IS×ACE COMBAT X ≪転入生はエースパイロット≫   作:初月

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今回は量が少し多いです。


第20話 小さな終わりは小さな始まり

敵地でベイルアウトする羽目になったときのために養ったスニーキング技術を使いながら私の病室へと向かっていたのだが、結局千冬さんというラスボスを回避することは出来なかった。

 

おかげで応急処置の後説教を30分くらい聞かされた。

こんなの訓練生のとき以来だよ…。

 

そして今は

「何故この者をむざむざと置いておくのですか、教官!諜報員ですよ!」

「いや、それには事情があると何度言ったら」

「事情があるからって諜報員を残しておくのは問題があります!」

「まず事情を聞いてからに」

「お前の言うことは聞いていない!スパイめ!」

とラウラが乱入してきて荒れに荒れている。

こっちは連戦で疲れてるんだ。いい加減休ましてくれ…。

 

おかげで回収した操縦者さんの尋問の用意に遅延が生じているということに気づいているのだろうか?

まあ未だに操縦者さんが起きてないので問題はないけど。

 

このままだと終わりそうにも無いので私は寝ることにする。

 

…そういえば最近戦闘中以外の一人称が私になってきている気がするが、こんなに短期間でも人の習慣って変わるものなんだろうか?

 

まあいいや、サァ寝るか!

 

 

だがそのときの私はこの後に起きる災難を予想してはいなかった。

よく考えれば予想できたはずだったのだが…。

 

 

 

口論が始まり15分くらいたった頃だろうか。

どうやらそのころには千冬さんとラウラの話がまとまっていたようで、俺の居眠りに気づいた二人は容赦無い起こし方を仕掛けてきた。

千冬が頭を、ラウラが首筋を狙い攻撃してきたのだ。

 

軽い命の危機を感じとっさに起きた私は全力で回避を行った結果二人の攻撃が見事頭に命中し一瞬気絶、その後頬を叩かれて起きた…と思っている。

正直なところ何がなんだかよく分からなかった。

 

気絶したことにより混乱している間に脇腹の痛み増してきたことに気づき、千冬さんにそのことを報告すると、もれなく病室送りとなった。

ちなみにもう一夏は居ないので部屋に帰っていないのは私一人だけである。

 

その中でどう暇を潰そうか悩んでいたときに封筒を千冬さんから渡されていたことに気がついた。

確かばれた時のためにと渡された書類だったはず…。

 

一体なにが入っているのかと思って中身を確認するとそこに入っていたのは新たな指令だった。

 

指令の内容を要約すれば『生徒(仮)から臨時戦闘員に格上げするのでそのまま居続けてね。もちろん支援は増やすよ?』というもの。

これ新手のいじめなんじゃないか?

 

それよりも臨時戦闘員ってなんなんだ?緊急時には出撃しろってことは分かるが、俺は地上じゃ一般的な陸軍兵士並みくらいにしか戦えないっていうのに…。

 

…それとも航空戦力のほうに不安があるのだろうか?

だとすれば夏休みの間に予備機体までを確保しておいたほうがいいかもしれない。

今の配備状況から考えて…予備はRafale MかRafale F(番外編4参照)だろう。

 

でもそれでは飛行場までいかなきゃいけないから使える機会とかは限られてくる。

VTOL機というのも考えては見たが緊急時とはいえIS学園内に戦闘機を運び込むのはかなり難しいし、置いておく場所がないはずだから居ても居なくても変わらないだろう。

 

戦闘機は基本的に使えないとなるとISの腕を上げておかないとだめか…。

 

短期間で慣れろっていうのは無理があると思った俺は同時にこんな任務を受けるはめになった理由を見つけた気がした。

準備なんて出来ない状況で普通の人間を国家代表には出来ない。

 

その点すぐ機体になれることができる、むしろ慣れなければならないテストパイロットは適任だったのだろう。

 

んでその中で適正が出たのが俺だったのだ。

本当に迷惑なことだが、政府としては検査費がかなりおさえられたはず。

 

でも今のオーレリアじゃしょうがないか…。

 

そう思い書類を処分した後、眠りに入った。

明日起きれるかどうかが心配だが…気にしないことにする。

 

いくらなんでも一日に三連戦は疲れたな…。

 

 

 ◇

 

日が落ち暗くなった海岸、柵がつけられているとはいえ普段は人が寄り付かない。

そんなところに人影があった。

 

その人影は投影ディスプレイに表示された戦闘映像を見て口を開く。

「は~。それにしても驚くなぁ。操縦者の生体再生まで可能なんてまるで―――」

「―――まるで、白騎士のようだな。

 コアナンバー001にして初の実戦投入。お前が心血を注いだ一番目の機体に、な」

 

私は束の言葉を紡いだ。

 

二人はその後軽い挨拶を交わすが、そのときに互いのほうを向くことはない。

どんな顔をしているかわかる

そのような確信が私たちの中にはあるのだ。

 

今回のことについて聞きたいことが幾つかあったのでそのことを口に出そうとするとまず束のほうから話を始めた。

 

「ちーちゃんが招き入れたあのイレギュラー。気をつけたほうがいいよ」

 

イレギュラーとは多分メアリーのことだろう。

 

「メアリーがどうしたっていうんだ?」

 

なぜメアリーが出てくるのか?

そう聞くと束の纏っている雰囲気が変わった。

そして口を開く。

 

「そいつが軍人だって話を聞いて経歴を調べてみたらさ、彼女の履歴途中から消えてるんだよ」

 

「なに?」

私は自分の耳を疑った。

だが続く言葉が思考を遮る。

「それにね、ここ最近のやつとなると断片的に残されているんだよ。初めて見る残し方だったなぁ」

 

「つまりはよく分からないから警戒しておけということか?」

 

今までの話をまとめるとそうなるが…日本政府までもメアリーを推してきたのだ。

まだ親友の話を信じ切れてはいないが信じるべきなのだろうか?

 

「そういうことだね。あとそいつのISが異常値をたたき出してるから気をつけてね」

「…ああ」

 

とにかくこの場では信じておくことにした。

 

少なくともメアリーを良くは思っていないようだがメアリーがもたらしたと思われる変化も楽しんでもいるみたいだった。

 

具体的なことは分からないがなにかを企んでいるらしい。

それに束の楽しむことがまともなことであるわけがない。

被害受けるこっちのことも考えておいて欲しいものである。

 

そっと心の中で溜息をつき、話題を変えることにした。

メアリーの件も重要だが、ここに来た目的はそれではないのだ。

 

まだまだ束には聞かなければいけないことが沢山ある。

本当に天災の名に相応しい奴だ…。

 

 

 ◇

 

福音襲撃のあった修学旅行だが、襲撃以外には特に問題は発生せずに終わった。

なお襲撃事件の際に無断出撃をした二人(私と一夏)は罰として機材搬出の手伝いをするはめとなった。

 

まあ怪我をしていた私が確認をしてISの治癒機能で全快していた一夏が力仕事をする形になったので負担は一夏に集中していた。

 

私は確認作業を早起きして終わらしたこともあり全然疲れていない。

 

今ある心配事といえばこの傷で何週間搭乗禁止になるかということぐらいだ。

できれば一週間以内がいい。

 

そんなことを考えながら窓際の席でボーっとしていると、隣に一夏がやってきた。

 

予想を裏切らないというかなんというか…随分と疲れているようだ。

 

処罰を執行したのは多分千冬さんのはずだ。

それ以外の人が生徒をここまでこき使うことは無いと思うね。

 

…だとすれば千冬さんはいつ休んだんだ?

という疑問が出てきたが、篠ノ之博士がアイアンクローと言っていたを思い出して俺は納得することにした。

前にIS用装備を生身で持ってたから元から体力はあるんだろう。多分。

 

暇つぶしに千冬さんのアイアンクローを証明できそうなことをさらに考えていたらなんだか寒気がしたので俺は考えるのをやめた。

そのとき窓を見るとそこには―――

 

 

 

 

 ―――誰も居なかったが、こちらを軽く睨んでくる千冬さんがいた。

 

睨まれるようなことが何個かあってこまるね、アハハ。

…これからある程度は行動に気をつけておこうか。あの人怒ると怖いし。

 

その後考えることすらなくなり時間を完全に持て余していた俺は寝ようとしたのだが、

「なあ、なんか飲み物持ってないか?」

という一夏の言葉で妨げられた。

 

「あぁ、まだ口つけてないのが一本余っているけど…」

 

そう反射的に返したらまるで希望を見つけたかのような眼差しで私のことを見てきた。

 

「そんなに欲しいならあげるよ」

「おぉ!」

 

あげるといった瞬間になんだかすごい喜びを見せる。

どんだけ水分補給したかったんだよ。

 

まあ水がどんだけ重要なのかは…オーレリア戦争のときに色々なところで体験したからわからなくもないのだが、普通の生活の中であんなに水を欲しがる状態に置かれるとは。

 

私の想像以上だったのかもしれない。

 

 

だが問題はそこではなかった。

 

セシリア、シャル、ラウラ、箒の四名が俺に殺気を向けてきたのだ。

身の危険を感じた俺は一瞬で体を覚醒させすぐ応戦できるようにした。

勿論周りに不審に思われないように、だが。

 

そこで突然クラスメイト数名がいきなり一夏の名を呼んだので、護身用に持っていたH&K USPを構えかけたが違うことに気づき元の姿勢にもどる。

 

いくらなんでも警戒しすぎだったな。

それとも疲れているのか…。

 

また寝ようと試みたときに

「ねえ、織斑一夏くんっているかしら」

と金髪女性が言った。

 

「あ、はい俺ですけど」

となんの警戒心も持たない声で言った。

 

相手を知らないのに警戒心無しとは…。

これからかなり苦労するんだろうな、あいつは。

 

そんなことを隣の奴が考えているとも知らずに一夏は興味深そうに見られている。

 

教師陣を越えバスまで来たことから察するに誰かの知人とかなんだろうが俺にとってみれば知らない人だったので、金髪女性が立ち去るまでは起きていることにした。

それに嫌な予感もしたんだ。

 

そこまで疲れているわけでも傷が痛んでいるわけでもないので戦闘機で15分くらいなら空中戦できるくらいの体力は残っているはずだから最悪でも千冬さんが制裁を下すまで逃げることはできるだろう。

 

そんなことを考えていると興味深く見られるのが嫌になってきたのか一夏が口を開いた。

 

「あ、あの、あなたは……?」

 

「私はナターシャ・ファイルス。『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』の操縦者よ」

 

その発言を聞き一夏は驚いているようだったが私は納得した。

 

通りでバスまで来れる訳だ。

多分教師の誰かが知り合いで、というところだろう。

 

だがそんなことを考えている間に嫌な予感は的中してしまった。

 

ナターシャさんが一夏にキスをして去っていったのだ。

ただでさえ朴念仁なあいつの周りの恋愛事情は複雑だというのに…。

 

そして一夏は衝撃的すぎたのか固まってるし。

 

そんな状況に呆れてため息をついた時、私に殺気を向けた4人から私か一夏にあたればいいってくらいには精度の甘い500mlペットボトル(未開封)が飛んできたのだった。

 

…丁度いい。予備として一本貰っておくか。

 

そう思いペットボトルを拾おうとしたとき、ナターシャさんが残していったと思われる紙の存在に気がついた。

 

その紙には「灰色のISの操縦者さん、またいずれ」と書かれていたのだった。

 

 

 ◇

 

バスから降りたナターシャは目的の人物をみつけ、そちらへと向かう。

 

「おいおい、余計な火種は残してくれるなよ。ガキの相手は大変なんだ」

そういったのは目的の人物、言い換えれば千冬さんである。

 

「その割にはあの子、楽しそうだったわよ」

あの子がメアリーのことだと気づいた千冬は一瞬真面目な顔になり口を開く。

「案外あいつにはそういう経験がないのかもな」

 

私をおちょくろうとしたら暗い話になってしまい一瞬話が止まった。

IS関係では実際にある話でもあるのだから冗談として笑うこともできないのだ。

 

だが、そんな空気を千冬が破った。

 

「それより昨日の今日で動いて大丈夫なのか?」

 

「ええ、それは問題なく。私は『あの子(銀の福音)』に守られていましたから」

 

操縦者を守った。つまりは正常に動いていたということ。

 

「―――やはり、そうなのか?」

 

「ええ。あの子は私を守るために望まぬ戦いへと身を投じました。

 強引な二次移行、それにコアネットワークの切断…あの子は私のために、自分の世界を捨てた」

 

そう言葉を続けるナターシャは先ほどまでの陽気な雰囲気など微塵も残さず鋭い雰囲気を纏っていく。

 

「だから私は許さない。あの子の判断能力を奪い、全てのISを敵に見せかけた元凶を

 ―――必ず追って報いを受けさせる」

 

その言葉は復讐心に燃える人のものだった。

今回の暴走事故を受け、福音はコアに凍結処理がされることが決定したのだ。

 

「…何より空が好きだったあの子が翼を奪われた。相手が何であろうと私は許しはしない」

 

翼を奪われた福音は初期化をしない限りもう二度と、とまでは言わないが空に戻れる可能性は限りなく低い。

足を折ってしまったパイロットが空に戻るくらいの確率でしかないだろう。

 

「あまり無茶なことはするなよ。この後も査問委員会があるんだろ?しばらくはおとなしくしておいたほうがいい」

 

「それは忠告ですか、ブリュンヒルデ」

 

その発言の直後一瞬千冬さんが眉をしかめたが、ナターシャは幸いなのかそのことに気がつかなかった。

敬意などからくる二つ名ではあるのだが、私はあまりその名前を好きではないのだ。

 

まあグリフィス1が凶星(ネメシス)と呼ばれるのを嫌っているほどではないのだが。

 

「アドバイスさ、ただのな」

 

「そうですか。それではしばらくおとなしくしていましょう…。

 ところでメアリーっていう子は本当にISだけにしか乗ったことが無いの?」

 

突然の問いに一瞬固まる。

さらにこれが的を得ていただけに少し返答に困った。

 

束の報告により一気に信頼性が落ちてはいるが、ユジーンとかいう男から受け取った履歴書の内容を話すことにした。

 

勿論私とあいつが友人であることは内緒である。

 

「元々戦闘機乗りになりたかったようだが、その夢が叶う直前でIS適正が出てしまったらしい。

 おかげで戦闘機はある程度なら乗りこなせるようだな」

 

「色々と不遇な子ね。IS学園に居る間くらいはそんなことが無いようにしてあげてね」

 

どうやらあいつはナターシャから見たら可愛い後輩のようなものらしい。

 

友人でもあるが、メアリーは後輩にもなるんだな。

 

「そうだな。私が居る限りは善処しよう」

 

自然と口から出た肯定の言葉は私の本心を表していたんだと思う。

 

メアリーは私にとって色眼鏡をかけずに見てくれる数少ない知り合いであり、同時に可愛い後輩でもあるんだ。

 

それ以上話すこともなくお互いにそれぞれの帰路へとついた。




今回で三巻までが終わりました。

次回は多分夏休み編です。

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