闘争こそ、我が日常也て   作:鎌鼬

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和解

 

 

「ーーーあぁ……」

 

 

目が覚める。どうも彼女たちに謝って気絶したらしい。まぁ数日の間で一時間も寝れていないのなら気が抜けた瞬間に落ちるのは当たり前だろう。しかし身体の調子は良い。体感的に数分程しか気絶して(おちて)いないはずだが10時間ぐっすり眠れた様な充実感がある。恐らくは精神的な物が関係しているのだろう。色々と追い詰められていたあの時とは違って、今は余裕があるから。

 

 

と、その時、何か引っ張られている様な気がした。場所はズボンから。不審に思い、視線を下半身に向けてみると、

 

 

「……」

 

「……」

 

 

ズボンに手をかけているユウキとシノンと目があった。すかさずに何か行動に移す前に2人の頭を鷲掴む。

 

 

「言い訳は?」

 

「シノンから誘われました!!ご慈悲を!!ご慈悲を!!」

 

「提案したのは私だけどユウキもノリノリだったじゃない!!」

 

「両方ともアウトじゃボケ」

 

 

2人の戯言を聞いて迷わずに手に力を入れてアイアンクローを決行する。ダメージを発生させずに痛みだけを発生させる力加減なんてもう熟知している。グワァと乙女が出してはいけない声を出しながら苦しむ2人にこいつら本当に欲望に忠実だなと呆れるしかない。

 

 

……だからこの2人に負けたのかもしれない。欲望に忠実だった。だから俺を求めて求めて、俺と同位階にまで達して、俺を倒した。それは事実で、認めるしかない。反応が無くなったから手を離したら、白目をむいて気絶していたけど。なんかこうなると乙女というよりも芸人にしか見えない。

 

 

「ったく……ヤるならせめて主街区まで戻って宿屋にしとけよな」

 

「ーーーん?」

 

「ーーー今、なんて言ったの?」

 

「ん?ヤるならせめて主街区まで戻って宿屋でって……」

 

「……詩乃ぉ!!」

 

「……木綿季ぃ!!」

 

 

2人は互いのリアルの名前を呼び合うと、互いの頬を全力で張り飛ばした。良い音だ。衝撃だけでダメージが発生していないのが不思議な程に。そして、やはりというべきか音がした分だけ痛いのか2人は頬を抑えて転げ回っている。

 

 

「何やってんだよ……」

 

「いや、だって……」

 

「貴方がヤるぞ的な事を言ってきたのだから夢じゃないかって疑うのは当たり前だと思うわよ」

 

「まぁ、確かにな」

 

 

リアルから散々房中術で誘われて、SAO内で薬使われても耐えてたからな……しかも周囲からはロリコン扱いされ、誘われても断るから実は同性愛者じゃないのかとか不能じゃないのかとか色々と噂されてたし……同性愛者と不能扱いした奴らは裸にひん剥いて迷宮区に置いてきたけど。でもあいつら、全裸で武器だけ持って帰って来るんだよな。

 

 

「……こっちにも色々と思うことがあったんだよ」

 

 

2人が襲われているのを見て、改めて俺は2人が大切だと感じた。もうあんな思いはさせたくないと考えて闇堕ちする程に2人の事を思っていた。そしてそんな俺を救う為に俺と対峙する程に2人に想われていた。

 

 

だったらもう致しても良いんじゃないかって結論が出た。倫理観?道徳?法律?そんなもの壊して千切って唾を吐き捨てればいい。

 

 

爺さんと母さんが騒がしいくらいに喜びそうなのが予想出来るのがなんとなく腹立たしい。

 

 

「Fooooooooo!!!」

 

「Ураааааааа!!!」

 

「それ程かよ」

 

 

どうやらユウキは英語で、シノンはロシア語で叫ぶ程に嬉しい事だったらしい。でもそれは理解が出来る。何せ彼女たちはリアルから俺のことを想い続けてくれたのだから。それに応じると言われたら何よりも嬉しいに違いない。

 

 

でもそんな2人の姿を見てると不安になってるんだが……気にしないでおこう。そうしないともう一度闇堕ちしかねない。

 

 

「いやぁ良かった良かった。ちゃんと救われてくれたわね」

 

「〝ホロウ・ストレア〟か」

 

 

態とらしく拍手をしながら現れたのはボロボロになっている〝ホロウ・ストレア〟だった。持っていた両手剣の刀身はへし折れ、片手にバラバラになったホロウのパーツが持たれている。

 

 

「お前にも色々と迷惑かけたな」

 

「良いのよ。前にも言った通りに私は貴方の事を愛してるんだから、堕ちる姿なんて見たくないのよ」

 

「それでもだ。ありがとう、〝ホロウ・ストレア〟」

 

 

もし彼女が来てくれなかったら俺は戻る事が出来なかった。2人が俺と同位階まで達して戦う事が出来なかった。今は彼女とは敵対しているのだが、それでも世話になったのなら礼を言うのは当たり前のことだ。

 

 

「あ〜……お礼言われるのはちょっと違うって言うか……ウェーブ、貴方このダンジョンの最下層で〝ティアマト・ガーディアン〟ってモンスター倒したよね?」

 

「あぁ、ドロドロした液体で本体が宝石の奴?」

 

「それそれ。実はそれを倒すことでカーディナルが設定していたイベントが進むんだけど、その中の一つにモンスターの増加ってあるのよ」

 

「もう良い。何が言いたいのか分かった」

 

 

〝気配感知〟で集まって来たモンスターの気配を感じたことで〝ホロウ・ストレア〟が何が言いたいのか分かった。感じられるモンスターの気配が想像以上に多いので〝索敵〟を使って周囲を確認すれば……俺たちがいる場所から半径500メートル以上先がモンスターの反応で埋め尽くされていた。

 

 

「……多すぎやしない?」

 

「カーディナルの殺意の高さが知れるわね……じゃあ、私は帰るわ」

 

「おう、重ねて言うけどありがとうな」

 

「次に会う時は多分最終決戦だと思うけど、出来ることなら貴方と戦いたいわ」

 

 

そう言って〝ホロウ・ストレア〟はワイバーンを呼び出して背中に飛び乗り、去っていった。去り際にウィンクと投げキッスをする事を忘れないで。

 

 

「誘われたのなら応えないといけないよな……って、その前にだ。良い加減正気に戻っとけ。軽く絶体絶命だからな?」

 

「あひん!?」

 

「ひでぶ!?」

 

 

いつの間にか上半身下着姿になって盆踊り的な物を踊っていた2人を殴って正気に戻す。もうこいつらの喜び方が狂喜乱舞超えてただの発狂になってるんだが大丈夫か?

 

 

「いってて……って、何コレ!?」

 

「ちょっと殺意高過ぎやしないかしら?」

 

「それだけカーディナルが本気だって事だろうな。俺が相手するからPoHたちの事宜しくな」

 

「大丈夫なの?」

 

「サポートくらい出来るわよ」

 

「心配するなって」

 

 

心配するなと言ったが2人が心配しても当たり前だと思う。何せ〝探索〟で出て来た反応は軽く見積もっても500は超えている。モンスターによる人海戦術、絶対に圧殺してやるというカーディナルの殺意が感じられる絶体絶命の場面。

 

 

だけど、不思議と、

 

 

「ーーー今の俺は、間違いなく最強だからな」

 

 

負ける気は微塵も感じられない。勝てるビジョンしか思い浮かばない。

 

 

「笑って見ていろ、安心しろーーー勝つのは、俺だ」

 

 

 






ウェーブ、ユウキチとシノノンに手を出す事を決める。これには流石のユウキチとシノノンも狂喜乱舞超えて発狂するレベルで喜ぶ。

〝ティアマト・ガーディアン〟が倒された事でイベントが進行しました。カーディナルによる質を数で殺す心折設定。

おや、ウェーブの様子が……?


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