子供の頃、3歳か4歳だったか、俺はヒーローに憧れていた時期があった。
TVの中で怪人が暴れ回り、無力な人々が逃げ惑う事しか出来ないでいる。そんな時に、どこからともなく颯爽と現れて、怪人を倒すヒーローに憧れた。そんな人がいるんだって、幼かった俺は本気で信じていた。
まぁそんな憧憬は5歳頃には粉微塵に砕かれて、ヒーローを待つよりも自分で解決した方が早いと分かってしまった。
そして時間が経って、俺は紺野木綿季と朝田詩乃に出会った。片や家族全員が難病に侵されて、奇跡的に助かった女の子。片や強盗に巻き込まれ、母親を守る為に銃を手にした女の子。そんな彼女たちが成長し、俺の事を好きだと雰囲気と態度で表す様になった時に一つ決めた事がある。
俺は彼女たちのヒーローになろう。彼女たちが辛いとき、苦しいとき、悲しいときに駆けつけて、彼女たちを助けようと。
そう誓った訳だが、その誓いは間違っていた事を今知った。
〝ホロウ・ウェーブ〟に襲われていた2人に追いついた。彼女たちが窮地に陥っていた時にやって来た。はたから見ればとてもヒーローの様に見えるタイミングでの登場だった。
だが、現実はどうだろうか?
両足を斬り落とされて、麻痺状態になって涙目で動けないでいるユウキがいた。両足と右腕を斬り落とされて、犯す為に服を破り捨てられて泣いているシノンがいた。
子供の頃に憧れていたヒーローの様に現れて、2人を嘆き悲しませている。
2人に辛いと思わせた、苦しいと思わせた、悲しいと思わせた。その時点で手遅れだと今頃になって気付かされた。
今、俺は怒っている。2人をこんな目に合わせた〝ホロウ・ウェーブ〟に、そして2人がこうなる前に来れなかった自分自身に怒っている。感情のままに〝ホロウ・ウェーブ〟を八つ裂きにし、自分の心臓を抉り出したいと思うがそれとは反対に俺の中から熱が消え失せて、どうやって殺すのかという思考に埋め尽くされる。
「殺す前に聞いておく。なんでこんな事をした?」
今にも飛び出しそうな身体を精神で押さえ込み、僅かな理性でこんな事をした理由を尋ねる。〝ホロウ・ウェーブ〟の執着が俺に向いているのなら2人に手を出す理由は無いはずだ。その理由が分からなければまた2人がこいつに襲われるかもしれない。
「なんで?なんでかって?そりゃあ決まっているーーー
そう考えての問い掛けだったが、〝ホロウ・ウェーブ〟から返って来たのはよりにもよって最低な答えだった。
「俺はウェーブだ。ウェーブの側にはいつもその2人がいる。だから俺の側にその2人がいなくちゃいけないだろ?だからだよ、それ以外に理由がいるか?」
「ーーーあぁ、そうか」
身体を抑え込んでいた精神が仕事を放棄する。
「俺になりたいのならなれよ。こんな誓ったことも守れないクソ野郎なんぞくれてやる」
殺意が研ぎ澄まされる。怒気が怒気を超えて赫怒になり、熱が完全に消え失せる。
「
理性が制御を放棄した事で本能で身体が動き出す。〝ホロウ・ウェーブ〟の呼吸を奪い、合わせて意図的に乱すことで一点に集中する事を阻害しながら死角に潜り込んで首に刀を滑らせる。
正面から正々堂々と、不意を打った奇襲に〝ホロウ・ウェーブ〟は反応できずに首を斬られる。だが首に切り傷が着いただけで〝ホロウ・ウェーブ〟の首は繋がったままだった。
「
一撃必殺では殺せないと判断し、反応しようとした〝ホロウ・ウェーブ〟の反応速度を上回って股間を蹴り上げ、眼窩を刀の柄で殴り抜く。目というのは存外に硬い。殴り方を工夫すれば目の奥の骨を砕いて脳にダメージを与えられる程に。〝部位欠損耐性〟のお陰で失明することは無いがしばらくは使い物にはならないだろう
そして痛みで固まった〝ホロウ・ウェーブ〟の腕を掴んで伸ばし、膝で蹴り上げて関節を逆に曲げさせて砕く。感触が思っていたよりも硬かったが壊せない程でない。剣の間合いでは無いと片手剣を投げ捨てて殴りかかって来た拳を避けて掴み、同じ様に砕いてやる。〝部位欠損耐性〟があるので斬り落とすことは出来ないが、骨折させる事で使えなくする事が出来るのは攻略組での共通認識だ。〝部位破壊耐性〟でないのが悪い。
無事な眼窩に指を突っ込む。クチュリと眼球の潰れる感触が指に伝わるがそれに構うことなく力任せに〝ホロウ・ウェーブ〟を投げ捨てる。
〝ホロウ・ウェーブ〟が使っていた片手剣と刀を拾い上げて未だ宙を舞っている〝ホロウ・ウェーブ〟に向けて投擲。〝ホロウ・ウェーブ〟が壁に叩きつけられるのと同時に片手剣と刀は両肩の付け根に突き刺さり、磔にされた〝ホロウ・ウェーブ〟が出来上がる。
「なんだ……こんなのが
こんなのになりたいと〝ホロウ・ウェーブ〟は言っていたが、今のこいつの姿を見ていると怒りと同じくらいに呆れている。こんな者の為に2人は傷付き悲しみ苦しんで泣いたのかと。
喚く〝ホロウ・ウェーブ〟を無視し、麻痺状態のユウキに解除ポーションを飲ませてから抱き抱えてシノンのところに連れて行き、〝治癒結晶〟を握らせる。2人のHPはレッド手前のイエローだった。それにいつまでも欠損状態のまま放置したく無い。
「……ごめん」
ユウキを抱き抱える時、シノンに〝治癒結晶〟を握らせる時に触れて2人が震えていることに気がついた。2人を怖がらせてしまった。一から十まで
「ーーーさて、
磔から逃れようともがく〝ホロウ・ウェーブ〟の前に立ち、弱点を確認。急所自体はプレイヤーと変わらない。ただ部位の欠損が無く、即死しないだけの動けないプレイヤーなんて20レベル差があっても殺せる。
がら空きの首を断つ。邪魔な鎧を切り裂いて心臓を穿つ。引き抜かずに傷口に手を突っ込んで内臓を握り潰しながら掻き回す。手足は指先から丹念に砕く。砕いている最中に折れてしまうこともあるがそうなっても手間は惜しまずに。シノンを犯そうとしていたから股間は使い物にならない様に念入りに蹴り上げて踏んで磨り潰す。歯を砕いて遮るものを無くしてから剥がした爪を口に詰め込む。口が爪で一杯になったところで口と鼻を摘んで無理やり嚥下させる。耳の穴に投擲ナイフを根元まで強引に捩じ込む。鼻の穴にはそこら辺に置いていた瓦礫を入れる。そういえばと思い出してアイテムポーチから毒薬を取り出して蓋を開けた瓶ごと眼窩に挿入する。
そうして出来上がるのはグチャグチャのデコレーションがされた〝ホロウ・ウェーブ〟。口からは呻き声しか聞こえてこず、足元には失禁したのか尿と血液が混じり合った水溜りが出来上がっていた。
なんて不様なんだろう。なんて惨めなんだろう。だがこれが
だって、2人を泣かせてしまったのだから。
「ーーーハァイ、そこまでにしてくれる?」
出来上がった不恰好な
「うっわ、酷い状態になってるね〜しかもまだ生きてるって辺り殺意の高さが伺えるっていうか」
「何しに来た」
「
「させると思うか?」
殺すと決めた、だから殺す。それを邪魔するのなら誰であろうと殺す。
「ーーーだから私がいる」
〝ホロウ・ストレア〟を写していた視界の端に白い人影が入り込み、それを反射的に斬り捨てようとして防がれる。白い影の正体は鎧、防いだのは盾、となればこれが何なのかは簡単に察しが付く。
「〝ホロウ・ヒースクリフ〟か」
「いかにも」
密着したまま盾ごと〝ホロウ・ヒースクリフ〟を斬り捨てようとして流されて体勢を崩される。そして崩された体勢から〝ホロウ・ヒースクリフ〟の頭部に蹴りを見舞う。手応えはあった、だが生きていると判断してすくい上げる形で斬鉄剣を放ち、盾だけを斬り裂いた。
「……まさか本当に斬られるとはな」
「だから言ったでしょ?この人は凄いって」
「
「それは聞けないわ」
〝ホロウ・ヒースクリフ〟に注意が行った隙に〝ホロウ・ストレア〟に〝ホロウ・ウェーブ〟を回収されてしまった。〝ホロウ・ウェーブ〟を要求しても断られたので殺そうとした時、〝ホロウ・ストレア〟と〝ホロウ・ヒースクリフ〟の身体が上に持ち上げられた。視線を追った先にいたのは翼の生えたカメレオンの様なモンスター。二股に分かれた舌を器用に使い、〝ホロウ・ストレア〟と〝ホロウ・ヒースクリフ〟を引っ張りあげている。ジャンプしても届かない距離でホバリングしているので追いかける事は不可能だった。
「今日は帰らせてもらうわよ。それと一つだけ、今の貴方は私の好きな貴方じゃないわ」
意味有りげな言葉とも捨て台詞とも取れる様な発言を残し、〝ホロウ・ストレア〟はホロウたちと共に夜の帳に紛れて去って行った。
殺そうかなぁと思ったけど気がついたら拷問をしていた不思議。
部位欠損と部位破壊は別物の扱いで。欠損は斬り落としたり千切ったりで、破壊は骨折とかの身体に付いているけど使い物にならない状態と把握してくださいな。
感想か評価をくれると作者の殺る気はドンドン上がるよ!!