IS×ACE COMBAT X ≪転入生はエースパイロット≫   作:初月

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グリフィス隊の日常編(オーレリア戦争直後)です


番外編5 - Gryphus Squadron - 過去の幻影

2021年2月。

レサスの暫定政府樹立の話がまとまりはじめたころ。

 

サンタエルバ航空基地、それも予備機用格納庫の前にグリフィス隊の姿があった。

 

何故そんなところに居るのかと言えば答えは一つ。愛機を壊してしまったのだ。

より正確に言うのならばまともな整備を行う時間すら惜しんで出撃したことによりガタが来たというわけである。

 

そういうわけで予備機の出番となった。

 

「俺たちが大丈夫ならなんとかなると思ったんだがな……」

 

そう漏らしたのはグリフィス5だ。

 

「戦闘機たちは結構繊細ですのでもっと丁寧に扱ってください」

 

小言を言う整備員を前にして俺たちは苦い表情することしか出来なかった。

 

「これからは気を付けます」

「その意気でお願いします」

 

説教を受けつつ格納庫で少し埃を被っている機体の前に到着する。

 

「こいつが新しい相棒か?」

「ええ、これがこの基地で最高の状態で残された予備機、ミラージュ50EAです!」

 

目をキラキラさせながら整備員が指示した方向にあったのは小さなカナードを付けたデルタ翼機だった。

 

既に旧式と化していたミラージュ5のエンジンを高出力で低燃費なものへ換装し、レーダー等の電子機器を最新鋭のものにすることでミラージュ2000に近い性能まで持って行ったオーレリアでの近代化改修型である。カナードもその時つけられたもので、これで低空や離着陸時の性能を底上げしたらしい。

 

「デルタ翼機か。興味深い」

 

珍しい機体に巡り合えたからか、そんなことを口走っていた。

 

 

 ◇

 

「それでお前らはそんな機体というわけか。気の毒なことだ」

 

司令部で絡んできたのはミルバス隊の隊長殿だ。

オーレリア南部の掃討作戦等で活躍していたらしく一部では有名なのだが、レサスに侵攻する勢いで北進していた俺たちからしてみればあまり知らない部隊の隊長であった。

最近ではサチャナ基地やサンタエルバ基地勤務が多いのでよく会い、よく飲む仲だ。

 

「少しばかり飛び過ぎたらしい。まあオーレリア戦争のころから酷使してきたから愛機にとってみればいい休暇だろう」

「そんなことを言えるほど余裕があるのは流石オーレリア一のエースといったところか」

 

皮肉を交えた雑談に二人とも笑い、そして自らの現状に溜息を吐いた。

 

「なんで機体が限界を迎えるまで飛び続けてるんだろう……」

「休暇……休暇が欲しい……」

 

気付いた時にはそんなうわ言を吐いていた。

 

「俺の前だからまだいいが他の奴らの前ではそんなこと口走らないでくれ。士気にかかわる」

 

普段とは打って変わって真面目になるグリフィス5に苦笑した。

 

「それじゃ俺らはここでお別れだ」

「次の任務か?」

「ああ、空から逃げられない運命を背負ってるんでね」

 

またいつか、と言い残してブリーフィングルームへと入っていった。

 

 

 ◇

 

ミルバス1に別れを告げてから間もなく。

俺たちは早速予備機格納庫前の駐機スペースに向かっていた。

 

「予備機受領から間もなく出撃とはついてないっすね」

「試験飛行の代わりと思え、グリフィス5」

「了解です、隊長」

 

疲労の籠った声で会話しつつ準備を整える。

声こそ疲れているものの手際は良い。それがまだまだ戦えるという意志を示していた。悪態をついているとはいえ既にマニュアルを把握しているのだって証拠だ。

 

「電撃的侵攻だったとはいえまだ残党が居るというのか……」

「規模的には徐々に小さなものになってるのでそう心配することはないでしょう」

 

グリフィス5の言葉で少し昔を思い出した。

思えばアーケロン要塞を陥落させた直後の戦闘ではレサス国境に近いサルーカだったとはいえ防空網制圧すら必要とする規模であったことを考えれば、今回の自走対空砲が一両しかいない部隊というのは小さいものかもしれない。

 

「そうだな。変に気を張ることもない……か」

「ええ、それでは行きましょうか」

 

グリフィス5はそういうとタラップを一気に駆け上がり操縦席へと移った。

直後ジェットエンジン特有の甲高い音がなる。

相変わらず行動が早いなと少し感心しつつ傍らにいた整備士に話しかける。

 

「こいつに癖とかはあったりするのか?」

「それは分かりませんが……しばらく飛ばしてない機体なんで気を付けたほうがいいとは思います」

 

歯切れの悪い返答に苦笑を浮かべつつ一気にタラップを駆けあがった。

 

「しばらくのことになると思うがこいつを頼むぞ」

「分かりました。幸運を!」

 

整備士の意気の良い返答に手で合図を返し、キャノピーを閉じる。

 

<<遅いですね、隊長>>

 

若干苛立ちの混ざった声が無線越しに聞こえてきた。

 

<<待たせてすまんな。それでは行くか>>

 

謝罪の無線を入れると同時にジェットエンジンの甲高い音が私にも響き始めた。

そして各種機器の確認の後、地上要員の指示に従いエプロンを走り始める。

 

<<グリフィス隊よりサンタエルバ管制塔、滑走路進入許可を求む>>

<<既に許可は出ている。A滑走路に進入せよ>>

<<了解>>

 

確認の後、グリフィス5の前に出て誘導路を通り滑走路に入る。

間を開けずに俺に続いてきたグリフィス5も位置につく。

 

<<グリフィス隊、離陸準備完了>>

<<サンタエルバ管制塔よりグリフィス隊、離陸を許可する>>

<<了解した>>

 

その返答と同時にアフターバーナーを吹かし急加速を開始する。

旧式とはいえ改修されたミラージュ50は瞬く間に空に上がった。急角度での上昇で一気に1000フィートへと到達する。

 

<<グリフィス隊、スプレッド隊形へ移行!>>

 

そう指示を出して、急上昇していった。

ほぼ真上を向いた機体は瞬く間に雲を突き抜ける。

 

そうして雲海の上に躍り出た。

 

<<近代化改修しただけはあるな>>

<<あとはカナードの恩恵ですかね>>

 

初めて乗る機体に対して各々述べながら太陽に向かってサンタエルバを後にした。

 

 

 ◇

 

―――カラナ平原。遺跡や廃墟の点在するこの場所は幾度となくゲリラの拠点となり、その度爆撃されていた。

そして学術機関から苦情が来る、というのがいつもの流れである。

 

そんな空軍パイロットに面白おかしく、割と洒落にならない話が語られる場所を飛んでいた。

 

<<相変わらずこの辺りには残骸しかないな>>

<<ええ、平和なら遊覧飛行とかしてみたい場所ですね>>

 

グリフィス5がふと言った冗談に少し微笑む。

 

<<そんな日を目指して飛び続けるのも悪くない>>

<<……案外理想家なところありますね>>

<<あって悪いか!>>

 

グリフィス5の口撃に少し大きな声で対抗しながら作戦空域に入っていく。

 

<<情報によると敵拠点はこのあたりですが……>>

<<目視では見当たらないな。FLIRには怪しげな反応があるが>>

 

通信しつつ赤外線画像を眺める。

それには遺跡の壁から若干はみ出た履帯らしきものが写っていた。

 

<<どこら辺かわかりますか?>>

<<方位030の遺跡群付近だ>>

<<了解。試し撃ちしてみます>>

 

報告の後、緩降下していったミラージュ50がDEFA機関砲の30mm砲弾をばら撒いていく。

砂漠と遺跡に着弾したそれらは大きな砂煙のみをあげた。そして、爆炎が発生した。

 

<<戦果あり!敵部隊を視認しました>>

 

グリフィス5がそう叫ぶと同時にエンジン出力を上げていく。

 

<<トレード隊形に移行しろ!次に反転したら爆撃だ>>

<<了解!>>

 

指示を飛ばしつつすぐさま展開された敵対空機関砲からの弾幕の中を駆け抜ける。

弾丸が機体を掠める音を聞きながら瞬く間に弾幕を潜り抜けた。

 

俺の後に続くようにもう一機のミラージュが飛び出した。

 

<<被害は無いか?>>

<<ええ。幸いなことに無傷です>>

 

その返答に安堵する。今回の機動はかなりの無茶をしていたからだ。

いくら腕が良くたってどうにもならない状況になりかけていた。疲労で判断力が鈍っているのかもしれないと思いつつも指示を出す。

 

<<それでは空襲を開始する。俺が戦車を纏めてやるからお前は装甲車と対空砲を狙え>>

<<了解。盛大なパーティーといきましょうか>>

 

その無線を合図として反転し、緩降下を開始した。

すぐさま戦車にペイブウェイをロックオンし2発投下。左旋回をして離脱する。

 

<<グリフィス1が敵戦車破壊!俺も続くぜ!>>

 

威勢よくグリフィス5が突撃した。

離脱後に機体を右に傾けつつ、通過した跡を眺めると大きな爆炎と共に炎上する地上兵器が見えた。

 

<<敵車両の全損を確認。作戦完了だな>>

<<ですね。たった一機とはいえ対空機関砲に突撃するのは度胸が入りますね>>

<<そうだな。状況が許すなら対レーダーミサイルで作戦前に掃討しておきたいものだ>>

 

愚痴をこぼしつつ機首をサンタエルバ基地へと向けた。

 

<<グリフィス隊、RTB>>

 

ミラージュシリーズ特有のデルタ翼を輝かせながら舞い戻っていった。


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