「さて、行きましょうか」
「おぉ!!」
「ウェーブったら心配させて……」
「アインクラッド中にウェーブの秘密暴露してやル……」
「もうほとんど死んでるウェーブさんの社会的地位を殺す様な真似はやめてあげてよぉ!!」
「HAHAHA!!」
私の音頭に合わせて拳を挙げるユウキ、純粋にウェーブの事を案じているストレア、ウェーブの秘密を暴露してもう棺桶に横たわっている社会的地位を完全に殺そうとしているアルゴ、それを嘆いているシュピーゲルに可笑しいのか大爆笑しているPoH。それがバフかけの為に防衛戦から外れる事が出来ないユナと、ユナから引き剥がすと発狂するノーチラスを除いた
時刻は夜明けの早朝。この時間帯が〝風魔忍軍〟調べで一番モンスターの動きが鈍い時間帯なのだ。早いうちに〝アルゲート〟から離れなければモンスターの群れとかち合ってしまう事になる。
「ウェーブの足取りだけド……」
「あっちね」
「あっちだよ」
〝追跡〟のスキルでウェーブがどこに行ったのか調べるよりも早くに私とユウキは離れたところにある森を指差す。
「……いや、確かにあっちだけどなんで分かったのサ?」
「
「
「恋する乙女って凄いのね……」
「いやいや、あの2人が凄いだけだから。普通なら分からないって」
「流石はCrazy girls」
「確かに恋に狂ってるんだよなぁ……」
なんだかシュピーゲルの目が凄い勢いで死んでいくがそんな事には構っていられない。早くウェーブを見つけなければならないのだから。
「見つけたら少年誌では載せられない様な甘え方をしてやるんから……!!」
「R指定食らう様な事をしてやる……!!」
「なんだかウェーブさん、見つからない方がいい気がしてきたんだけど」
モンスターに見つからぬ様に〝隠蔽〟を使いながら全力で森を目指し、そこから先はアルゴに案内を任せる。私とユウキでは大雑把な方角は分かっても細かい足取りまでは分からないのだ。なので唯一〝追跡〟を持っていたアルゴに任せ、私たちで周囲を警戒する。湧くモンスターはすべて〝アルゲート〟に向けられているのか、私の警戒範囲内ではモンスターは見つからなかった。
「ねぇ、アルゴはどうして付いてきたの?安全マージンにも届いてないのに」
そんな時、思いついた様にユウキが疑問を口にした。本人からすれば暇潰しなのかもしれないが、確かに気になる事だ。わざわざアルゴが出てこなくても私たちに任せれば良かったのに。
「〝
「……
「……ほ、本当ダゾ?」
「アルゴ、
「ユーちゃんシーちゃん怖い怖い!!」
アルゴの様子が気になったので軽く鎌を掛けたところ、いつもの口調を忘れてしまうほどに怯えられてしまった。目が怖い?いつも通りにしているはずなのに。そう思ってユウキの方を見れば、口元だけ笑って目が欠片も笑っていないユウキの顔があった。確かにこれは怖い。私にも怯えていたと言うことは同じような顔を私もしているのだろう。
「で、どうなのよ?」
「正直に言おうか?」
「うぅ……」
私たちのプレッシャーに負けたのか、フード下のアルゴの顔は涙目になっている。そして観念した様に私たちにしか聞こえない音量で話し出した。
「わ……オレっちだって心配してるシ、怒ってるんだからナ……初めて会った時に約束してくれた事を破ったウェーブのことヲ」
「約束?」
「……あ〜、確かにそんな約束してたわね」
そう言われて思い出すのは一年以上前の第一層での出来事。私たちが初めて迷宮区に足を踏み入れた時、モンスターに囲まれて孤軍奮闘していたアルゴをウェーブが見つけ、真っ先に助けたのだ。
アルゴはβテスターで、その頃から情報屋をしていた。β版で攻略されていた階層までなら誰よりもSAOを知っていたと言える。だから自分が動かなければと言う使命感に駆られ、単独で迷宮区に挑むと言う無茶をやらかしたのだ。戦闘がメインでは無かったプレイのせいであっさりと囲まれて死にかけていたのだが。
それをウェーブが助け、事情を聞き、約束をしたのだ。確か内容は……
「俺が戦うからアルゴはサポート頼む、だから心配するな。焦る必要は無いんだから……だったかしら?」
「心配かけてるね」
私たちと年が近い様に見えたから話し相手にでもなって欲しいと思って安心させる為にそんな約束をしたのだろう。割と真面目なウェーブだから今までその約束は守っていたに違いない。だが、今回の失踪騒ぎで心配させている。完全にアウトね。
「そうだロ!?だからオレっちに心配させて、約束破った罰に色々としてやるんだヨ……!!」
「……あ〜シノン、これって」
「えぇ……」
アルゴの声色は怒っているが、顔を見る限りでは怒っている雌の顔だ。想い自体は第一層で助けられた時から持っていたのかもしれない。誰だって絶体絶命の窮地を颯爽と現れて助けてくれたらキュンと来るだろう。本人が気がついてるか分からないがこれは完全に恋する乙女の顔だ。
問題があるとすればアルゴにその自覚が無いことか。自覚しているのならそれで良い、1人で考えるなり人に相談するなりして答えを出せば良いのだから。自覚していないのなら、下手をすれば拗らせてしまう事になる。もしもアルゴがヤンデレになったら一大事だ。流石のウェーブも顔を引攣らせるに違いない。
それでも私たちに出来ることは何もない。ユウキにアイコンタクトでそう伝えれば、自分も同じだと返してくれた。結局のところこれはアルゴだけの問題なのだ。自覚させることも出来なくは無いが、それでは意味が無い。自分で気付いて、自分で考えて、自分で答えを出さなければ意味が無いのだから。
その結果、ウェーブがアルゴの事を受け入れても私からは何も言わない。多分ユウキも何も言わないだろう。
「そっか……じゃあ一緒にお仕置きする?」
「一緒に未成年誌では載せられない様な事をする?」
「ふぇっ!?そ、そこまでは求めてないっていうか……」
顔を真っ赤にしながら指を弄るアルゴを見て、どんな答えでも良いから自分が受け入れられる答えに辿り着いて欲しいと思わずにいられなかった。
アルゴが雌の顔になってから30分程歩き、辿り着いた先は洞窟の様に偽装されていたダンジョンだった。ウェーブの足取りはここで途絶えているらしく、ダンジョンに入ったことは間違いなさそうだ。
「ふぅん……成る程ねぇ」
「どうしたのよPoH、そんなに嬉しそうにして」
「いや何、久し振りに懐かしい臭いを嗅いだんでな」
「懐かしい臭い?」
「あぁ、腐った肉と新鮮な血の臭い……死の臭いってやつだよ」
そう言いながらニヤニヤと心底楽しそうに笑うPoHは壊れているとしか言えなかった。まぁ実際にPoHは壊れている。止まるためのブレーキを持っていない倫理観がイカれている生粋の人格破綻者。ウェーブがそういう風になる様に教育された後天的な人間なら、PoHは初めから壊れている。スリルを味わうためならば躊躇わずに火事場へニトロ抱き抱えて突撃するだろう。ウェーブとの約束で力を貸してくれると言って信用は出来るが信頼する事が出来ない危険人物。
そのPoHが言うのなら間違い無くここでは死の臭いが充満しているのだろう。そして死の臭いが充満しているということは、誰かが入って殺したということ。間違いなくウェーブはここにいる。
なら躊躇う理由は無い。さっさと潜ってウェーブを見つけて、説教の一つでもして連れて帰ろうとダンジョンに入ろうとして、
「ーーーはぁ」
転移のライトエフェクトと共に、窶れて疲れ切った顔をしたウェーブが現れた。
恋する乙女先導による捜索隊出発。なお、ユウキチとシノノンはウェーブを見つけたら未成年誌では載せられない様な事をしようと企んでいるらしい。