闘争こそ、我が日常也て   作:鎌鼬

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クリスマスの鎮魂歌
ホロウクリスマス


 

 

12月21日、後10日もあれば今年が終わる今日。最前線は四十九層まで進められていて、フロアボスの攻略に挑んでいた。

 

 

「来るぞぉぉ!!!」

 

 

四十九層フロアボスは〝ザ・フェニックス〟という名前の通り、人が想像しているような、赤い体毛で全長の半分はある長い尾と頭の立派な王冠のような鶏冠が特徴的な不死鳥だった。サイズはおおよそ4〜5メートル程度で、これまで戦ってきたボスモンスターと比べればそこまで大きくは無い中型のボスモンスター。飛行能力、特殊攻撃である真空波と高めの攻撃力が厄介だが、ボスとしては物足りないような性能。

 

 

高く飛び上がった〝ザ・フェニックス〟が翼を大きく振るって真空波を飛ばして来るがそれは〝血盟騎士団〟のタンクプレイヤーが壁となって受け止めてくれるので脅威にはならない。

 

 

真空波を放ち終わった隙をついて、シノンが小ぶりの矢を矢継ぎ早に飛ばして翼を穿つ。飛行能力の要である翼を傷つけられたことで〝ザ・フェニックス〟は地面に落ちる。

 

 

「チャンス来たよぉ!!」

 

「行くぞ!!畜生ども!!」

 

「ブヒィッ!!」

 

「ワンワン!!」

 

「ニャァァァ!!」

 

「パォォォン!!」

 

「ここは動物園かよ!!」

 

 

起き上がるまでの僅かな間に〝ザ・フェニックス〟に殺到するのはボクを始めとした敏捷を高めに振っているプレイヤーたち。シノンによって落とされ始めた時から動き出し、墜落する直前からソードスキルを〝ザ・フェニックス〟の尻尾と鶏冠に放つ。狙うのは尻尾と鶏冠の部位欠損。だがそれよりも早くにHPが削れてしまい、先に〝ザ・フェニックス〟の二本しかなかったHPゲージがゼロになった。

 

 

「ごめん!!殺した!!」

 

「超ごめんね!!」

 

「すんません許してください!!何でもしますから!!」

 

「ん?今何でもって言った?」

 

 

HPがゼロになればボス戦は終了なのだが、ボクらはHPをゼロにしてしまった事を謝りつつコントじみたやりとりをしながら〝ザ・フェニックス〟から離れ、そこから立ち昇る火柱を回避する。ボス部屋の天井まで届き、離れてもチラチラと肌が焼けるような熱量の火柱が収まった後、そこにはHPを全回復して無傷の〝ザ・フェニックス〟が佇んでいた。

 

 

〝ザ・フェニックス〟はその名前の通りに不死鳥だ。例え殺したとしても超火力の火柱で自分の身体を焼き尽くして復活する。それは事前にアルゴの調査で分かっていたことだし、尻尾と鶏冠を壊してしまえば復活しないという対処方も聞いていたので脅威では無かった。

 

 

だが、予想していたよりも〝ザ・フェニックス〟は柔らかかった。部位欠損を狙おうとしても〝ザ・フェニックス〟の耐久が低すぎるせいで尻尾と鶏冠が壊れるかどうかのところで先にHPがゼロになってしまう。なら時間を掛けたらどうかと思うが、〝ザ・フェニックス〟は〝自動回復(リジェネ)〟を持っているらしく、飛んで逃げられている間に溜めたダメージがすべて回復してしまうのだ。

 

 

さっきのキルで実に六度目の失敗になる。

 

 

「あぁもう柔らか過ぎィ!!」

 

「楽っちゃ楽なんだけど流石に飽きて来るわね」

 

 

対処方が分かっているのに、それをする前に死んでしまう〝ザ・フェニックス〟に苛立ちを覚えながらシノンがいる最後列まで退がる。この場にウェーブかヒースクリフがいれば即瞬殺してくれたのだろうが残念な事に2人はこの場に居ない。

 

 

ウェーブは最近また活動してきた偽の〝ラフィンコフィン〟をハンティングしてくるとサムズアップしながら言って中層を虱潰しに徘徊しているし、ヒースクリフは自分が居なくてもフロアボスくらい倒せるようにならないといけないと言って参加して居ない。

 

 

アスナがタンクプレイヤーを足場にして飛んでいる〝ザ・フェニックス〟を〝体術〟のソードスキルで叩き落として再びソードスキル祭りが始まっているが、おそらく今回も失敗するだろう。

 

 

「なぁシノン、次のアタックは俺1人にやらせてくれないか?」

 

 

キリトが片手剣を研いでいた砥石を投げ捨てながらシノンに提案してくる。今回のような飛行能力を持つフロアボスの指揮官は大体飛び道具を持っているシノンが担当している。だからシノンに提案したのだろう。

 

 

「いけるの?」

 

「やる」

 

「分かったわ。みんな!!次のアタックはキリト1人に任せるわよ!!」

 

「あいよ!!」

 

「ブヒィィイ!!」

 

「踏んで下さい!!」

 

「シノン俺だぁ!!ズドンしてくれぇ!!」

 

「変態湧き過ぎィ!!」

 

 

まともな返しを1人しかしていない辺り、攻略組のメンバーも中々いかれていると思うが良く考えてみればいつもの事だった。何かに秀でた人間はどこかおかしくなるように出来ているのだろうか?

 

 

「3カウントで行くわよ……3、2、1」

 

 

確認する事なくシノンが復活して再び飛んでいる〝ザ・フェニックス〟に向って先程と同じように矢継ぎ早に矢を飛ばす。数えられた数はおおよそ四十、〝ザ・フェニックス〟もリボーンを繰り返して学習しているのか回避行動が目に見えて向上している。

 

 

そして、シノンはそれを踏まえた上で矢を放つ。三十九本は回避されることが前提で放ち、本命である一本で的確に翼を穿つ。矢が当たったのと同時にキリトは墜落する〝ザ・フェニックス〟に向かい走り出して、

 

 

「ーーー〝OSS:クリムゾン・エンド(尾を斬る)〟」

 

 

OSS、オリジナルソードスキルという既存のものでは無いキリトだけの片手剣ソードスキルの9連撃で〝ザ・フェニックス〟の尻尾を斬る事に成功する。しかしこの段階で〝ザ・フェニックス〟のHPは二本目の半分まで削れている。どうやって鶏冠を壊すかと思ったら、

 

 

「ふんーーー!!」

 

 

キリトは片手剣を口に咥えて〝ザ・フェニックス〟の頭に手を伸ばして、()()()()()()()()()()()()。確かにキリトの筋力なら出来ない事も無いだろうが、躊躇いもなしにやるとは思わなかった。引き千切られた部位からは血が噴き出していて、キリトは全身血塗れになっている。

 

 

だが、これで〝ザ・フェニックス〟の不死性は失われた。

 

 

そのままキリトが〝ザ・フェニックス〟の首を斬って、呆気ない終わりだが四十九層のフロアボス攻略は完了した。誰もがフロアボス攻略を犠牲者無しで終えたことを喜び、そして〝転移結晶〟を使って四十九層の主街区に帰っていく。普通ならこのまま転移門のアクティベートに向かうのだが、この次の階層は五十層。つまり、二十五層と同じように一区切りとして何かあるのでは無いかと警戒しているのだ。

 

 

五十層の攻略は年が明けてから開始すると攻略組は決めていて、それまでの間は各々自由に過ごすように言われている。ダラダラと休むもよし、武器を強化するもよし、レベリングするもよしと完全な自由時間となっている。

 

 

「やっと終わったわね」

 

「お疲れ〜強くは無いけど面倒だったね」

 

「ボスの性能にカーディナルの悪意を感じるわ」

 

「ファッキューカーディナル」

 

 

シノンと一緒に上に向って中指を突き立てる事を忘れない。最近のカーディナルは何か企んでいるのか、四十五層から今回まで〝ザ・フェニックス〟のような条件付きの不死性が備わっているフロアボスが配置されていたのだ。どれも事前情報が揃っていて対処出来る程のものだったが、下手をすれば何も出来ずに壊滅していた恐れもある。

 

 

「あ、キリトもお疲れ〜」

 

「ん……あぁ、お疲れ」

 

 

キリトはLAボーナスらしき黒い片手剣を何度か振るった後、それだけ言って〝転移結晶〟を砕いて去ってしまった。

 

 

「やっぱりおかしいね」

 

「えぇ」

 

 

どうもここ数ヶ月キリトの様子がおかしい。ある時期からキリトはフロアボス攻略を成功させても全く喜ばす、あんな風に淡々とした態度を取るようになったのだ。それに最前線や、そこに近い階層で1人でレベリングしているのを見かける事もある。以前のキリトならアスナ辺り連れて行ってた筈なのに1人で黙々とレベリングをする姿には鬼気迫るものを感じた。

 

 

「何かあったのかな?」

 

「そうだとしても私たちに出来ることは何も無いわよ。頼られたのなら話は別だけど」

 

 

シノンの対応はドライのように見えて、正しいものだ。人には踏み入られたくない部分があって、恐らくキリトのあの無茶な行動はそこから起因するものだろう。

 

 

でも放っておくと取り返しのつかない事になりそうで怖い。今日にでもウェーブに相談しよう。

 

 

「どうしたの?早く帰ってクリスマスパーティーの準備するわよ」

 

「あ〜!!待って待って!!」

 

 

ともあれ、あと3日でクリスマスイブを迎える。去年のクリスマスは誰もが攻略に集中していてそんな事をする余裕が無かったが、今年はそれを楽しむだけの余裕がある。アインクラッドで行われるクリスマス、それを楽しみにしないわけがない。

 

 

この世界で出来た新しい仲間と一緒に、素敵なクリスマスを迎えたいと願う。

 

 

 






〝ザ・フェニックス〟とかいう不死性持ちのフロアボス。尻尾と鶏冠を壊さない限り何度でも復活する。なお、HPが二本しかないのに紙装甲で、尻尾と鶏冠を壊す前に死ぬように調整されていたとしか思えない。戦犯は間違いなくカーディナル。

ヒスクリは育成の為に、ウェーブはラフコフハンティングの為に攻略はお休み。そして攻略も年が明けるまでは準備期間という名のお休み。まぁ前回が前回だったからハーフポイントを訝しんで当たり前。

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