「誓いを破りてこの身は堕ちる。愛しき者の嘆きを糧にして、この身を報復へと突き動かすのだ」
それは呪詛。誓った事を守ることが出来ない己の事を侮辱し吐き捨てる罵詈雑言。人である事の楔を抜いてしまった己など人にあらず、ただの畜生に過ぎない。
「枷を壊せ、縛鎖を千切れ、道徳に唾を吐き捨てろ。あらゆる
猛る殺意と赫怒が身体を内側から蹂躙する。1と0で構築されたデータの身体であるはずなのに、まるで現実の肉体が書き換えられる様な感覚を覚える。
「故にこの身は畜生狼。醜く邪悪な獣にすぎぬ」
〝冥犬の牙〟にだけ纏わりついていたモヤーーー殺意と赫怒が身体中に広がっていく。それは進化や昇華などの綺麗事では言い表せない変化。堕落、あるいは堕天という、負のベクトルへの変貌を果たしていく。
「天に輝く星に焦がれながら、無明の闇へと堕ちるのだ」
あぁでも、これで、俺が堕ちる事で2人が助かるのならなんと安い買い物だろうか。俺の様な人でなしに価値など無い。そんな対価で2人が生きるのなら、それはとても喜ばしい事なのだから。
「それこそ、我が末路に相応しい」
だから、この変貌には後悔は微塵もない。輝くあの少女らを高みに残し、俺は果てない闇に堕ちようでは無いか。
「
さぁーーー堕ちる様に高みを目指せよ畜生狼。
「ーーー
纏わりついていた殺意と赫怒が〝冥犬の牙〟を持っていた右腕に集約されて肉体と一体化する。外見は手首の先から刀身が生えている様に見えるが、不思議と柄を握っているという感触は残っている。状態を確かめる様に二、三度振ってみてもそれまでとは変わらない。それどころか振り易くなっている様にも思えた。
俺の変貌が終わるまで待っていた〝ティアマト・ガーディアン〟が吼えた。それで終わりか、そんなものかと嘲笑う様な甲高い咆哮と共に先程と同じ様に背中から夥しい数の触手を伸ばして振るう。
一閃、右腕を一振りして範囲内の触手をすべて断ち切る。ともあれ何か変わった事は確か。まずはそれを把握することが先決だと考え、斬った触手が液体になり
おかしい、これまでならばこの触手が液体になって〝ティアマト・ガーディアン〟の元に戻るはずだったが液体になったまま動く気配を見せやしない。何かの罠かと思い警戒するが、向こうもこれは予想外なのか動きが止まっていた。
だがそれも数瞬だけで再び触手が迫ってくる。この状態を警戒しているのか刀身を避ける様に身体の左半身だけに狙いを定めて。
「なんというラッキー」
この攻撃の厄介なところは全方位からの攻撃だったから。迎撃の為に全方位を注意しなければならず、一歩間違えればそのまますり潰されかねなかったが向こうから方向を絞ってくれるのなら幸運というしか無い。
左半身を殴るように抉るように穿つように迫り来る触手。それを斬って、斬って、斬って、斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って……すべての触手をただの液体にへと戻す。
どうやらこの状態で斬ったら〝ティアマト・ガーディアン〟の一部ではなく、ただの液体になるらしい。長所を無くし、特徴を殺し、自慢の力を無価値だと斬り捨てる。己が登ることで他者の上に立つのではなく、他者を堕とすことで相対的に自分の価値を上げる。
成る程、今の俺には相応しい力だ。
触手をすべて斬り刻んでただの液体に戻した頃には人型のサイズは2メートル程まで縮まっていた。あの身体が液体で出来ている以上、俺によってただの液体に戻されれば回収出来なくて縮むのは当たり前のことだ。そしてそれは、〝ティアマト・ガーディアン〟の攻撃方法の減少を表している。
「殺すーーー」
無尽蔵のように思えた液体も残りあとわずか。もう殺せると判断してトドメを刺すために床を蹴って〝ティアマト・ガーディアン〟に肉薄する。刀身が届く範囲まで近づいて斬るというこれまでに何億回と繰り返した反復行動。一切の淀みなく行える。
そして〝ティアマト・ガーディアン〟はそれを全身から針のように細い突起物を生やして迎撃しようとする。あぁそうだろう、確実に反撃しようと思えばそれが一番のやり方だよな。
「殺すーーー」
それは予測出来ていた。だから構わずに突っ込み、刀身で
「あぁ、やっと届いた」
全身を貫かれながら前に踏み出し、人型の首を撥ね飛ばす。宙を舞う人型の頭部に崩れ落ちる胴体。最後の抵抗なのか、頭部を構成していた液体が広がり覆い被さろうとしてくるのを斬り上げて両断。これで〝ティアマト・ガーディアン〟の攻撃手段はすべて無くなり、残ったのは転がっている宝石だけだ。懇願のつもりなのか弱々しい光を点滅させている。無機物にも生存欲があるのかと感心し、
転がる宝石を斬る。ゲージの半分が削れて砕け散り、残るゲージは十四本。二十八度斬るという作業を終えてHPゲージのすべてが消滅し、宝石も輝きを失って砕け散った。
軽快なファンファーレと共にリザルト画面が現れ、ドロップアイテムとLAボーナス、そしてMVPボーナスの一覧を表示する。それを確認する事なくリザルト画面を反射的に左腕で叩き割り、
突然襲ってきた虚脱感により俺は意識を失った。
詠唱考えてるとぶりはぁ〜♡とか超新星とか書きたくなった作者は間違いなく末期。どうしようもなくある会社に汚染されているのだ!!
能力は特徴、あるいは長所に対する特攻。硬ければ脆くするし、鋭ければ鈍くする。今回なら再利用を不可能した。主人公がメタ能力って……今時じゃ珍しくも無いな!!