闘争こそ、我が日常也て   作:鎌鼬

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創世の女神・6

 

『負けるなヨ。負けたらSAO内だけじゃなくてリアルでもウェーブがペドキチ野郎だって広めてやるかラ』

 

「ついにリアルまで脅しに来やがったなこのやろう……ッ!!なら勝ったら〝キリトちゃん写真集そのよんっ〟でキリトとコンビの撮影会でもしてもらおうかっと」

 

 

他の階層から届いたアルゴの応援メッセージに苦笑しつつ、返事を返す。メッセージでも喋り方と同じイントネーションを意識しているのか語尾をカタカナにしている辺り、凄いなぁと感じながら普段のアルゴならば絶対に頷かないであろう内容を返すと数十秒で返事が返って来た。

 

 

『分かった。だから……お願い、負けないで』

 

「おぉ……デレた」

 

 

アルゴ本人がこの場にいたら絶対に顔を真っ赤にして逃げ出すか、照れ隠しで攻撃して来そうな事を言いながら素直に驚く。しかし、それも納得出来る。

 

 

五十層はほぼ封鎖されていて、フロアボスの進行に付き従うモンスターの群れがフィールドを覆い尽くしているのが城壁の上から見ても分かる。数えるのが億劫になる程の数。数の暴力とはこういう物だと体現しているような軍勢。しかも、それは現在進行形で増え続けてる。

 

 

〝風魔忍軍〟の〝隠密〟がカンストしているプレイヤーに偵察に行かせたところ、 遠目からだがフロアボスの名前の〝ティアマト・ザ・ロアードラゴン〟と腹からモンスターが産み出されるのが確認出来たらしい。アルゴが集めて来た創世神話にあった情報と一致する。

 

 

自らの権能故に危険視されて打ち倒されたと言うのに、再度この世に現れてなおその権能に縋り付いている辺り笑うしかない。

 

 

「おーい!!」

 

「ん……ユウキか」

 

 

城壁の上からモンスターの進行速度を確認しているとユウキがやって来た。フロアボス戦の前だと言うのに緊張している様子は見られずにいつも通り。しかしその手には二本の片手剣が握られていた。

 

 

「アルゴから連絡あった?」

 

「負けたらリアルでもペドキチ野郎って広めるって脅されたから勝ったら〝キリトちゃん写真集そのよんっ〟にキリトとコンビで撮影会するって言っといた」

 

「うーん、さりげなくキリトまで巻き込むこの畜生」

 

「弱みを見せた方が悪い」

 

 

俺は悪くない。弱みを見せて、搾取されるキリトが悪いんだ。

 

 

「あ、そうだそうだ。これ」

 

「俺にか?」

 

「うん、黒い方はボクで紅い方はシノンから。前まで使ってたの……〝冥犬の牙〟だっけ?壊しちゃったから」

 

「そいつはどーも」

 

「……14歳と15歳の少女に貢がれる26歳の成人男性」

 

「止めろ、それは俺に効く」

 

 

ゲーム内で一年過ごした事で14歳になったユウキと15歳になったシノンに貢がれる26歳になった俺……文章にすると危な過ぎる。どう頑張ってもニュースで流されるレベルの危なさだ。

 

 

ユウキから片手剣を受け取って鞘から抜く。ユウキから貰った片手剣は刀身から柄、そして鞘までがすべて夜を思わせる漆黒。シノンから貰った片手剣は逆にすべてが燃える炎の思わせる真紅だった。

 

 

黒い片手剣は〝宵闇の(つるぎ)〟、紅い片手剣は〝煌翼の(つるぎ)〟という名前で、どちらもが魔剣クラスのスペックだった。間違いなくこれまでで獲得したLAかMVPボーナスでドロップしたのだろう。

 

 

「良いのか?こんなもん貰って」

 

「良いの良いの。シノンは弓だから使わないって言ったし、ボクはこれがあるから」

 

 

ユウキが無い胸を張りながら腰に吊るした片手剣〝マクアフィテル〟を撫でる。それは俺が四十九層のフィールドダンジョンを潜っていた時に見つけた魔剣クラスの武器で、その時には〝冥犬の牙〟を使っていたのでユウキに譲ったのだ。

 

 

「んじゃまぁ有り難く使わせて貰うわ」

 

 

〝冥犬の牙〟の代わりに吊るしていた片手剣をアイテムボックスに仕舞い〝宵闇の剣〟を右腰に、〝煌翼の剣〟を左腰に挿す。すでにアイテムポーチの中身は補充してあるのでそれだけで準備は終わり、いつでも戦えるようになる。

 

 

「……不知火」

 

 

その時、ユウキがそれまでの態度が嘘のように小さく、そして震えた声で俺の名前を呼びながら抱きついて来た。身長差からユウキの顔は俺の胸に埋まり、背中に回された手は僅かに震えているのが分かる。

 

 

「シノンからの伝言……それで、ボクの気持ち。負けないで、勝って。必ず生きるって約束して」

 

「俺が死ぬとでも?」

 

「ううん、死ぬとは思えない……()()()()()()()()。不知火がボクたちの手が届かないくらいに遠くに行っちゃうんじゃないかって」

 

「あ〜……」

 

 

この間の失踪騒ぎの事があるから否定しにくい。あの時はユウキとシノンが力任せにブン殴ってくれたから帰ってこれた。またああなったらどうしようと心配するのは当然だろう。

 

 

だから、約束する。

 

 

「心配するな。俺は負けないから、必ず勝つから。ちゃんと生きて帰って来るから」

 

 

不敗を、常勝を、そして生還を、ユウキとここにはいないシノンに約束する。主観で見ても客観で見ても、このフロアボス戦は絶望的以外の何でもない。

 

 

だけど、()()()()()()()?絶望的だと?絶体絶命?あぁそうか、()()()()()。そんなものでは俺は折れない。俺は挫けない。堕ちた俺を救い上げてくれた彼女たちの想いに報いる為に。

 

 

「……ギュってして」

 

「ハイハイ」

 

 

ユウキの背中に手を回して、抱き締める。それに答えるようにユウキの腕の力も強くなる。それだけでユウキの震えは治まりつつあった。

 

 

そして顔をあげればニヤニヤしているキリトとPoH、何かに納得したように頷いているストレア、照れているのか顔をうつむかせているコタロー、どうして良いのか分からずに取り敢えずウインドウを表示しているアスナの姿があった。

 

 

「よし、取り敢えずアスナ。そのウインドウを何事もなかったかのようにしまってくれ。フロアボス攻略前に黒鉄宮行きは避けたいから」

 

「いや、でもこれ……どこからどう見ても事案……」

 

「HAHAHA!!気にするなよFlash girl!!ウェーブはもう手ェ出してるんだから!!」

 

「ロリコンキチガイ野郎からペドキチ野郎に昇格したからな!!」

 

「え……?」

 

「そう……やっとシテ貰えたのね……」

 

「今バラすなよ……!!」

 

 

フロアボス戦の前だと言うのに緊張が、そして今さっきまでユウキが漂わせていたシリアスな空気が一気に消し飛んでしまった。ガッチガチに緊張して挑むよりはマシかもしれないが、アスナの俺を見る目が今までは頭のおかしい人を見る物だったのにただの性犯罪者を見る物に変わってしまっている。

 

 

「最低です」

 

「言いたい事があるならこの後にしてくれ……そろそろ時間だ」

 

 

ウインドウに映る時計を確認すればヒースクリフから伝えられた時刻の2分前。それに気が付き、全員の纏う雰囲気が一気に変わる。さっきまで俺に抱きついて震えていたユウキでさえ、殺し合いへの覚悟を終わらせている。

 

 

「んじゃ、みんな」

 

 

城壁の淵に足を乗せ、ユウキとシノンから貰った〝宵闇の剣〟と〝煌翼の剣〟を引き抜く。初めて使う剣だというのに、驚く程に手に馴染む。

 

 

「ーーー勝つぞ」

 

 

万を超えるモンスターを、その先にいる〝ティアマト・ザ・ロアードラゴン〟を見据えながら攻略開始の時刻になるのと同時に城壁から飛び降りた。

 

 

 





若干のシリアスな感じが入ったと思えばやっぱりシリアルに変わる。ガッチガチに緊張しているよりも緩い方が精神的な余裕があるから良いのだよ。

そしてさりげなく製作が決定された〝キリトちゃん写真集そのよんっ〟。内容はアルゴとキリトちゃんのツーショットらしい。

追加
R版投稿したぞオラァ!!見たいのなら見やがれ!!

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