闘争こそ、我が日常也て   作:鎌鼬

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すれ違い・6

 

 

「……ウェーブ?」

 

 

突然現れたウェーブの姿を見て、ユウキが疑問符を付けてしまったのは無理も無い。正直な話、私も彼がウェーブなのかと思ってしまった。

 

 

窶れて疲れ切った顔は間違いなくウェーブのもの。だが目が違っていた。絶望した様な、諦めた様な、負の感情を厳選して煮詰めた様な目。こんな目の彼を見たのは初めてだったから。

 

 

「……」

 

 

そしてウェーブは私たちを一瞥すると踵を返して何事も無かったかの様に歩き出そうとしていた。その方向は〝アルゲート〟とは真逆のフィールドの奥。今のウェーブの状態で行くべき場所では無い。

 

 

「待ちなさい、何処に行くつもりなの?」

 

「……何処でも良いだろうが。さっさと帰れよ」

 

「帰れよって……貴方ねぇ!!」

 

「……()()()()()()()()()()()()()!!」

 

 

勝手に行こうとしているウェーブを止めようと、肩に手を伸ばしたがそれは弾かれた。そして、酷く苛立たしげに叫んでいる。

 

 

「いつもいつもいつもいつもォッ!!こっちが放っておけば好き勝手にやりやがって!!迷惑なんだよ!!邪魔なんだよ!!触れるなよ近寄るなよ消え失せろよ!!」

 

 

それはウェーブの口から出た、初めての拒絶の言葉だった。どんな事があっても迷惑そうな顔をして小言を言うだけで受け入れてくれたウェーブから出たとは思えない言葉。

 

 

全身から力が抜けて崩れそうになる。ウェーブが居たからこそ、私とユウキはここまで戦って来れた。辛い事があっても膝を折らずに頑張って来れた。ウェーブが居たから。それは逆説的に言えばウェーブが居なかったら……

 

 

嘘だと思いたくて、ウェーブの目を見る。そこには変わらずに絶望した様な、諦めた様な、負の感情を厳選して煮詰めた様な目があった。

 

 

だけど、その奥に、()()()()()()()()()()()

 

 

「ーーーッ!!」

 

 

奥歯を食い縛る、目を見開く、腹に力を込めて崩れ落ちるのを堪える。今のウェーブの目を見て分かった。一瞬だけ、気の所為かもしれないが彼は私たちを拒絶した時に悲しんでいる様に見えた。あの言葉が本心から出たのなら悲しむ必要は無い。ならば、あの言葉は虚言になる。それならどうして虚言を吐いて悲しんでまで私たちを拒絶しようとしたのか。そんな事、ウェーブが失踪したタイミングを考えればすぐに分かる。

 

 

それはーーー()()()()()()()()()()()()()()。自分といると傷付けてしまうから突き放す為に、本心を偽って悲しんでまであんな言葉を言ったに違いない。

 

 

だって、彼は優しい人だから。SAOをする前から、彼は私たちが傷付く事に敏感だった。ユウキが虐められれば影から虐め返し、私が影口を叩かれればネットにそいつらのリアル情報を拡散していた。後手に回る事があっても、私たちを助けてくれる彼は救いのヒーローだった。

 

 

だから彼は許せないのだ。〝ホロウ・ウェーブ〟に私が犯されかけ、ユウキがそれを見て泣いた事が。私たちに怖い思いをさせてしまった自分が、許せないのだ。

 

 

だから私たちを拒絶して、離れようとしている。私たちを守ろうと、自分を傷つけている。自分の本心に蓋をして気付かないフリをしながら。

 

 

あぁ、なんて馬鹿なんだろうか。彼も、そして私も。こんな状態になってしまうほどに1人で思い悩んだ彼は馬鹿だし、今まで気が付かなかった私も馬鹿だ。

 

 

「はぁ……」

 

 

分かってしまった。今の彼は言葉では止まらない。言葉で止まる様な段階はとうの昔に過ぎ去ってしまっている。()()()()()()()()()()。手遅れになる一歩手前で、何とか踏み止まっている。ユウキもそれが分かったのか、私と同じ様に溜息を吐きながら武器を抜いた。

 

 

「……何のつもりだ?」

 

「分からないほどに耄碌したのかしら?」

 

「そんなの決まってるじゃん」

 

 

ショートボウを構えて矢を番い、鏃をウェーブへと向ける。ユウキも剣の切っ先をウェーブへと向けていた。

 

 

「「ブン殴って正気に戻す!!」」

 

 

言葉では止まらないのなら暴力で止めるしか無い。正直な話、私たちでは彼に勝つことは出来ないだろう。だけどそんな話では無いのだ。

 

 

出来る出来ないでは無い、やらなくてはいけないから。

 

 

「わ、私は……」

 

「アルゴは下がってようか。私たちがやるから」

 

「ウェーブさん相手とか絶望なんだよなぁ……」

 

「HA!!Realでやる時の予行練習には丁度いいか」

 

 

レベルの問題で戦えないアルゴを除いた全員が武器を抜く。私たちほどにウェーブを理解していないにしても、ここで彼を止めなければ不味いと判断してくれたようだ。

 

 

「ーーーはぁ……」

 

 

そんな私たちの姿を見てウェーブは溜息を吐きながら俯く。

 

 

「全くお前らはーーー」

 

 

その声に込められているのは哀愁だった。拒絶しているのに手を伸ばしている私たちに呆れたような、それでいて悲しんでいる様な声で話かけ、

 

 

「ーーー吐き気がする

 

 

決定的な拒絶を表した。ウェーブの全身からは黒いモヤが上がり、目からは一切の感情が消え失せる。

 

 

あのモヤは〝暗黒剣〟のスキルか?効果が分からない以上迂闊に攻め込むのは危険だ。牽制のつもりでウェーブの両足目掛けて矢を放つ。至近距離からの狙撃、ユウキなら見てから躱されるだろうがウェーブの反応速度なら防ぐだろう。

 

 

だが予想に反してウェーブは矢を塞がずに()()()()()()()()()()。矢は黒いモヤに遮られてウェーブに届くこと無く地面に落ちる。HPが減っていない。

 

 

「何よあれ……!!」

 

「面白え!!」

 

 

誰もがそれを見て一歩下がる中で、PoHだけが前に飛び出した。敏捷型なのか一歩目から最高速度に到達し、ウェーブの死角に潜り込んで〝メイト・チョッパー〟を振りかざす。正面からの反応出来ない箇所への奇襲。間違いなく殺すつもりでやっている。それを止めるのには遅過ぎるし、止めるつもりもない。今の彼を止めたければ最低でもそのくらいの意気込みが無ければならないから。

 

 

だけど、それだけで止められるとは思えなかった。

 

 

首に振るわれた〝メイト・チョッパー〟がモヤに阻まれる。ならばと四肢を狙い振るわれるがそれも通らない。あのモヤだ。あのモヤをどうにかしない限り、私たちの攻撃がウェーブに通ることは無い。

 

 

「ーーーうぜぇ」

 

 

そしてウェーブが動く。〝メイト・チョッパー〟の刃を鷲掴み、そしてそのままPoHを地面に叩きつけた、流れるような動作で腕の力だけでPoHを人形のように。ウェーブのビルドは把握しているが、あんなことが出来るほどのステータスでは無かったはずだ。

 

 

そしてPoHをこちらに向かって、()()()()()。ユウキはそれに反応し、私はやりかねないという予感があったのでしゃがんで躱せたが、運悪くストレアが巻き込まれてしまう。

 

 

「邪魔だ」

 

「っとぉ!?」

 

 

次の狙いはシュピーゲルだった。縮地で距離を詰め、〝冥犬の牙〟を振り翳す。咄嗟に半身になって躱したが左腕を斬り飛ばされ、腕力で強引に軌道を変えられて両足を斬り落とされ、宙に浮かんだ身体をストレアの方に向かって蹴り飛ばされる。

 

 

それだけでPoHとシュピーゲルのHPはレッドに、ストレアはイエローに追い込まれた。

 

 

「ーーーあ〜らら、大変な事になってるわね〜」

 

 

それだけでも絶望的だというのに、この場に似合わない声がさらに絶望を掻き立てる。

 

 

森の奥から現れたのは4人のホロウたちを引き連れた〝ホロウ・ストレア〟だった。

 

 

 






闇落ちウェーブVSラフコフ。頑張れ!!一応手遅れ一歩手前だから頑張ればウェーブは正気に戻るんだ!!だけど心意使ってるからいくら攻撃しても通用しないし一方的に攻撃されるけどな!!


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