遠坂、創太、そしてジアナさんが行った三度に渡る奇襲は失敗に終わった。
ジアナさん曰く、この奇襲が成功しなかった場合、勝率は急激に下がってしまうそうだ。
しかも、単に失敗しただけでなかった。ジアナさんは背中に大きな傷を負い、創太はバーサーカーの攻撃を腕で数発受け、どちらも立つ事すらままならない。
この状況は絶望的だった。
単純に戦う人数が減ってしまい、手札は数少ないものとなってしまった。
「はああああっ‼︎」
その時、セイバーは構えた。
あの構えは宝具を放つ物だ。ライダー戦の時に見たそれと同じだった。あれならば、確かにバーサーカーの体を貫く事ができる。
……だが、それで本当に良いのだろうか?
今のセイバーは、魔力が少ない。宝具を使えるかどうかも怪しいぐらいに。撃てたとして、自身が消えかねない可能性もある。
つまりは、ほぼ捨て身の行為だ。
……あいつに消えて欲しくない。
ジアナさんはそれが最終手段だと言っていて、バーサーカーの最後の命を取るまでは、使う事を厳禁してほしいとも発言していた。
考えていると、やがて、セイバーを中心として、魔力の渦が出来ていた。それと同時に、あいつの魔力も減少していた。
このままでは、本当にセイバーが消えてしまうかもしれない。だが、俺にできる事はない……。
……あの夢で見た剣があれば。
ジアナさんにも、投影は今回無意味で、セイバーがピンチの時に令呪を使ってくれと、俺の役割はそれしかないと言われた。
……けれど、潜在能力があると言われた。
俺は役立たずなのか……
創太でさえ、バーサーカーと対峙したというのに。
……俺に、できないのか?
俺は……
「使うな、セイバー‼︎」
左手の甲が赤く光る。
「な———どうして、もうこれしかないではないですか、シロウ……!」
いや、まだある。バーサーカーを倒す方法は残されている。
厳密に言えば、今は無い。これから創り出すのだから。
「っ……!」
剣を使っただけで、セイバーはふらつく。
その剣じゃ、今のお前には使えない。
だから、待ってろ。俺が使える剣を用意してやる……!
「おおお‼︎」
「イメージですか?」
ジアナさんに魔術を教わった時、俺は何がコツはないかと訊いた事がある。
その答えがイメージだった。
「はい。魔術に限った事ではありませんが、イメージというのは非常に重要なことです。
自身が何をするのかを頭の中で思い描き、それに沿って動いてみてください。ただぼんやりと考えるのではなく、確固とした想像を持って。
貴方の場合は、剣ですね。構造をしっかりとイメージして、投影に挑みます。
まあ、私は、投影に限らず、身体強化以外の魔術は得意ではありませんので、あまり細かい事は教えられませんがね。」
最後は少し苦笑いをしながら、話していた。
イメージ……。
そうだ、イメージだ。
想像しろ。
幻想しろ。
自分が勝てるものを。
細部の一片まで、投影するんだ……!
「投影、開始。」
想像の理念を開始し、
基本となる骨子を想定し、
構成された材質を複製し、
制作に及ぶ技術を模倣し、
成長に至る経験に共感し、
蓄積された年月を再現し、
あらゆる工程を凌駕し尽くし———
「く、あああああ‼︎」
ここに、幻想を結び剣を成す———!
「■■■■■ーー‼︎」
黒い巨人は吠え、無数の斬撃を呼び起こす。
だが、俺は一撃もこぼすことなく防ぎきる。
いや、それをやりきったのは、俺じゃなく、
この手に握る黄金の剣だ。
先ほどまではなかったモノ。
しかし、今は質量をしっかりと持ち、現にバーサーカーの攻撃を弾いた。
まるで、自身の意思があるかのように。
「な——あの剣は、私の……⁉︎」
呆然としたセイバーの声。
視線の先には、本来は存在しえない剣。
だが、俺はたった
今まで、そんな技量など無かったにも関わらずだ。
「っ……!」
だがそこまでだ。
黄金の剣は、俺に全てを託したかのように、敵の猛攻に弾かれる。
「は……あ……」
腕の感覚はぼぼ失い、手首が赤く膨れ上がる。
しかし、この手は剣を離していない。もう剣を振るうほどの力は残っていないはずなのに。
創太は、魔術の強化があったとはいえ、良く生身でこの攻撃を受け流したと思う。しかも、あいつは剣の補助なんてものは無かった。
「■■■■■ーー‼︎」
バーサーカーは、動けない俺に、流星のこどき一撃を放つ。
お前は危険だ。自分を殺しえるほどに。
そんな目をしているかのようだった。
「っ……」
動け、さもないと殺られる……!
バーサーカーを上回る剣は作れた。
なのに、この作る為だけの体では、黄金の剣を使いこなせない。
あともう一歩があれば……!
「シロウ、手を——!」
「え……?」
彼女の声が、最も近く聴こえる。
気づくとセイバーは、俺の手に自身の手を添えていた。俺の考えを汲み取ったかのように。
この黄金剣の持ち主は、俺を巻き込むように、身を返す。そして、
敵の攻撃に対抗する、カウンターを放つ!
だが、そこには大きな問題が発生していた。
セイバーの動きに対して、俺の反応が遅れたという事だ。
よって俺たちの攻撃が届くよりも、バーサーカーのそれの方が速い事が、誰の目にも明らかだった。
俺のせいで負けるのか……
「そのまま、振り切れ!」
遠くにいる、誰かの声が聴こえる。それは馴染み深い声の一つだった。
答えは直ぐに判った。創太だ。
何故そんな事を言ったのか。
その答えも直ぐに解った。
目の前のバーサーカーが爆散したからだ。そのお陰で、敵の動きは一瞬硬直する。
「「おおおおお‼︎」」
二つの声は一つになり、そこから黄金の一閃が産まれる‼︎
光は、バーサーカーを飲み込み、体の奥深くまで食い込む。
それは一時だけ。
やがて、黄金は消え、静寂が森を支配する。
巨影は動かない。まるで、命を亡くしたかのように。
いや、まだかもしれない。むしろ、まだ戦える可能性の方が高い。
セイバーも、まだ構えている。
緊張が、続く。
しかし、敵は全く動かない。もしかしたら……
「
まだ、生きていた……!
俺もセイバーも反応できていなかった。
不動が、一瞬で神速に変わり連撃のような一撃が繰り出される。
俺たちには対抗する術はもうない。
反応すらできていなかったのだ。体を動かすのはもう遅い。
こんな状況でもはっきり解る。バーサーカーが放った攻撃は宝具だ。
生前に培った技術を駆使した宝具。狂化のせいで失われたと誰かが言っていたが、最後の最後に、使ってくるとは……!
先ほどの単なる力任せの連撃ではなく、洗練された一つ一つの斬撃が重なってできた技だ。
こんな物は、反応できたとしても、対処しきれない。
「くっ……!」
ダメだと解っていても、まだ方法はないかと模索し続ける。
体が動かないなら、他は無いのか。
何か、何か……!
「……?」
来ると思っていた宝具はいつの間にか止まっていた。
何故だ、と理由を考えていると、ある一つの異変に気がついた。
バーサーカーの真ん中に一本の槍が刺さっていた。
巨人が握っていた大剣は、地面に落ち、重い音を鳴らす。
今度こそ……なのか?
「ここで終わりか……」
言葉と思えない声を上げていたバーサーカーが、口に出したのは敗北だった。
「それが貴様の剣か、セイバー。」
そして、己を倒した騎士も見据え、重い声でそう言った。
「これは
ですが——」
「今のは貴様の剣ではなかろう。ソレはその男が作り上げた幻想に過ぎん。」
セイバーは静かに頷く。
「所詮はまがい物。二度とは存在せぬ剣だ。
だが、しかし——」
バーサーカーの胸が開く。
「——その幻想も侮れぬ。よもやただの一撃で、この身を七度も滅ぼすとはな。」
「ですが、その一撃で斃し切れなかった事も事実。」
その通りだ。そもそも、創太の援護が無ければ当てることすらままならなかった。
「だとしても、貴様等は勝利した。
弓兵が足止めし、あの男が我の隙を創り、貴様とその男が剣を振るい、背後にいる少女が最後の命を獲った。
それがこの戦いにおける事の顛末よ。」
最後の言葉を言い切り、狂戦士は大気に霧散していった。
=====
……終わった。戦いは終わった。
戦争自体はまだ続くが、峠は越えただろう。
最初から最後まで、冷や汗物だった。
足止めの時に、バーサーカーの体を貫通して、その中に魔術で布石を仕掛けといて本当に良かった。そうでなければ、動きを止めてバーサーカーの命をあの剣で七つ削れなかったからな。いやあ、バレるかなと思ったけど意外にバレないもんだな。
……オーバーキルした分の命が削れるとは予想外だったが。
あの剣といえば、セイバーは名前を『カリバーン』と呼んでいた。
俺の知識としては、確か王を選ぶ一振り目の剣と言われているし、その王が持つ『エクスカリバー』という剣と同一の物だとも言われていた。史実は前者だったか。
だとすると、セイバーの真名は自ずと判る。
アーサー王。無敗の王と言われ、ブリテン島、現イギリスを統治していた人物。日本では誰もが知っている英雄だ。また、数多くの伝説も残している。
まあ、伝説が史実とは限らない。アーサー王って男の筈なのに、セイバーは女性だし。
話を戻そう。衛宮が投影した剣で斬りつけた後に、バーサーカーが狂化を解除して宝具を撃った時、心中では勝ったと確信していた。
何故なら、
そう、ジアナは背中に大怪我を負っていたのに、自力で治していた。あの状況では頭に血が回らなくなり、普通なら魔術を使えないが、あいつはそれをやってのけ、バーサーカーにトドメを刺した。
足止めの時に三回。俺の魔術で一回。あの黄金の剣で七回。ジアナのトドメで一回。計十二回か。
どうやら、イリヤスフィールは令呪とかで、命のストックを増やさなかったようだ。そうならなくて良かった。
「二人とも無事ですか。」
「私は平気です。それよりも、シロウが……」
ジアナはセイバーと衛宮の無事を確認する。セイバーは、ジアナが回復している事に疑問を全く抱かずに、衛宮の事を心配する。
衛宮は、力を使い果たしたのかセイバーに体を預けていた。
その手に黄金の剣はもう無い。
「シロウ君は大丈夫です。」
「ジアナ、何を見てその判断を……!」
「彼の体を見て判断しました。」
その事には疑っているセイバーは、衛宮の体を見回し
「これは……」
絶句した。
そりゃそうだろう。傷があった場所は大量の刃によって塞がれていたのだから。
「後で説明します。それよりも……」
ジアナが振り向く。視線の先にあるのは一人の幼女。
「………」
「イリヤスフィール……!」
身構えるセイバー。
これから、何をするか。それがジアナの言いたい事だ。
本来ならば、令呪を再利用されない為に殺すべきだろう。だが……
どうも、作者です。
やっとバーサーカー戦が終わりました。
ですが、ここまではチュートリアルのようなもの。ここから更に戦いは激化する!
させないと、オリ主の活躍が無くなるんですけどね。
あと、チュートリアルとか言ってますが、半年以上もかけてやることでもありませんね。
戦闘パートは筆が進むぜ!なんで作者は説明パートを序盤にポンポンと入れちゃうんでしょうね。本当に困ったちゃんです。誰も得しないというのに。
ここまではFateルートにちょっとだけオリジナル要素を入れたぐらいですが、次からはUBWルートとオリジナルの半分ずつになるかも?
……いや、やっぱりなりません。
厳密に言うと、Fateルートの要素はまだちょっとだけ続きます。
次回、今度はセイバーが誘拐される⁉︎
思いっきりネタバレしたけど次の話も絶対みてね!