最近お気に入りの数は減っているんだけどどういう事なのさ。
誰か止める方法を教えて下さい。
ーーー夢を見ている。明晰夢とか言うやつか、自分が夢を見ているとはっきりと理解出来ていた。
この夢は確かSAOに入る前の頃か。爺さんに呼び出されて久しぶりに実家に帰った時だ。木綿季と詩乃の姿は無い、家に着くなり母さんのところに向かっていったからな……今思えばこの時も房中術を学んでいたかもしれない。
今で爺さんと2人っきり。足を崩して俺はビールを、爺さんは日本酒を飲んでいた。
『で、何だよ。電話で済ませられない事なのか?』
『会って言わなきゃならん事だから呼び出したんだぞクソ孫。なんでお前はそんなに可愛げがないんだ。少しは木綿季ちゃんと詩乃ちゃんを見習え』
『クソ爺さんと母さんの教育の賜物だろ』
『それを言われたら何も言えんのだよなぁ……まぁ良い。不知火、ウチの家訓覚えているか?』
『修羅の様な人であれ、だっけか?』
『あぁ、ウチの家系っていうのは在り方からしてトチ狂ってるから時たま産まれた時からイカれてる奴とかそういう素質を持った奴が出てくるんだよ』
『成る程ね……で、
『俺の見立てじゃ後者だな。普通なら鳴りを潜めてるがキレた時にそれが出てる。お前が我が家でキャンプファイヤーした時も出てたし、詩乃ちゃんがイジメられてるのを見た時にも出てたぞ』
『あぁ、あれか』
『心当たりがあるならそれで良い。気をつけろよ、抑えが効いている内は良いが本格的にぶっ飛んだとなったら始末せにゃならん。俺は弟を処理したし、母さんだって自分の姉を殺ってる。一人っ子のお前が居なくなると家を継ぐのが居なくなるからな』
『俺よりも家の心配かよ』
『お前がガキこさえれば問題ねえんだよ。で、一体何時になったら木綿季ちゃんと詩乃ちゃんの子供が抱けるんだ?』
『待て、なんで俺が2人ともとヤってる前提?法律どうした』
『法律なんぞクソの役にも立たねえよ。てかお前ヤってないの?何なの?ホモなの?』
『上等だこの不能ジジイ……ッ!!』
『それを言われたら殺し合い不可避だな』
この後俺と爺さんは殺し合いを始めて、母さんが飯の時間になったと伝えた事で止めた。何時だって食事は絶対なのだ。
今になってなんでこの時の夢を見ているのか、それは今の俺が
それを理解していて、
〝ホロウ・ウェーブ〟を殺せと理性が叫び、止めろと本能が悲鳴を上げている。この状態のまま〝ホロウ・ウェーブ〟を殺せば間違いなく俺は堕ちる。修羅の様な人では無く、修羅の様な獣に成り果てる。
だが、それで良いと俺は考えていた。2人を嘆き悲しませてしまった俺には似合いの終着。
この身は醜く邪悪な畜生。あぁ、
「ーーーチッ、懐かしい夢を見たな」
久し振りに爺さんの登場する夢を見てイラつきが込み上げて来たので嫌悪感を隠す事なく舌打ちをする。経験上、あのジジイが夢に出て来た時にはロクな事にならないと知っているから。
俺が三日もかけても踏破出来ない事が異常だがそれ以上に
取り敢えず今は進むことしか出来ない。ダンジョンから一瞬で出る事ができる〝脱出結晶〟は持っているので行けるところまで行って、何もなかったら〝ホロウ・ウェーブ〟を探しに行けば良い。もしかしたらここがホロウたちのアジトかもしれないしな。
そう思いながら立ち上がり、身体がフラついた。どうも身体が限界に近づいている様だ。まぁダンジョンに潜ってから合わせて一時間も寝れていないのなら疲労やらストレスやらでそうなる。仕方がないのでアイテムポーチから見た目は細巻きタバコと同じ棒状の物を取り出して火を着ける。
見た目こそはタバコだが、中身は四十層で見つかった
俺が動いたからか、それとも薬物に反応したか
「……ようやく最深部か」
目覚めから十時間程かけて階層を二つ下げて、最深部らしき場所を見つけることが出来た。全体を肉の壁と肉の天井に覆われた半径50メートル程の肉の部屋。その中心には1メートル程の紅い宝石がドロドロとした見た目の混沌とした泉の上に浮かんでいる。
周囲を見渡しても誰かが居た痕跡は無い。つまりここはホロウたちのアジトでは無い事になる。ハズレを引いたと思ったが、アルゴが〝要〟とかいう存在の言っていた。〝要〟があるからホロウたちは真似をしているのにオリジナルよりも強いのだと。それは〝要〟が無ければホロウたちは弱体化するのと同じだ。
〝要〟の正体までは分かっていないと言っていたが、それらしき物があるなら壊すに越したことは無い。ホロウたちが弱るのなら躊躇う理由も無い。
だからあの宝石を壊そうと〝冥犬の牙〟を握り直す。本来ならサブである片手剣ではなくてメインの刀である〝妖刀・村正〟を使いたいのだが、これはクリスマスプレゼントにみんなから渡された思い入れのある武器なので使いたく無いと思っている。
宝石を壊そうと泉の淵まで近づいた時に、前方から殺意を感じ取って大きく飛び退く。また壁からモンスターが産まれるのかと思えば、殺意の出所は前にある泉から。この混沌とした泉の中に何か潜っていて、俺に気が付いたのかと考えて警戒する。
そして、
「壊したければこいつを倒せって事ね」
下半身に当たる部分は泉のあった場所に嵌っていてその場からは動けなさそうに見えるが元々が液体なので身体の伸縮は自在に行えるだろう。不定形で非生物という俺が苦手なジャンルのモンスターだった。
でも、それは即死が出来ないから苦手としているだけで倒せない訳では無い。一撃で殺さないのなら数を増やせば良いだけの話。幸いな事に〝ティアマト・ガーディアン〟がアクティブ状態になっているのに取り巻きのモンスターが湧いてくる気配は感じられない。
それは、この〝ティアマト・ガーディアン〟が取り巻きが必要ない程に強いと言っているのと同じ。
確認出来るHPゲージの数は十五本とか言う馬鹿げた数。フロアボスでもこんな本数は見た事ない。その上に俺が苦手としているジャンルのモンスター。客観的に見れば絶望的な状況だろう。実際に、〝ティアマト・ガーディアン〟を見ているとその強さを感じ取って身体が震えるのが分かる。
あぁーーー
あいも変わらず〝冥犬の牙〟には黒いモヤが纏わり付いている。だが頑丈になった、斬れ味が上がったというメリットばかりでデメリットは無いので特には気にしない。
「さぁ、
俺の言葉を理解しているのか、〝ティアマト・ガーディアン〟は鼓膜が破れそうになるほどの咆哮で返してくれた。
拗らせウェーブのダンジョンアタック。良い歳した大人が拗らせると本当に面倒臭い。しかも自己完結してるから余程の事がない限りは考えが変わらない上にアッパー系の薬キメて平常心を保っているという手遅れ感。
片手剣に黒いモヤみたいな物が纏わり付いているらしい。一体それはなんてシステムなのだろうか……