「今から魔術講義を始めます。」
そう言ったのはジアナだ。
現在は土蔵にいて、今までに起こった事をなるべく簡潔に説明すると、
昼休み 衛宮 無断欠席 放課後 事情聴取 間桐(妹)に謝罪 遠坂納得&料理 中華 衛宮家 感激 セイバー紹介 間桐 藤村先生 帰宅 遠坂 間桐 挑発 間桐 毎日きそう 衛宮 土蔵 呼び出し 魔術講義開始
やっぱ分かりにくい。
夜中の土蔵にいるのは衛宮とジアナ、そして俺だ。
「まず、士郎君の練習方法の矯正ですね。確認をしますが、シロウ君は今までどんな方法で魔術訓練をしてきましたか。」
「えっ、どんなって別に普通だと思いますけど。」
「バーロー。」
見た目は子供。頭脳は(ry
「普通じゃないからこうやってわざわざ魔術講義をやってるんだ。いいから言うんだ。」
「……。」
相手は納得がいっていないようだが、話す事はしてくれそうだ。
「えっと、まず魔術回路を作って……」
「はい、アウトです。」
衛宮のケツバットが確定した。
「え、いきなり何がアウトなんですか?」
「魔術回路を作る所以外に何がアウトなんですか?」
「でもそういうのが魔術を使う時の手順じゃ……」
「いいですか、シロウ君。そもそも魔術回路というのは作るのではなく、元々ある魔術回路を開くのが普通です。それを魔術行使の度に作るというのは効率が悪すぎます。」
ジアナの説明に驚く衛宮。何か言いたそうな顔をして少し間が空き、そして、
「……昨日、
あんれまー。予想外だっぺ。また昨日みたいに反論しだすと思ったんだけどな。衛宮も学習しているという事だな。当たり前か。
「素直でよろしい。では、今までの特訓が間違いだったという事は分かりましたね。」
「はい。」
「それではシロウ君も納得した所で次のステップです。少し近寄りますね。」
「えっ、あ、は、ははは、はい。」
ジアナが近くに寄った瞬間に衛宮は動揺し始めた。そういえば、セイバーが一緒の部屋で寝るとか言い出したときも同じ様な感じになっていたな。
「今からシロウ君の魔術回路を開き、それと同時に固定化を行います。通常なら貴方自身がその状態を維持するか、秘薬などを飲んで強制的にするかの二択です。しかし、前者は時間がかかり、後者は痛みが伴い、どちらにせよデメリットがあります。
しかし、今回はそれが無い特別な処置を施させていただきます。」
ジアナが淡々と説明しているが、それってまさかとは思うけど
「私自身行った事はほぼ無いのですが、失敗しても十分程激痛が走るだけで命に別状はありません。」
「えっ⁉︎」
そのまさかだったよ。やった事がほぼ無いって、そりゃあ俺にしかやった事ないし、失敗したらどうなるかも俺にやったから判った事だからな。しかも失敗したら激痛が走るというデメリットが結局あるんですけど。
「大丈夫です。死ななければ問題無しです!」
死んだ方がマシだと思うくらいキツイんですけどそれは。
「……何か嫌な予感はしますが、それでお願いします。」
それは予感じゃなくて確実に起こる事だと思うんだ。
「解りました。それでは、了承を得た所で少し手をお借りしますね。あと、少し違和感があると思いますが何もしないでくださいね。失敗しますから。」
最後の言葉に衛宮が少し反応した。
アーメン。無信者なのに言ってしまった。こうでもしないと衛宮がかつての俺みたいになってしまいそうで怖い。
ジアナは衛宮の手を持ち、目を閉じる。すると昨日の様に手がぼんやりと光りだして二人を包んでいく。一分、二分、三分と時間が過ぎていく。
五分が過ぎたあたりから衛宮の表情が歪み始めた。
「衛宮、気持ちはわかるがジアナを信じろ。気持ちを落ち着けて入ってくるモノを受け入れる様にするんだ。」
自分の中に異物が入ってくる感覚。それが今の衛宮が感じている事だろう。それに抵抗するのは自己防衛という本能が正常に働いているからこそ。だが、ここではそれを押し殺さなくてはならない。
俺が最初にされた時はそれができなくて悶え苦しんだ。だからこそ、今の助言が出来たというのは否定できない。
そこからまた五分経過し、計十分で魔術回路の矯正が終わった。
「ふぅ……これで終わりです。何か体に異常はありますか?」
「違和感がまだ残っているくらいで、後は何も。」
「それぐらいなら大丈夫ですね。その違和感は私が魔力回路を開かせ続けている証拠です。痛みが出てきたなどとなればそれは失敗したという事になりますが、それが無いのなら安心です。」
「よかったな、衛宮。失敗してたら意識が吹っ飛ぶくらい、いや一瞬吹っ飛ぶけど、また痛みで戻ってくるっていうのが体感時間で一日は続くんだぜ。」
「え……創太、まさか。」
「そうだ。俺がジアナの魔術回路矯正の失敗例第一号だ。」
なんか嫌なモンがいつの間にかついてたんだな、と振り返ってみて思った。
「あん時は本当にひどかった。」
「それは貴方が抵抗しようとしたからでしょう。」
「その後、助ける事も何もせずに放置したのはどこの誰なんでしょうね。」
「抵抗しないでくださいという言葉を無視した罰としてそうしたまでです。」
「うわ、鬼畜。」
こいつの前世がスパルタとか前に言ってたけど、そんなモンじゃなかった。悪魔だ。絶対そうに違いない。
「お前らが戦う意思を見せなければ、俺はこの星を破壊し尽くすだけだぁ。でしたっけ?」
「おい、心を読むのとそのボケは止めろ。」
ここに野菜人はいません。
「あのー、すいませーん。」
「おっと、変なボケよりも本題の方だな。」
「そうですね。今、士郎君の魔術回路は私が一時的に開かせていますが、最終的には自分の力でやってください。まあ、それはおいおいやっていくとして、次は第三のステップです。シロウ君、強化魔術を使ってみてください。素材は……この短剣を。」
そう言ったジアナは前の槍と同じ様に、何もない場所から短剣を取り出した。
「うおっ!……え、えっと持ってもいいんですか?」
「はい、どうぞ。安心してください。別に変な呪いがついてるとかそういった事は一切ありませんから。」
衛宮が言ってんのはそういう事じゃないと思うんだがな。しかもそれを言うと逆についてそうな感じがするんですよ。
「じゃ……じゃあ、お借りします。」
少し躊躇ったが、短剣に手を取る衛宮。そして、それに強化の魔術を施す。まだぎこちないが、昨日の特訓と比べればだいぶ質が上がっている。
大体、一分はかかっただろうか。衛宮の強化魔術はそれくらいかかっていた。
「成功した……のか……?」
半信半疑の衛宮。魔術を使った本人かそんなんでどうする。
「はい、ちゃんと強化はできていますよ。改善点はまだありますが今はこれで充分です。それでは今日最後のステップ、投影魔術の行使です。」
いよいよ、衛宮だけが持つ特有の才能を開花させる時がきた。いや、正確に言えばアーチャーも同じ事ができるんだけど。
「今度も同じ短剣を使います。それを投影してみてください。」
「……えっと、少し質問していいですか?」
「はい、なんでしょう。」
「投影って使えないモノですよね?なのに、どうしてそれを練習するんですか?」
確かに。そういえばそうだ。投影魔術で作る物は磨耗が激しく、手間がかかる。前者は衛宮が持つ特異性によってそうでは無くなっているが、投影は失われた道具を一時的に復元するモノで、実用性があるとは言い難い。それを鍛えるなんて何の意味があるのだろう。
「これは私の推測なのですが、シロウ君の投影魔術は戦闘で役立つかもしれません。」
「戦闘で?」
「はい。以前の聖杯戦争では無限とも思われる武器の数を保持し、それを敵に向かって放つというサーヴァントがいました。」
なにそれこわい。矢の雨ならぬ武器の雨とか想像したく無い。
「そのサーヴァントのようにとは言いませんが、遠距離からの援護ぐらいなら、この聖杯戦争中に習得できるとは思います。」
ああ、そうか。俺は一瞬だけそいつと同じ事が衛宮にもできるかもしれないと思ったけど一朝一夕で、そんなもんできる筈がないか。いや、待てよ?
「なあ、ジアナ。もし仮にそういう戦い方をするにしても衛宮にそんな魔力量があると思うのか?なんか、三本ぐらい投影したら限界だと思うんだけど、そこんところどうなんだ?」
衛宮が不機嫌そうな顔をするが真実なので、何も言ってこない。
「その辺は大丈夫です。シロウ君の属性・起源が剣という事は昨日話しましたね。」
「ああ、言ってたな。」
「それにより、シロウ君は剣を投影する。剣を強化する。などと言った剣に関する魔術であれば魔力消費量が少なくなっている筈です。」
「そういえば、さっきの短剣の強化も普段と比べて魔力が少なくて済んだな。」
「……ホントか?」
衛宮、それあれだろ。値段を見せずに水を飲ませて、後で高級な物でしたとか言って美味しかったと思わせるやつだろ。
「ああ、本当だ。違和感がまだ残ってるから確信は持てないけれど、使う魔力は少なかった。」
うーむ。衛宮は嘘を突く性格ではないし、勘違いで無ければジアナが言った言葉は真実という事になる。
「……まあ、いいや。合っているにしても間違っているにしてもやってみない事には分からないか。」
「それ、私を信用してないって意味ですか?」
「いやいや、そうじゃないって。ただ、ジアナはどっか抜けてるところがあるからな。」
あっ。今何かが切れたような音がした。
「……そんな事言う前に貴方自身がちゃんと力をつけましょうね。」
その次の朝、遠坂からやつれた顔をした俺に心配くれたのはまた別の話。
不定期過ぎますが今後もよろしくお願いします。