『比企谷くん。直接会って話したいことがあるから、夏休み中に一度会えないかしら?都合のつく日を教えてください。雪乃。』
…やっぱり、最近雪ノ下って変わったよな。
まぁ変わったとか変わってないとか言えるほど親しい訳でもないが、付き合いはそれなりに長いからな。
最初会ったときなんて氷の女王がピッタリなくらいだったのに、今じゃその面影はほとんどないように見える。ちゃんと俺の予定聞いてくれるし。そんな事されたら惚れちゃうよ?
そんな冗談は置いとくとして、俺は
「いつでも暇だから日程はそっちに合わせるぞ。」
と返した。
ちなみに最近2週間くらい早弓に会ってない。いや、俺と会っても嬉しくはないだろうけどな。雪ノ下のことで早弓を放置してしまったからな。あとでなんか言われんのかなぁ。
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「久しぶりね。比企谷くん。会いたかったわ。」
うっ…/////////
その言葉にその笑顔は反則じゃないっすかねぇ…
危ねえ、うっかり惚れるとこだった。そういやこいつ見てくれは超絶美少女なんだったな。実に厄介。
「お、おう…そうだな。」
「あら?比企谷くんも恐怖症かしら?私が直してあげましょうか?」
だ、大丈夫です、俺はただ人間不信なだけなので…
ってそれも違うか。
「え、遠慮しておくぞ。」
俺はどっかのチキン次郎くんじゃないからな、女性のみに対して恐怖症を抱くなどないのさ!むしろこの世の全てに恐怖してるまである。
「それで、話したかった事というのはね?」
これって学校の屋上とかだったら告白の前フリだよな?
「一応言っておくけれど、告白とかではないから期待しないでね?」
さらっと俺の予想全否定されたわ…
「私、この前海外行くって言ってたでしょ?」
なんとなくわかった。恐らく海外に行って会えなくなるからこうして知り合いのとこ回ってるのか…俺も一応知り合いだと思ってくれてたんだな。人生で初めての知り合いだったよ…材なんとかくん?誰それ。
とにかく、今までありがとな、雪ノしt…
「ちゃんと最後まで話を聞いて頂戴。」
もう心読まれたことに関しては何も言わない。決めた。
「で、その海外編入のことなんだけど、私、行かなくていいことになったわ。姉さんがお見合いするというのも、同様にね。」
「よかったじゃねぇか。」
「ええ。本当に良い結果になったと思うわ。これも全部比企谷くんのお陰ね。」
は?なんでそこで俺が出てくる?俺はどちらかというと…
「あなたには突き放されたわよね。でもその時に気づいたの。
『自分自身でなきゃ答えを出せない問題がある』ということを。」
それから雪ノ下は続ける。
私はあなたの優しさに溺れてしまっていた。今まで感じたことのない優しさだったから、ついそれに依存してしまっていたのね。我ながら情けない限りだわ。
そういって雪ノ下は自分を卑下する。
「別にそこまで悪いことじゃないだろ。ほら、よく使われるだろ?
『助け合い』
って言葉。それだと思えばいいんじゃねえの?」
「あなたが言うとすごく嫌味ったらしく聞こえるわね…でも、その優しさに頼りすぎていたのも事実。私は自分を見失っていたのよ、甘やかしていたのよ。私自身が嫌うはずのことを、いつのまにか許容していた。」
だからその、罪滅ぼしをさせて…
そう言って雪ノ下が近づいて来る。
その勢いは眼前でも消えずに俺の頰へ向かっていった。
「な、何してんだお前…⁉︎」
「あらどうしたの?比企谷くん。これはヨーロッパでは友達同士の普通の挨拶よ?」
「い、いやでもここは日本だぞ?」
俺がそう言うと何故かムスッとした表情になる雪ノ下。
何がいけなかったのか本当にわからん。いや割とマジでわからん。
ーー『友達同士の…』ーー
そう言うことか、分かりづらいわっ!
「友達…でいいのか?」
恐る恐る尋ねる。
すると雪ノ下は嬉しそうであり、申し訳なさそうでもある表情で
「ええ。会ったばかりの頃は断ってしまったけれど…今では、あなたと友達。出来ればそれ以上になりたいと思うわ。友達だなんて関係では、すぐに壊れてしまうような気がするから…」
友達以上⁉︎そ、それって…
『恋人』ってことか?
もしかして今のは告白だったのか?
どうしたらいいんだ…?
これが告白なら正面から向き合う必要があるし、雪ノ下の言う友達以上の関係が俺の考えてるのと違う可能性だってあるよな。
…地雷覚悟で聞いてみるか。
「な、なぁ雪ノ下。お前の言う友達以上って、どんな関係のことなんだ?」
「どんな関係?それは…私と由比ヶ浜さんのような関係ね。一緒にいても苦にならなくて、お互い本当の意味で助け合える。そんな関係になりたいわ。」
ほぉ…もしこれが告白と勘違いしてたら俺はまた同じ過ちを犯すところだったのか…
「そうか。そう言う関係、なんて言うか知ってるか?」
『親友』
「「あっ」」
2人の声が重なる。
「心が通じ合っているのかしらね。これこそ本当の親友ね。」
雪ノ下さん、それ並大抵の男子なら即落ちですよ…
それじゃあ、これからもよろしく。
と雪ノ下が満面の笑みで言う。
なんだろう、今日の雪ノ下さんはやたらと積極的だな…
(雪ノ下さんと比企谷くんって、やっぱりそういう関係なのかな…)
なんか、見てはいけないものを見てしまったような気がするなぁ…
比企谷くんと、付き合う。ちょっと羨ましいな。
やっぱり、向き合わなきゃいけないのかな?私は、私の中にあるこの感情と向き合って、素直に言葉にするべきなのかな?
私からそうしないと、いつまでも来ないまま終わってしまいそうで、私が選ばれないまま卒業してしまいそうで…
不安になる。
私はこの感情が大嫌いだ。普段は好きな友人同士でも、恋愛感情を挟めばすぐに敵として認識してしまう。
それに、嫉妬する、ということは自分が相手に劣っていると認めている証拠だからだ。
いや、雪ノ下さんに勝っている人のほうが少ないとは思うけど、それでも大好きな友達に嫌悪を抱いてしまうのは、とても辛い。
ねぇ、どうしたらいいかな?