闘争こそ、我が日常也て   作:鎌鼬

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ディーヴァアンドナイト・8

 

 

「理性を強化するって言ってもそう難しい話じゃない。やれるかやれないかの話だ。ぶっちゃければ素質の話。やれない奴はどれだけ努力しようともやる事は出来ないけど、やれる奴ならやる事が出来る」

 

 

ノーチラスとの話し合いの翌日、俺はノーチラスを連れて二十層に来ていた。この階層の特徴としては兎に角数が多い事だった。フィールドに出ればモンスターはそこら中に徘徊していて、〝隠蔽〟か〝気配遮断〟でも持っていないとまともに歩く事もままならない程に数が多い。数の暴力、量は質を凌駕するとでも言いたげなフィールドだった。

 

 

そこに、ノーチラスを連れて来て放置した。危なくなれば助けるつもりだが、危なくならなければいつまでも放置すると事前に伝えてある。ノーチラスの症状はボス級のモンスターを相手にして初めて出たと言っていたから通常モンスターと戦わせたのだが正解のようだ。

 

 

四方八方から迫り来るモンスターを相手にノーチラスは良く戦っている。ノーチラスの戦闘スタイルは片手剣に盾とオーソドックスなもの。それで数えるだけでも四十を超えるモンスターを1人で捌けている。レベル差もあるだろうがその技術は間違い無く攻略組で通用するものだった。

 

 

だが、それはあくまで努力でどうにかなる領域でしかない。俺やキリトやPoHのような天賦の才では無く、その気になれば誰もが到達出来る程度の領域。

 

 

俺の直感だが、ノーチラスはこれから強くなれる。死の恐怖を克服する事ができれば俺たちの領域までとはいかないが、その手前程度には届くだろう。何せあいつには守ると誓った相手がいる。そういう人間は強くなれると相場が決まっている。

 

 

と、ここでノーチラスのHPがイエローになってノーチラスの動きが鈍った。鈍った事でそれまで捌けていたモンスターを捌く事ができずに、押し倒されて群がられる。レベル差があるのですぐには死なないが放置してればいずれ死ぬだろう。そうなる前にモンスターが嫌う臭いを発する液体を詰めた試験管をアイテムポーチから取り出してモンスターの中心部、ノーチラスがいるであろう辺りに投げつける。試験管が割れて中身が飛び散った事でモンスターは一斉に引いた。ぽっかりと空いた空間にはHPがレッドになってボロボロになっているノーチラスの姿がある。

 

 

「ほい」

 

「ムグッ!?」

 

 

ノーチラスのそばに近寄り回復ポーションを口に突っ込み、グリーンまでHPが回復したのを見てから今度はモンスター寄せの液体の入った試験管を叩き割ってその場から逃げる。モンスター除けとモンスター寄せが同時に撒かれた事でそれぞれの効果が相殺され、再びモンスターがノーチラス目掛けて襲い掛かってくる。回復した事で幾分かマシになったのか、ノーチラスは再びモンスターを捌き始めた。

 

 

凡夫であるなら数をこなせとは誰が言ったか、確かにそれは正しい。強くなりたければ数をこなすしかない。死の恐怖を克服し、最前線で戦いたいと求めているノーチラスに出来ることはそれだけだ。

 

 

死に恐怖して身体が動かない?だったら死の恐怖を捩じ伏せられるだけの精神力を、闘争心を持てばいいだけの話だ。

 

 

恐怖心を鈍らせるという手段もあったのだが出来ればしたくない。恐怖心というのはそのまま警戒心に繋がる。何があるのか分からなくて怖い、だから何が起きても対処出来るように備えようと身構える。恐怖心を鈍らせればそれはそのまま警戒心が鈍る事に繋がり、そのまま死ぬだろう。

 

 

恐怖心を持ったまま戦えるようになるのがベスト。戦えるようになっても死に恐怖を感じなくなってしまえばワーストだ。もしそうなったら無理矢理にでも死の恐怖を思い出させるが。

 

 

そうして朝一から昼休憩を挟み、夕暮れまでひたすらノーチラスを戦わせ続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

「ノーくんノーくん!!目が死んでるよ!!」

 

「……ハッ!?」

 

 

ユナに揺さぶられて意識が呼び戻される。ここは〝ジェイレウム〟の西門広場に面したオープンカフェ、ウェーブさんによる精神強化トレーニングをやって、一日休めと言われて〝ジェイレウム〟にいる。オープンカフェにいるのはユナに誘われたから……良し、大丈夫、全部覚えてるな。

 

 

「ノーくん、本当に大丈夫?」

 

「大丈夫、大丈夫……二十層でひたすらモンスター相手に戦わせられて動けなくなっても戦わせられたり、〝決闘(デュエル)〟の〝全損決着〟で殺意漲らせたウェーブさんと戦ったりしたくらいだから……」

 

「それって本当に大丈夫なの!?」

 

 

二十層のモンスターはまだ大丈夫だった。死ぬかもしれないと思ってしまった時以外は普通に戦えていたし、危なくなってもウェーブさんに助けて貰えてたから。

 

 

大丈夫じゃなかったのはウェーブさんとの〝決闘(デュエル)〟だった。

 

 

『殺そうと思って殺気を出すのは二流だ。殺そうと思って殺気を出さないのは一流だ。超一流ってのは殺そうと考えずに殺す奴だ。まぁ二流の真似事だが丁度良いだろ?』

 

 

そんな訳のわからない理論と共にウェーブさんは殺意を放ちながら僕を攻撃してきた。あれはヤバかった。〝ルースレス・ワーダーチーフ〟は自分が生きる為に僕らを殺そうとしていたが、ウェーブさんは()()()()()()()()()()()()()。〝ルースレス・ワーダーチーフ〟なんかとは比べ物にならない程の恐怖に心臓が止まったかと思い、動かなくてはと思った時には両手両足を斬り落とされていた。

 

 

HPがレッドになり、僕がリザインと唱えるとウェーブさんは部位欠損も治せる上級回復ポーションを僕に飲ませ、部位欠損が治ったのを確認してからまた〝決闘(デュエル)〟を始めた。昨日一日はそれの繰り返しだった。恐怖なんて麻痺しそうだったが、ウェーブさんの手によって麻痺する事も許されずにただそのループを繰り返す事になった。

 

 

その甲斐あってか、何とか身体は動かせるようにはなった。だが戦えるには程遠い。ぎこちなく一歩二歩動ける程度の、ほとんど誤差のようなものだった。

 

 

ウェーブさんの殺意は一夜明けた今でも鮮明に思い出せる。治ったはずなのに斬られた四肢に疼くような痛みを感じる気がする。止めたいと、どうしてこんなことをしているんだと考えた事があった。もう嫌だと泣き叫びたくなった事なんて十や二十では効かないだろう。正直に言って、ウェーブさんに頼んだことを後悔していた。

 

 

でも、それでも僕はウェーブさんから逃げなかった。

 

 

「ん?どうかしたの?」

 

 

木の実ソースのかかったパンケーキを食べているユナを見る。彼女を守ると誓った、彼女を現実世界に戻すと約束した。その為に強くなると決めた。だから僕はウェーブさんから逃げなかった。それはもう意地に近いものだった。ウェーブさんが前に言っていた通り、僕がやらなくてもゲームはクリアされるだろうから。

 

 

でも僕はそれをやると決めたのだ。そもそも意地が張らないなら男なんて止めるべきだ。男なんて意地を張ってナンボだ。意地も張らない腑抜けは死ねば良いと思う。

 

 

それに……好きな女の子にカッコいい姿を見せたいと思うのは男として当たり前だろう。ウェーブさんにもそれを伝えたが、そうだなと笑って肯定してくれた。

 

「いや、何でもない。それよりそろそろ攻略組はボス戦かな?」

 

「そうじゃないかな?」

 

 

10月18日の今日、四十層フロアボス攻略戦が行われる。レイドパーティーはすでに〝回廊結晶〟によるテレポートでボス部屋に直接向かっていて、予定通りならすでに戦闘は始まっているはずだ。攻略戦に参加したかったが、今の僕では足を引っ張る上に副団長から直々に攻略参加を止められているので行けるはずがない。

 

 

勝てるかどうかなど気にしていない。攻略組がフロアボスに挑んだのなら、結果は勝利以外に存在しない。きっとウェーブさんも攻略戦に参加しているのだろう。だから今日を休みにしたに違いない。

 

 

だから今日はゆっくり休んで、明日から始まる地獄の精神強化トレーニングに備えようと、頼んだクロックムッシュを突いているその時だった。

 

 

「ーーーだ、誰か……!!頼む、助けてくれ!!」

 

 

西門から、全身を皮装備で固めた曲刀使いのプレイヤーが背中に黒いショートスピアを刺したまま駆け込んで来た。

 

 






死に恐怖するんだったらそれを捩じ伏せるくらいの闘争心があれば問題ないよね?と始まったキチ波式精神強化トレーニング。ひたすらモンスターと戦わせた後に殺意全開のキチ波との無限組手よ〜

そしてキチ波式トンデモ理論。キチ波によると超一流は殺そうという思考にならずに殺せる奴のことらしい。PoHニキがそう。キチ波もやろうと思えばそう殺れる。


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