あの戦いから幾星霜......奇怪な生物を引き連れた一人の少年によって、人類は再び滅亡の危機にたたされた。
果たして再集結をしたかつての仮面ライダー達は剣崎の守った世界を守りきれるのか?

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仮面ライダーブレイド外伝 復活のK

 2005年1月、人類の命運をかけた戦いは終わりを迎えようとしていた。

 仮面ライダーブレイド=剣崎一真とジョーカーアンデッド=相川始は、山中で死闘を繰り広げていた。

 激戦の末にお互いの身体はボロボロになる。そして遂に、剣崎はジョーカーになってしまった。理由はキングフォームを酷使したからだ。

 しかしそれが、剣崎の狙いであった。彼がアンデッドになったことで、バトルファイトは続行する。これにより、始を封印せずに、人類滅亡を回避することに成功した。

 だが、その代償は大きい。

 

 

「剣崎……」

 

「来るな! 俺とお前は……アンデッドだ……俺たちはどちらかを封印しない限り、バトルファイトは決着せず滅びの日は来ない」

 

「だから……俺達は戦ってはいけない。近くにいては……いけない」

 

「……いくら離れたところで……統制者は俺達に戦いを求める。本能に従い戦う……それが……アンデッドの運命だ」

 

「俺は運命と戦う。そして勝ってみせる」

 

「それが、お前の答えか」

 

「お前は人間達の中で生き続けろ」

 

「どこへいく……?」

 

「俺達は二度と会うことはない、ふれあうこともない、それでいいんだ」

 

「剣崎……」

 

「剣崎!」

 

 

 立ち去る剣崎。

 その後を追う始だが追い付けない。

 やがて木々を抜けて、崖に辿り着いた。そこに橘朔也と上城睦月も駆け付ける。三人は立ち尽くすしかなかった。

 

 

「けんざきぃぃぃぃ!!」

 

 

 橘の叫び声は、水平線がくっきりと見られる綺麗な海と、雲一つない青空、飛び立つカモメの群れが織り成す空間に響き渡った。

 

 

──────────────────────

 

 

 12年もの歳月が流れた。昼間の草原に、ヨウという名の少年が佇む。

 彼はボールから、モンスターを出した。

 

 

「ここがブレイドの世界か……ジョーカーを倒してつれてこい」

 

 

 命令を聞いた白きモンスターが、高速で飛び立つ。衝撃によって、突風が吹き荒れた。草むらは揺れ、キーンとした轟音が鳴る。

 

 

「バトルファイトの勝者には万能の力が手に入る……か。待っていろリーリエ……」

 

 

 彼の左手には一冊の本と、一枚のカードが握られていた。

 

──────────────────────

 

 

 物静かな場所に位置する喫茶店─ハカランダ─。

 ジョーカーこと始は、現在もここに住んでおり、従業員として働いていた。同時に真崎剣一という名前で、カメラマンとしても活動している。

 客にお冷やを渡すため、彼はトレイを持って歩いていた。そのとき、何物かの接近に気付く。

 アンデッドの気配とは異なるが、人間や他の動物のものでもない。

 

 

「逃げろ!」

 

 

 始が叫んだ。店長の遥香が驚く。彼は彼女に、客を逃がすように伝えた。

 理解の追い付かない遥香だったが、始は仕事中にふざけるようなことはしない。彼女は彼を信用し、客を非常口に案内した。

 五人ほどの客は、一目散に逃げ出していく。

 全員の避難を確認した遥香も、その後を追った。店内には始が一人残り、敵の襲来を待ち構える。

 

 

「どこからでも来い」

 

 

 突如、窓ガラスが一斉に割れる。そこから現れたのは、白い身体をもった異形の"なにか"だった。名をフェローチェという。

 その姿は、かつて自分自身や地球全体を苦しめた、ダークローチを彷彿とさせる。

 

 

「目的は何だ?」

 

 

 問いかける始だが、フェローチェは何も答えない。

 するとフェローチェは、いきなり高速で辺りを駆け周り始めた。あまりの速さに、始は目が追い付かない。

 フェローチェの飛び膝蹴りが放たれた。

 始はそれを顎に喰らい、倒れてしまう。なんとか立ち上がるも、傷口からは緑色の血が付着していた。

 

 

「速い......!」

 

 

 ハートのカテゴリー2、スピリット以外のラウズカードを持たない今の始に、勝ち目は薄い。

 フェローチェの虫のさざめきが鳴り響く。残りの窓ガラスもすべて割れ、ガラス製のコップも次々と破裂していった。

 彼も大いに苦しめられる。 

 

 

「はあ......はあ......」

 

 

 始を衝撃で、壁まで吹っ飛ばされた。もたれ掛かっている始。フェローチェが一歩ずつ、距離を詰めていく。

 今の始がフェローチェに勝つにはもはや、本来の力─ジョーカーの力─を解き放つしかない。

 けれども"人間たちのなかで生き続けろ"という剣崎の言葉から、踏み出すことが出来なかった。

 そのときだった。フェローチェの背中を、弾丸が襲いかかったのだ。

 フェローチェは極めて耐久力がない。だからフェローチェはそれを受け、地に膝をつけた。

 

 

「始、カードを受けとれ!」

 

 

 レッドランバスに跨がる赤いライダー─仮面ライダーギャレン─。彼は始に、ハートのカテゴリーAを投げつけた。

 始はそれを手にすると、腰にカリスラウザーを出現させる。

 

 

「変身」

 

 

 掛け声と共に、カードをスリットに通らせる。仮面ライダーカリスへの変身が完了した。

 醒弓カリスアローを出現させると、フェローチェ目掛けて走り出した。

 銃撃を受けたフェローチェに、更に斬撃が迫り来る。

 何度かは避けられた。しかし、その素早さは既に失われている。フェローチェは次第に追い詰められていく。

 

 

「残りのカードだ」

 

 

 ギャレンがカリスの元に辿り着く。彼は残る11枚のラウズカードを渡した。

 カリスはそれを、左腰に一度しまう。それから、カテゴリー3,6を取り出した。

 カリスアローにカリスラウザーを取り付けると、先程手にした2枚を読み込ませる。

 読み込みが完了した。カリスの右手が風に覆われる。

 彼の手刀が降り下ろさせた。肉を断ち、骨を砕き、フェローチェの細い身体を破壊し尽くす。

 スピリットのカードを使い、カリスは始の姿になった。彼の眼前には、赤い鮮血に包まれた肉片が散らばっている。

 ギャレンも変身を解いた。始は橘に問いただす。

 しかし詳しい事情は、橘もよくわかっていなかった。

 彼の研究所に、六体の未確認生物を見たとの情報が入ってきた。橘は半信半疑ながら、バイクを走らせて探していた。追加の情報によって、その内の一体がハカランダに迫っていることを知る。

 そして二人は、再会したわけだ。

 話を聞いた始は、橘に協力することにした。

 

 

──────────────────────

 

         

 草原にて、二人の男が対峙していた。

 うちの一人はヨウだ。彼はタブレットの様なものを眺めながら、顔をしかめている。

 

 

「ちっ……フェローチェの反応が消えやがった。殺されたか。だがもう一体のジョーカーを封印すればどっちみち同じことだ。そうだろ?」

 

 

 もう一人は、失踪した剣崎だ。ヨウは何らかの手段で、剣崎を見つけ出していた。

 

 

「目的は何だ?」

 

「お前を封印する」

 

「封印だと? 俺を封印したらこの世界は今度こそ滅びる!」

 

「安心しな? 俺がその世界を救ってやるからよ! 行け!」

 

 

 ヨウが5個のウルトラボールを投げた。中から現れたのはウツロイド、カミツルギ、マッシブーン、テッカグヤ、デンジュモク。いずれも強力なポケモンたちである。

 

 

「お前たち、奴の動きを止めろ!」

 

 

 5体は畳み掛けるように、剣崎へ攻撃を仕掛けていく。

 アンデッドであるため死ぬことはないが、かなりの苦痛である。

 だが、歴戦の戦士がその程度でくたばることはなかった。

 剣崎はオールオーバー─コーカサスビートルアンデッドの持っていた剣─を召喚する。それを振り回して、ウルトラビーストたちを凪ぎ払った。

 

 

「流石は元仮面ライダー。だけど俺には切り札がある!」

 

 

 オールオーバーが上段から降り下ろされる。テッカグヤは真っ二つに切り裂かれた。

 しかし一体倒したのも束の間、剣崎はデンジュモクのコードに囚われてしまう。

 

 

「よくやったデンジュモク。剣崎 一真、これが俺の切り札だ。どこかで見覚えはないか?」

 

「そのカードは!」

 

 

 ヨウは動けない剣崎に、カードを近づける。

それが触れた瞬間、剣崎の身体は消え去った。あとにはジョーカーのカードのみが残る。

 

 

「人類を滅亡させるわけにはいかないな。変身」

 

 

 左腕のカードリーダーにカードが入る。姿が異形のものに変わった。

 胸部にはヨウの顔が浮かび上がる。

 

 

「さてと、もう一体のジョーカーを封印しにいくか」

 

 

 残る4体のウルトラビーストをボールに戻すと、彼は日本へ飛び立った。

 

 

──────────────────────

 

 

 始は橘の研究所に連れてこられた。かつて、仮面ライダーレンゲルとして人々の為に戦った上条睦月の姿もある。会社が休みだったため、橘に召集されたのだ。

 睦月は現在、ごく一般的なサラリーマンとして暮らしている。

 仕事は忙しいが、充実感のある毎日を過ごしているらしい。

 睦月に挨拶をしているときに始は、何か嫌な予感を感じた。それはすぐに、不気味なほど完全に消え去る。

 彼は恐れるでもなく、侮るでもなく、ただただ困惑状態に陥った。

 彼の思考は、橘の部下の言葉によって遮られる。彼によると、ここから南西20kmの地点に未確認生物が現れたようだ。

 3人は研究所を飛び出した。バイクに跨がり、目的地に急行する。

 

 

──────────────────────

 

 

「ほんとに懐かしいですよね。仮面ライダーとして戦うなんて」

 

「そうだな。これであいつがいれば……」

 

「剣崎……今はどこで何をしているんだ……」

 

 

 会話に花を咲かせつつ、3人はバイクを走らせた。十数分ほどで、彼らは現場に到着する。

 三人に見覚えのある怪物がそこにはいた。その正体はケルベロス。天王寺の作り出した人造アンデッドである。ヨウがそのカードで変身しているため、戦闘力はさらに上昇していた。

 ケルベロスは肩から火炎弾を放って、ビル郡を破壊していく。

 

 

「どうしてケルベロスが……?」

 

「そういえばケルベロスのカードは、ダイヤのカテゴリーKが封印されてから行方不明になっていたな。まさかそれをどこかで手にいれたのか?」

 

 

 睦月の疑問に、始が答える。

 ケルベロスのカードは、ギラファアンデッドが落としたあと、岩の間に挟まっていた。ギラファアンデッドはすぐあとに、ギャレンと共に海中に没し、封印された。

 海面に漂うダイヤカテゴリーのカードを、剣崎たちが拾い集める。彼らが撤収したあと、ケルベロスのカードは風によって水没した。

 それから12年後。ヨウは苦心の末、ケルベロスを探しだしたのだ。

 

 

「何故こんなことをする!」

 

 

 橘がケルベロスに問う。

 

 

「お前たちに用があるんだよ。正確にはジョーカーに、だけどな」

 

「俺にだと?」

 

「貴様を封印して俺がバトルファイトの勝者になる。そうすれば万能の力が手に入る。それを使って俺は、最愛の人を取り戻す!」

 

「そのために大勢の人々を巻き込もうというのか! それにどこでそんなことを?」

 

 

 睦月も疑問を投げかけた。

 

 

「この本が俺に教えてくれたのさ」

 

 

 ケルベロスはどこからともなく、一冊の本を取り出した。

 3人はそれを見て驚愕する。それは白井虎太郎の書いた当時の大ヒット小説─仮面ライダーという名の仮面─であった。

 一年間に及ぶ剣崎達の激闘を書き綴ったもので、現在でも度々話題に上がる程の作品だ。

 

 

「変身!」

 

 

 3人はそれぞれ、仮面ライダーに変身した。

 ケルベロスの投げたボールから、ウルトラビーストが飛び出す。

 彼らの戦いの火蓋が、切って落とされた。

 

 

──────────────────────

 

 

 醒杖レンゲルラウザーを構えるレンゲル。

 マッシブーンも独特の構えで牽制している。

 

 

レンゲル「行くぞ!」

 

 

 レンゲルが槍を、大きく振り回す。マッシブーンはかわそうとせず、身体で受け止めた。

 マッシブーンの尖った口が襲いかかる。

 レンゲルは咄嗟に、クラブのカテゴリー9をラウズした。効果は煙幕。それを用いて隙を作り出す。

 レンゲルは煙幕に身を隠しながら、マッシブーンの背後にまわった。

 彼は斬撃を繰り出し、さらにマッシブーンを突き飛ばす。そして2枚のカードをラウズした。

 槍から手を離して飛び上がる。足から冷気を放ち、マッシブーンを凍らせた。そのまま挟み蹴り─ブリザードクラッシュ─を喰らわし、マッシブーンを砕く。

 

──────────────────────

 

 

 デンジュモクの放電をかわしつつ、カリスが接近した。彼はカリスアローで、敵を切り裂いていく。

 カリスラウザーを弓に装着すると、3枚のカードを読み込ませた。

 渦巻きがカリスを包みながら高速で回転し、空中に浮遊する。

 デンジュモクが放電した。カリスはそれを無視して、ドリルキック─スピニングダンス─を放つ。電撃ごと、デンジュモクの身体を貫通した。

 一息つく間もなく次の敵、カミツルギが近づいてくる。

 

 

「雑魚の癖に数ばかり多くて厄介だ」

 

 

 カリスラウザーをベルトに戻しハートのカテゴリーKをラウズする。彼は13枚、すべてのハートスートと融合を果たし、ワイルドカリスへと変貌を遂げた。

 新たな武器・ワイルドスラッシャーを手に持ち、斬り合う。両者の刃が幾度なく交わされる。

 鎌を振り上げて、カミツルギの小さい身体を吹き飛ばした。彼は鎌を折り曲げると、カリスアローに装着する。

 彼はワイルドのカードを精製した。それをラウズし、巨大な光線を発射する。

 カリス最強の技・ワイルドサイクロンは、カミツルギを木っ端微塵に消し去った。

 

──────────────────────

 

 

 ギャレンラウザーの弾丸と、パワージェムが激しくぶつかる。

 両者引くに引けない攻防だ。

 パワージェムをかわしつつ、ギャレンは左腕のラウズアブゾーバーを操作した。

 彼はカテゴリー11と融合し、ジャックフォームになる。空中へ舞い上がり、銃撃を浴びせた。しかし、ウツロイドには効いていない。

 ウツロイドがパワージェムを連射する。持ち前の機動力を活かして、ギャレンはかわしていく。

 彼は有効打に繋げることができない。

そんな中、一発のパワージェムが命中した。ギャレンは墜落してしまう。

 発射されたヘドロ爆弾。ギャレンはジェミニのカードをラウズする。分身を身代わりに、彼は攻撃を防いだ。

 彼はカードを二枚ラウズする。

 炎を纏ったドロップキック─バーニングスマッシュ─をウツロイドに放った。

 相性が不利なため身体を破壊することこそ失敗したが、命を奪うのには充分な威力を誇る。

 三大ライダーの活躍により、ウルトラビーストは全滅した。しかしケルベロスはそこまで、落ち込む様子を見せない。

 彼は漆黒のカードを取り出すと、ライダーたちに見せつけた。

 

 

「そのカードは……剣崎か?」

 

 

 研究所にいたとき、始は嫌な予感を感じていた。その正体は、一瞬だけアンデッドが一体になったことによるもの。つまり、剣崎が封印されたことだ。

 ギラファアンデッドが封印されたあと、始はジョーカーの本能に苦しめられていた。そのときと同じようなことが、先程起こっていたのである。

 

 

「ここからが本番だ!」

 

 

 ケルベロスは左腕に、そのカードを挿し込んだ。途端に、ケルベロスが苦しみ始めた。左腕を抑える。

 二体の超強力なアンデッドを支配下に置くのは、そう易々と出来るものではない。

 絶叫の最中、ケルベロスはその姿を消した。

 しかし決して、負荷に耐えきれず自壊したわけではない。ケルベロスは一瞬で、レンゲルの背後に移動していた。レンゲルが気づく前に、ケルベロスが攻撃する。

 長い爪は簡単に、レンゲルを吹き飛ばした。

 

 

「これがジョーカーの力! 素晴らしい!」

 

 

 ケルベロスの胸部は、ジョーカーの頭に変わっていた。

 ワイルドカリスですら、その素早さを視認することはできない。

 ギャレンが銃を乱射する。だが、速すぎて当たらない。

 

 

「喰らえ!」

 

 

 放たれた怪光線は、辺り一面を焼き払う。

 その威力は凄まじく、周囲の建物は粉々になった。

 ギャレンはバレットとファイアをラウズした。ギャレンラウザーから燃える弾丸を撃ち出す。

 それはケルベロスⅡの左腕を掠めるも、ほとんど効いていないようにみえた。

 

 

「貴様ら雑魚がいくら足掻いても勝てるわけがなかろう! 俺が万能の力を得るんだ!」

 

「万能の力……12年前の惨劇を知りながら、それでも叶えたい願いなんてものがあるのか!?」

 

 

 橘が問いただす。

 

 

「当たり前じゃん……俺はリーリエに会いたいんだよ! それに12年前のこととか本でしか知らないよ。俺は別の世界からバトルファイトの話を聞き付けて、やって来たんだぜ!」

 

 

 別の世界という言葉に、彼らは理解が遅れた。しかし確かに、ウルトラビーストやポケモンは、この世界には存在しない。

 証拠が提示されている以上、納得するしかなかった。

 

 

「ジョーカー! さっさと封印させろよな!」

 

「剣崎に救われたこの命を無駄にするわけにはいかない!」  

 

「お前だけは俺達の手で倒す!」

 

 

 ギャレンはラウズアブゾーバーを展開した。中にはダイヤのJ、Q、Kが収納されている。

 アブゾーバーに、カテゴリーQが装填された。

 

 

「遊ぶのも飽きたし、お前らを消し去ってやるぜ」

 

 

 極太の禍々しいビームが襲い掛かる。直撃すればまず助からないだろうと思われたとき、金色の光が始たちを守りきった。

 

 

エボリューションキング!

 

 

「俺はなってみせる! キングフォームに!」

 

 

 光が途絶える。重醒銃キングラウザーを携え、ギラファアンデッドとの融合を遂げたギャレンが、そこに立っていた。

 

 

「ほう……少しは楽しめそうだな!」

 

「いいか……奴には正面からやりあっても勝てる見込みは薄い……だから狙うべき位置は……」

 

 

 ギャレンは他の二人に、作戦を伝えた。二人は賛同する。

 キングラウザーから光弾が放たれた。避ける隙を与えず、ケルベロスを吹き飛ばす。

 ワイルドカリスがワイルドスラッシャーを持ち、追い討ちをかける。

 ケルベロスが爪で応戦を始めた。互角の戦いが繰り広げられる。

 始はこのときまでに、ケルベロスの動きに慣れていた。さらに素早さを上げ、斬撃を繰り返す。

 ケルベロスはワイルドカリスの腕を弾き、鎌を落とさせた。そのまま、左爪先をカリスの胸に突き刺す。

 緑色の血が、傷口から吹き出された。カリスは激痛に耐え、ケルベロスの左腕を掴む。

 

 

「今だ、睦月」

 

 

 レンゲルはブリザードベノムを発動した。レンゲルラウザーにありったけの力を込め、ケルベロスの左腕を貫いた。

 

 

「せめて剣崎のカードだけでも返してもらう」

 

 

 ケルベロスのカードは強く結びつけられているため、奪うことはできなかった。

 しかし、ジョーカーのカードを回収することには成功する。

 

 

「ちくしょう……力が失われていく……」

 

 

 カリスはケルベロスに、傷口を更に抉られる。彼は血を飛沫のように上げながら倒れた。

 ギャレンは五枚のラウズカードを、キングラウザーに入れていく。

 レンゲルは槍を振り回して、ケルベロスに飛びかかった。

 しかしケルベロスは、肩から火炎弾を放出する。それを受けたレンゲルは、遠くに吹き飛ばされてしまった。

 

 

「弱体化したとは言え貴様らに遅れを取ることはない!」

 

 

 ギャレンがカードを入れ終わった。彼の前に、五枚のカード型のエフェクトが現れる。彼は引き金を引いた。

 キングラウザーから発射された光線─ロイヤルストレートフラッシュ─は、それらを通過するごとに威力やスピードを増していく。そして一直線に、ケルベロスに襲いかかる。

 ケルベロスを中心として、爆発が発生した。

 風に吹かれ、煙が徐々に止んでいく。

 ギャレンはキングフォームに身体が耐えきれず、解除されてしまう。

 

 

「剣崎はこれ以上の苦しみに耐えながら戦い抜いたのか……」

 

「ビックリさせやがって。少しヒヤヒヤしたぜ」

 

 

 ギャレンの攻撃は決して、効いていないわけではない。しかし致命傷とはなり得なかった。 

 

 

「橘……剣崎のカードを受け取れ。それをどう使うかはお前次第だ」

 

 

 始がカードを投げつける。ギャレンがそれを掴んだ。始は力尽き、気を失う、

 

 

『やっぱり一流だよな、橘さんは』

 

『例えカードが一枚もなくても、お前を封印できるはずだ! 俺に仮面ライダーの資格があるのなら!』

 

『戦えない大勢の人たちの代わりに俺が戦う!』

 

『俺は運命と戦う、そして勝ってみせる』

 

 

 橘の脳内に、剣崎の記憶が巡っていく。彼は一か八かの賭けに出ることにした。戸惑いを捨て、行動に移す。

 

 

「剣崎……俺に力を貸してくれ!」

 

 

 ラウズアブゾーバーに、剣崎のカードをラウズした。

 ギャレンの姿が変わる。まるで、ジョーカーと仮面ライダーが融合したかのようなものになった。

 醒剣ブレイラウザーを召喚すると、彼はケルベロスに斬りかかる。

 

 

「まだやるつもりか! 最後まで付き合ってやる!」

 

「貴様だけは……貴様だけは俺の手で倒す!!」

 

 

 ギャレンは上昇した融合係数を力に変えた。反撃も恐れずに何度もケルベロスを切り裂く。

 また、ギャレンラウザーで零距離射撃も行い、的確にダメージを与える。

 

 

「まさか……これほどの……パワーが……」

 

「俺はすべてを失った……信じるべき正義も、組織も、愛するものも……なにもかも……だから最後に残ったものだけは失いたくない……信じられる……仲間だけは!」

 

 

 ギャレンはブレイラウザーにキック、サンダー、マッハのカードをラウズした。ブレイラウザーを地面に突き立て、助走をつけて空中へ高く跳ぶ。

 

 

「剣崎!!!」

 

 

 足に雷を纏い、ライダーキック─ライトニングソニック─を放つ。ケルベロスが両手の爪を交差させ、キックを受けた。

 限界が近づく中、両者は気力を振り絞る。ケルベロスが腕を開いた。ギャレンは弾き飛ばされる。

 

 

「ここまで……か……」

 

 

 ギャレンに横から、光線が浴びせられた。放っているのはレンゲルだ。

 するとブレイドが現れた。レンゲルのリモートによって、剣崎が解放されたのだ。

 落ちるギャレンは、レンゲルが受け止める。

 ブレイドがライトニングソニックを繰り出した。まさかの二連撃を、ケルベロスは予想していない。

 ブレイド渾身のライダーキックが、ケルベロスを貫いた。そしてその強大な力を無に帰す。

 

 

────────────────────

 

 

「ここは……?」

 

 

 変身を解いた剣崎。睦月と橘も元の姿に戻る。

 

 

「橘さん! ご無沙汰してます! 睦月、元気にしてたか?」

 

 

 剣崎は二人と、挨拶を交わした。離れていた時間は長いが、絆はまだ残っている。

 いつの間にか、始は姿を消していた。

 剣崎と再会し、闘争本能が掻き立てられるのを防ぐためだ。

 

 

「すみません橘さん。俺もう行きますね」

 

 

 剣崎が話を切り出す。悲しむ二人だが、彼の戦いを考えると、引き留めることはできない。

 空から黒い石板が飛来した。

 それは倒れていたケルベロスを封印すると、剣崎に戦いを促す。

 これ以上の長居は危険と、剣崎は判断した。後ろを振り返り、その場から離れようとする。

 気がつくとモノリスは既に消えていた。

 橘と睦月が剣崎に宣言する。

 

 

「俺も俺の運命と戦う」

 

「俺もです。誰でも運命と戦うことは出来るはずです……違いますか?」

 

「頑張ってください。二人とも元気で! 始! 近くにいるんだろ? お前もな!」

 

 

 剣崎は三人に別れを告げた。突風が吹き荒れる。瞬間的に、彼の姿が橘たちの視界から消えた。

 

 

「剣崎……俺は……これからも人間たちのなかで生き続ける」

 

 

 始も決意を新たにし、次なる未来を目指す。




ここまでお読みいただきありがとうございました。


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