闘争こそ、我が日常也て   作:鎌鼬

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ホロウプレイヤー・3

 

 

「急な呼び出しか……何だろうね?」

 

「さぁ?何かあったんじゃないのかしら?」

 

 

夜の酒盛りで良い空気を吸っていた攻略組のメンバーを私たちの魅力で洗脳する事によって肉壁に仕立て上げようとしていたのだが、休憩中にウェーブがやって来て用事があると呼び出されたので断念して呼び出された転移門広場にユウキと一緒に向かっている。

 

 

ウェーブのこうした呼び出しはほとんど無いと言って良いほどに珍しい。いつもはその場で言うか、メッセージで伝えるのだから。月明かりと星明かりに照らされて幻想的な雰囲気を漂わせている転移門広場に呼び出されたので少し期待している自分がいる。きっとユウキもそうだろう。頭に生えているアホ毛がミョコミョコ動いている。

 

 

ウザいので引き千切る事にする。

 

 

「いったぁ!?何するのさ!?」

 

「ウザかったから千切ったわ」

 

「じゃあしょうがないなぁ……」

 

「許しちゃうのね……」

 

 

大袈裟に痛がった割にはユウキのHPゲージは1ドットも減っておらず、私のカーソルはグリーンのまま。正直にウザかったからと理由を伝えたらアッサリとユウキは怒りを納めてくれた。私が衝動的にやっといて何なのだがそれで良いのだろうか。

 

 

「ーーーよぉ、待たせたな」

 

 

とその時、建物の暗がりから現れたのは私たちを呼び出した張本人のウェーブだった。

 

 

「呼び出しておいて遅かったわね」

 

「酔っ払いに絡まれてな、ウザかったから鼻フックして酒樽に詰めておいた」

 

「ウェーブ、それはディアベルの芸風だからディアベル以外にやっちゃダメだよ?」

 

「誰がやったって同じだろうが」

 

 

余程絡まれた事がウザかったのか、ウェーブは苛立ち混じりの顔をしている。まぁ用事があるのに酔っ払いに絡まれれば苛立ってもおかしくないか。

 

 

「で、私たちを呼び出して何の用よ?あそこじゃ言えない事なの?」

 

「あぁ……流石にこれをあそこで言うのはダメだと思ってな」

 

「む、これはまさか……」

 

「黙りなさい」

 

 

この場の雰囲気とウェーブがそういう気配を出しているのを感じ取ったから余計な事を口にしようとしていたユウキを黙らせる。とはいえ私も中々期待している。リアルにいる時は年齢を理由にして逃げていた彼がまさかここでという期待を。まぁ最近は思うところがあったのか、矢鱈と()()()()()()見られることが多くなっていたから前倒しがあるなとは思っていたが。

 

 

約束破り?そんなものは私たちにとってはウェルカムだ。私たちは漣不知火(ウェーブ)の事を愛していて、彼から愛されたいと願っている。あのキチガイ一家に生まれた比較的常識人という事で未成年の私たちに手を出そうとしなかった。だからお義母様に頼んで房中術を学び、あくまで向こうから手を出させようとしていたのだ。その苦労が漸く報われるとなれば感慨深いものがある。

 

 

「ユウキ、シノン……」

 

 

ウェーブがゆっくりと近づいてくる。顔は恥ずかしさからか赤くなっていて、それでも真剣な表情を浮かべている。

 

 

「俺はお前たちの事が……」

 

 

一歩一歩を踏みしめる様に、それでも確実に近づいてくる。

 

 

「すーーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーユウキ(〝射撃:クィックドロウ〟)

 

「ーーー分かってるよ(〝OSS:キリエ・エレイソン〟)

 

「ギィーーーッ!?」

 

 

ウェーブが必殺圏内に入った瞬間に短弓を構えて喉と両目に矢を放ち、ユウキが対人戦目的で作った五連撃のOSSで五臓を穿ち斬り裂いた。私の矢は喉と両目を貫いたが、ユウキの剣は下に着込んでいた鎧にでも阻まれたのか金属音が聞こえたので致命傷にはならないだろう。それでも衝撃で弾き飛ばされて花壇に頭から突っ込む。目の前のウェーブから距離をとって短弓を構え、ユウキを前衛に置く。

 

 

普通ならば許されない行為、アルコールが入っていたとしても悪ふざけでは済まない攻撃をした事に微塵も躊躇いは無い。何故なら、

 

 

「ーーーあぁ……()()()()()()?完璧だと思ったんだがな」

 

 

喉と両目に刺さった矢を引き抜きながら立ち上がるウェーブの姿がその証拠だ。攻撃した事で出血は見られるが、目を潰した事で起こるはずの部位欠損が起きておらず両目に傷はない。無事な両眼で私たちの事を見下す様にネットリとした視線で見ていた。

 

 

「呼ばれた時からよ」

 

「同じく」

 

「マジかよ……参考までにどうしてバレたのか教えてもらっても良いか?」

 

 

ウェーブが呆れた様な動作をするのと同時にプレイヤーを表していたカーソルがモンスターを表すものに変わり、ウェーブのネームが〝ホロウ・ウェーブ〟に変わる。

 

 

そう、ウェーブだと思っていたのは〝ホロウ・ウェーブ〟だった。おそらく〝隠蔽〟でも使ってウェーブに偽装でもしていたのだろう。

 

 

それでも、私たちは始めっから気が付いていたが。

 

 

「彼はね、なんだかんだ言っても真面目な人なのよ」

 

「個人的な要件があるにしてもここが終わってからにするはずだしね。それと……」

 

「えぇ……」

 

「「恋する乙女を舐めるなよ(〝観察眼:恋する乙女〟)」」

 

 

宴会場で声を掛けられた時からウェーブが本人でない事になど気が付いていた。それでもホイホイ付いてきたのは私たちの大好きな漣不知火(ウェーブ)の真似をしているこいつが許せなかったからだ。

 

 

それでも、もしかしたらと期待していたのは事実だが。

 

 

「恋する乙女ねぇ……まぁ、()()()()()()()()()()()

 

 

自分から聞いておいて〝ホロウ・ウェーブ〟は至極興味なさそうにそういうと虚空から現れた片手剣と刀を握り、ウェーブと同じ構えないという構えを取る。

 

 

「俺がウェーブ()であるためにはお前たちが必要不可欠なんだよ。だから連れて行く。それだけの話だ」

 

 

その言葉で〝ホロウ・ウェーブ〟の関心はあくまでウェーブにあって、ただ何の関心も持たずに私たちを狙っている事が分かった。ウェーブから聞いていたが、本当に〝ホロウ・ウェーブ〟はウェーブである事に執着している様だった。私たちがウェーブの側にいるから、だから私たちを狙っているのだろう。

 

 

「気持ち悪いわね」

 

「下手なストーカーよりも終わってない?」

 

 

〝ホロウ・ウェーブ〟の在り方に酷い嫌悪感を覚えながら炸裂矢を五本放つ。三本は上半身を目掛けて、二本は足止めのつもりで〝ホロウ・ウェーブ〟の足元に目掛けて。

 

 

〝ホロウ・ウェーブ〟の強さはウェーブから聞いている。高レベルに高ステータス、欠点があるとすれば技術は過去の物だと言っていたがそれでも私たちにとっては欠点にならない。少数か単騎で相手をして勝てるのはホロウの元になった本人たちくらいだろう。つまり、私たちでは〝ホロウ・ウェーブ〟に勝てないのだ。

 

 

騒ぎを起こせば攻略組のプレイヤーたちが集まるだろうし、ウェーブも来るからそこで囲んで袋叩きにでもしようと思ったが、

 

 

「ふんッ」

 

 

その考えは前進しながら矢を避け、炸裂矢の爆発を背中で受け止めて加速した〝ホロウ・ウェーブ〟の姿を見て甘かったと思い知らされる。成る程、真似ているとはいえウェーブである事には変わりないらしい。回避行動に一切の無駄が無く、その上炸裂矢を躱わしながら前進するという恐怖心を無視した行動をアッサリとしてくれている。しかも不意打ちで視界を奪い、出来れば殺すつもりだったのに目が無事で生きているのを見る限り、〝部位欠損耐性〟と〝即死耐性〟はありそうだ。

 

 

高レベルで高ステータス、SAO内でトップクラスのプレイヤースキルに加えて〝部位欠損耐性〟と〝即死耐性〟持ちとかゲームバランスを無視したスペック過ぎる。

 

 

足を止めて、同じ視線で戦うのは不味いと考えて炸裂矢を自分の足元に撃ってジャンプ。爆発に乗って建物の上に逃げる。ユウキはパルクールの要領で壁の凹凸を利用して屋根の上に逃げて、〝ホロウ・ウェーブ〟が地面にいるのを確認して迷わずに逃げ出した。

 

 

まともにどころか何をやったとしても私たちだけで倒せる相手でないと分かった。だから攻略組のメンバーが、そして本物のウェーブが来るまでの時間を稼ごうと逃げを選んだ。

 

 

「逃がさねぇよ?」

 

 

追ってきた〝ホロウ・ウェーブ〟の足を鈍らせようと炸裂矢を放つが爆発は耐久値ですべて受け止められ、崩れる屋根の瓦礫を足場にしながら〝ホロウ・ウェーブ〟は真っ直ぐに私たちを追いかけている。これは本物のウェーブも普通に出来そうな事で、こんなところまで再現しなくて良いだろうと〝ホロウ・ウェーブ〟を作ったであろうカーディナルに呪詛を吐く。

 

 

敏捷値を上昇させるポーションを飲んでいるがそれでも〝ホロウ・ウェーブ〟の方が早いのか徐々に距離は詰められ、その上誘導されているのが攻略組がいない、人気の無い区画に追いやられて行くのが分かる。どうにかして軌道を修正したいがそれをするための僅かなロスで追いつかれそうだから出来ないでいた。

 

 

「ーーーほら、追いついたぞ?」

 

 

追いつかれたと判断してからの行動はほとんど反射的だった。炸裂矢では無い速度重視の為に作った軽量の矢を放ち、ユウキが射線を隠す為に〝ホロウ・ウェーブ〟の前に立ちはだかる。どれも最善手に思えるが〝ホロウ・ウェーブ〟を相手にするなら悪手に見えてしまう。

 

 

馬鹿げた反応速度を持つユウキならばウェーブを相手にしてもある程度は持ち堪えられる。しかし、逆に言えばある程度しか持ち堪えられないのだ。

 

 

立ちはだかるユウキを前にして〝ホロウ・ウェーブ〟は着ていたコートを脱ぎ、ユウキに目掛けて投げた。広がるコートによりユウキの視界が塞がれる。ウェーブが前に言っていた。見られてから反応されるのであるなら見られなければ良いじゃないと。そう言ってウェーブは着ていたコートを投げる事でユウキの視界を塞いで反応させない様にしていた。

 

 

前に一度やられたからか、ユウキは後ろに退いて見えないウェーブから距離を取ろうとしてバランスを崩した。足を滑らせたのでは無く、足を斬られたと分かったのはコートの陰に隠れる様に体勢を低くして片手剣を振り切っている〝ホロウ・ウェーブ〟の姿が見えたから。

 

 

前衛(ユウキ)がいなくなり、ウェーブの範囲内にいるのなら私の負けは決定事項だった。急所を狙った矢はすべて最小限の動きで躱され、ユウキと同じ様に足を斬られた上に右手を斬り落とされる。足という支えを無くした私たちは無様に屋根から転げ落ちて石畳に叩きつけられた。

 

 

部位欠損を治す為にアイテムポーチから〝治癒結晶〟を取り出そうとするが、〝ホロウ・ウェーブ〟の手によってアイテムポーチを剥ぎ取られてしまいそれは叶わなかった。

 

 

「手こずらせてくれたな。手間だったが、良い。俺はお前たちを許してやる。だって俺はウェーブだからな」

 

「……ハッ、可笑しなことを言うじゃない」

 

「ホント、モンスターなんて辞めてピエロにでもなったら?」

 

 

〝ホロウ・ウェーブ〟の発言が可笑しなことに本人は気づいていないだろう。ウェーブは確かに身内には優しくて甘くて寛容だ。それでも怒る時は怒るし、叱る時は叱る。それに態々自分(ウェーブ)だからという理由で許したりなんてしない。右手と両足を無くしている絶対絶命の状況だというのに、それが可笑しくて仕方がなかった。ユウキも似た様なことを考えたのか、両足を無くしているのに人を馬鹿にした様な笑みを浮かべている。

 

 

だが、それが〝ホロウ・ウェーブ〟は気に入らなかった様だ。不愉快そうに顔を歪めて、近くでうつ伏せに倒れていた私をひっくり返し、馬乗りになって()()()()()

 

 

「なっ!?」

 

「シノン!?」

 

「あぁもう良いや。連れて帰ってからヤろうと余ってたけどここでヤっちまおう。嬉しいよな?なんてたって、惚れてるウェーブ()に抱かれるんだからよ」

 

 

巫山戯るなと叫びたかったが私を黙らせる為か口を塞がれていてくぐもった声しか出す事が出来ない。無事な左手は膝で抑えられて動かす事が出来ない。

 

 

そうして私は抵抗が出来ず、防具も服も、下着も破り捨てられて〝ホロウ・ウェーブ〟に裸を晒すことになる。

 

 

死にたかった。漣不知火()以外の男に裸を見せる事が屈辱だった。漣不知火()以外の男に、漣不知火()を真似ているつもりになっているこいつに処女を捧げたく無い。

 

 

でも抵抗は出来ない。腕を使って寄ろうとしていたユウキは麻痺毒が塗られた投げナイフにより麻痺状態で動けない。人気の無い区画なので攻略組どころかNPCの助けも期待出来ない。

 

 

だから私に出来ることはたった一つだけ。心の中で必死に彼に、私たちが愛している彼に助けを求める事だけだった。

 

 

「ほら、なんか言いたい事あるか?」

 

「ーーー助け、て……不知火……」

 

 

余裕の現れなのか、口を抑えていた手が退けられて出たのは助けを求める言葉。〝ホロウ・ウェーブ〟(偽者)なんかでは無い、本物の彼に助けを希っていた。

 

 

「そこは大好き〜とか愛してる〜だろうが……お前本当にウェーブ()の事好きなのか?……まぁ、さっさとヤってしまうか」

 

「詩乃ぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!」

 

 

〝ホロウ・ウェーブ〟(気持ち悪い何か)が戯言をほざきながらズボンに手を伸ばす。

 

 

麻痺して動けないユウキの悲痛な叫び声が聞こえる。

 

 

涙が出る。愛していると言いながら、他の男に純潔を渡してしまう事が申し訳なくて。

 

 

ごめんなさいと心の中で唱え、視界に映る〝ホロウ・ウェーブ〟の顔を見ない様にと目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーねぇ」

 

 

その時、声が聞こえた。低く、とても小さく、それでいてよく通った声。それと同時に〝ホロウ・ウェーブ〟だけに冷たい怒気と鋭い殺意が向けられる。

 

 

だけど、その声を聞いて私は安心した。

 

 

あぁ、来てくれたんだ。

 

 

「ーーー何やってんの?」

 

「なーーー」

 

 

聞こえたのは二つの同じ声。前者は淡々と、後者は驚愕を孕んだ声をあげて、私の上から重みが消えた。

 

 

「ごめん、遅くなった」

 

「……ううん、遅くなんか無い。ちゃんと、貴方は来てくれた」

 

 

閉じていた目を開けばそこにいたのは〝ホロウ・ウェーブ〟と同じ顔で、だけど全くの別人。無表情ながらも今にも泣き出しそうな雰囲気の彼は謝罪をすると着ていたコートを脱ぎ、私に掛けてくれた。

 

 

「待っててくれ、すぐに終わらせる」

 

 

いつもの彼の雰囲気は欠片も無く、いつの日か現実で見た本気で怒っている時の雰囲気を漂わせながら彼は片手剣と刀を抜いて淡々と、だけど安心させる様にそう言った。

 

 

「お前、よくもやってくれたな?」

 

「ハッ!!俺がウェーブ()の女に手を出して何が悪い」

 

「あぁ()()()()()()()ーーー殺してやる」

 

 

仮装アバター(ウェーブ)としてでは無く漣不知火として、彼は極寒の怒気と絶対の殺意を纏いながら〝ホロウ・ウェーブ〟に向かって死刑宣告を言い放った。

 

 

 






ユウキチとシノノン、ウェーブに化けた〝ホロウ・ウェーブ〟を看破する。恋する乙女を舐めたらあかん。

本当だったら誘いに乗ったフリをして人呼んでリンチするつもりでいたのだが、〝部位欠損耐性〟と〝即死耐性〟とかいうどこかの誰かを意識した耐性をつけた〝ホロウ・ウェーブ〟に追い詰められる。小物臭がするとか言われてるけどウェーブの技術プラス高レベル高ステータス持ちなんで弱い筈がない。

そして窮地に駆け付けるウェーブ。これはまさしくヒーローですわ。


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