IS×ACE COMBAT X ≪転入生はエースパイロット≫ 作:初月
2014/3/1 改訂
2014/7/25 改訂
2014/9/21 改訂
2015/7/22 改稿
2016/7/18 改稿
次に機動性等の試験に入る。
射撃目標などが乱雑に置いてある状況から察するに軽い障害物競争みたいなのを行うようだ。
アリーナで障害物の設置が終わってしばらくしてから千冬さんに声をかけられた。
「次は機動試験だ。はじめてくれ」
頷いてから機体を動かし始めた。ISの操縦なら本国で少しだけやっていたから余裕だと思っていたのだが―――
―――グリフィスはとてつもないじゃじゃ馬だった。
動かし始めてすぐに高速域に達した。メソンカノンが2基展開しているにも関わらずである。そして急制動をかけたら瞬く間もなく機体が止まる。すると機体後部から爆発音が聞こえてきた。
脊髄に衝撃が伝わり意識が刈り取られそうになる。
明らかに本国での訓練とは感覚が違う。こんな変な機動をするにはPICをマニュアルにでもしないといけないはず。マズい、機動がきつ過ぎて体にきているようだ…。
とにかくPICの設定を確認した。
―――結果は、マニュアルだった。
後ろに"(制限解除モード)"とかついていたが気にしてはいけない気がした。
このことはあとでモンテブリーズのやつらに聞くとしてまずは今の上官に報告する。
「織斑先生、PICがマニュアルだったので再度機動試験を最初からはじめていいですか?」
もちろん許可が下りたので最初まで戻ろうとした。
したのだが…機体が動かない。
再度挑戦する。
が、動かない。
ここで私は先ほどの破砕音を思い出した。
HUDで機体損傷を見ると背中が黄色い表示になっている。
嫌な予感がした私がハイパーセンサーを使い後ろを見ると急激な機動のせいかエンジンが赤くなっていた。
温度は……無茶苦茶高い。
早速エンジンが逝くってひどいな。まあ過重荷で高速出しちゃったからしょうがないのかな……。
そんなことを考えていると千冬さんから
「おい、メアリーどうした?」
と聞かれたので
「さっきの機動でエンジンが―――」
そう報告しようとしたところで記憶が途絶えた。
先程の急加速と急減速が体に来たのだろう。むしろよくここまで意識を保てていたと言えるほうかもしれない。
それとも体が鍛えきれていない証拠なのだろうか。
◇
アリーナで千冬さんに起こされた私は保健室で一応診てもらってから一時的な自分の部屋へと向かっていた。
どうやら絶対防御が展開されたそうだが、無事だったらしい。
「人外の域に足を踏み入れているな」とは千冬さんの弁。
追跡?そんなものはない。織斑君たちがターゲットをとっておいてくれたからな。
……部屋に帰った後がつらいかも。まあいいや、サァ行くか。
本国への報告も自室でやるか。しかしあんなじゃじゃ馬で兵装のテストまで行なうとは……。今後が不安だ
そんなことを考えたりしながら教室についたころには結構遅い時間になっていた。
1025号室だったっけか。
……少々迷ったが1025号室にたどり着いた。
少々(1時間)というは結構問題だったと思う。ついでに夕食まで済ませたのは言うまでもない。
やっとたどり着いた自室に入ると織斑君とデュノア君と思しき女性がいた。
デュノア君が驚いたような顔でこちらを見ている。
「……テスト飛行の影響だね。ちょっと保健室行って来るね」
多分これは私の見間違いだ。さっきのテスト飛行で脳味噌が揺らされたからその影響が出たんだろう…。
いくら男性としての特徴が薄いとはいえ胸が膨らんでいるかのように見えるのだ。
久しぶりに沢山の女性を見たから幻覚でも見ているんだろう。
咄嗟にそう判断した。
そしてドアを閉めかけたとき織斑君が口を開いた。
「あぁ!ちょっと待ってくれ!説明するから!」
◇
織斑君が周囲を警戒する素振りを見せて俺を引き込んだ後軽い説明を受けた。
―――風呂に入ったデュノアさんにシャンプーを届けようとしたら中にデュノア君に似た女性がいて、それはデュノア君だった…らしい。
そしてデュノア君が風呂から出てきてから私が入ってくるまで気まずくて両方とも黙ったまま向かい合っていたということだった。
……初めて現れた男性操縦者と男装してIS学園に入った少女(企業の支援付き)か。どう考えてもスパイとかそこらへんだろうが…彼女からそんな雰囲気を察することは出来ない。
あと作戦があまりにも稚拙だし、工作員だとした場合のデュノア君の態度は工作員失格というレベルのものだ。
……まあこれが演技で無能だと思わせて情報を引き出すというような巧妙な手口なのかもしれないが。
とりあえず警戒しておくに越したことは無い。
また、面倒な話もありそうだ。
とにかく本性を暴いてから対処を考えようか。
それでは軽い尋問を始めるとしよう。
「何故男装してまでIS学園に入ったのかな?」
真っ先に湧いてくる疑問はこれだ。織斑君も同じことを思ったに違いない。
一応軍人なので尋問くらいはできる。
そしてデュノア君は抵抗することもなく答える。危害を加える意思はないようだ。
「実家のほうからそうしろって言われてるんだ…」
ひどい家族もいたもんだ。企業スパイを娘にやらせるとはな。
そうは思ったがまだ口には出さない。
稀に変なやつがいたりするからな。
「お前の実家っていうとデュノア社の……」
軽くショックを受けているようでその言葉は徐々に小さくなっていた。
そして一夏の言葉につなげるように私は話す。
「大体の目的は技術とかを盗み出したりするため?男性操縦者に関連することを調べたりとかかな?」
私の言葉にデュノアが答える
「大体はあってるね。正確には白式と織斑君のデータをとってこいっていう命令を受けたんだ……。あとは世界の注目を浴びるための広告塔だろうね」
年端もいかない少女を利用する会社とかひどいな。
でもデュノアが吐いた時点でこれは尋問だ。指示した人も聞かなければならない。
「で、一体だれから指示されたんだ?本社の誰からだ?」
結構強めの口調で言った。ここまでスパイらしくないということを考えるととんでもない凄腕かただの素人かの二択しかない。
たださっきの発言が織斑君の癪に障ったらしい。
「お前、その言いかたはないだろ!」
と怒られた。でも事の重大さを分からせるために反論する。
「いいか、織斑君。これは尋問で相手はスパイだ。加減するべき場所じゃない。
私だってこんなことはやりたくないんだ」
諭すような口調で言った。
俺だって同情したい点はいくらでもあるんだ。
「でもっ……!」
織斑君が抵抗を見せる。
だが理性では理解できたのか黙り込んだ。
そんな中デュノアは答えた。
「デュノア社の社長……僕の父だよ…」
織斑君が「え?」と言った。そして俺は呆れた。
親が産業スパイを子どもに命じるとは。前々から思っていたがやはりこの世界は腐っていやがる。
そんなことを思った。
―――女尊男卑など叫ぶ馬鹿ども、それに流される根性無、若しくは武力でしか抗えないはぐれ者。どれも身を以て実感してるんだから今更か。
織斑君の反応があったからだろう。デュノアは話を続けた。
「私はね、父の本妻の子じゃないんだよ……。
父とはずっと別に暮らしてたんだけど、2年前に引き取られたんだ。
そしてお母さんが亡くなった時、デュノアの家の人が迎えに来てね。
それで色々検査を受ける過程でIS適正が高いことが分かって。で、非公式ではあるけどテストパイロットをやることになってね」
その発言に私は戦慄を覚えた。
テストパイロットだと!?自分の子どもをなんだと思っているんだ!それとも自社製品にそこまでの自信があるのか?
とにかくあんなに危険が伴う仕事を娘にやらせるなど信じられなかった。
「でも父にあったのはたったの2回だけ。一時間にも満たないかな。
そのあとのことだよ。経営危機に陥ったんだ」
酷い親だ居たものだ。
それが一通りの話を聞いてデュノア父に抱いた感想だった。
滅多にあえていない俺の親ですら手紙とともに金まで送られてくるというのに。
自分の親との対比をしていると織斑君が口を開いた。
「でもデュノア社ってISシェア世界第3位だろ」
言われてみればそうである。シェア3位で経営危機に陥るというのは異常事態だ。
少なくとも航空機産業では。
その答えをデュノアが出す。
「結局ラファール・リヴァイブは第二世代型なんだよ。現在ISの開発は第三世代型が主流になっているんだ」
世代が違うだけで経営危機、その言葉で納得がいった。俺たちみたいに2020年になってもF-4Eを使う貧乏国家ですら次に買うのは次世代機だ。
まあ現状オーレリアがそういった機体を買うのは困難に近く、中古品で賄っていたりするのだが。なんだか泣けてくるぜ……。
「セシリアさんやラウラさんがIS学園に来たのもそのためのデータを採るためだと思う。
デュノア社も第三世代型の開発に着手はしているんだけど、なかなか形にならなくてこのままだと開発許可が剥奪されてしまうんだ。
ああ、本当のことを話したら楽になったよ。聞いていてくれてありがとう。それと、今まで嘘ついててごめん」
あれ?これって尋問だったよな。なんで感謝されるんだ?なんで謝れるんだ?
そう思った俺は反射的にツッコミを入れた。
「デュノアさん。これは尋問だから感謝したり謝ったりしなくていいんだよ」
「ごめん、ちょっと思い出に浸ってってね」
すると泣きそうな声で返された。最近思い出に浸り気味な私が言えることでもない話だ……。
そしてデュノアさんと俺が哀愁を漂わせ、軽い沈黙が流れる。
すると織斑君が口を開いた。
「いいのか?それで」
デュノアを信じきっているようだ。そしてデュノアもこの反応には驚いたようで声が漏れた。
「それでいいのか!いいはずないだろ!」
今度は一夏が強い口調でデュノアに言い寄る。
仕舞いにはデュノアの両肩をガッチリとつかんでいた。彼女は絶句して動いていない。
まったく反応できずに「一夏?」とやっということが限界なのが証拠だ。
まあそりゃそうだろう。「私はあなたの情報を盗みに来た」と白状してきた相手の肩を持つような馬鹿もしくはお人よしはそうそういない。
「親がいなけりゃ子は生まれない、そりゃそうだろうよ。でも、だから何をしてもいいだって、そんなバカなことが!」
あっていいはずはない。それに関しては同意だ。が、お前の立場でそれはいけない。
そう口に出そうとしてやっぱりやめた。
俺はあくまでも自国のISのために来ているのだ。
もし黒だったとしたら、囮が居た方が動きやすい。
思考を巡らせているとデュノアが不思議そうに
「一夏」
といった。
そしてその答えを織斑君が自ら話し始めた。織斑君のターンが終わったら私も秘密を話そう。
「俺も…俺と千冬姉も両親に捨てられたから…!」
このことにデュノアさんは驚いていた。ここまでの行動を見る限り彼女は素人である可能性が高い、そう判断することにした。あとは経歴等を諜報部に調べ上げてもらってから裏を取るだけだが判るのはいつになることやら。
「そんなことはどうでもいい、今更会いたいとも思わない、だけどお前はこの後どうするんだ?」
「どうって…女だってバレたから本国に呼び戻されるだろうね」
デュノアさん自身はもう諦めているようだ。まあ素人ならしょうがない。
「後はどうなるかわからない、良くて牢屋行きかな」
たしかに結局はそうなる。
でもなぜ抵抗の意が感じられないのだろう?
それに対する思考を大声がさえぎる。
「だったらここにいろ!俺が黙っていればそれで済む。
もし親父や会社にバレたとしても手出しできないはずだ」
どうしてそう言い切れるのか、と聞こうとしたがゴソゴソと本を探しているあたり確信があるのだろう。
そのまま答えを待つことにした。
手の動きが止まる。どうやら見つけたようだ。
「"IS学園特記事項、本学園における生徒はその在学中においてありとあらゆる国家・組織・団体に帰属しない" つまりこの学園にいれば3年間は大丈夫ということだ」
つまりは俺も今のところは自由ということだろう。
ふむ、この任務は案外休暇代わりになるやもしれん。
「その間になにか方法を考えればいい」
呑気なことを考えていたらとんでもない爆弾が飛んできた。
最後のところを丸投げとはどういうことなんだ。
素人が3年で思いつくとは思えん。
その時俺はふと思った。
デュノア社と結託しているであろうファト連邦はダッソー社を筆頭に航空機産業がかなり盛んな場所だったはずだ。
で、今のオーレリア空軍は復興や陸海軍に予算が回されているおかげで低予算なのに戦闘機が不足している状態。
デュノアさんは割といい状況にいることに気が付いた。
「ねぇデュノアさん、無事に過ごす方法はあるよ」
再び外面を繕いつつ私は交渉を始めることにした。
「え?」
驚くデュノア。
まあそうだろうね。
「今オーレリアは色々足りない。そして多分今回の件は少なからずファト連邦、そちらの言葉ではフランスだったかな?が関わっているはず」
一夏が置いてけぼりなのはこの際気にせず行こう。
「だから空軍の偉い人に相談すれば何とかなるかもしれないよ。祖国とデュノア社を見捨てる結果になるけど」
その後少しデュノアは悩んで
「結論は見送ってもいいかな?」
とどっちつかずの答えが返ってきた。
「いいけどあんまり時間の余裕はないよ」
そう告げここでの交渉は一回流すこととしたらしい。
それを察したのかデュノアさんは話題を切り替えた。
「それにしてもよく覚えてたね。特記事項って55項もあるのに」
55項もあるのか……。織斑君って意外と記憶力がいいのかな?
まあ私は戦闘機の飛行マニュアルなら1時間で暗記できるけど。
「こう見えても勤勉なんだよ、俺は」
努力家なのか。
まあそうでもなければISに乗れてもまともなことにはならなかっただろう。
織斑君の発言に対してデュノアさんは笑った。
そして
「一夏」
「あ?」
「かばってくれてありがとう」
そしてさっきの発言で
「い、いや」
といいながら織斑君は嬉しそうにしていた。
案外と女に弱かったりするのだろうか?
この流れだと次は俺かな~とか思っていると
「で、なんで転入生さんは"尋問"なんてしたんだ?」
と軽く敵意を出した声で聴かれたのだった。
正直なところ自分の処遇を話したいし、相手が素人なので色々突っ込まれる可能性も少ないが、嘘を
突き通すことにした。
「だって知り合いによく分からないのがいるのは怖いじゃない。
一応私だって専用機持ってるんだから盗難くらいは警戒するよ」
「そ、そうだよね」
と軽く受け流すデュノア。
専用機持ちとしての教育も受けているのだろう。
よくわかってくれた。
織斑君も無事納得してくれたようだ。
ただ今回の発言には若干問題がある。
千冬さんに専用機持ちとしての教育もしておくようにいっておこう。
突然機密を扱う身になって慣れていないのもわかるが問題が起きてからでは遅い。
そういえばシャルルというのは確か男性の名前だったはずだ。
女性に男性の名をつけるという謎な状況が有り得なくはないが極稀と言っていいだろう。
なら本当の名前はなんだろうか?
「そういえばさ、デュノアさん。本当の名前は何?」
一夏が首をかしげた。
まあこれは雑学の域だから知らない人は知らないか。
「シャルルっていうのは男性につける名前なんだよ。だから本当の名前は何かな?って思ってさ」
ああ、と一夏が小さい声で出す。
そしてデュノアさんも口を開いた。
「私はシャルロット、シャルロット=デュノア」
シャルロットか。シャルロットだからシャルルなんだろうな。
まあどちらでも通じるようにあだ名をつけよう。
色々考えていると織斑君が先に答えを出した。
「じゃあシャルロットだからシャルでいいな」
グットアイディアだ、一夏。
シャルルでもシャルロットでもそのあだ名なら問題はない。
「いいんじゃない?そのあだ名」
といつも間にか返していた。
その直後である。この部屋にノックの音が聞こえたのは。
ここで私は寝たふりをした。
どうやらシャルも寝たふりをして、一夏はそれを看病するところを演じたようだ。
訪れたのはセシリアさんか。
まあこの際誰かは関係ない。
あとこの件はあとで一応報告することにした。
本当にオーレリア空軍の保有機問題等には時間が無いのだ。
それに根回しはある程度しておかなければならない。