ひとまず間桐を介抱し、検査を行った俺とジアナは、その結果を報告しようと、居間に向かい襖を開ければ、そこはカオスだった。
「……こっちもこっちで問題発生か。」
問題、それはイリヤスフィールの存在だった。彼女の目が覚めた事で、事態が加速したようだ。さらには衛宮に抱きついたり、ホールドネックをしたりしたらしいが、それは別の話。
昨日、無理矢理家に連れて来たのだが、この後どうするかについて揉めているようだ。
片や遠坂とセイバーはさっさと、教会なり、自分の城なり、とにかくここでは無いところへ追い出した方がいいと言っている。元々敵だし、戦争の参加証である令呪も持っているからだろう。
片や衛宮は、教会も城も危険だから家で匿いたい、と言っている。親戚だと知ってしまった以上、他人とは思えないのもあるだろうが、それとは関係なく、衛宮自身の性格からそう言っているのだろう。
「シロウ、彼女は敵です。今はサーヴァントを持っていませんが、いずれ引き連れてくるかもしれません!」
「セイバーの言う通りよ。それに、家に居させたら寝首をかかれるかもしれないのよ。」
「そんなこと言ったってイリヤはまだ子供だ。放って置くなんてそんなことできない。」
と、こんな風に互いが平行線を辿っている。このままでは、日が沈んでさらに夜が明けるまで続きそうな雰囲気だ。
意味は無いが、一応本人の希望を訊いてみると
「私はシロウと一緒が良い。」
との事。
やはり大判焼きで餌付けられたようだ。あれだけではないだろうが、最初の切っ掛けではあるだろう。
さて、こんな時にどうすればいいのか。一番良いのは二人とも納得させる、つまり妥協点を提案する事だ。
しかし、一方は家に居させる事、一方は外に出す事の一点張りだ。その中間となると一体なんだ?家に居させる時間を決めて、それ以外は外に出させるのか?なんか違う気がするな。
「彼女をどうするかを決める前に一つ良いですか?」
と、考えていたらジアナが話の腰を折るような発言をする。
その言葉によって、全員の視線が集まる。
「本当ならば、もっと早く言って置くべきでしたが……凛。」
集まった視線は遠坂に移る。
「貴女はいつまでここに居るつもりですか。」
「っ……。」
殺気が込められた言い方。つまりは敵なんだから出て行けと言いたいのだろう。
遠坂は、向けられた殺気に一瞬怯んだかのように見えた。
「ジ、ジアナさん?なんでそんな……」
「そうでしたね。凛、休戦期間はとっくに切れている筈ですが?」
周りは一触即発の空気に変わる。
期間というのは、確かバーサーカーを倒すまでと言っていた。であれば、もう協力する必要はもうない。
つまりは自陣に敵が攻め込んでいるようなものだ。むしろ、よく遠坂は今まで居座り続けたと思う。寝首をかかれる事は無いと踏んだのか、あるいはそれをこちらにしようとしたのか。どちらにしても、こいつには出て行ってもらわなくては困る。
「……分かったわ。今すぐにここから出て行く。
けど、戦闘をする気はないから後ろから奇襲なんて真似はしないでちょうだい。」
すんなりと承諾した遠坂は、玄関からアーチャーと部屋の物を引き連れて去っていき、その姿を全員が見送るように確認した。
その後は中へと戻っていったのだが、衛宮だけは、まだ戦いたくないと思っているのか、納得しきれていないような顔付きで遠坂の背中を門前でずっと見ていた。
「で、何の話だったけ?」
だが、議題を解決しなければならない。衛宮の覚悟が足りないの何のは関係ない。
居間は、再び口論が飛び交う場所となる。
「イリヤスフィールを教会に保護させる話です。」
「それは、セイバーの意見じゃねえか。」
まあ、そのお陰で何が問題だったのかは思い出した。
「イリヤスフィールをどうするか、だったな。」
「私を忘れるなんて、いい度胸ね。」
その場にいる全員が、問題の起因に注目する。
「はいはい悪うございました。」
「ちょっと、それ全然謝ってないでしょ。」
幼女が頬を膨らませて、カワイイ。じゃなくてどうでもいい。
「……で、ここに居させる事と追い出す事以外に何か意見は無いのか?」
問いを投げかけるが、答えはない。つまりは他には無いのだろう。
「じゃあ、一旦多数決を取るか。別に今多い方で決まる訳じゃないし、誰がどっちの意見かっていうのを確認するだけだから。
イリヤスフィールを追い出す事に賛成の奴は挙手。」
俺の問いにセイバー一人だけが手を挙げる。という事は、俺を含めての三人の意見が同一だと決定された。
「……一応聞いとく。居させる事に賛成の奴は?」
今度はセイバー以外の三人が手を挙げる。
「な……!何故ですか、ジアナ!貴女だけは理解していると思っていたのに!」
セイバーは机に手を叩きつけそうな勢いで、ジアナに反論する。
「たしかに彼女をここに置いておくのは危険かもしれません。ですが、目の届かない所へ放っておく事の方が返って危険です。
それに、彼女は聖杯です。他人が使えば、一般人に危険が及ぶ可能性があります。」
「それならば、教会に保護させるべきです。いくらあの神父の性格が悪いとしても、役割は果たすでしょう。」
「悪い、のではなく歪んでいるのです。」
「歪んでいる……?」
「今まで凛がいたので言いませんでしたが、あの神父は前回の聖杯戦争でかなり悪質な事をしてきました。」
遠坂がいたら何故言えなかったのか、それは信用の問題だ。
俺たちが言峰に関して何かしらを言ったとしても、遠坂からしてみれば場を引っ掻き回そうとしてるようにしか見えない。例え言峰の普段の行いがどうであろうとだ。
「詳細は省きますが、とにかくあの神父に預けるのは反対です。
更に、イリヤスフィールは聖杯であり、それが他人に渡れば悪用される可能性があります。」
「ですが……」
と、まだ反論しようとするセイバーに、ジアナが手招きをして、耳を貸せという手振りをする。
なにか、大きな声で言えない何かを言うつもりだらうが、俺はジアナの隣なので丸わかりである。
「あの子はアイリスフィールの娘ですよ。同じ態度を、とは言いませんが、それでも冷遇にするのは良くないでしょう。」
あー、これは聞かれても構わないと言えば構わないが、困るものだ、色々と。
それを聞かされたセイバーはうーんと頭を抱え込んだあと、
「良いでしょう。」
と、了承。これで満場一致になったわけだ。
「やったー!これでお兄ちゃんと一緒に寝られるよ!」
「うわ!ちょ、イリヤ⁉︎」
「な……、それとこれとは話が別です!」
だが、問題は更に増えそうな。
「一度落ち着いたな?」
衛宮を取り合う騒動は一旦沈黙化した。そろそろ間桐の事を話さなくてはならない。
「なら、次はこっちの問題だ。」
と言った後に、俺は何があったのかを順に説明をした。商店街で間桐に出会い、そして、つい先ほどのジアナの検査の結果までの全てをだ。
「そんな事が……。
ジアナさん、桜は大丈夫なんですか。」
「今はまだ、としか言いようがありません。解決法もまだ分かりませんので、下手に手出しすると悪化する恐れもあります。」
「誰がやったのかは分かってるんだろ。だったら……!」
「その誰かは、今間桐の中にいるんだ。けど、すでにあいつの心臓と一体化してるような物だ。それを潰してみろ、あいつを殺す事になるぞ。」
俺の反論によって、衛宮は喉に何か詰まったように、それ以上はなにも言ってこなかった。
その誰か、つまり臓硯を殺すには間桐の心臓を一緒に潰さなくてはならない。間桐を救いたいと思う衛宮には悪いけど、思いつく手段は何も無い。
「一つ、方法はあります。」
「……えっ?」
「聖杯を使う事です。それならば、サクラを助けられるでしょう。」
確かに。ジアナの言っている方法ならば、可能だろう。
しかし、しかしだ。衛宮はイリヤスフィールを見つめていた。俺が以前に、聖杯をこいつに使えば助けられると言ってしまったのを思い出しているのだろう。
「もしそうしたとして……他の願いを聞き入れる余裕はあるんですか。」
「はっきりとは分かりません。」
聖杯がどれだけの力を持っているかは、この場の誰も知らない。少なくとも、街一つを焼き尽くすほどの力を持つことは確かだ。
「しかし、貴方が何を願うのかは尋ねませんが、どちらを優先させるかぐらいは決めておいてください。
叶えられる願いには、上限がありますので。」
「……はい。」
衛宮は何か悲しそうな顔で返事をする。
「次の話に移っていいか?現状あいつには何もしてやれないし、どちらにしろ、お前はこの戦争を勝ち抜かなくちゃならないんだ。」
厳しいと思うだろうが、聖杯を悪用されてしまえば、それで全て終わりだ。だから衛宮には、戦いに集中してほしい。衛宮自身のためにも。
「理解したな?なら、それぞれの戦力確認をしよう。まずは、俺たちのところからだ。」
その後は、セイバーがアーサー王だった事を知ったり、アーチャーが衛宮と同じ投影魔術を使うという情報を共有したりと、色々話し合った。
しかし、そこまではあくまでも再確認のようなものだ。大体は、互いに察しがついている。ここからは、新たなに動いた戦況について話すつもりだ。
「次は兄間桐の事だが、妹から聞いた話だと行方不明なんだと。衛宮達がライダーを倒した日から、そうらしい。」
「教会に行ったんじゃないか?慎二もあそこがマスター保護施設だって事は知ってる筈だ。」
「その可能性が一番高い。けど、ヤバイ事になるかもしれないぞ。」
「どういう意味だ?」
「あいつは前々からムカつく奴だったが、この聖杯戦争が始まってから何かと暴走気味だ。そしてジアナも言った通り、あそこには悪徳神父がいる。
そんな二人が出会ったら、どんな事になるか。更に間桐はお前に恨みを持っている筈だ。
つまりはお前に復讐、もとい逆ギレをするかもしれない。あいつが行動を起こすかどうかは不確定だが、もしそうなら、さっき言った事をいの一番に実行するだろう。」
ただの推測にしか過ぎないだろうが、どうなるか予測がつくのは難しい。
「だから、今いる敵はまだ四組いると思え。それ以上も可能性としては無くはないが、正体が判明しているのは四組だ。」
「ああ、分かった。」
一応補足しておくと、四組というのは、アーチャー組とランサー組とキャスター組とワカメ組の事だ。
「ねえ。それよりも、お腹空いちゃった。早く朝食にしましょう?」
と、我慢できなくなった幼女が食事の提案をしだした。
確かにとは思ったものの、俺はある事を思い出す。
「えっと、俺が運んできた食料は?」
「もう冷蔵庫の中に入れてある。」
「そうか、悪いな。」
なんだ、もう移動させてたのか。
あの時は、ドタバタしていてここに持ってくるまではした。しかし、その後は放棄して、妹間桐の事を優先してしまったから、食料がどうなっているのかは分からなかった。
「……おい、衛宮。なんで台所に行こうとしてんだ?」
「え?」
「え、じゃないんだよ。さっさと戻れ。食事は俺とジアナで用意するから。」
「けど———」
「けども何もない。昨日の功労者は休むべきだ。な?」
「……分かったよ。」
納得したか。正直言って、こう簡単にはいかないと思っていたが、案外素直に従ってくれた。毎回こうだといいのだが。
「ふっ!」
「はああ……!」
場所と時間は打って変わり、全員の食事が終わった後の道場だ。
いやー。しっかし、セイバーとジアナはよく食べてたな。セイバーはいいとして、ジアナはここ最近、普段の三倍ぐらい食べている気がする。体力を使っているからだろうが、それにしても食べ過ぎだ。
……太るとか、そういう言葉は言わない方が良いのだろうか。
まあ、それはどうでもよくて、今の状況を説明しよう。
今は道場内に竹刀の乾いた音が、連続して響き渡る。セイバーと衛宮の修行が行われているからだ。
セイバーとしては、バーサーカーを倒したのだからやる意味は無いのでは、と言った。しかし、衛宮は、日課でもあるし何より未熟であるから、と続けるようにした。
それを始める前に色々と揉めていたようだが、まあそれは良いのだ。だが、俺はある事がどうしても気になってしまう。
横でプルプルと震えている幼女の事が。
「うう……寒い。」
そりゃそうだよな。こんな道場の中でずっと座ってるだけなんて、地獄に近いようなものだ。
俺?俺は逆立ち腕立てやってるから寒いとか関係ないし。
しかし、流石に防寒具の一つも無しに震えているのは、少し可哀想だ。こいつが、前に着ていたコートもないし。ならば、あれの出番だろう。
「ほらよ。」
「……?なにこれ。」
俺は筋トレをやめてポケットから出したあるものをイリヤスフィールに渡す。
「カイロだ。もうちょっと待てば、温かくなるはずだ。」
「……あ、本当だ。」
実家から送られてきた即効性のカイロだ。実験の副産物ではあるがが、あくまでも魔術の類ではないらしい。あそこは何やってんだろう。
「けど、手だけしか温められないよ。」
欲張りな奴め。けれど、確かにそれは思う。一点にしか効果がないのは欠点だ。
「仕方ないな。ちょっとそれ貸してくれ。」
ならば、熱を全体に広げればいい。その分効果が薄くなるが、熱の発生量を上れば問題ない。
「
再び、イリヤスフィールにカイロを渡す。
「すごい……さっきよりも温かい。一体どうやって?そんな魔術見たことない。」
「企業秘密だ。」
やった事自体は単純だがな。カイロを中心として、ある一定の範囲内に、熱を均等化させているだけだ。代償として、カイロが熱を発生させる時間が通常よりもかなり短くなっている。多分、二時間ぐらいしか保たないだろう。
「貴方……ソウタだったかしら?」
「やっとこさ名前を覚えておいてくれたか。」
「貴方の情報なんて一切無かったのよ。そんな器用な事ができるのにね。」
それはジアナさんのお陰じゃな。ありがたやーありがたやー。
「はあっ……はあっ……。」
「シロウ、そろそろ休憩を挟みましょう。」
イリヤスフィールと会話をしていたら、衛宮の体力が尽きたようだ。
「向こうは一休みするみたいだな。イリヤスフィール、その話は後でだ。」
「どうするのかしら?」
「選手交代するだけだ。セイバー、一戦だけ頼めるか?」
「ええ、良いでしょう。」
衛宮は試合場から出て、代わりに俺がセイバーと対峙する。
「前はほとんど素の身体能力で戦ったが、今回は力を全開にして戦うつもりだからな。」
「なんだよそれ。前は本気じゃなかったのか?」
「いいや、とは言いがたいが、前とは違う戦法を試すだけだ。あれは、俺の
セイバー以外の二人は、不思議そうな顔をしている。
無理もないだろう。だがやる事は、ジアナが普段してる事と変わりはしない。二人にとって初見ではないのだ。
「何秒でしょうか?」
理解しているセイバーは、俺が言おうとしていた事の先を読み取る。
「俺としては、体力を残したいから、五秒だ。本当ならもう少し伸ばせるが……すまないな。」
「いいえ、構いません。むしろ、その方が良いでしょう。敵と戦う余力はいつも残しておいてください。」
にしては、衛宮に対して馬鹿みたいにシゴいてるような……やめておこう。
俺の力は信用されている。そう解釈しよう。本当は弱いのに。
「それじゃあ、始めるか。五秒だからな。それ以上は勘弁だ。」
そう言って、無駄な感覚を全て切り捨てる。
切り捨てた物は必要な部分に創り変える。魔力は身体能力に。耐久力や体力と言った物も、筋力や瞬発力に変える。
防御的な意味を持つ力や持久力を、全て攻撃的な力に創り変える。
そうする事によって、俺の身体は
「
一時的に、英霊以上の物に創られる。
どうも、作者です。
強引オブ強引って言葉、知ってるかな。この小説の事を言うと思うんだ。
特に遠坂が、離れていくシーンとかだよ。あれは流れとして仕方ないんだけど、もう少し色々と納得ができるような物にできた筈なんですよ。けどね、それをやってるとこの小説いつ終わるか分からないんですよ。でも、結局今回も意味の無いシーンを入れちゃってるんですよ。もうどうなってるんですかね。
あまりオリジナル要素も無いし、オリ主の意味もない。オリジナル展開もない。この小説意味あるのかな、とか思い始めましたよ。
けど、続きは書きますけどね!
そろそろ、飛ばし気味でやらないと、やりたい事がやれないって分かってきた。けれど、無駄なシーンを書いちゃうのが作者です。
さっさと誰かさんの正体をバラす所まで書きたい。
感想をよこしやがれくださいって言ったら評価バーが黄色から緑になったぜ!これは、謙虚になりなさいという神さまからのお告げだな!
いやまあ、偶然だとは思いますが、何が悪いのかぐらいは教えてほしいです。無理にとは言いません。誰かが見てくれてるだけでもありがたいので。
次回は来年です。メリクリあけおめことよろ入学社式鬼外福内鯉のぼりバレンタインデー暑中見舞いトリックオアトリートハッピーハロウィンメリクリ。
ただのヤケです。すいません。