やはり俺の高校生活は間違っている   作:のらネコ

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どうも、のらネコです。前回の修正のおしらせのときに言っていた、実弥の追憶編を書きたいと思います。ここでは、実弥の男子に対する感情の抱き方、苦手意識などの理由について心情の描写を増やして書いていきたいと思います。それではどぞ。


彼女の過去

柚木「実弥は2年前とは随分変わりましたよね。」

 

実弥「そうかな?自分ではあまりそうは思わないけど...」

 

柚木「そうですよ。中学3年のあのころから...」

 

中学3年の夏...私は忌まわしい出来事に遭ってしまったのだった...

 

 

     ***

 ~2年前~

 

実弥「山田くん、今日も放課後ちょっと勉強教えてもらえないかな...?」

 

山田くんとは、私と同じクラスで、学年でも頭が良く、委員長タイプの面倒見のいい男子生徒のことだ。少し気が弱いところはあるけど...とにかく、私は比較的レベルの高い、総武高校に入るために、みんなより少し早くから受験に向けて勉強をしていて、今日もいつも通り山田くんに勉強を教えてもらいに彼の家に行っていた。とはいえ、彼とは付き合ってるわけでも両想いとかなわけではない。多分。少なくとも私はそういう風には考えてない。ただ、頭が良くて、私に親身になって勉強を教えてくれる委員長。そういう認識だった。

 最初は、付き合ってもいない男子の家に1人で上がり込むなどできないと思っていたが、彼の母親は専業主婦らしく、私が家に行ったときは必ず居てくれる。その上、彼は自分の部屋には行かず、1階のリビングで勉強を教えてくれるし、母親さんも付き添ってくれるという、安全な状況。

そんな状況に慣れてしまった私は最近ずっと彼の家に通いっぱなし。彼だって別に私にえっちないたずらをしてくるようなことはなかったし、しなさそうだし、そもそもできるような状況じゃないし。彼の母親さん、近くにいるからね?だから、多分山田くんも私と同じように、相手に恋愛感情とかは抱いていないだろう、と思っていた。

 

 

いつも通り、学校の帰り道から直接山田くんの家に2人で帰る。そのとき、クラスの男子が調子に乗って私たちをからかってたけど、全然そういう気持ちがないと案外平気なもので、意外と動揺しないものなんだなと思った。彼は顔を朱に染めていたけれども。その頃は、顔を赤くするのは単純に彼がそういうのに慣れていないからだと思っていた。

 

彼の家に着き、母親さんに挨拶したあと、テーブルに今日やる予定のテキストを広げる。まず自分で解いてみて、分からないところは彼に聞く。そんないたって普通の勉強方法を続けて、30分くらい経った時のこと。

 

母親「ちょっと買い物行ってくるから、待っててちょうだいね。翔ちゃん、お母さんがいないからって早弓ちゃんにヘンなことしちゃだめよ(笑)」

 

翔ちゃんというのは、山田くんのことだ。山田 翔大というので、友人らからは『翔ちゃん』と呼ばれている。

 

山田くん「しないって(笑)今までだってしてないし(笑)それより、いってらっしゃいノシ」

 

今思い返せば、この一言が全ての災悪の始まりだったことに、当時の私はなぜ気づかなかったのだろうか...

 

山田くん「お母さん、買い物行っちゃったね。」

 

いつもは自分から話しかけてこないあの山田くんが珍しく私に話しかけてきた。私は、特にどうとも思わず、問題を解きながら、「そうだねぇ~」と流していた。すると、

 

山田くん「ねぇ、ちょっといい?」

 

と声を掛けられたのでそっちを向きながら応えようとする私。

 

私「ん?どうしt.........んはぁっ!...え、ちょっt......んあ!やめて!何するの!」

 

するといきなり両頬を手で押さえられ彼に無理矢理唇を押し付けられた。ファーストキスだったとか、唇が柔らかかったとか、そんなことは微塵も思わなくて、ただただ、なんで?どうして?という疑問、そして『裏切られた』という絶望感だけが胸に込み上げてきた。山田くんだけはこういうことしない人だと思ってたのに...

それから彼は私を床に押し倒し、服の上から固くなったブツを私の腹部に押し付けてきた。その次にされることは考えるまでもなく分かる。犯される。そう思った。だから、彼から逃れるために全力で体を捩った。けれど、男子と女子の筋力差は歴然としていて、非力な私が彼から逃れられる訳がなかった。

 

私「なん...で...?」

 

私は辛うじて恐怖を押さえ、声を捻り出した。

 

山田くん「どうしてって?ふざけるな!こうやっていつもいつも僕の家に来て!僕が君のこと好きなのにも気づかないで!そうやって誘惑するような真似しておいてなんでだって!?誘ってるのは君の方じゃないか!僕だって...僕だってシたいんだよ!こういうことが!なのに...君はいつもそう...相手の気持ちに気づかなくて...それなのに誘うフリして...だってそういうことだろう!?襲われるって分かってて来てるってことは!そうされてもいいんだろ!?なぁ!」

 

私はいつもの優しい委員長とは遠くかけ離れた山田くん。否、獣のような男性を目の前にして、声を出して助けを呼ぶことも、身動きひとつとることさえも、ままならないで床に押さえつけられていた。このままじゃ本当に私は犯されてキズモノになってしまう...

私がそうこうしてる内にも恐怖の種は近付いてきていて、制服のスカートに、その下の下着に、今手を掛けようとしている...小さな胸は揉みしだかれ、柔らかそうに形を変えている。この状況に絶望し、彼という人間に絶望し、簡単に信じた自分の愚かさを呪い、目から涙を流している私の目に迫ってきているのは。

 

 『男子』から、『男性』へと姿を変えた、かの優しき委員長。山田くんだった...

 

もう一度唇を重ねようとしてきた彼を止めたのは、高校に行っているはずの、彼のお姉さんだった...お姉さんは彼の頬を思いっきり蹴飛ばし、私を抱えたまま奥の部屋へ向かった...

 

もしここでお姉さんが来なかったら私はどうなっていたんだろう...そう考えるだけで恐怖で体が震える。いつもなら脳が震えるとか言って笑って流せたのだろうけど、今は無理。絶対に無理。そして私はお姉さんの優しい、慈しむような顔を見た瞬間、今まで押さえてきた感情の箍が全て外れ、大泣きしてお姉さんの胸に飛び付いた。その胸は、私と違い、大きくて柔らかくて温かくて優しさに満ち溢れていた。そして、私はその胸で疲れて眠るまで泣き続けた。

 

その後、彼が私を襲おうとしたことが彼の両親にお姉さん経由で知らされたそうだ。何をされたかは正直考えたくないし、聞きたくない。ただ、彼の両親がうちに謝りに来たから、多分そうなのだろう。けど、私はその時誰とも顔を会わせたくなかった。なぜなら、顔を見るだけで、彼に襲われそうになったことがフラッシュバックするからだ。そんなわけで、私はその後1週間近く学校を休んだ。

 

     ***

 

久しぶりの学校、久しぶりの教室。そして、久しぶりのクラスメート達。彼は転校し、もうここにはいないそうだ。だが、そこに男子がいるという事実だけで、足が動かなくなり、膝が震える程に、私の精神は回復していなかった。考えただけで膝が笑いだし吐き気を催す。そんな状況にまで、私は陥ってしまっていた。それでも、誰とも関わらないようにすることで、なんとか学校には来れた。受験生なのに学校に行けないだなんて、辛すぎる。だが、学校にくることは、私にとっては災悪の第2波。地震で例えるならば、余震、もしくは津波であった。そう、クラスメート達が、私と彼の仲が良かったために、彼がなぜ転校したのか揃いに揃って聞いてくるのだ。私としては彼の名前を聞くだけで怖いというのに、何があったのかまで聞いてくるのだ。その時私は怖くなって1度教室から逃げ出したほどだ。逃げた先は、保健室。体調が悪いのでと言って、ベッドに横させてもらい、現実逃避するように眠った。

 

 

手に微かな温もりを感じ、目を覚ます。するとそこには、氷の様に冷たく、世界の理を見通したような、鋭すぎる眼差しがあった。しかし不思議と私はその眼差しは全く怖くなかった。人と顔を会わせるだけで怖がっていた私がだ。その瞳の奥には、包み込むような温もりが、確かにあった。そう、あのお姉さんのような。そして何を感じたのか、私の口は勝手に動きだし、今まで私が思っていたこと、感じていたことを、全て吐き出していた。

その間、彼女はというと、私の支離滅裂な話に呆れた態度をとるわけでもなく、うんうんと適当に流すわけでもなく、子供に何かを諭している慈母のような眼差しで包み込み、私の壊れた心を優しく握り、『今壊れてはいけない。そのためにあなたは今までを生きてきたのだから。』と囁いてくれた。

 

私は、この人なら信用してもいいのではないかと、心のどこかで思っていた。普通なら、そんなことがあったならすぐに人を信じるなんてできないだろ。と思うかもしれないが、壊れた心は、やはりどこか拠り所を探していたのだろう。なにより、彼とのことについて一切触れてこないのが一番の理由で、彼女は、恐らく私が聞いてほしくないことを分かっているのだろうと、直感していた。

 

それからというもの、クラスでまともに話ができるのは結局彼女1人で、だが、同時にこれでいいとも感じていた。そんな彼女が教えてくれた、この悲劇を繰り返さない方法。それは。

 

 

 

『相手に勘違いされないようにすること。』

 

 

 

だった。




どうでしたか。実弥の過去編。なんかしんみりした感じになりましたね。今回は心情描写に気を付けて書きました。その分文字量も増えました。初めての挑戦だったので、感想をいただけるとありがたいです。

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