学戦都市アスタリスク……星辰力……星辰光……英雄がヴェンデッタ……うっ、頭が
「……寝すぎた」
朝をとうの昔に過ぎ去って昼間としか言えない時間帯になって目を覚ます。横になっていたソファーから身体を起こして周りを見れば酒瓶が散乱し、寄せて引っ付けた二つのベッドの上ではユウキとシノンとストレアが掛け布団を跳ね除けてミニスカサンタの姿のままで眠っている。3人共ミニスカサンタ衣装を着ているのに中途半端に着崩れして事後を思わせる格好になっているので妙にエロさを感じる。その姿を見て湧き上がりそうになった獣欲を捩じ伏せ、掛け布団を掛けて中身の入っていた瓶に口をつける。
「あ゛〜……頭イテェ……」
SAOに入って初めての二日酔いに頭を抑える。頭痛に苛まれながらも昨日あったことを思い出す。300人程の中層ギルドの集団を相手に無双して、カーソルがオレンジになったので酔い潰れて眠っていた3人を連れてそのままのテンションで贖罪クエストを即効でクリアして、それで終わらせてから四十九層に戻って宿屋を借りた。間違いは起きていない、完全に事後に見える格好の3人だったが間違いは犯していない……はずだ。
「さて、キリトはどうなったかね」
呼吸を整えてある程度頭痛を緩和させたところで思うのはイベントボスを1人で倒し、生き返らせたいプレイヤーを生き返らせることが出来ない事実を突き付けられたキリトの事だった。蘇生アイテムで蘇らせるという目的を失ったキリトは下手をすれば自殺しかねない。一応警告はしたのでするとは思えないが自殺じみた行動を取ることも考えられる。今ここでキリトを死なせるわけにいかないので、そうならないように俺が取れる手段は限られてくる。
一つは洗脳的な手段でキリトの精神を弄ってしまう事。やれなくは無いし、出来なくは無いが俺がやりたく無いと考えているので却下する。
一つは代わりになる様な者を用意する事。今回のキリトの行動は〝月夜の黒猫団〟というギルドを死なせてしまった事から始まっている。それならばそのギルドの代わりになる様な存在の人間を用意してやれば良い。候補としてはアスナが良いだろう。クラインやユイもいるのだがクラインは良くて兄貴分、ユイは妹分でしか無い。だがアスナならばそれ以上の、男女の関係になることが出来る。そういう存在が出来ればそれが楔になり、そうやすやすと死ぬ事を考えなくなるだろう。それにキリアス推奨派の俺からすればそうなれば万々歳だ。
手っ取り早くキリトとアスナをくっ付けるためにはどうしたら良いかを考えていると、電子音がなってメッセージを知らせる。ウインドウを開いて確認すれば、それはキリトからのメッセージだった。
内容は簡潔に、起きていたら四十九層の転移門広場に来て欲しいというもの。それに了解の返事を出して、未だに気持ちよさそうに眠っている3人を起こさぬ様に気をつけながら部屋から出た。
12月になって天候操作がされているのか、外は寒い上に5センチ程の雪が積もっていた。雪が積もっていることに少しワクワクする反面、足跡が残ったり足を取られたりして戦い辛いなと考えながら転移門広場に向かうとそこにはNPCとプレイヤーが点々としていて、キリトは転移門も近くに立っていた。
「よう」
「来たか」
片手を上げながら挨拶をすると、キリトは昨日までの焦燥を感じさせない落ち着いた雰囲気で出迎えてくれた。昨日の別れ際の時の事を考えるとまだ荒れていてもおかしく無いと思っていたのだが……一晩でキリトを変える何かがあったらしい。
「もう良いのか?」
「……あぁ。今日の朝に黒猫団のみんなから時限起動アイテムが送られてさ、みんなありがとうって、生きてこのゲームを終わらせてくれってさ……」
「そうか……」
アイテムポーチからタバコを出して火を着ける。〝月夜の黒猫団〟がどんな思いを込めてキリトへアイテムを送ったのか分からないが、少なくともキリトが良い方向へと変わった事は確かだ。考えて見れば至極当然のことかもしれない。キリトがあぁなった理由が〝月夜の黒猫団〟の事だとしたら、そんなキリトを救えるのも〝月夜の黒猫団〟しか居ないのだから。
ともあれ、これでキリトの心配はしなくても良いだろう。だがキリアスはいずれ実現させる。
「んで、呼んだのはそれだけか?」
「約束しただろ?俺が生きて帰って来たら写真集捨てるって。捨てろよ……いや、俺に寄越せ。処分するから」
「チッ、覚えていやがったか」
有耶無耶になって忘れてくれれば良いものをキリトは目敏く覚えていたらしい。アイテムボックスから〝キリトちゃん写真集〜私、こんなの初めて……〜〟を取り出してキリトに渡す。それをキリトはアイテムボックスにしまい、俺が持っている本を見て硬直していた。
「……おい、ウェーブ。それはなんだ?」
「〝キリトちゃん写真集そのにっ〜ぷりーずるっくみー〜〟」
〝キリトちゃん写真集〜私、こんなの初めて……〟の続編に当たる写真集を適当なページを開いて中身を見せてやる。
「……なぁ、素直にそれを捨てるのと痛めつけられてから奪われるのどっちが良い?」
「キリトを倒して写真集を保持しつつ、新たな一ページを増やす事を選ばせてもらう……!!」
キリトから飛ばされた〝
「ーーーで、ウェーブが勝ってああなったと」
「イエス」
「アスナぁ……ユイぃ……こんな俺を見ないでくれぇ……!!」
夜になって行われたクリスマスパーティーで、シノンが注いでくれた酒を空になったグラスで受け取りながらミニスカサンタ姿になっているキリトを見下す。〝
「大丈夫よキリトちゃん、似合っているわ!!」
「お姉ちゃんキレイです!!」
「ゴハッ!!」
「キー坊の女装姿カ……売れるナ」
「止めとけ止めとけ。良いか?弱みってのは秘密だから弱みになるんだよ。そして弱みを元にして新しい弱みを作る、それが正しい使い方ってやつだ」
「うーんこの畜生っぷり」
アスナとユイに褒められて吐血するキリトを見て、この女装は売れると判断したアルゴを諌めているとユウキから畜生判定が下されてしまった。ただ弱みを握り、それをネタにして新たな弱みを作ろうとしていただけなのに畜生判定されるとは……解せぬ。
クリスマスパーティーに参加しているのはトナカイコスの俺、ミニスカサンタコスのユウキ、ミニスカサンタコスのシノン、ミニスカサンタコスのストレア、私服のアルゴ、ミニスカサンタコスのキリトちゃん、私服のアスナ、そしてミニスカサンタコスのユイだ。シュピーゲルは出会い求めてくるって昨日から出かけて帰って来ていないし、ノーチラスとユナはクリスマスデートをしてくると言っていたので多分明日まで帰ってこないだろう。PoHは俺から奪った酒を楽しんでいるに違いない。
というかミニスカサンタコスが多すぎて私服姿のアルゴとアスナが浮かんでいるという謎現象が起きてしまっている。
「料理とお酒の追加持って来たよ〜!!」
「待ってました!!」
「久しぶりに理性が吹っ飛ぶまで飲んでやるわよ」
「オレっちは程々にさせてもらおうかナ」
「ほらキリトちゃん、これでも飲んで元気出して。あ、ユイちゃんはジュースね?」
「アスナお姉ちゃんありがとう!!」
「アスナぁ……俺は、男なんだよぉ……!!」
「呵々ッ、良い具合にカオスになって来たな。主にキリトが」
格好のせいもあるかもしれないが今のキリトは完全に美少女にしか見えない。涙目でいるからサディスト趣味にとっては非常に唆る対象になるだろう。
「Merry Christmas」
五十層を目前にしてこの緊張感の無さを中層プレイヤーが見たら真面目にやれと怒鳴り散らすかもしれない。巫山戯ているようにしか見えないこの光景が、俺はいつまでも続いて欲しいと願っている。
だからメリークリスマスと、今の瞬間を心から楽しんでいる彼らに対して祝福を送った。
「ところでさ、シノンが注いでくれた酒飲んでから身体が暑いんだけど一服盛った?」
「フッフッフッ……ウェーブが飲んだお酒にはシノン特製の媚薬が入っていたのさ!!」
「ちなみに私たちも服用済みよ。だから身体が物凄く火照っているわ」
「貴様らァッ!!」
こうしてキリトはウェーブにミニスカサンタコスという弱みを握られながらも立ち直るのであった。救われているようで救いがないように見えて、やっぱり救われているので問題無い。
〝キリトちゃん写真集そのにっ〜ぷりーずるっくみー〜〟とかいうホモ大歓喜の一冊。ぷりちーできゅーとなキリトちゃんが写っているらしい。閃光様には当然の事のように進呈済み。
媚薬を盛られたウェーブは媚薬を飲んで発情しているユウキチとシノノンを普通に落として鎮圧し、事なきを得た模様。