やはり俺の高校生活は間違っている   作:のらネコ

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第34話

小さな寝息を立てながら隣で寝ている彼を見つめる。

そんな立ち位置にいられることの嬉しさを噛み締めながら彼女は一抹の恐怖と、不安を感じた。

彼のおかげでできている今日は、彼がいなくなってしまったときに壊れてしまう、今までどうりが消えてしまう、そんな恐怖と不安だ。

 

しかしちょうど彼女の瞳に悲しみの色が見えたタイミングで、先程まで寝ていた彼が目を覚ました。

自然と2人は見つめ合う。すると彼はすぐに彼女の異変に気付き、どうした、と問う。

自分の変化に気付いていなかった彼女は、何が?というような表情を見せたが、彼の問いかける視線は変わらなかった。

 

すると彼は手を伸ばし彼女の目の下に人差し指を当て、何かをすくいとるような仕草を見せた。

 

「涙…?」

 

彼の指は朝日に反射して光っていた。

 

「何もなきゃ、涙なんて零れないだろ?教えてくれよ、どうしたんだ…?」

 

優しく問いかけてくる彼の姿がある女性の影と重なり、その瞬間、両目が熱くなり、温かい涙の粒が頬を伝って布団へと落ちていった。

 

自分でもどうして泣いているのかわからない、そういった表情だった。

悲しい訳でもないのに、辛い訳でも、痛い訳でもないのに、何故か涙が次々と頬を伝っては落ちてゆく。

でも、不思議と嫌な感じはしなかった。不愉快が生んだ涙ではないことは確か。それでも、自分が何故泣いているのかわからない。そんな状況に焦っている彼女の頭に、彼は大きく開いた手を乗せる。

彼は上半身を起こし、彼女をこちら側に抱き寄せ、頭を撫でた。何も言わずに、撫で続けた。

彼らしくない、いきなりの積極的な行動に彼女も最初は戸惑ったが、しだいに彼に身を預けるようにして目を閉じた。

 

「お兄ちゃん~?起きてる~?」

 

妹の小町が起こしに来た。

 

「って、実弥さんどうしたの?」

 

「少し疲れてるみたいだな。」

 

「うん…でも、実弥さん、お兄ちゃんのこと起こしに行ったはずなんだけどなぁ…」

 

ミイラ取りがミイラになるとはこの事だろうか。小町と顔を合わせ、クスッと笑う。

 

「んっ…」

 

腕の中にいた彼女が目を覚ます。本当に寝ていたのかどうかは知らないが。

 

至近距離で目が合った彼女に彼は優しく微笑みかける。

すると彼女は顔を赤くしながら彼の背中に両腕を回し、2人は抱き合う格好になる。

 

「ちょ、実の妹になんつーもん見せてくれちゃってんの…」

 

彼女は自分らの他にもう1人の存在を確認すると更に顔を真っ赤にして彼からすぐさま離れた。

 

そこに付け加えて妹は言う。

 

「まぁ、小町としては?あのごみいちゃんにこんなにベタ惚れな彼女さんができるっていうのは嬉しい事なんで気にしないですけどね!」

 

第3者からの意見に狼狽えながらもしっかりと手を繋ぎ彼を布団から無言で引っ張り出す彼女はやはり、不器用であり、素直なのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3人で囲む食卓はいつも2人なのに比べて少し狭い感じがした。

 

「ほら、お二人が朝からお熱いからもう時間が無いよ!急いで!」

 

「ゲホッゲホッゲホッ!!!!!」

 

彼女が味噌汁でむせた。

 

「おお…大丈夫か?」

 

そう言いながら彼は彼女の背中をさする。

 

落ち着きを取り戻したのか、彼女が反抗する。

 

「いきなり変なこと言わないでよもう!」

 

声が裏返り、顔を赤くしながら頬を膨らませてあざとさ全開で反抗しても、妹は何も動じない。

 

そこで更なる攻撃を仕掛ける妹。

 

「はぁぁぁ…小町ももうすぐでおばさんかぁ…早いなぁ。」

 

「ブフッ!!!!!」

 

今度は彼の方が吹き出した。いや、正確には吹き出しかけた。

慌てて手で口を抑えたためか、気管にでも入ったのだろう、彼は目に涙を浮かべながら妹を睨みつける。

 

一方で妹のほうはへらへら~っとした表情で残りのご飯を食べる。

 

「小町、もう自転車乗せてかないぞ?」

 

「いいよー、友達に乗せてもらう約束してるから、お兄ちゃんこれからは1人で行っていいからね。」

 

まさかの反撃に彼はあからさまに落ち込んだリアクションをとる。

それを見た彼女はなんとかフォローをしようと。

 

「じ、じゃあこれからは私を乗せていって?」

 

「お、良かったじゃんお兄ちゃん。じゃ、小町先行くね~。いってきまーす!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日から小町の代わりに早弓を乗せることになり、後ろからくる色々な重圧に耐えながら学校へとペダルを漕ぐ。

 

重圧…?決まってんだろ、〇〇〇〇と〇〇だ。(自主規制)

 

 

 

 

 

 

 

学校に着くなり、平然とした顔で教室へと向かおうとすると、腕が後ろに引っ張られる感覚にそれを阻まれた。

 

また早弓がらみで因縁でも付けられるんだろうか。

そう思いながら振り向いた先にいたのは鬼の形相をした男子生徒。ではなく、顔を赤くしもじもじしながら意地でも目を合わせないという態度の早弓自身だった。

 

どうした、パンツでも履き忘れたか?まぁこの季節だしな、風邪引くなよ?

 

「………うよ…」

 

ボソッと呟かれたため聞きそびれたがなんとなく何が言いたいのか察しがついたため、そのまま手を引いて教室へとむかう。

 

「ところで、早弓は何組だったけか?」

 

「同じ…」

 

同じクラスだったわこんちくしょう。なんで忘れてんだ俺は…

 

というか、早弓の挙動が明らかにおかしく、いつもと違いすぎて中身が「入れ替わってる!?」してるみたいになっている。

 

いやぁ、つい最近「君の名は。」の地上波放送あったけど…

 

どうしたんだ急に…

まぁいいや、じきに治るだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのまま放課後を迎えたが、特に変化は見られなかった。

いや、変化が見られなかったってのは相当まずいんだが…

 

なんか帰りも無言でくっついてくるし…

 

 

今日一緒にいる時、いつも顔が赤かったのはもしかして男性恐怖症か…?

 

もしそうならそれが俺に対してなのか逆に俺以外に対してなのかわからないと早弓にとって辛い状況のままなのではないのか。直接聞いてみるしかないんだよなぁ。

 

多分今日も2人きりだろうし、部室で聞いてみるか。

 

 

 

 

 

 

「なぁ、早弓。ちょっと聞きたいことがあるんだが、いいか?」

 

名前を呼んだだけでビクッと反応するということは、原因は俺にありそうだな…

 

「今日1日、俺と一緒にいる間、ずっと顔が赤かったけど大丈夫か?もし男性恐怖症のことで何かあるなら教えて欲しい。」

 

まぁ、原因が俺なら離れるしかないんだけどな…

 

 

「……」

 

早弓はずっと何かを恥じ入るようにもじもじしているだけで特に何も話してくれない。

 

「とはいえ、言えないようなことなら無理にとは言わない。けど、男性恐怖症のことかそうじゃないかくらいは教えてくれると助かる。」

 

 

2度目の沈黙の後、早弓が口を開いた。

 

「そのこと…じゃないよ…」

 

「そうか、わかった。サンキューな。」

 

 

「っんっと…ね?実は…」

 

 

とても言いづらそうに口を開く早弓。

その口からもたらされた驚愕の背景。

 

「お前…アホか…」

 

事情を聞いた俺はそう答えるしか出来なかった。

 

 

 

早弓の話を簡単にまとめると

「折角のお泊まりなんだから、何かしたかった。厳密に言うと、お父さんに少し茶化されて、それを本気にしちゃったために、寝てる八幡のところに行き、少しばかりの誘惑(意味深)をしたにも関わらず、八幡の八幡は全く反応せず、自分の魅力がないのかと落ち込み自分の布団に戻った。だが次の朝、八幡の腕の中にいるときに、自分のしたことを思い出してしまい、勝手に悶えてただけ。その後も八幡の顔を見ると思い出してしまい、勝手に悶え出した」というだけだった。

 

だけというには長い説明だったが、要するに自業自得だ。

 

「本当何してんだお前…寝てる高校生に誘惑って…一歩間違えれば退学もんだぞ…」

 

「は、反応しない八幡の八幡が悪い!」

 

なんだと…

俺のせいにされたぞ。凄まじい責任転嫁だ…

しかも反応してしまってたらそれはそれで更に問題なんだが…

 

「はいはい、俺の俺が悪うございました。さ、帰るぞー。」

 

えっ、なんで「はぁ?こいつ何言ってんの」みたいな顔されなきゃならないの。俺謝ったよね?

 

「わーった。帰りにハーゲンダッツ買ってやるから。な?」

 

泣く子も黙る、ハーゲンダッツ。これで早弓も…

 

 

「そうじゃなくて、その、き、今日も、泊まってもいい…?」

 

あーなんか嫌な予感がするぞぉ?




ごめんなさい。弁解はありません。

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