闘争こそ、我が日常也て   作:鎌鼬

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ハーフポイント・3

 

 

五十層主街区〝アルゲート〟は一言で言えば混沌とした街だった。細い道に混雑に建てられた建築物で、迷路の様になっている。無意味にこうなったとしたらアホとしか思えないのだが、これは考えて建てられた結果こうした街になったのだろう。迷路の様な作りにする事で侵入して来た外敵の進行を遅らせ、その間に避難をする為に。

 

 

フィールドで群がっていたモンスターを片付けると門が開き、妙に畏まった態度のNPCに迎えられ、〝アルゲート〟の指導者が俺たちに会いたがっていると伝えられた。その申し出はこちらとしても嬉しい。今の俺たちに必要なのは情報だ。何があったのか、どういう戦況なのか理解しないと攻略組のプレイヤーでもあっさりと蹂躙されかねない恐怖が五十層にはある。俺が殺した指揮官的なゴリラも、強さ的にはネームドボスクラスだった。つまり、敵側はネームドボスクラスをモンスターを指揮官に置いておける程の余裕がある事になる。

 

 

離れていたシノンたちと合流し、NPCに案内されて辿り着いたのは街の中心部に建てられた豪邸。その一室の執務室と思われる部屋では、質素ながらに高級感を醸し出している衣服に身を包んだNPCの男性が他方から告げられる報告を受けていた。

 

 

「倉庫がいっぱいになっていると報告が!!」

 

「ならば新たに空いている建物を探して倉庫にしろ!!武器は幾らあっても物足りないからな!!職人たちにも生産の手を休めるなと伝えろ!!」

 

「こちらが物価の報告です!!」

 

「ふむ、やはり野菜が高騰しているが反対に肉は下落しているか……配給制も考えないとならないな」

 

「新兵の訓練が完了しました!!」

 

「良し、ならば明日から戦線に出せ!!油断させるなよ?新たに用意するだけの余裕はないのだからな!!」

 

「武器職人と防具職人から材料が足りないと苦情が!!」

 

「破損した武器と倒した魔獣の死体でも叩きつけておけ!!」

 

「南部と北部の城壁に破損が確認出来ました!!」

 

「職人たちに直させろ!!早く直した方に対価とは別に報酬を用意すると伝えてな!!」

 

「子供たちより感謝の手紙が贈られました!!」

 

「ほう……あとで返事を書くから書類とは別に分けておけ!!」

 

「新作の武器の試作品が届いています!!」

 

「どれどれ……ふむ、従来よりも軽くて頑丈そうだが量産は難しそうだな……隊長クラスの兵と、武勇に優れた者に優先して渡せ!!」

 

 

受け答えしているNPCはそれなりの立場にいる人物なのだろうが報告しているNPCは礼儀を最低限にして報告することを優先している。だがそれは仕方ない事だろう。そうでもしないと回らないのなら、そうするしかないのだから。

 

 

そうして常人なら3日も続ければ過労死しかねない様なブラックな職場を見させられ、ようやく時間が取れたのは呼び出されてから二時間も後のことだった。

 

 

「待たせた、お前たちが報告にあった異邦人だな?俺はアルジェント、この〝アルゲート〟の指導者だが……一つだけ聞きたい、お前たちは守護獣を倒して上に行きたいんだよな?」

 

 

異邦人というのはプレイヤーの、そして守護獣はフロアボスのNPCからの呼び方だ。流石にNPCがプレイヤーやフロアボスというと世界観が崩れてる。

 

 

「そうなのだが……この状況ではな」

 

 

代表して返事をしたのはヒースクリフ。確かに俺たちの目的はフロアボスを倒して上の階層に行くことだが、今の状況ではまともに探索する事が出来ない。少なくとも、状況が落ち着くまでは。

 

 

「そうか……だが残念な知らせがある。ここには他みたいに()()()()()()()()()()

 

「何……?」

 

 

天柱の塔は異邦人や守護獣と同じ迷宮区のNPCの呼び方だ。呼び方としては正しい気がするが、そんなことよりも凄いことを言ってた気がする。

 

 

「えっと……つまりはどういうこと?」

 

「迷宮区が無いってことはこれまで通りにダンジョンアタックしてフロアボスを倒す事が出来ないって事だよ」

 

「ホント何なのよこの階層は……」

 

「じゃあどうしたらいいのかしら?」

 

「イベントで迷宮区が出現するか……それともフィールドのどこかにいるフロアボスを倒せって事じゃ無いのか?」

 

 

いくら五十層だからと言っても殺意が高すぎる様に思える。迷宮区にいるはずのフロアボスがどこにいるのか分からない。下手をすればフィールドを歩いていたらフロアボスと遭遇しましたなんてこともあり得る。

 

 

「そこで取引だ、手を貸してくれ。そうしてくれたらこちらも手を貸す」

 

「ふむ……分かった、協力しよう」

 

 

アルジェントの要求をヒースクリフは即答した。主街区の存在は俺たちにとっても生命線であるし、元々ここで住むNPCだから様々な情報を知っている。その代償に手を貸さなければならないが、そうしないとこの階層を攻略することは難しいだろう。

 

 

「感謝する。済まないが、詳しいことは秘書から聞いてくれ」

 

 

それだけ言ってアルジェントは再び報告に耳を傾けた。側から見ても分かる程のブラックな職場だなと思う。俺がここに就職したら真っ先に逃げ出すだろう。

 

 

これ以上ここにいても何も得るものは無いと考えて、俺たちは執務室から出ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー来た、来たぞ。奴らが来た。

 

 

〝アルゲート〟から遠く離れたフィールドの片隅で、魔獣の群れに囲まれながら歓喜している人影が四つあった。

 

 

彼らが喜んでいるのは自らの存在意義の到来。それを倒すため、それを越えるために彼らは生み出された。

 

 

しかし彼らの目的はそれだけでは無い。生み出されてから時間が経ったことで生み出した存在の知りもしない目的を彼らは持っていた。

 

 

ーーー倒してやろう、望まれた通りに。超えてやろう、望まれた通りに。故に、終わったのならば我らの好きにやらせてもらおう。

 

 

四つの影の影の一つはコートを翻し、一つは剣と盾を握り、一つは二本の片手剣を携え、一つはフードから覗く口元を歪ませている。

 

 

目的を果たす、その瞬間が間近に迫っているのだ。心が踊らぬ訳がない。

 

 

ーーーIt's show time.

 

 

フードから覗く口から、楽しげな流暢な英語が溢れた。

 

 

 






悲報、五十層に迷宮区は存在しないらしい。

そして最後の四つの影……最後の流暢な英語を話したのは一体誰なんだ……


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