創太とアーチャーを城に残し、脱出をした俺たち。途中、セイバーが走れなくなり俺が担いで運んだり、俺自身の体が保たなかったりという事が起きたが、なんとかジアナさんが待っている小屋まで辿り着いた。
「面目ありません……。私が偽物だと気づかないばかりに危険な目に合わせてしまい……」
「いいのよ、ジアナ。私だってそうだった。非があるのは貴女だけしゃないわ。」
偽物というのは、城に入る前に遠坂達が発見したイリヤとバーサーカーの姿だろう。
……今、一番危険な目に合っているのは前線で戦っている創太とアーチャーだ。
「遠坂、アーチャーは?」
アーチャーの無事は創太の無事を意味する。絶対では無いが、前衛より後衛が攻撃される事は少ない。それゆえに十中八九俺が考えている事が合っている筈だ。
「……まだ、大丈夫よ。」
遠坂は右腕を確認して、確信する。
良かった。信じたとは言ったものの内心では懸念を残してしまう。
「だからと言って、創太が無事であるとは限らない。もしかしたら……」
あまり考えたくない事を、遠坂ははっきり言う。
けれど間違ってはいない。絶対という言葉はあり得ないのだから。
「ええと……少しよろしいですか?」
話の腰を折るようにジアナさんが喋る。
「さっき……十五分程前に、創太から念話がありました。」
「なんて言ってましたか?」
「バーサーカーとの戦闘を終えてこちらに向かってくるそうです。もうそろそろ……」
「たっだいまー、足止めはしてきたぜ。」
=====
いや〜、アーチャーの腕の中で揺られること十五分。ついに、ジアナ達と合流できた。
「創太、なんでアーチャーに運ばれてるんだ?」
「色々あってな。」
「……訊きたい事は色々あるけど、まずは現状報告よ。」
「そうだな。アーチャー、降ろしてくれ。」
俺の言葉を聞いたアーチャーは丁寧にジアナの隣へと降ろしてくれた。
「サンキュー。」
「ありがとうございます、アーチャー。わざわざ、運んでいただいて。」
俺がアーチャーに向けて礼を言うと、ジアナが続いて頭を下げる。
「……まったく、貴方は無茶しすぎです。魔力切れまで起こして。」
と思ったら次に俺への説教か。
「いやー、あれは仕方ない事なんだって。」
「仕方なくありません。」
先のバーサーカー戦で何があったのかはジアナに念話でもう伝えている。
確かに魔力切れまでして、アーチャーを助ける義理は無かった。
「そういえば、前回のバーサーカー戦の時も魔力切れを起こしましたね。次の特訓からはもっとハードに……」
うわ、また不穏な事言ってやがる。しかし、それと同時に俺の背中に手を当てて、魔力補給もやってくれてるので、俺の為だということは解る。だが、ハードにするのはやめてくれ。
「はいはい、その話は後にして。」
ナイス、遠坂。このままいくと永遠の説教モードに突入しそうだった。
と言うか、前回は散々しごかれた後の戦いなので、元を辿ればジアナが悪いことになる。キャスターに攫われた時?……勘の良いガキは嫌いだよ。
「さて……セイバーの魔力切れか。」
ベッドで横たわっているセイバーを横目で見る。
まだ意識はあるようだが、現界できる時間は刻一刻と迫っている。すぐにでは無いだろうが、底はほとんど見えているようなものだ。
「ちょっと、アーチャー。前に立たないでくれる?何も見えないじゃない。」
と思っていたら、遠坂が怒鳴ったような声を放つ。見てみるとアーチャーは俺とジアナから遠坂を離すように、間に立っていた。しかも、俺たちに敵意を向けながら。何故なんだ?
「マスター、そいつらはキャスターの使う
「え?アーチャー、それどういう事よ⁉︎」
「さあな、私も詳細は知らん。訊きたければ本人に訊く他ないだろう。」
あー、そりゃそうなるな。あの転移は魔術ではなく魔法の域だ。現代の魔術師の中に使える奴はいない。もちろん絶対ではないだろうが、どちらにしろアーチャーが警戒するのも無理はない。
「ねえ創太、ジアナ、どういう事?魔法が使えるなんて聞いてないんだけど。ちゃんと説明して。
時間稼ぎはしてあるんだから、話す猶予ぐらいはあるでしょ?」
「あぁー……、ええっと……」
「あの檻は中々のものだったからな。バーサーカーが解放される事はほぼない。あったとしても時間経過による魔力切れだけだ。そうだろう?古崖創太。」
まずい、完全に逃げ場を失ってしまった。
「……どうするジアナ?」
「話した方が良いでしょう。」
だよなあ。
「アーチャーの警戒が解けるわけではないですが、貴方がやろうとしている事の為にもそうした方がいいです。」
「全部お見通しって訳か。」
「当然です。何年貴方の側にいると思ってるんですか。」
いや、ジアナの場合、普通に読心の魔術を使ってきそうだ。
「じゃあ、お望み通り話そうか。俺たちの魔術についてな。」
俺たちは共闘を組む仲だ。本来ならば、事前に言って置かなければならなかった。そうしておけば、アーチャーが不審がる必要も無かった。
……よく考えれば、前もって話したとしても、結局危険だという事には変わりないと言って停戦条約がなくなる可能性があるので、意味は無い気がしなくもない。
「まず最初に、古崖家の魔術師の起源と属性は『力』だ。」
この話は衛宮にはもう話しているし、セイバーも知っている。だが、二人には我慢してもう一度聞いてもらいたい。
「力?聞いた事ないわね……」
「当たり前だ。
「ならなんで、今バラしたのよ。」
「一人ぐらい喋っても良いだろうと思ってな。衛宮は協会と関わりは無いし、お前が何か言ったとしても、たった一人じゃ影響はない。」
遠坂家が名家とは言え、こっちもそこそこ名がある家系だ。遠坂がチクっても戯言ぐらいにしか思わないだろう。多分。
「話を戻すぞ。『力』ってのは魔力とか、筋力とか、色々な意味を含んでる。」
他にも重力とか、火力とか、はたまた結合力とかっていう、物体を繋ぎ合せているような物も意味する。
「それで?アーチャーが言った魔法を使ったっていう事にどういう関係があるのかしら?」
「まあまあ、話は最後まで聞け。」
せっかちは嫌われるぜ。すばやさが上がってぼうぎょがゲフンゲフン。
「次に
「変換魔術……ああ、あれね。置換魔術の上位互換って言われてる魔術だったわね。」
話が早くて助かる。衛宮にこの話をした時は一から十まで喋らなきゃいけなかった。
さて、変換魔術。これは元の物質の性質を残しつつ、別の性質を他の性質に換える魔術だ。
例を挙げるならば、ここに俺の腕がある。この腕の性質の中には『常温であれば固体になる』と『自身の意思で自由に動かせる』がある。そこに変換魔術で『常温であれば固体になる』という性質を『常温であれば液体になる』に変換させる。すると、腕が液体になりながらも『自分の意思で自由に動かせる』という性質が残る。
要は解釈次第だ。ただし、ない性質をある性質にするなんていう都合の良い事は出来ない。例えば、『成長しない』性質を『成長する』性質に変える事はできないのだ。
あと、腕を水に変えられるなら脳もそうすれば良いと思って実行したら必ず死にます。斬られたり潰されたりすればその時点で神経が繋がってないので、脳の機能が停止します。
それと、置換魔術の上位互換と呼ばれていたが、その理由は魔力の運用効率と性質の保存だ。変換魔術は、元の性質をある程度そのままにしておける事で、魔力の消費量が抑えられる。
「この変換魔術で変化させるのは基本的に自分の『力』だ。魔力を筋力に、筋力を敏捷力にと言った具合にな。これは、力の器も変換するから限界以上の力を制御できる。」
他にも、五感に変換させて感知能力を上げたり、思考能力に変換させて判断力を上げたりできる。
さらには、物体を魔力に変えて、自分の中に保存ができたりもする。ジアナが度々使っているあれだ。
原理としては、俺達は物体には存在するために力を使っていると考えている。便宜上、それを存在力と呼ぼう。その存在力を魔力に変換、さらに自身に取り込んでいる。厳密には魔力ではないし、その魔力を使って魔術を使う事はできない。元の物体に戻す事にしか使えないのだ。
「そして、肝心の魔法を使ったという事だが、あれは魔力の性質を変えたからなんだ。」
「えっと……つまり?」
「だから、こうだな。あー……。」
まずい。言葉が見つからん。頭では想像できてはいるのだが、こう……説明ができない。
「つまり、自身の魔力を魔法が使いやすいそれに変換しているのです。」
すまない、ジアナ。あーだこーだと頭を捻くり回している俺を助けてくれて。
「例えば、創太が使ったという転移ですが、あれは自身の属性が空間であると、他のそれと比べれば、扱いやすくなる魔術です。では、私達がその魔法を使うにはどうすれば良いか。」
「自身の魔力の属性を空間に変換する、ってこと?」
結論に行き着いた遠坂が、正解を答える。
「その通りです、凛。さらに言えば空間属性の中でも、転移をしやすい魔力に変換すれば、それに特化できます。これによって、私達は理論上全ての魔術・魔法を使えます。」
「なによそれ⁉︎そんなの卑怯じゃない!」
遠坂が怒鳴る。そう思うのは当然だ。全ての魔法が使えるならば、チートもいいところだ。
「まあ、落ち着け、遠坂。あくまでも理論上だ。俺らにだって欠点はある。」
そう言って、遠坂の怒りを治めようとする。
「その欠点ってのは二つある。
一つ目は……まあ、欠点というか当たり前のことなんだが、魔術の構造を知らないと、その魔術は使えないんだ。俺がキャスターの魔法を使えたのは実際に見たからであって、それ以外に魔法が使えるのかといわれれば、現時点では使えない。」
「なるほど。キャスターに攫われた時に、転移の魔術を使ってたから、真似しただけってことね……いや、それもそれでおかしい気が……」
遠坂が最後に小声でなんか言った気がするが気にしない。
「でも、なんで一目見ただけで、魔術の構造が判るのよ。」
一時納得したかのように見えたが、再び疑問が浮かび上がる、遠坂。
「言ったろ?俺達の属性と起源は力で、その力には魔力も入ってるって。
魔力の流れとかそういうのを読み取って、構造を解析できるんだ。」
他にも体の力の流れも読み取る事ができるので、体術や剣術などの技も習得できる。
だからと言って、相手の次の手を予測しようとしても無意味だ。
「どっちにしても相手の魔術を使えるんでしょ。戦うごとに手札が増えるなんて、敵になれば厄介な事に変わりないわ。」
「ところがどっこい、二つ目の欠点のせいで厄介ではなくなるんだな。」
これによって、相手と同じ事をして、消耗戦に持ち込むなんていう事は出来なくなる。
「その二つ目の欠点は魔力の消費が激しいという事だ。
例え魔術の構造が判ったとしても、それを一度で完璧に模倣するのは難しい。大体の場合は何かしらが劣っていて、魔力の効率が悪くなる。
完璧に模倣したとしても、魔術を行使する前に、一度自身の魔力を変換するという作業で必ず魔力を消費してしまうんだ。
結果として、魔術をコピーする時、相手よりも魔力を多く必要とされる。」
「確かに初見で厄介な事にはならないわね。でも、それは即興で模倣した場合よ。鍛錬を積めば、相手と同等の魔術になるわ。そうなればほぼ互角、いいえ他にも魔術を習得しているのだからそれ以上になる……いや、そうとも限らないわね。」
最後に自分の言った事を否定する。俺が訂正しようと思ったが、自分で間違いに気づいたらしいので黙っておこう。
「鍛錬しても、一朝一夕で完璧になる訳じゃない。さらに言えば実践経験もないから、それも考慮すると時間なんて幾らあっても足りないわね……。」
「そうだ。しかも、俺はたった一年間しか訓練してない。だから、できる事が多くても、実際に使える手札は多くない。」
ジアナの方は知らん。本気で戦ったところは見た事ないし。
「それすらも嘘だとしたら?」
アーチャーが俺の言葉を否定するような事を言う。
「本当に一年という期間だけしか訓練を受けていないのか?それにしては、先の戦いは慣れてたように思えたが。」
「師匠の教えが良かったとでも言っておこうかな。」
ジアナを一瞬、横目で見ながら言う。
「まあ、信じなくても構わない。今説明しているのは俺達の魔術についてだ。どちらにしても手の内は全て見せるつもりはない。」
だが、その上で相手の信用を勝ち取らなければならない。
「ふむ、それもそうか。」
納得してくれたようだ。まあ、信用どうのこうのと言ったが、遠坂がアーチャーからバーサーカーの宝具を聞けば、退却を選ばざるを得ないだろう。
「以上が今話せる俺達の能力についてだ。何か質問はあるか。」
「あるわ。貴方達、本当にそんなに多くの魔術を使えるのかしら?
転移の魔術を真似したって言うけれど本当は元から使えて、貴方達の真の能力を隠してるんじゃないかって、思えてくるのよ。そこはどうなのかしら?」
やはり、それも疑われるか。
「なら、今から実践してやる。それぐらいすれば、お前も信じるだろ?」
周りにあった瓦礫から手頃なサイズの物を一つ取る。
「まずは
やる事はいつもと同じ。最初に魔力を変換させる。属性は爆破。そして、転換魔術を使いやすいようにもする。
次に、瓦礫に魔力を込める。本来使う筈の宝石と比べれば魔力の伝導率が悪いが、今は見せるだけなのでまあいいだろう。
「ほら。ちゃんと魔力が込められてるだろ?」
数秒でできた突貫の品を見せる。
「微量だけど、確かに魔力はあるわね。」
「よし、ちゃんと見たな。なら……ほいっと。」
相手に確認させたところで、適当に空中へと投げ捨てる。もちろん誰もいない所に、だ。
そして、瓦礫は小さな爆発と共に粉々になっていった。
遠坂は驚く事なくその過程を目で追う。
「で、次にルーン魔術だ。」
先ほどと同じように手頃な瓦礫を取り、同時に魔力を変換させる。瓦礫に特殊な文字を書き、相手に見せる。
「ほら、この文字の意味が判ってるなら、次に起こることは予想できるだろ?……
呪文を詠唱し、瓦礫は次第に氷を纏っていく。
遠坂の顔には変化が出てきた。
「最後に魔眼だ。」
眼を閉じ、また魔力を変換させる。だが今度は眼も変換する。眼を魔力で覆い、そのまま一体化させるイメージ。変換先の属性は熱だ。
「……ふう。」
溜息が漏れる。普段はこんな事をしないので、体が慣れず、疲れが少し出てしまう。
「さて、あそこをよく見とけよ。」
指を指した方向に全員の意識を集中させる。そして、ゆっくりと眼を開け、魔力を制御する。気を抜けば、視界の全てが効果範囲内になってしまう為、注意が必要だ。
俺の視線の先にある瓦礫が段々と赤く光る。その赤は、次第に白を含み、やがて太陽のように輝き始める。すると、瓦礫の形は崩れて、固体から液体になるかのように……いやなっていた。
「まさか、本当に……⁉︎」
遠坂の驚きは、ついに口から溢れた。
それを聞いた俺は眼を閉じ、魔眼から元の眼に戻す。
「これでわかっただろ?俺たちはあらゆる魔術を使える。さっきも言った通り、厳密に言えば違うがそう思ってもらっても構わない。そこら辺はお前たちの裁量だ。」
過小評価されても過大評価されても、俺たちには有利に働く。見誤ってくれたらラッキーぐらいの気持ちだ。
それと、先程使った魔術だが、それに特化している家系なら基礎中の基礎だ。魔眼は例外だが、基礎だからと言って赤の他人が簡単に使える物でもない。それを多数に、更に属性が別々ならば、相手も納得する筈だ。
「……分かった。貴方の言った事は多少信じるわ。それで、次の質問をしていいかしら?」
「おいおい、質問があるかと訊いたのは俺だが、そう何個も答えないぜ。」
「ええ、それは分かってる。だから、次が最後。」
「何だ?言ってみろ。答えるかは別だけどな。」
最後ねえ。まあ、ここまで話しちまったら、次に来る質問は大体決まってるようなものだ。
「なんで欠点まで話したのかしら?」
やはりだ。やはりこの質問が来た。そりゃそうだ。ベラベラと事細かに喋ったら怪しまれるに決まってる。
まあ、ここは
「何故……か。その欠点が
「はあ?」
遠坂は訳の分からないという顔をしているが、これは裏の無い言葉の意味通りだ。
「先に話した二つの欠点は、どちらもよく考えれば、辿り着ける解答だろ?一つ目は当たり前のことだし、二つ目も二段階に置いての手間と、完全なコピーはできないってことでな。
それを敢えて話す事で、俺たちは話相手に欠点なんて関係無い奥の手を隠し持ってると、牽制できるわけだ。」
もし話さなかった場合、敵同士になり欠点を見抜かれて、無駄に攻撃されてしまい、かなり面倒な事になる。
「ふーん、成る程。つまり、ブラフって事ね。」
「さあ?ブラフだと思うんなら、後で試してみたらどうだ?」
こんな事言ってるけど、遠坂が言った事は半分合っている。奥の手があるにはあるのだが、まだ使った事がない。だから、その時になって使えと言われれば、成功するかどうかも分からない博打だ。
「……さて、こんぐらいでいいだろ、俺たちについての話は。
そろそろ、あのデカブツをどうするかを考えようぜ。」
忘れてはいけない。あのバーサーカーは重ね掛けの蘇生魔術を持ち、一定以下の攻撃を無効化し、さらには、食らった攻撃は二度も通用しない事を。そんなあいつに勝つための手段を、俺たちは見出さなくてはならない。
「ソロモンよ‼︎私は帰ってきた‼︎」
「うん?呼んd「呼んでねえから‼︎さらっとネタバレしようとするのやめてくれる⁉︎」」
どうも、作者です。
この話で小説書くことをやめようと思ってましたが、続きました。
それに伴い、この後書きで書いたネタバレを削除しました。ご了承を。