闘争こそ、我が日常也て   作:鎌鼬

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すれ違い・11

 

 

ーーー鳴り響く轟音と共に射出される鋼の弾丸が、容赦なく身体を穿つ。

 

 

ーーー空間を殺しながら振るわれる死の剣が、容赦無く身体を斬り刻もうとする。

 

 

脳内は沸騰寸前まで加熱され、精神はグチャグチャになるまで撹拌されている。だけどそれとは反対に俺の身体は冷めていて、何処までも冷静に刻んで来た行動を反復して迫る脅威を斬り捨てようとしている。

 

 

触れただけで死ぬユウキの剣、それを〝冥犬の牙〟で防ぐ。〝ティアマト・ガーディアン〟を殺したこの剣ならばユウキの死に殺される事なく防御を可能にする。

 

 

そんなユウキを迂回する様に曲がって死角から迫るシノンの銃弾。回避しても追いかけられ、防御しようとしても避けられるのならば()()()()()。腹を穿たれ、胴体が千切れそうな衝撃に襲われる。()()()()()()()()()()()()

 

 

流された衝撃に耐えられなかったのか、弾き飛ばされるユウキを本能が殺せると判断して動こうとして、()()()()()()()()()()()()()。俺の望みはあくまで1人になることで、2人を殺す事ではない。寧ろ殺してしまっては本末転倒になってしまう。

 

 

殺せと叫ぶ本能と、止めろと叫ぶ理性。反する命令を下された身体は動かない。その瞬間に、顔面を弾丸で穿たれて無様に吹き飛ぶ。

 

 

「ーーーあ〜あ……どうしてこうなっちまったんだか」

 

 

俺は2人と戦いたい訳じゃない。殺し合いたい訳じゃない。ただ、2人に傷付いて欲しくなかった、悲しんで欲しくなかっただけだ。

 

 

SAOに閉じ込められた当初からそれは考えていて、俺がいれば良いと、2人ならば大丈夫だと無責任な考え方をしていた。その結果、〝ホロウ・ウェーブ〟の愚行が、俺の遅れが2人を傷付けて悲しませた。その時の2人の顔は今でも鮮明に思い出せる。

 

 

あぁそうだ、俺は、()()()()()()()()()()()。2人を傷付けた俺を、悲しませた俺を殺したくて殺したくて堪らないんだ。自殺ではダメだ、だから何処かでモンスターに嬲られながら殺されようとここまで来たと言うのに。

 

 

彼女たちは追いかけて来てくれた。無意味で無価値なはずの俺の事を追いかけてここまで来て、俺を救うと宣いながら俺と同位階にまで達してくれた。

 

 

理解出来ない?いや、俺が()()()()()()()だけだ。ユウキとシノンの悲しみを孕んだ眼を見て、ある程度理性的に考えられる様になった今なら分かる。無意味で無価値だと自己否定しているこの俺に差し伸ばされる2人の手が、()()()()()()()()()。惨めで無様で醜悪で、どうしようもない俺が、2人から求められている様で嬉しかった。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()。この身は既に堕ちている。汚れたこの身は、2人に相応しく無い。だから差し伸ばされる手を払いのけ、離れようとしているのにーーー

 

 

「ーーー()()()()()!!」

 

「ーーーえぇ、()()()!!」

 

 

シノンの腕を奪おうと振るわれる〝冥犬の牙〟。それをシノンは弾丸で軌道を逸らすという曲芸じみた離れ業で回避し、出来た僅かな間にユウキが滑り込んでくる。

 

 

ーーー2人は諦める事なく手を差し伸べる。何度払いのけられ様とも、何度拒絶されようとも、諦める事なんてしないと叫びながら何度も何度も手を伸ばしてくれる。痛いだろうに辛いだろうに、無意味で無価値なこの俺に手を差し伸べてくれる。

 

 

俺が振るう〝冥犬の牙〟はユウキの腕を斬り落とそうとするがそれをユウキは自慢の反応速度で見てから回避し、剣の柄で顎をかち上げれる。そしていつの間にか接近していたシノンの〝PGMヘカートII〟の銃口が腹に押し当てられてゼロ距離射撃。言いようの無い衝撃と共に錐揉みしながら吹き飛ばされる。

 

 

斬られはしていないものの、何度もユウキに殴られてシノンに撃たれて血が上っていた頭が冷えて来た。このままでは2人に勝てないと理解した。どう言う訳だが今の2人は俺よりも強い。

 

 

ならばどうする?諦めるか?いや、それこそあり得ない。ここで俺が諦めれば、いつか2人はまた嘆き悲しむ事になるから。だから諦めない。2人を嘆き悲しませない為に、諦めるわけにはいかない。

 

 

「ーーー()()()()()()!!」

 

 

歪む視界を、軋む身体を()()()()()()()()。限界などとうの昔に過ぎ去って、休息を求める身体の悲鳴を捩じ伏せる。ここで終わるわけにはいかない、2人を嘆き悲しませたくない、その思いを支えに。

 

 

クラウチングスタートの構えを取り、全力で地面を蹴って突貫。速く速く、ユウキの反応速度を超えるほどに速く、そして反応されるよりも速くに斬り捨てる。

 

 

当然の事ながら距離が開いているのでユウキに反応される。あぁ、それは分かっていた。ユウキならば当たり前の様に反応して、迎撃に動くと。振るわれるユウキの剣、それを先読みして範囲を見切り、()()()()()()()()()()()

 

 

鼻先を通り過ぎる剣越しに、ユウキの驚愕している顔が見える。俺の反応速度はユウキの反応速度を下回っているが、先読みに関しては優っている。故に先に反応させる。後の先では無くて先を取らせれば、そこに残るのは行動中の隙だらけのユウキの姿。

 

 

〝冥犬の牙〟を一閃。鈍く光る刀身が、ユウキの身体に届いた。死にはしない程度の傷を負わせて、ユウキを蹴り飛ばしてシノンに向かい突貫する。

 

 

「お、オォォォーーー!!」

 

 

本能が完全に身体を支配し、理性の制止を振り切る。居合に似た構えと共に一閃。過去最速、これまでに無い程に完璧に放つ事が出来たと判断出来た一閃。切り分けられたシノンの上半身が宙を舞いーーー()()()()()

 

 

「ーーー」

 

 

残像だと理解出来た。どこにいるのか分からなかった。しかし、それはすぐに分かった。()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「ッ!!」

 

 

轟音と共に衝撃が襲う。顎が砕け、視界が蕩ける。それでも何があったのかは理解出来た。俺の剣を躱したシノンが、下から撃ったのだ。

 

 

「勝つのはーーー」

 

「ーーーボクたちだぁッ!!」

 

 

〝冥犬の牙〟を持つ手に走る衝撃。轟音に混じって聞こえる何がが砕けた音。不意に軽くなる身体。蕩ける視界を凝らせば、砕けた〝冥犬の牙〟と張り切った姿勢のユウキ、そして反動を堪えているシノンの姿が見えた。ユウキが斬ってシノンが撃った、そして〝冥犬の牙〟が壊された。

 

 

「ーーー」

 

「この……ッ!!」

 

「馬鹿ぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 

そして2人は武器を投げ捨てて、俺の顔を殴った。突き刺さる2人の拳はシノンの弾丸よりも軽いはずなのに、不思議と重く感じられた。身体が動かずに地面に倒れても、2人は止まらずに馬乗りになってひたすら顔面を殴る。

 

 

「勝手に悩んで勝手に暴走して!!」

 

「それで自分がいなければってこの大馬鹿!!」

 

「貴方は間に合ったのよ!!それなのに手遅れだって勘違いして!!」

 

「馬鹿!!馬鹿!!この、馬鹿ぁッ!!」

 

 

何度も何度も、2人は俺の顔を殴る。涙と一緒に、置いていかれた悲しみと一緒に。綺麗な顔を涙と鼻水でグチャグチャにしながら。

 

 

「勝手に居なくならないで……!!」

 

「自分を責めないで……!!」

 

「ーーー」

 

 

嗚咽と一緒に出てくるのは彼女たちの心だった。離れないでと、自分を責めないでと、心の底から俺の身を案じているのが伝わってくる。

 

 

「俺は……間に合ってたのか?」

 

「間に合ってたわよ!!」

 

「手遅れじゃ、なかったのか?」

 

「手遅れじゃなかった!!不知火はボクたちを助けてくれた!!」

 

「俺のせいで、2人を泣かせたんじゃ?」

 

「どこからどう見ても〝ホロウ・ウェーブ〟のせいよ!!貴方は悪く無い!!」

 

「……ハハッ、なんだよそれ」

 

 

勝手に俺が悪いと自分を責めて、間に合わなかったと自己嫌悪して、価値は無いと自己否定していた。でも、それはあくまで俺から俺を見ての判断。2人は俺は悪くないと言ってくれた。間に合ってたと言ってくれた。結果、すべて一人芝居。勝手に悩んで勝手に自己否定して、勝手に暴走したというだけの話。まったくもって笑い話にしかならない。

 

 

全身から力が抜ける。殺意と怒りに囚われていた本能と理性が正気を取り戻す。〝冥犬の牙〟と一体化していた手が人間の物に戻り、柄が地面に転がり落ちる。

 

 

「……ごめん、俺が間違ってた」

 

 

俺は2人を守れていたと、他ならぬ2人が教えてくれた。間違いで2人にいらぬ心配をさせてしまった。

 

 

「「許す!!」」

 

 

そして2人は堂々とした態度で俺の謝罪を受け入れてくれた。

 

 

 





〝まだだ〟とかいう魔法の言葉に、〝勝つのは自分だ〟とかいう勝利の言葉。ここには光属性しかいないのか?

とりあえずこれで拗らせウェーブ救済。語彙力の無さに辟易する今日この頃。誰か文才を恵んでください。


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