拭い切れない不安感が生まれてくるんだ?
何故キャスターはあんなにも不敵に笑っていられるんだ?
その訳が、今やっと理解できた。キャスターの懐にある何かの所為だ。
その何かは、明確に判明はできない。しかし、それをセイバーが受けてはならないという事だけは判明している。
「っ……セイ……!」
俺と同じように危機を察した衛宮は、令呪を使おうとして、叫ぶ。しかし、その声は途切れてしまった。
そりゃそうだろう。俺も驚きで声が出ない。なぜなら、
俺より少し後に出て行ったジアナが、すでにセイバーの横にいるのだから。
「はあああっ!」
「っ……!」
ジアナの蹴りにより、セイバーの体は流れ、結果キャスターが描く策の通りにはならなかった。
「ひとまずは……っ!」
ひとまずは、安心だ。そう言おうとした瞬間に、また新たな一難が降りかかる。
セイバーの吹っ飛ばされた先にいる骸骨が、何かを突き刺そうしている!
その何かは、奇妙な形をした短剣だ。恐らくだが、先程までキャスターが持っていたものだろう。複数あるものなのか、特殊な方法で骸骨に持たせたのかは分からないが、放っておくのは危険だ。
セイバーの体制は崩れている。立て直しかけてはいるが、あれでは間に合わない!
ジアナには任せられない。あんな事をした後に、すぐに次の行動へと移れるはずがない。
衛宮に令呪を使わせるか?駄目だ。そんな事をしてたら、時間がすぐに経つ。衛宮自身もまだ何も気づいていないのだから、なおさらだ。
ならば、俺自身がやるしかない!
「
その言葉とともに、自身の中にある魔力に似た何かが、体の外で形どる。
衛宮の投影魔術に似ているように見えるだろうが、やっている事は全く違う。事前に物体を魔力に似た何かへと変換した物を、自分の内から取り出しているに過ぎない。
取り出す物は、ただの直剣だ。術式を仕込んだものでもなく、本当になんの変哲もない剣だ。色々と特殊効果がある物は、俺の
剣を取り出すのに一秒。自己最速記録ではあるが、ガッツポーズは後だ。手の平に剣が浮かび、切っ先は標的に向いている。
「間に合ってくれよ。
俺の声と共に、剣は寸分の狂いもなく骸骨へと突き刺さろうとする。しかし、敵の攻撃の前に俺の剣が届くかは、判断がつかない。頼む、頼むから……!
「っ……。」
結果から言えば、俺の攻撃は敵の体をバラバラにした。けれども、けれどもだ。
セイバーの背中には、あの奇妙な短剣が刺さっていた。
そして、あの短剣の正体がやっとわかった。あれは、魔術を無効にする物だ。殺傷力は無いもの、魔術には絶大な効果を発揮する。
「おい、衛宮。令呪はどうなってる。」
「……。」
恐る恐ると、衛宮は左手の甲を見る。本人も何が起こっているのか、理解しているのだろう。
俺たち二人の視線には、かすかに残っている令呪があった。かつての血のような赤色はなく、マスターの資格はあるとしても、サーヴァントを持たない事を意味していた。
「ふっふっふっ、あっはっはっはっ!
まんまと引っかかりましたね。そこの彼女のせいで、一回目は必ず避けられると踏んでおいて正解でした。」
隙を生じぬ二段構えってか。うるせえんだよ。
セイバーの方へ振り返り、状況を確認する。予感が正しければ、正しければ、だ。
「逃げ……。」
「っ!」
ジアナがセイバーの攻撃を避ける。セイバーは懇願するように逃げてと言った。あいつはもうすでにキャスターの支配下だ。
「ソウタ、士郎君!今すぐここから逃げてください!」
「けど、セイバーが……!」
「馬鹿!今はそんな事言ってる場合じゃねえだろ!
いいか、この状況からセイバーを確実に取り返す方法なんてものはない。一旦引いて我慢するしかねぇんだ。
分かったら、さっさとイリヤスフィールも連れて逃げるぞ!」
早口で衛宮の意見を押し返したあと、イリヤスフィールを回収すべく、家の中へと戻る。
「おい、イリヤスフィール!逃げるぞ!」
「え?いきな……」
「理由は後だ!衛宮、こいつを運んでくれ。」
「あ……ああ、分かった。
イリヤ、ちょっとだけ我慢してくれ。な?」
衛宮はイリヤスフィールをお姫様抱っこで持ち上げる。それをされている幼女の方を見てみると、少し恥ずかしそうだ。
「とりあえず、俺の家に来るんだ。場所はわかってるな?」
俺の質問に、衛宮が頷いた事を確認して、居間から玄関へと走り、勢いよく外へ飛び出す。
その際に、横目でジアナとセイバーを見る。ジアナは完全に防戦一方で、セイバーはぎこちない動きながらも猛攻を繰り出している。
ジアナには悪いが、今は時間稼ぎをしてもらおう。あいつには後で連絡もできる。だから、俺たちがやるべき事はこの場を離れることだ。目的の場所を、俺の家とは言ったものの、本当はどこでも良かった。
「……っ!創太!」
衛宮が叫ぶと同時に、俺に危険が迫っていることに気がつく。
目を前にやれば、骸骨が俺に襲いかかる姿がはっきりと確認できる。すんなりと逃げられるわけでも無かったか。
「どけ!」
だが、俺も黙ってやられる訳にはいかない。敵の攻撃を紙一重で避け、反撃のボディブローを入れた。そして、骸骨は四散する。
だが、周りにはまだ十数体の敵が存在している。これを全て相手にするのは、少し無茶かもしれない。
「ふふっ。
そう簡単に逃がすと思っていたのですか?」
少し視線を上にやれば、ほくそ笑むキャスターが、宙に浮かんでいた。
サーヴァントがいるならば、戦うなんていうのは、やめた方が良さそうだ。
「そうなってくれれば、ありがたい話だったな。」
精一杯の皮肉を言ってみたが、客観的に見ればただの希望的観測にしかならない言葉だった。
さて、どうする。走って逃げるにしても、幼女を抱えてとなると難しい選択だ。ラーニングした転移を使えればいいが、三人揃っては俺の魔力が保たない。戦うというのは、さっきも言った通り論外だ。
どれも現実的じゃない。
「創太。」
「なんだ?」
逃げる為の策を練っていると、小声で衛宮に呼ばれた。
まさかだとは思うが、囮を買って出るなんて事はしないよな?
「俺が引きつける。だから、その間に……」
「合図出すから、それまでな。」
俺が許可を出すとは思わなかったのか、衛宮は目を見開いてこちらを凝視する。
本当はさせたくなかった。けれども、口論できるほどの時間はない。ならば、相手に合わせるしかないんだ。
「ありがとな。」
衛宮はお礼の言葉を言った後、敵を見据え、戦闘態勢に入る。
「
前へ出た魔法使いは空虚を握り、そして構える。すると、魔力が空虚へと入り込み、形と成し、剣へと姿を変えていく。
それは、白と黒の双剣で、アーチャーも使っていたものだ。
「どうやら、赤毛の坊やが囮になるそうね。」
キャスターの勝ち誇った顔が、妙にムカつく。その吠え面をかかせてやりたいが、今は我慢だ。
「うおおおお!!」
周りから次々と襲ってくる敵を、適切に対処していく衛宮。
その間にこちらは、逃げる準備を進める。
「
様々な身体能力を魔力に練り変えて、高ランクの魔術を使える為の燃料を補給する。最速で、効率など考えずに。ここで、時間をかけてはいけない。
そして、十分に魔力が溜まった時、俺は合図を送る。
「衛宮!」
行使する魔術は、以前のバーサーカー戦に使った感覚にノイズを発生させる光を生み出すものだ。正直言って、今回は俺の魔力を直接消費するために、あまり使いたくはなかった。今の状況からしたら仕方がなく、使うしかない。
「……っ!」
周りが、一瞬昼になったかのように明るくなり、敵は咄嗟に目を隠す。それと同時に、大きな隙もできた。
「よし、逃げるぞ!」
「ああ!」
作戦は見事に成功した。なんとかこの場から抜け出し、危機を脱する事ができた。だが、問題は山積みだ。戦力が大幅に減少し、相手が強くなってしまった。
けれども、まだ生きている。それならば、まだ可能性はある。だから、今は逃げる。
この暗い闇の中へと姿を隠すように、俺たちは突き進んでいく。
どうも、作者です。
やっとセイバーが誘拐されました。これで、ようやくUBWルート風に話が進められます。
というか、次回予告してから三話でその事が起こるってなんなんすかね⁉︎
はやく主人公をえ◯れ◯にさせたい。そんでもって、むーんにいかせたり、まじゅつしょうねんにさせたい。
とぅるー、のーまる、へる、の三種類のえんどがあるよ。
何言ってんだろ。