ーー2月7日ーー
「……朝か。」
体が少し重い。バーサーカーに襲われた次の日もこんな気分で起きた。けれども、その時と違う事は俺が前日の出来事をハッキリと覚えているところだろう。
「とにかく、居間に行こう。」
何か、途轍もなく嫌な事実を昨日知った気がするが、確認の為にもう一度話を聞かなければ。
「おはよう、遠坂。」
「……おはよう。」
居間の扉を開ければ遠坂がいた。
「創太とジアナさんは?」
「ジアナは家に色々と取りに行ってる。創太の方は情報収集してくるってどっか出掛けて行ったわ。」
どっちも出払っているのか。なるべく昨日と同じ人から同じ事を聞きたかったが仕方ない。
「遠坂。」
俺の口からでた声は自身でも驚くほど、とても重かった。
「ええ、分かってるわ。貴方の言いたい事は。」
その為か遠坂にも俺の気持ちがすんなりと伝わった。
「セイバーの事ね。」
「ああ、昨日創太とジアナさんから聞いた話じゃあ……」
「セイバーの魔力が無いのね。」
「………。」
やはり、記憶違いでは無かったか。うっすらと期待はしていたがそんなモノ、すぐに打ち砕かれた。
昨日、ライダーを倒すためにセイバーは宝具を使った。しかし、その直後にあいつは倒れてしまい、ピクリとも動かなくなってしまった。
そして、今も寝室で寝ているのだろう。
「前から魔力のパスが通ってないのは分かってたけど、まさかもうこんなことになるなんて。」
「……士郎、こうなっら決断するしかないわよ。」
決断、というのは魔力を集める。つまり、キャスターやライダーのように関係の無い人々から魂を喰らうという事だ。
俺はセイバーにそんな事をさせられない。だが、そうしなければセイバーはいなくなってしまう。あいつ自身もその方法は嫌っている。俺は一体どうすれば……
「悪い……その決断は少し待っててくれないか?」
「私自身に悪影響がある訳でもないから、その質問をする意味はないと思うわよ。
けど、決断は早くした方が良いわ。いつセイバーの魔力が無くなるか分からないんだから。」
「ああ……そうだな……」
そう言って俺は立ち上がる。
「ちょっと出掛けてくる。色々考えたい。」
「ええ。創太たちにも帰ってきたらそう言っておくわ。」
「ああ、ありがとな。」
向かう先は公園。とにかく、自分の中にあるモノを整理しなくては。
=====
「ここに来んのは久しぶりな気がするな。」
ここというのは、日本で、いいや世界で最も辛いであろう麻婆豆腐をだす店、泰山だ。
俺はある人物に会うためここに来た。現在、昼食の時間真っ只中。実は今朝にも一度来たのだが、目的の人はいなかった。まあ、いくら辛い物好きとはいえ、朝にまで食ってる人では無かったか。…ほぼ毎日食う人ではあるけど。
「さて、中に入るか。」
扉の取ってに手をかけ、そのまま扉を引く。
「いらっしゃいませー……あ、古崖君じゃないか。例の人ならあそこに座ってるよ。」
「ありがとうございます。」
とこんな風に俺は店員に顔を覚えられている。それほどまでにここに通っている証拠だ。まあ、今回は食事が目的ではないんですけど。
「………。」
食ってる。見事なまでの食いっぷりだ。顔と合わないその食いっぷりは違和感を覚える。すでに何皿か麻婆豆腐を完食しているようだ。
「言峰さん。」
「……ん?なんだ、創太か。」
「どうも、こんにちは。」
「奇遇だな。ここに来る日が偶然にも重なるとは。」
何が奇遇だ。あんたほぼ毎日来てんだろ。
「茶化さないでください。今日は言峰さんに話をする為にここへ足を運んだんですから。」
正直言ってこの人にはあまり近づきたくない。なんか企んでそうだし。だが、俺はこの人が何か情報を持っていると踏んで接触した。
「ほう。まあまずは一皿…」
「食べませんよ。言峰さんも知ってますよね。俺が腹弱いって事は。」
「それは初耳だと思うが?」
嘘つけ。絶対に覚えてんだろ。だって、前にその話をした時、めっちゃニヤニヤしてたじゃねえか。
「とにかく、本題に入りますよ。」
「ふむ、してその話とは一体何かね?」
「今回の聖杯戦争が何かキナ臭いって話です。」
あと、あんたも。
「例えば何がだ。」
「偽物の令呪であったり、名もなき英雄がいたりと色々ですよ。」
あと、あんたがバゼットさんの令呪を奪ったり。
偽物の令呪というのは間桐がもっていた令呪の事だ。偽臣の書と呼ばれるモノで令呪を代用していた。
「とにかく、言峰さんには情報を持ってないかと思って話を聴きにきたんですよ。」
「成る程。しかし、私は立場上情報を与える事は出来ない。残念だがね。」
何が立場上だよ。後ろからサクッと殺ったくせに。
「ですが、このままにして置けばこの聖杯戦争という形態が崩れてしまうかもしれないんですよ。」
無駄だとは思うが粘ってみる。
「仮にそうなるとしても私自身、有益な情報を持っていないのだ。」
「……分かりましたよ。」
やはり、敵から直接情報を聞き出すのは難しいか。
「そんじゃ、俺は帰りますよ。」
「そうか。君がこの戦争を生き残る事を祈っておこう。」
「悪いですけど、祈る人は一人で充分ですよ。」
その一人とはジアナのことだ。
そして、俺は店を出て行った。
げっ、まずい。店を出たら面倒臭いやつに出会った気がする……。
「………。」
「………坊主。」
「ひっ‼︎」
うわ、ビックリしすぎて裏声が出てしまった。
「お、おいおい、そんな声出すなって。俺がなんか悪い事したか?」
そりゃあ殺されかけましたから。
「……逆に聞きますけど、なんで俺のことを呼んだんですか?」
「どこかで
おい、なんか恐ろしい単語が混じってんぞ。
「さあ?初対面だと思うんですけど。」
「いいや、確かに見た筈だ。例えば、この近くにある学校でな。」
完全に解ってんじゃねえか。
「はあ。ったく、まさかこんなところで会うとはな、ランサー。」
「やっぱり覚えてんじゃねえか。殺された反動とかで忘れてんのかと思ったぜ。」
うるせえ。あんなの忘れたくても脳に焼きつくんだよ。
「で、どうすんだ。もう一回俺を殺してみるか?」
「はっ。こんな真昼間から殺し合いをおっぱじめる訳がねえだろ。」
「だろうな。」
むしろ、ここで始められたら俺が困る。
「……バゼット・フラガ・マクレミッツ。」
「ああん?」
「一応、言っとくがあの人は生きてるからな。」
正直言って、こいつはそんな事に興味なさそうだが。
「ふぅん。」
やはり興味なさそうに返事をする。
「……そいつに言っとけ。次は殺されるなよってな。」
驚いた。まさか、ランサーがそんな事を言うとは。
「なんだ?そんなに意外だったか。」
「まあな。とにかく、俺はここいらで行かせてもらう。」
「おう。次会ったときゃその心臓はもらうぜ。」
「俺は参加者じゃねえんだが?」
「倒し損ねたままってのは気持ちが悪いんでな。」
なら、その前にジアナと戦うことになると思うけど。
「そんじゃあな。夜に出会わない事を願ってるよ。」
「へっ、言ってな。」
そして、ランサーと別れ、数歩歩いた直後。ポケットの中にある物が震え出す。
「ん、電話?」
一体誰からだろう。まあ、番号を見れば一発でわかるのだが。
「ジアナからか。はい、もしもし。」
何の用事かと思い聞いてみると……
「はあ!?衛宮が誘拐された!?」
どうも、作者です。
今回は何をしたかったのかよく分からない回でした。なんか面倒くさかったんだ。そして、短い。
挿絵を描こうとしたら、そもそもオリ主のキャラがあんまり定まってないから描けないという事態に陥りました。無念なり。
次回、屋敷の探索‼︎いたのは青鬼じゃなくて黒鬼⁉︎