IS×ACE COMBAT X ≪転入生はエースパイロット≫ 作:初月
パッケージのテストも無事に終わり、反省会的なものを行うことになったのだが
「何故感想を聞くためにIS学園を出て一部のマニアに人気がありそうなメイド喫茶にしたのか小一時間問いただしたい」
「ここはメイド喫茶じゃないよ。向こうに執事さんもいるじゃない!」
「問題はそこじゃない!」
まるでコントのような会話をしているのは@クルーズという名前の喫茶店。
ただ、この店は普通の喫茶店とは違い店員が使用人の格好をしているのだ。
俺はこんなところより普通の喫茶店のほうがよかった。
それにISの武装に関する情報とかも照らし合わせて話さなければいけないのに大衆の面前とか不便でしかない、と俺は思う。
「で、なんでここにしたんだ?」
「なんだかメイドさんっていいよね…って私の性癖を聞きだそうとしないで!」
「天と地がひっくり返っても聞き出す気はない」
こんな会話ばっかりで結局本題が進まない。
本当にこいつとは付き合いたくない。
軽いため息をつくと遂に本題へとシフトした。
「で、レイダーはどうだった?」
「尖ってるけど十分な性能だと思うよ。
ただM/PDWは専用のFCSをつけるか照準器を装備するかしないと当てにくいな」
「わかったよ、改良しておく。で他には?他には?」
嬉々として聞いてくるエリナ。
まじめな話になろうが大体はこのテンションを貫いてくるのはある意味すごいと思う。
「まだ少ししか乗ってないが燃費が悪いところかな」
「他には?」
お前は完璧なものを作らないのか。
と突っ込みたくなったがやめておくことにした。
自分の作品に過剰な自信を持っていて意見を聞き入れないような人よりはましだろう。
それにこいつなりの優しさでもあるから。
「まだ1時間も乗ってない機体に対してそこまでの感想は持てないよ」
「ちぇ」
まあ最後の一言で大体台無しにしてくれるんだけどね。
しかし、これだけですべて用事がすんでしまった。
「一体何のためにわざわざここまで来たんだろうな…」
ふと呟いた。
「まあいいじゃない。ゆっくり休んだら帰ろう!」
「そうだな」
このあと俺たちはオーレリアの復興具合とか予算が少ないことを愚痴ったりしながらのんびりと時間を過ごした。
本当に予算どうにかなんないかな…。
◇
結局ほとんど駄弁ってはいたものの一応目的を果たした私たちだった。
しかし現実は非情である。
元々持ってきていた金も多かったしノースポイントにもそこそこ来ていたので銀行口座を作っていたからだろう。
数時間過ごして結構な額になっていたのを全額払わされた。
オーレリアに戻れば余りすぎて自宅を全面リフォームした上に使用人(本物のメイドさん)を雇って防衛と管理を任せても全然減らないくらいには有るのだが、ノースポイント駐留部隊になる可能性が無いに等しいのでそこまで金を持ってきているわけでもない。
そんなところで大出費になれば金欠になるのは火を見るより明らかだ。
というわけで銀行へ向かったのだが
「銀行に行くということはこれから奢り三昧だね!?やった!」
…面倒な奴が引っ付いてきているのは相変わらずだ。
「これ以上奢ったらここでの行動に支障が出るから無理。というわけで諦めろ」
「絶対ダメ?」
上目遣いで俺を落とそうとしてくるが、元々戦闘機が病的に好きだった俺に不覚は無かった。
ちなみに好みは小型の…って俺の性癖を言う場じゃ無かったな。
「ダメ」
「分かった」
珍しくエリナがすぐに引いた。
いくら自由奔放でも金は慎重に使っているのだろう。
エリナとそんなやり取りをしながら俺の順番を待っていた。
一部では部隊員の寄付金で一部経費を賄っているとも聞く。
余ってる金を寄付しようかと思い出した時、突然銃声が銀行内に木霊した。
騒然とした店内。
大陸戦争において地上戦の起きなかったため初耳の人が多いのだろう。
エリナが「皆伏せて!」と叫ぶまで固まっている人がほとんどだった。
でも俺は違った。
相手は5人、全員拳銃の携帯を視認したが、即応出来そうなのは一人。
4人はただの荒くれ者だろうが、リーダー格の者は本物の動きをしていた。
幸いなことにリーダー格は遠くにおり援護不能、一番近い標的は一撃で仕留められる。
そう判断し、近くにいた素人を気絶させた。
敢えて音たてて気絶させ、残りの敵の注意を気をこちらに引かせる。
思った通りに事が運んでいくが、まだ油断できる状況じゃない。
動くのをやめれば蜂の巣になってしまうのには変わりないので、周りにあった机やプリントで撹乱しつつ、机の影へと移動した。
ノースポイントの銀行員はかなり訓練されているようで、発砲音と机や紙がばら蒔かれる音でうるさくなった数秒で通報ボタンを押す。
勿論犯人側も抵抗という名の乱射を行ってきたので"犯人から奪った"拳銃で敵の拳銃を撃って破壊したあとグリップで殴って気絶させた。
そしてリーダーと思われる男に飛びかかるが、ネックレスらしきものを引き裂いただけで終わった。
残る3人は既に屋外へと脱出を開始していたのだ。
攻撃の失敗で態勢を崩した俺が追撃することは不可能だろう。
自分の失態に対して溜息を吐きつつ引きちぎったネックレスを見た。
そこにあったのはエルジア軍のものと酷似した年季入りのドックタグだった。
ある考えが脳裏をよぎる。
リーダー格はISの影響で軍を出された退役軍人かもしれない。
そう思うとなんだかやるせない気持ちになった。
元はと言えば平和や財政のための軍縮に、戦術兵器としては最強のISが出来た事を盾にしただけに過ぎない。
民衆も望みでもあった軍縮で民衆が危険に晒されるとは…。
そんな事を思いながら気絶した犯人を拘束した。
しかし三人も捕り逃してしまうとは。
まだまだ訓練が足りないな。
正当防衛で犯人以外は傷付けてはいないが警察にそこをつつかれるのは面倒かもしれない、なんてことを安心とかで沸き起こる歓声の中で考えようとしたのだが、
「ここを見られると面倒だから帰るよ!」
と言うと同時にエリナに引っ張られていった。
人は見かけによらないを体現化したかのような人間だよ、まったく。
◇
逃走劇の後、IS学園に帰ってきた私たちは二人そろって整備室でレイダーの改良をしながら一夜を明かした。
IS学園の校内巡回も案外ザルね。
そんなことを思いながら一応完成させたレイダーの隣で寝てしまったメアリーにそっと毛布をかけて私は日本を後にすることにする。
ここ数年の恐ろしい数の出撃のおかげかメアリーがすっかり忘れていた誕生日。
それが昨日だったのだが結局なにもしてやれなかったので、ついでにIS用の爆雷を置手紙と一緒においていくことにした。
体の大きさからか年齢よりかなり幼く見える彼女だが、背負っているものの大きさゆえに気を休める機会すらない。
昨日のアレで少しだけでも気を休められたのなら幸いだ。
そんなことを思いながら私はIS学園をあとにする。
―――また会おうね。私の親友。
小さく呟いたその一言は風に打ち消されて消えて行った。