IS×ACE COMBAT X ≪転入生はエースパイロット≫ 作:初月
ですが用事が立て込んでいるので次も一年後くらいになりそうです……。
アリーナで
光る剣と光速の弾丸のみで仕留めんとする白亜の機体を錯乱するかのように高機動により生じる水蒸気を纏った機体は駆け抜けていた。
遷音速域で行われる機動戦、白亜の機体はまだ未熟さを隠せない。
だがそれは相手も同じ。
まだ拙い機体制御システムも合わさってかサブブースターの推力に若干振り回されていた。
が、操縦士の技量でシステムが補われているためブースターの噴射炎ほど機動は乱れていなかった。
それどころか不安定さを利用した急制動すら行っていた。
次々と行われる一撃離脱攻撃が白亜の機体の装甲を掠めていく。
そして白亜の機体によって放たれる致死の斬撃を余裕を持って回避していく
そのような状況が続いた。
しかし時間が経つにつれ、両機ともに機動に乱れが生じ始めていた。
長時間の緊張による思考の乱れと、不慣れな機体で発生した小さな誤差の積み重ねという差が若干白亜の機体を不利にしていた。
遷音速状態で飛び続ける灰色の機体に観客席から見守る青髪の少女がさりげないアイコンタクトを送ると同時に灰色の機体の機動が乱れた。
「よし、行ける!」
大きな意志の籠った言葉と共に無表情で立て直しを図るメアリーに対し、零落白夜による追撃を仕掛ける。
そして白亜の機体にも追跡可能な急制動を行ったとき、戦局が動いた。
「くぅ!」
白式の限界に近い高速機動のGに操縦者がうめいたとき、爆発的な音と共にレイダーが突然視界から消えた。
再度の急制動を行いオーバーシュートしたのだ。
その状況に唖然とする一夏に重い衝撃と遅れたガトリング砲独特の炸裂音が響いたのは直後のことであった。
「撃墜確認。お前はもう少し機動に慣れたほうがいいな」
メアリーはそう呟くと同時に楯無先輩のところへと飛んで行った。
そして急激な加速が轟かせた爆音と共に戦いの余韻が収まっていった。
◇
「今回の一夏君どうだった?」
ここ数日よく聞いていたその言葉から私たちのデブリーフィングが始まった。
「徐々に上達してきてます。もうISらしい戦い方であれば私と十分やり合えるのではないでしょうか」
そして思ったことを率直に述べるのが定番の流れである。
実際、一撃離脱を繰り返すという戦闘機じみた戦い方ですら彼の刃を掠めそうになっていた。
まるで私が一方的に攻撃しているかに思える試合内容だが、白式の攻撃であれば一撃を掠めることすら許されないレイダーが勝つという時点で彼の攻撃が命中するなどということは在り得ないである。
「あなたもそう思うのね。次からは手加減無しでお願いできる?」
ふと出た楯無さんの言葉に口端が少し吊り上る。
なんの制限もなく飛べるという事実がただ嬉しかった。
そして、彼と全力でぶつかり合えるということも少し嬉しかった。
「ええ、いいですよ。まだ彼の攻撃に当たる訳にはいきませんから」
「期待してるわ」
私の自信を肯定する発言とともに小さなデブリーフィングは幕を閉じた。
そしてふとアリーナに目が移ったとき、白式を展開したまま眠る一夏が目に移った。
「楯無さん」
「なぁに?」
「もう少し彼の休みを増やしてあげたほうがいいのでは?」
彼が体を壊してしまわないか心配だ、と言葉を続けようとしたとき楯無さんが呟いた。
「もう私たちには時間が残されてないのよ」
その一言に私は波乱の訪れを感じた。
再び迫ってくるのは硝煙の臭いなのか、それとも醜い人間同士の潰し合いなのかは分からないがもう平穏な日常ではいられないのだという事実が私の心に少し圧し掛かった。
◇
訓練の終了後、私たちは食堂に集結することになっている。
デブリーフィングを行うという名目だが、実質的には休憩時間である。
大抵の場合主役の一夏がかなり疲れているのだからどうしようもなく、また私も疲れていたのが大きかった。
私の機動はISのパワーアシストを用いたG軽減処置を極力減らすことで余剰エネルギーを生み出したことにより無理やり成り立たせたものすらある。
感触としては戦闘機で交戦したときとあまり変わらないものであり、いつものような疲れを感じていた。
背もたれに体を預けつつ沈みゆく夕日を眺めていた。
「おお、メアリーは先に上がってたのか」
「ええ」
新たに疲れ果てたメンバーが追加されたテーブルはやはり会話が無かった。
小さくため息をつきつつまた空を見上げると突然視界がふさがれた。
「だーれだ?」
聞き覚えのある声に更なる溜息をかさねる。
「楯無さんですね。普通に登場してもいいんですよ?」
「普通に登場したのにあなたたちが気づかなかったんじゃない」
そう言い返す楯無さんに自身の疲労のひどさを痛感させられる。
ふと正面を見ると、デブリーフィングを受けるべき一夏は寝ていたのだった。
どおりで二人とも気づかないわけだ。
内心納得しつつ呟く。
「一夏はすごいですね。短期間で凄まじく成長している」
「そうね。あなたの操縦に追いつくほどかしら」
「ISに限ればその通りでしょう。私も鍛えなければなりません」
少し冗談めかした声での問に考える間も無く答えた。
「その時は私を頼ってもいいのよ?」
「考えておきます」
軽口の応酬の直後私の携帯が鳴り響いた。
届いたのはメールが一件。
その差出人を見て疲れが吹っ飛んだ。
「すみません。司令部から呼び出されました」
「なんですって?」
一言を合図としたかのように仕事を出来る体制を瞬時に整えつつ事務的な会話に転向する。
「先日の空襲の件かと」
「ああ、あの件ね。まあ頑張ってらっしゃい」
オブラートに包まれ吐かれた毒に軽く笑い返す。
直後、何かに気付いたかのように楯無さんが口を開いた。
「貴女、私口調あまり似合ってないわ」
突然の口撃に歩みが止まる。
そして数瞬の後、逃げるかのように食堂を後にした。
◇
夕方。他の工作員によりマークされているであろう行動している僕は食堂を訪れた。
そこで紅茶を飲みつつ、携帯端末で亡命の手助けと成り得る人材をリストアップする作業をするためである。
生徒会長である更識楯無と正体不明な専用機持ちであるメアリー・オーブリーが唯一の男性操縦者を挟みつつ会話していた。
先日の会話から訓練を付けているらしいのでそのデブリーフィングだろうと思いつつ空を見上げる。
片や暗部でも有名な家出身の者、その片割れもあの取り巻きをすり抜けて織斑一夏に接近できるような逸材だ。
恐れるには越したことはない。
そう思うにも関わらず何故か彼女らの会話を聞き続けていた。
更識楯無に思うところはない、そしてメアリー・オーブリーにも思うところはないはずなのに何故か気になっていた。
彼女の容姿は若干死んだ姉ににている、がそれだけなのだ。
しかし何かが僕の心を揺さぶっていた。
何が揺さぶるのか、その想像がもたらす根拠のない希望にすがることから逃げるように紅茶に口をつける。
そのまま無心にコップ半分くらい飲み干した後テーブルの上に置かれたメモに気が付いた。
“目立つ行動は避けることね。新人さん。”
まるで僕のことを見透かしたかのようなメモを咄嗟に回収し、ただ空を見上げながら残り少ない紅茶に口を付けた。
◇
浮足立ちながら薄暗いIS学園寮を歩いていた。
先日の空襲の件で呼び出されたかと思っていたのだが少々想定外のことになっていた。
確かに最初はフェンリアとの戦闘に関する詳細な報告始まった。
だが次から色々とおかしな方向になっていたのだ。
まず最も光学迷彩を搭載したフェンリアと戦っており、また復元されたフェンリアについても最も知っている者としてIS学園防衛を主任務とする戦闘機隊の隊長となった。
そして今回の防衛隊はオーレリアが主体だからとオーレリア空軍の極東派遣部隊の副司令にまでなってしまったのだ。
ここまでなら絶望に暮れていたであろうが、最後にとんでもないものが待っていた。
今回の作戦のためという前置き付きとはいえオーレリアの数少ないF-22が回されることになったのだ。
それもオーレリア戦争時に私が使っていた機体とのこと。
昔の相棒との再会である。
そのことがとても嬉しかった。
直後の簡素な着任式にてIS学園に生徒として在籍している旨のことを何一つ恥ずかしがることもなく、そして包み隠さず言うくらいには気分が良くなっていた。
そんなわけで浮足立っていたのだがそれが完全に裏目に出た。
鼻歌混じりのスキップをしながら待機していた寮監に気付くことなく通り抜け、そして彼女の説教を延々と受けることになってしまったのだから。
まあ夜間に騒いでたこちらに非があるのだからどうしようもないのだが。