IS×ACE COMBAT X ≪転入生はエースパイロット≫   作:初月

37 / 37
長時間かかりそうとか思っていると早く書きあがるジレンマ


第30話 結合と崩壊Ⅰ

日が水平線に沈み始めるころ。

2機のF-35がIS学園上空を通過していた。

 

<<グリフィス5、いいやジャック・バートリー大尉>>

<<なんでしょう隊長>>

 

溜息を吐きつつグリフィス5に話しかけた。

 

<<さっきの殴り合い、お前が原因作ったんじゃないだろうな?>>

<<そんなわけないでしょう。まあ隊長を貶す無礼者に鉄槌を下しはしましたが>>

 

悪びれる様子もなくそう答えたグリフィス5に安心すると同時に溜息を吐く。

 

<<ここはオーレリアじゃないんだ。直接力に訴えるのは慎め>>

<<隊長も愛機との再会だからと言ってテンション上げ過ぎです>>

<<ははっ、違いない>>

 

軽口を叩きつつ指定された空路に侵入する。

レーダー上に映る4つの機影を眺めながら決闘という事態に至った顛末を思い出していた。

 

 

 ◇

 

その日、私が基地を訪れたのは授業終了直後である。

愛機の受け渡し等の日程を再確認し、あわよくば混成部隊の軽い結成パーティーを行おうとしていたのだった。

 

だがそんな目論見は早速打ち砕かれる。

格納庫内で盛大な殴り合いが行われていたのだ。

片や我が僚機のグリフィス5、対するのは昨日見かけた操縦士数名である。

 

ブナ基地制圧時の教訓から陸軍のやつに格闘術を学んでいたグリフィス5が優勢ではあるが、数の暴力によって押されかけていた。

 

「おい!一体何があったんだ?」

 

大声でそう聞くと一瞬場が静まり返った。

 

「ご主人のお出ましだぞ、犬っころ」

「なんだとっ!」

 

だが誰かの罵倒から殴り合いが再開された。

そうして周囲から野次も飛ばされ始める。

 

……どうやら私に関係があるようだ。

 

面倒な状況へ溜息を吐きつつ輪へ吶喊し取りあえず交戦中の全員をぶちのめす。

小柄な女一人で男数人をなぎ倒すという光景に唖然としている周囲を見ながら指示を出す。

 

「衛生兵を呼んでくれ。あと、誰でもいいからこの状況に至った経緯の説明を頼む」

 

一拍おいて気を取り戻してから動き出す各員を眺めつつ混成部隊の状況を思い溜息を吐いた。

 

 

 

「―――以上が今回の乱闘騒ぎの原因かと」

 

そう整備班長が説明を締める。

事態は私が思っていた以上に悪かったようだ。

 

纏めるならば私が女であることに一部から不満が募り、そいつが自らの立場を掻っ攫っていった「IS」というものに乗る訓練をしているという事実がそれを加速させ、私を知っているであろうグリフィス5―――いや、ジャック・バートリー大尉につっかかり、そしてやつが珍しくブチ切れた結果がこの惨状、ということらしい。

 

駆け付けた衛生兵に介抱される隊員を見つつ溜息を吐く。

 

「60分後にブリーフィングルームに集合してくれ。それまで解散だ」

 

その後は機体と各種施設を確保するため基地を駆けずり回った。

 

 

 ◇

 

思い出すと同時に溜息を吐く。

そんなに信用ならないならドッグファイトで勝負だと宣言したはいいもの、こんな様で部隊をまとめ上げられるのか甚だ疑問だ。

そんなことを思っていた。

 

<<どうしたんです?>>

<<我が隊の今後と飛び続けてる間に積み重なった社会問題を憂いてるだけだ>>

<<そうですか>>

 

短い会話をこなした後、空中管制機から戦闘開始を知らせる通信が入る。

 

<<アルファ1よりアルファ2へ、アブレスト隊形へ移行しつつヘッドオンだ!>>

<<了解!>>

 

今回のルールはBVRの禁止、機関砲の使用禁止、敵機に30秒間射線に捉えられたら負け、900km/hで向かい合ったら試合開始、両チームとも同じミサイルのシュミレーション装置を使用するということだ。つまり最初のすれ違いである程度勝負が決まる。

 

AIM-9を撃てる距離まで接近あるのみ。

全員そう思っているらしく、両チームともに開幕でアフターバーナーを点火した。

 

瞬く間に接近してくるBチームのF-16CJ。

そうして射程に入った瞬間、正面の3機へ向けサイドワインダーを撃ち上昇を開始した。

勿論フレアをばら撒くことも忘れない。

 

LOALに期待してばら撒いたサイドワインダーは1機を撃墜するに留まった。しかし、ミサイル回避の必要に迫られた敵編隊は散開してしまう。

 

<<イヤッホゥ!隊長が一機撃墜!>>

 

無線で雄叫びを上げるジャックを微笑ましく思いつつ回避機動を続ける。

バレルロールを行いつつ下方を確認すると、敵機に貼りつくグリフィス5の姿があった。

 

数秒後、全体無線で一機墜落の報告がなされる。

 

現状は私と追いすがる敵機2機。そしてフリーのグリフィス5。

完璧な状況だ。ダナーン海峡での空中戦を思い出すほどに。

 

<<ジャック、敵機の後方に回れ!>>

<<了解!>>

 

そうして後方に回ろうとしたグリフィス5に敵機が気づかないわけはない。が、それへの対応を迷った時間は命取りとなりうるのだ。

 

グリフィス5を抑えにいく機動を見せた敵機にウェポンベイとフラップを開きつつ旋回するという無茶な機動で後ろに貼りつき2発のサイドワインダーを発射。それと同時に急降下し離脱、エネルギーの回復機動へ移った。直後に一機撃墜を知らせる無線が鳴り、シュミレーション装置から一機のマーカーが撃墜を示すものへと変わる。

既にグリフィス5は敵機の後ろに控えている。私の追撃をすればグリフィス5に無防備な背を晒すことになる。勝つ可能性があるのは二つに一つ。そのことに気付いていたのか残ったF-16CJはグリフィス5にヘッドオンをしかけ、そして相討ちとなる。

 

シュミレーション装置から私以外の生存を示すマーカーが消え、賭けに成功したことに安堵したあたりで状況終了との無線が入ったのだった。

 

 

 ◇

 

機体を格納庫に入れ、ブリーフィングルームに向かい歩いていると悪態をついているBチームの面々に遭遇した。

私に気が付くと未だに敵意を示す目線を向けてくる彼らに溜息を吐く。

 

「殴り合いでも空戦でも勝てない相手に敵意を向けるのはまだいい。

 だがそんな悪態をついている暇があるなら腕を上げる策を練るべきだ」

 

早々に問題を引き起こしてくれやがった奴らにそう吐き捨てるように言った。

ここは精鋭を集めた部隊じゃなかったのか?なんて言葉も出そうになったがどうにか押しとどめる。

 

そうして既に一触即発の空気に陥ってる現場を見てさらに溜息を吐いた。

場を沈黙が支配し、グリフィス5とBチームの隊長が臨戦態勢で構える。そんな状況を打ち壊したのはBチームの一人の言葉だった。

 

「どうしてそんな腕がありながらISなんかに乗っている?」

「適正が出たから乗れと命令された。ただそれだけだ」

 

また沈黙が流れる。

そして私を試すかのように聞いてきた。

 

「ISに乗りたいと思って乗っているのか」

「違うといえば嘘になるがアレよりは戦闘機で空を駆ける方が好きだね」

 

そうか、と小さい声を残すとBチームの面々は肩を落とした。

 

「小娘だと思っていたのは空に魅入られた者だったってことか……」

「心配して損したぜ。俺たちはお前を隊長として認めるよ」

 

そんな発言に私の頬が緩んだ。

 

「よろしく頼むぞ、そして今後の精進にも期待している」

 

了解しました、新隊長!という全員の応答の後、共に雑談をしながらブリーフィングルームへと向かっていった。

 

 

 ◇

 

ブリーフィングルームでドックファイト訓練のデブリーフィングが終わった後、当隊の結成祝いが行われることとなった。

そんなわけでまた隊長就任のあいさつを即興ですることとなったのだ。

 

「それでは新隊長殿!就任の挨拶をお願いします」

 

良い顔をしながらそう振ってきたのはグリフィス5、いやこれからはジャックだ。大方今度の口撃の材料作りだろう。

 

「まかされた」

 

今回は真面目に、普通に行う。そう決心しつつ返答すると同時に回ってきたマイクを受け取った。

 

「しばらくの間貴官らを指揮することとなったメアリー・オーブリーだ。

 皆も知っている通り私たちの目的はIS学園周辺の防空であり、もっと詳しく言うならば所属不明機の撃墜とISの撃退もとい時間稼ぎだ。

 だが私たちならその先も狙えると私は確信している!」

 

昨日徹夜しそうになりながら考えてきた演説を読み上げているとグリフィス5からもっと巻けとのジェスチャーが出た。

そうして辺りを見回すと隊員の目が若干厳しいものとなっていた。

 

「長ったらしい演説はいらなかったか」

 

小声でグリフィス5に聞くと静かにうなずく。

 

少し先走っていた自分を深呼吸で落ち着かせ、咳払いを挟んだ後口を開いた。

 

「それでは本日は無礼講だ!」

 

全員の了解という掛け声と共に盛大なパーティーが始まったのだった。

 

この後に色々派手にやらかしたおかげで私が基地司令官の呼び出しをくらい、そして翌日二日酔いでIS学園を欠席したりと色々あったのだがそれは余談である。

 

そして私が重大なことに気付くことが出来ないままIS学園防空隊という扱いの対亡霊機業部隊は発足した。

 

 

 ◇

 

メアリーが無断で学校を休んだ日、暗号通信で本国からの連絡が来た。

 

『ボーデヴィッヒ隊長ですか?』

 

「ああ、私がラウラ・ボーデヴィッヒだ。クラリッサか?」

 

ええ、と聞きなれた声が返ってきた。

だが、その口調には深刻な音色が混ざっていた。

 

「何があった?」

 

『以前隊長が調査を命じていたクラスメイト、メアリー・オーブリーですが―――

 

 

 

 

     ―――どうやらオーレリア空軍特殊部隊の指揮官ようです』

 

その報告に背筋が凍るようなものを感じた。

私の懸念が当たっていたかどうかは分からない。

 

「奴は黒か、それとも白か?」

 

『まだ分かりません。ですが不自然な点が多いので警戒しておくのに越したことは無いかと』

 

でもその情報だけで警戒するに値するほど奴の行動に不明点が多いのは事実であった。

何せ軍人としての使命を曝け出していた私が受け入れてしまうほどの人物だったのだから。

 

相棒として共に動いた戦友の真意を確かめるときが来たようだ。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。