「んで、ご用件は?」
非モテ共が居なくなったサロンに残っているのは俺とヒースクリフとポーションをぶっ掛けられて復活したディアベルの3人。俺は足を組んでテーブルの上に乗せ、ヒースクリフは手を組んで肘をつき、ディアベルは青い顔をしながら生まれたての子鹿の様に内股にした足を震わせていた。
「昨日君から伝えられた事を再確認しようと思ってね。あとディアベルに何か言うことはあるかい?」
「玉が……玉が……ッ!!」
「失踪してる間の事ね。それとディアベルに関しては自業自得なので何もない」
リアルだったら完璧に不能になる威力で蹴ったが幸いにもここはゲームの中だ。ポーションを使ったので砕けた玉も元通りになっているはずだし、痛みも無くなっているはずだ。
「って言われても伝えた通りだぞ?ダンジョンに潜って最深部で〝ティアマト・ガーディアン〟ってボスを倒して、外に出たらホロウたちに襲われて交戦、その後に大量のモンスターに襲われて撃退した」
「そして〝ホロウ・ストレア〟からイベントが進行したと伝えられたと聞いている。〝ティアマト・ガーディアン〟がアルゴ君の言っていた〝要〟で、それが倒されたからと考えるのが普通だな」
「おぉ……おぉ……ッ!!か、〝要〟が倒されたって事は、ホロウたちのレベルも下がったんだよな?」
「あ〜……確かにカーソルの色は薄くなってたな」
昨日のホロウたちとの交戦していた時の事を思い出して見れば、確かに頭上のカーソルは出会った時よりも薄くなっていた気がする。〝ティアマト・ガーディアン〟がアルゴが話していた〝要〟とかいう存在だとしたらこれでホロウたちは弱体化したはずだ。もっとも、〝ホロウ・ストレア〟の言葉を信じるならイベントが進行しているらしいが。
「モンスターの増加だけってのは味気ないよな?だったらそこにプラスして何かあるはずだ」
「希望的観測で言わせて貰えば、これでフロアボスが出現するだな」
「それかこの状態でホロウたちを倒したら出現するかだと思うぞ?というよりもホロウたちと同時にフロアボスの相手とかしたく無い」
「でも現在のカーディナルの殺意の高さを見るとヒースクリフが言った方っぽいんだよな。そっちの方が難易度高いし」
「なぁ、俺たちカーディナルに何かしたかな?」
現在進行形でカーディナルが管理しているゲームを進めてるからだろう。カーディナルの役割はゲームの管理。ゲームという前提が存在しているのでいつかはクリアされるだろうが、抜け道を残してゲームのクリアを妨害するために難易度を上げるはずだ。
カーディナルが本気でクリアさせないつもりならばモンスター全員に即死攻撃でも付与するか、システムを書き換えて不死身のモンスターでも量産すれば良いだけの話。それをしない以上、カーディナルはクリアさせないつもりは無いということになる。
「ともあれ警戒しておいて損は無いな。俺は現場の指揮に戻るけど、2人はどうする?」
「私は夜からの防衛戦に顔を出すつもりだ」
「俺は明日からだな。朝一で行くからよろしく」
「分かった……いってぇ……」
椅子から立ち上がり、ディアベルは股間を押さえながら内股気味でノロノロとサロンから出て行く。その姿は男として見ていて悲痛だがどうして愉悦という言葉が頭の中に浮かんできたのだろうか。
「さて……ヒースクリフ、俺が言いたい事は分かるか?」
「〝
ディアベルという部外者が居なくなった今、ヒースクリフへでは無くて茅場晶彦に話しかける。部外者が居ては話せない内容を話すためにこの場に残らせた。
「ザックリとした説明はユウキとシノンが〝ホロウ・ストレア〟から説明されたのを聞いて納得した。俺が聞きたいのは1つだけ、〝
正と負が存在する〝
使えるのなら使う、あれは戦力の増強としてはかなり魅力的だ。何せ特別なアイテムも装備も必要無い。ただ意思の強さだけがあれば良いのだから。それに心意は心意でしか対抗出来ない。攻略を妨害しかねない〝
「……まず先に話しておくが〝
「正も負も結局は闇堕ちの可能性があるのか」
「あぁ、それに今の君の顔を見て分かったが戦力の増強に使おうとしていただろう?結論から言わせてもらうと無理だ。〝
「あ?進化と覚醒を行える程の意志力ってのは標準装備じゃないのか?」
「常人はそんなもの標準装備では無いからな」
そうだったのか。ウチの爺さんが一番初めに教えてくれた事は武器の握り方や振り方では無くて意志力……
「そっか……じゃあ諦めるか。心意は使わない方が良いって事でオーケー?」
「そうだな。〝
「了解、それじゃあユウキとシノンにもそう言っておくわ」
「待て、ユウキ君とシノン君も心意を使えるのか?」
「おう、闇堕ちした俺が心意使ってた時に2人も心意使ってブン殴って来てくれた。アレのおかげで俺は闇堕ちから戻って来れたんだよ」
「……あぁ、キチガイに恋する乙女だから常人よりも精神力が鍛えられているのか」
「馬鹿にした?2人のこと馬鹿にした?」
「馬鹿にしていないから足を振りかぶるのは止めてくれ」
ヒースクリフに金的したらどんなリアクション取ってくれるのか気になっていたが馬鹿にしていないのならやる必要は無いなと考えて足を下ろす。
「んじゃ、俺は帰るわ」
「2人への説明を忘れない様に」
〝
サロンを出れば時刻は正午手前。もうそろそろ2人は起きたかなと思い、確認のつもりでメッセージを送ろうとした途端、地面が揺れた。
一瞬だけ揺れたかと思えば最初よりも弱い揺れが続く。地震に馴染みのある日本に生まれているので地震のメカニズムについては大雑把だが知っている。空に浮かんでいるアインクラッドでは地震は起こらないはずだ。
何かあると考えて周囲を見渡して高い建物を探し、揺れている中で迷う事なく壁面の凹凸に指を引っ掛けてパルクールの要領で登る。そして建物の頂点から周りを見渡して、地震の正体が目に入った。
遠く離れたフィールドの端の辺り、山間部地帯が隠れるほどに巨大な人型が地面から起き上がっていたのだ。
気合いと根性、それによる進化と覚醒が当たり前だと教えているキチガイ一族がいるらしい。なんで滅んで無いんだよ。
〝ティアマト・ガーディアン〟撃破から24時間経過した事でイベントが進行しました。
R版はちまちま書いてるけど初めてなので難しい……投稿は週末あたりになりそう。