闘争こそ、我が日常也て   作:鎌鼬

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ハーフポイント・8

 

 

五十層のフィールドの端、鬱蒼とした森の中を歩くのは〝ホロウ・ストレア〟。片腕を無くして血を流し、片手で〝ホロウ・ウェーブ〟と〝ホロウ・PoH〟の生首を掴んで鼻歌交じりで上機嫌に歩いている。

 

 

五十層は主街区の〝アルゲート〟以外はモンスターに支配されていて、それはこの森の中でも変わりはない。少し気配を詳しく探ればそこらかしこにモンスターの気配は感じられる。だが、モンスターは〝ホロウ・ストレア〟の前に出ようとしなかった。片腕を無くして見るからに格好の獲物に見える〝ホロウ・ストレア〟を察知して怯えるように影に隠れてしまっている。

 

 

それは何故か?答えは一つしかない。〝ホロウ・ストレア〟が()()()()()。例え片腕を無くしていても勝てないと思わせるほどの強者であるからモンスターたちは〝ホロウ・ストレア〟に手を出さないし、機嫌を損ねるようなことをしない。そんなことをすれば自分たちが殺されると分かっているから。

 

 

弱肉強食という力こそ全ての野生の掟がそこにはあった。

 

 

そして上機嫌のまま歩いて〝ホロウ・ストレア〟が辿り着いた先は森の奥にある泉。だが泉に溜まっている液体は水などでは無くて混沌とした液状の何か。噎せ返るような生臭さが一帯に立ち込めていて、ここに居るだけで精神を汚染されそうな冒涜的な雰囲気を漂わせていた。

 

 

「ーーーんお?」

 

「ーーー帰って来たか」

 

 

そんな泉の側で寝転がっていた者と岩に腰を下ろして剣を見ていた者が〝ホロウ・ストレア〟に気がつく。寝転がっていた者は黒いコートに二本の片手剣を脇に置き、剣を見ていた者は騎士のような装いの防具と盾を持っていた。

 

 

「やっほー〝ホロウ・キリト〟に〝ホロウ・ヒースクリフ〟」

 

 

〝ホロウ・ストレア〟は前者を〝ホロウ・キリト〟と、後者を〝ホロウ・ヒースクリフ〟と呼んだ。その言葉通りに2人の顔はプレイヤーのキリトとヒースクリフと全く同じ。そして〝ホロウ・ストレア〟と同じようにモンスターの扱いになっていた。

 

 

「なんだよ、偉そうなことを言ってた割には負けて帰って来たんだな?」

 

「今の2人は死んでいる、何を言っても聞こえないと思うが?」

 

「だからちょっと退いてて。()()()()()()()()

 

 

〝ホロウ・キリト〟と〝ホロウ・ヒースクリフ〟を泉の側から退かし、〝ホロウ・ストレア〟は持っていた〝ホロウ・ウェーブ〟と〝ホロウ・PoH〟の生首を混沌の泉にへと投げ込んだ。ドプリと粘着質な音を立てながら2人の首は着水、そしてそれに反応して泉が沸騰したかのように沸き立つ。

 

 

五分もすれば泉の沸騰は終わり、泉の淵を掴んで〝ホロウ・ウェーブ〟と〝ホロウ・PoH〟が五体満足の姿で這い上がって来た。

 

 

「あ〜死んだ死んだ!!」

 

「Fuck!!」

 

「どんな気持ちどんな気持ち?自信満々に出て行った割にはあっさりと負けてどんな気持ち?」

 

「だらしの無い事だ」

 

「黙れよ女顔に老け顔……!!」

 

「HA!!玉無しに不能が!!」

 

「よし、その喧嘩買ったぞ!!」

 

「全てを封殺してやろう……」

 

「やってみろやぁ!!」

 

「Kill you!!」

 

 

〝ホロウ・キリト〟と〝ホロウ・ヒースクリフ〟の煽りに負けて〝ホロウ・ウェーブ〟と〝ホロウ・PoH〟は武器を抜いて2人に襲い掛かる。そして予定調和のように自然な流れで4人の殺し合いが始まり、〝ホロウ・ストレア〟はそれに干渉する事なく空いた手で傷口をそっと撫でる。

 

 

「痛かったぁ……フフッ、とても痛かったわよ……」

 

 

恍惚に妖艶に、そしてどこか子供のような喜びを含んだ顔で〝ホロウ・ストレア〟は〝ホロウ・ウェーブ〟では無いウェーブ本人から与えられた傷を愛おしそうに撫でていた。

 

 

見ての通り、〝ホロウ・ストレア〟はウェーブに対して特別な感情を抱いている。彼女はウェーブのことを五十層に来る前から、それこそカーディナルがウェーブのことを観測対象と決めた時から知っていた。その時のウェーブの認識は単なる4人いる観測対象の内の1人に過ぎなかったが、1年間ウェーブの事を観測し続けた結果それ以上の感情を持ってしまった。それに気が付いたカーディナルにより、とある条件を持ちかけられて彼女はモンスターとしてアインクラッドに派遣されたのだ。

 

 

1年もの間ウェーブを観測し続け、近付きたいのに近づけないという状況にあるのことで〝ホロウ・ストレア〟はマトモではない思考に目覚めてしまった。彼から与えられた物が全て愛おしい。この傷も、棘だらけの言葉も、敵対心も、殺意も何もかもがまるで甘露の様に彼女には感じられていた。

 

 

無論〝ホロウ・ストレア〟の感情の向き先はプレイヤーのウェーブだけであって側で殺し合いを始めている〝ホロウ・ウェーブ〟などでは無い。二ヶ月前に〝ホロウ・ウェーブ〟と邂逅した時には落胆し、今日本物のウェーブと出会った事で確信した。()()()()()()()()()()()()()()()。事実、レベルの差が離れているというのに〝ホロウ・ウェーブ〟はウェーブに負けていた。それは〝ホロウ・PoH〟も同じで、きっと〝ホロウ・キリト〟と〝ホロウ・ヒースクリフ〟も同じ結果になると予想出来たが〝ホロウ・ストレア〟はその未来を口に出そうとは思わなかった。

 

 

何せ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。どんな結果になろうともカーディナルにとって利益しか生み出さないと分かっている。だから1年もの間ウェーブと触れ合えなかった腹いせに言わないことに決めた。

 

 

「あの時のウェーブの顔、可愛かったなぁ……」

 

 

殺し合いの音も聞こえなくなるほどに〝ホロウ・ストレア〟は今日のウェーブとの邂逅を思い出すことに没頭していた。例えマトモでは無い思考に目覚めてしまったとしても、〝ホロウ・ストレア〟がウェーブに抱いた感情は間違いでは無いのだからそれは自然な事だと言える。

 

 

〝ホロウ・ストレア〟という皮を被せられたAIの正体はMHCP–◾️◾️◾️。AIが人間に恋をするという事自体が異常な事だと気がつかぬままに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーウォッ!?なんか寒気が……」

 

 

そして〝ホロウ・ストレア〟がウェーブとの邂逅を思い出し、腕の傷を愛おしそうに撫でている時、〝アルゲート〟で酒を飲んでいたウェーブは突然寒気に襲われるのであった。

 

 

 






〝ホロウ・ストレア〟ちゃんは超一途。思考は危ないけど〝ホロウ・ウェーブ〟ガン無視でウェーブの事を想ってる。でも思考が危ない。

でもどうしてだろうか……〝ホロウ・ストレア〟ちゃんがユウキチやシノノンよりもヒロインしている様に見えてきたぞ(困惑


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