闘争こそ、我が日常也て   作:鎌鼬

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和解・2

 

 

倒れていたPoHたちを蹴り起こし、隠れていたアルゴを呼び出して近くに立っていた木の上に登る。そしてモンスター避けの薬をばら撒いて〝隠密〟で隠れる。逆にウェーブは〝威嚇〟を使った上にモンスター寄せの薬をばら撒いていた。これで余程の事がない限りはモンスターのヘイトはすべてウェーブに向けられる。

 

 

「なんかウェーブさん変わった?」

 

「確かに雰囲気が変わったようナ……」

 

「色々と思うところがあったらしいわよ」

 

「それに……うん、辞めとこう。流石にこれはウェーブに悪いし」

 

「え〜?何々教えてよ」

 

「揺らすなよFools!!」

 

 

幾らか大きいとはいえ流石に6人も隠れれば手狭になる。それに〝隠密〟をしている上にモンスター避けの薬をばら撒いてもフィールドボスクラスになると通用しなくなる。

 

 

そしてボクたちが隠れてから十数秒で第一派がやって来た。

 

 

機動力に優れた狼のモンスター。まるで狂犬病にでも掛かっているように目を血走らせ、口から涎をダラダラと垂らしながらウェーブ目掛けて一心不乱に走っていく。数は12匹。協力するつもりなんて無いのか各々が一直線にウェーブに向かい、全方位から上段中段下段へ同時に噛み付こうとして、

 

 

「ーーーハッ」

 

 

ウェーブの嘲笑と共に〝妖刀・村正〟で斬首された。目に見えた限りではウェーブは特別な事は何もしていない。ただ飛びかかってくる狼を1匹ずつ順番に斬首しただけだ。言葉にすればそれだけだが全方位から同時に襲い掛かってくるモンスターの行動を把握し、瞬時に最善を判断しなければ出来ない芸当だ。

 

 

崩れ落ちる狼のモンスターの死体。それを合図にする様に多種多様なモンスターが我先にとウェーブ目掛けて襲い掛かってくる。蛇、狼、虎、鳥、ゴリラ、亜人、小型の竜等等……数えるのが億劫になる程のモンスターの群れだった。

 

 

普通なら助けに行かないといけないと思うだろう。1人で相手をするにはあまりにも数が多すぎる。それが例えウェーブやキリトの様な頭のネジが外れた様な強さを持つプレイヤーだとしてもだ。

 

 

でも、だけど、今のウェーブを見ているとそんな考えは微塵も思い浮かばない。不安なんて欠片も感じない。()()()()()()()()だという根拠の無い安心感しかないのだ。

 

 

「ククッーーー」

 

 

モンスターの怒声咆哮に混じってウェーブのくぐもった笑い声が聞こえてくる。迫り来るモンスターの群れに対してウェーブがしている事はさっきの狼の時と変わらない。ただ、近づいて来たモンスターを順番に、一閃で斬り殺している。

 

 

淀みなく流暢に身体を動かして刃を急所に滑らせる動作は遠くから見ていると舞の様にしか見えない。ただ周囲を完全に把握し、ただ最善を判断し、ただ一閃で斬り殺す。それだけしか言いようのない、心意も使っていない動作。その完成度があまりにも高過ぎる為に、モンスターが自分から斬首される為に向かっている様だった。

 

 

丸呑みにしようと迫る蛇の首を斬り落とし、喉を食い破ろうとする狼と虎の首を斬り落とし、頭上から降下してくる鳥の身体を切断し、殴り殺そうとしてくるゴリラの胴体を両断し、噛み砕こうとする小型の竜を避けて空いている手で尻尾を掴んでオモチャの様に振り回す。

 

 

時間が経つにつれて積み上がっていくモンスターの死体の数を見れば相当な数を倒した事が分かる。だというのにウェーブは一撃も食らっていない。それどころかモンスターを斬り殺した返り血すら浴びていない様に見える。これはもう戦闘だなんて対等な戦いではない、ウェーブという絶対強者が行う殺しの作業……蹂躙だった。

 

 

襲い掛かったのに一方的に殺されたからなのか、モンスターが怯えた様に足を止める。ウェーブに近づいていけば殺されると学んだのだろう。どうするのか戸惑う様にウェーブを包囲し、少しずつ距離を取ろうとして、

 

 

「逃げるなよ、挑んだからには戦え。強いから、敵わないから逃げる?軟弱者共が、それでもこの世界に生きる生物かよ」

 

 

モンスター寄せの薬を追加でばら撒いた。まだ最初にばら撒いた薬の効果は残っているのにばら撒いた事でウェーブから離れようとしていたモンスターの群れは足を止める。

 

 

「俺が気に食わないんだろ?殺したいんだろ?だから来たんだろ?()()()()()()()()()()。死力を尽せよ全霊を賭けろ。カーディナルなんていう存在なんか無視して掛かってこいよ」

 

 

ウェーブの言葉はスキルを使っていないただの言葉だった。本来なら何も今の無いはずの言葉……だというのにモンスターたちに活力が満ちている様に見える。消えかけていたはずの闘気が、殺意が再び高まっている様に感じられる。

 

 

「来いよ、全力で殺しに掛かって来い。だけどな、勘違いするなよ?勝つのはーーー俺だぁッ!!」

 

 

それは宣言だった。絶対に勝つ、何が何でも勝つという不敗宣言。普通なら馬鹿馬鹿しいとしか思えない発言だが、不思議と今のウェーブならそれが当たり前の様に感じられる。

 

 

その宣言を皮切りにモンスターたちが再び動き出す。その目に宿っているのは殺意と闘気。それに何か決意を込めた様なものも見える。ウェーブが何を考えてモンスターを煽ったのかは分からない。

 

 

でも、今の彼はとても楽しそうだった。心の底からこの戦いを楽しんでいる様に見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数十分後、最後まで残っていた亜人のモンスターが前のめりに倒れる。致命傷を避ける為に重傷を負うという戦い方をしたせいで全身傷だらけだった。それでもウェーブと対峙して一番長く持ち堪えたという偉業を成し遂げたモンスターである。

 

 

「ふぅ……」

 

 

〝妖刀・村正〟を納刀し、疲れたのか肩を回しながら首を左右に倒す。結局最後までウェーブは一撃も食らわず、返り血すら浴びずにあのモンスターの群れを倒してしまった。これまでも強いと思っていたが闇堕ちから戻って来て何か成長したらしく、今までよりも圧倒的に強くなっていた。

 

 

「おう、勝ったぞ」

 

 

サムズアップをしながら勝利を誇る彼の姿を見て、その姿がとても格好良く見えた。

 

 

だから木から飛び降りてウェーブに向かってシノンと一緒にダイブしたのに避けられた。解せぬ。

 

 

 






ウェーブ無双。ただ出来ることの最善手を選択し続けてやれば烏合の集なんて怖くねぇんだよ。これが統率の取れた一枚岩の組織とかだったら普通にフルボッコされて積むけど。


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