落ちて来た竜の体長は目測で5メートル程度。竜タイプのモンスターは割と大型が多い上に二十五層で〝ザ・ファフニール〟を見ているので大抵の竜は小型認定されてしまう。娼館を押し潰して着地した竜の背中には二つの人影があった。
一つは俺と同じ真紅のコートを羽織り、一つはPoHと同じ様にフードを被って顔を隠している。
「見つけたぁーーーッ!!」
「Kill youーーーッ!!」
そしてその二つの人影は俺とPoHを見つけると殺意を振り撒きながら飛び掛かってきた。コートの方は俺と同じ様に片手剣と刀の二刀流で、そしてフードの方はPoHと同じ肉切り包丁の様な短剣を抜いている。
「HA!!ご指名らしいぜ?」
「ストレアは竜の方頼む」
「あいさ〜」
建物を壊しながら街の中心に向かおうとしている竜をストレアに任せて俺はコートの方を、PoHはフードの方を相手にする。
そして近づいてくるコートの人物の顔を見て、
「お前は誰だ?」
「俺は
振るわれた片手剣と刀を〝冥犬の牙〟で受け止めて、
そして、こいつは俺と同じ姿でありながら
「
こいつがどういう存在なのかはまったく理解が及ばない。しかしこいつのネームは〝ホロウ・ウェーブ〟で、振るわれる片手剣と刀の太刀筋が俺の太刀筋とまったく同じなところを見ると俺と関係があることが分かる。姿を真似て格好を似せ、その上で太刀筋まで同じとなれば真似をされた事に対して怒りが湧くどころか不快感しか出てこない。
気持ち悪い。俺を目指して俺を真似て、そして
仮にも俺を目指すのなら、俺を真似るのなら全てを真似てみせろと言いたい。外見や剣技だけではなくて内面的な部分も真似なければも真似ていないのに俺を名乗るとか不快だ。何せこいつが振るう太刀筋は二ヶ月前の俺の太刀筋だ。丁度キリトが荒れていた頃なので良く覚えている。こいつがその時の太刀筋を真似ているとしたらその完成度には感心するが、そこで完結してしまっているのだ。真似る事に執着していて、それより先に進もうとしていない。先を目指して飢えているのでは無くて、その場で満足してしまっている。
あぁ気持ち悪い。こんなのが俺を名乗ることが、先を目指さずに止まっている姿が気持ち悪い。
だから殺す。
「何で……!!何で当たらない……!!」
「俺の太刀筋だぞ?
〝ホロウ・ウェーブ〟が 振るう太刀筋は俺が振るっていた太刀筋だ。俺が使っていた太刀筋だから、それを一番理解しているのは俺をおいて他ならない。いかにステータスが〝ホロウ・ウェーブ〟の方が高かろうとどういう風に振るうか分かっているのなら避ける事は造作も無い。目を瞑っていても避けられる。
右と左でバラバラに動き、急所を狙ってくる片手剣と刀の軌道を予想しながら思い出し、ミリ単位で躱す。俺よりも高いステータスで振るわれているという事だけあって速度は二ヶ月前に振るっていた時よりも遥かに速い。眼前スレスレを通り過ぎる刀の空を切る音を聞くだけでそれが分かる。
だが速いだけの剣など当たるはずが無い。いかに速くとも軌道が読めているのなら幾らでも避けられる。二ヶ月前のキリトはこの時の俺に剣を当てていた。つまりこいつは二ヶ月前のキリト以下という事になる。
そもそもこいつは一撃必殺を狙い過ぎている。急所狙いなのは俺と同じだが、一撃で仕留めなければならないという意思が先走り過ぎてそれ以外を狙うという思考を持っていない。
「はぁ……
技術的には俺が上だがステータス上の数値を見れば〝ホロウ・ウェーブ〟の方が圧倒的に上だろう。故に、母さんから教わり俺が元から持っていた才能でこいつを殺すと決めた。
袖口に隠していた短剣を取り出して体勢をわざとに崩し、〝ホロウ・ウェーブ〟の足の甲を串刺しにする。刃の根元まで深々と地面に突き刺さった短剣はちょっとやそっとでは抜けやしない。痛みで顔を顰めているが俺が体勢を崩した事を好機と見たのか〝ホロウ・ウェーブ〟は嬉々として片手剣と刀を振り下ろし、
「
下から上に向かって力任せに野球のスイングの様に振るわれた俺の一閃にて
手にしていた片手剣と刀が両断された事に固まっている〝ホロウ・ウェーブ〟。その顔が間抜けで可笑しくって、俺の顔でそんな間抜けな顔をしていることが許せないので侮辱しながら殺す事に決めた。
「
下に何か着込んでいるかもしれないから念のために斬鉄で、両断された事で硬直している隙をついて短剣で縫い止められていない足を股関節の付け根から斬り落とした。
「
短剣で縫い止められている方の足を膝から斬り落とした。
「
足が無くなったことで宙を浮いている〝ホロウ・ウェーブ〟の下腹を斬り落とした。
「
右腕を肘から斬り落とし、返す刀で左腕を肩から斬り落とし、仰向けのまま落下している不出来なダルマになった〝ホロウ・ウェーブ〟の心臓に〝冥犬の牙〟を突き立てた。そうして出来上がったのは下腹から下と両手を失って地面に虫の標本の様に磔にされている〝ホロウ・ウェーブ〟。
「がぁ、アァァァァァァァァァァッ!!!」
下腹から下と両手を失い、心臓を貫かれているというのに〝ホロウ・ウェーブ〟は死ぬ気配を見せない。確認出来たのが名前だけでHPゲージが見えないところを察するに俺と〝ホロウ・ウェーブ〟のレベル差は少なく見積もっても20以上離れていると推測出来る。
だから死なない。部位欠損を起こそうともレベルの差があり過ぎてダメージがそう発生しないから。
だから死ねない。四肢を失い、不様に虫の標本のように磔にされながらもレベルの差があり過ぎる故にHPが削り切られないから。
レベルが高過ぎる故に死ねないという、レベルによって強弱が決められるMMO故の処刑だ。
心臓を貫いた〝冥犬の牙〟がそのまま突き刺さっている事で継続ダメージが発生している。徐々に削られるHPを見ながら不様に踠き、苦しみ、己の無力を実感しながら死んで欲しいと思い、キリト相手に一度やってみた方法である。
〝ホロウ・ウェーブ〟を完全に無力化したのでおそらく〝ホロウ・PoH〟と思われるモンスターと戦っているはずのPoHの方を見れば……PoHはPoHで〝ホロウ・PoH〟を生きたまま解体するという遊びをしていた。
両手足を麻痺毒でも塗ってあると思われる投擲用の短剣で地面に縫い止めて、抵抗が出来ないのをいい事に持っていた肉切り包丁の様な短剣で〝ホロウ・PoH〟を末端から皮を剥ぎ、肉を削ぎ、骨だけにするという拷問じみた解体を見せ付けている。時折〝ホロウ・PoH〟の口にポーションを突っ込んでいるのは死なない様にする為だろう。
そこまでする事にPoHの異常性を感じるが、良く良く考えてみれば俺も過去に〝ラフィンコフィン〟相手に似た様な拷問をしていた事があるので普通だと結論を出す。
「さて、コレはどうしたものか」
惨めに踠きながら磔から抜け出そうとしている〝ホロウ・ウェーブ〟を見下す。こいつらを殺すことは確定事項だが、出来ることなら情報を出来るだけ引き摺り出してから殺したい。何か目的があって俺たちを狙ったことは言動から明らか、それにネームから他にもホロウという名の付いた偽者が存在してもおかしくない。
最低限目的だけでも聞き出せれば良いかと考えながらアイテムポーチからポーションを取り出し、PoHの真似をしようとして、
頭上から大剣が落ちてきた。
ホロウ・ウェーブとホロウ・PoHの来襲。彼らモンスター扱いで、それぞれウェーブとPoHを狙って襲ってきました。なお返り討ちにあった模様。レベル差があって瞬殺は出来ないけど封殺は出来るとかいう頭がおかしいところを見せつけてくれました。
でも何が一番おかしいって格上殺しが天賦の才とかいうキチ波だと思うの。
ホロウと名前は付いているけどホロウ・フラスメントのホロウプレイヤーとは違ってプレイヤーのIDを参照していない上に作られた経緯からAIなんだけどモンスターという扱いです。突っ込みは無しだよ!!(フリ